5.頼もしき友人
次の日、私はいつもと同じ時間に家を出た。
違うことと言えば、シオくんは手のひらサイズの犬(そう言うと怒るけど)でブレザーのポケットに入っていることに、ランくんが隠行して、私と一緒に歩いていることくらいだ。
二人とも私にはバッチリ見え、声も聞こえるけど、周りの人で見える人はそうそういないらしい。
Aランクですら四分の三くらいはダメなんじゃないかな。
「お嬢に何かあったら普通に出るが、いいよな?」
《あんまりばれないでね。巫覡って知られると大変だし》
二人は普通に声を出してる(力の強い人の前は除く。姿を見える人にしか声も聞こえないんだって)けど、周りからしたら見えない何かに話しかける変な子になるので、私はテレパスで返す。全く以て、便利な力が目覚めていたものである。
学校に着くと、なぜかテッちゃんとみっちゃんが既に教室にいた。
……珍しい事もあるなぁ。いつもなら、二人はAクラスの先輩たちと毎朝、放課後たまに昼休みまで能力の練習をしてるのに。
『おはよー、みっちゃん、テッちゃん』「おはよう、あかりん」
「おはようございます、あかりさん」
二人は私が声をかけると、すぐに返事をくれた。その事が普通に嬉しい。
いつも、話しかけてくれる子がいないからね。能力差はここでも出るってどうよ?
「な、あかりん。昼休みと放課後空いてるか?」
『能力開発以外はなんもないよ?どうかした?』
みっちゃん、今日に限ってマジでどうしたのさ?いつも、そんな話しないのに。あ、みっちゃんが忙しいからだからじゃないよ?
基本的にこの三人でご飯を食べているから聞く必要がなかったからだからね?
「いえ、うちの先輩があかりさんに会ってみたいと………」
あれか。うちの後輩に何してくれとんじゃ、ワレェ(巻き舌)っていうやつ。
………まあ、みっちゃんたちの先輩、話を聞く限りそんなに酷い人じゃないけど。
「うん。ただでさえ、黒羽って影薄いのに、あかりんって絶対に声かけれるし。更に、黒羽が心許してチーム組むって言い出したから先輩たち、(面白そうだし)連れてこいって」
今の含み、読み取れたけど、黙っておくことにしよう。面倒になりそうだし。
みっちゃんたちが大好きと言う先輩や友人も見てみたい。
《あかり様、どこか楽しそうですね》
《うん。楽しみ。テッちゃんたちの先輩や友人ってはじめて会うし》
普通なら値踏みされて追い払われそうだけど、テッちゃんたちの先輩はそんな酷い人であるはずがないから安心できる。二人の人を見る目は確かだしさ。
ランくん、シオくんは私の考えにふむ、と思案していた。
「分かった。先輩たちにはOK貰えたっていっとくね。昼はオレのチームメイトたちだから、安心してよ」
「彼らと軽く作戦会議でもしようと思ってます。すみません、事後承諾で」
みっちゃんのパートナーか。誰なんだろ。何となく、大人しい気がしない。
《まあ、気楽にいこうや》《うん。そだね》
早く昼休みにならないかな。
時は流れて昼休み。昼休み後の一時間受けたら午後ゼミ開始となる。正直、巫覡の力を人のいない所で練習したい。帰ったらランくんに頼んで平安の世界で練習させてもらおう。
「あかりん、弁当持った?」
『うん。オッケー。屋上?』
「いえ、テレポートで行きます。手を貸してください」
みっちゃんがテッちゃんの弁当も持ってたのはそのためか。
やだなぁ…………。人によって飛ばされるとかなりの確率で頭クラクラするんだ。仕方ないから黙っとくけど。
テッちゃんは両手で私達を掴んで「行きますね」といって移動した。
『うみぃ………。頭痛い』
「あかりん、移動酔いした!?えっと、黒羽!どこだっけ!?」
「これですか?あかりさん、これをどうぞ」
テッちゃんは酔い止めをどこからか取り出した。テレポートで取り寄せてくれたらしい。水無でオッケーな奴なのですぐに飲む。直に治るだろう。
「テレポーターじゃないのに大丈夫?あ、ここ、何処かは聞かないでね。ばれたら困るし」
《それなんて会員制》
テレポーターですが何か?頭痛いから思ったことを直接伝えることにした。まだ酔ってるみたいで気持ち悪い。
「…………あかりさんって器用ですね。普通、酔っていたら能力使えませんよ」
私は器用なのか。ちらりとランくんに目を向けると頷かれた。へぇ、そうなんだ。
《比較対象いなかったから分かんない。………よし、大分治ったかな》
私がそう言うと、テッちゃんは隣の部屋の戸を開いた。
………待たせていたのか、ごめんなさい。
戸の向こうには、前ぶっかった男子より暗い赤色の髪の男子と黒髪、茶髪の男子がいた。
『えーと、初めまして。テレパスのモノ・キャストの月見あかりです』
「赤いのが、バイロキネシスの火ノ宮 友紀。黒いのが木操の河村 辰己。茶髪が風操の福田 信也だよ」
それぞれ名前を言われたところで頭を下げる。私?名前言った後に下げたからいいの!!っていうか、皆の説明、髪の色って…。いや、うん。分かりやすいけどさ………。
因みに、デュオ・キャスト以上は一番強い力を自己紹介の時に言うのが一般的だ。私みたいに隠す人もいるけどね。
『よろしく。火ノ宮くん、福田くん、河村くん』
「こっちこそ、宜しくな。黒羽と降谷と仲いいとかすげぇな。あいつら人見知りっぽいのに」
確かに。そうだったかも。テッちゃんにプリント回ってないから声かけてから、仲良くなっただけだし。みっちゃんはテッちゃん繋がりで仲良くなった。
『二人は私の事見下したりしないからね。一緒にいて凄く楽しい。
あ、三人とも、テッちゃん取っちゃってごめんね。テッちゃんって、かなり戦力になるのに』
私がそう言うのを予想していなかったのか、三人は目を丸くし、私の事をよく知る四人は苦笑してた。
失礼な。悪いと思ったら謝るし。どんな嫌な子と思ってたのさ。
「ワリィ。この学園の大概の奴ら、嫌味な奴、多いからな。お前もそうだと思ってたわ」
『へぇ、そんな風に見てたんだ?』
今なら顔は笑っていても目が怒りに燃えている気がする。前にいた火ノ宮君なんてビビッて一歩下がってるし。失礼な。
「あ、あかりん!!悪気ないからそんなに怒んないで!!」
《お嬢、人が凍えそうな目してるぞ》
五月蝿い。人を決めつけてかかる奴なんて嫌いなの。まあ、謝ってくれただけましかと思って心を落ち着かせる。
『まあ、謝ってくれてるしいいや。
さ、話ってご飯食べながらでいいよね?たぶんお腹空いてるからカリカリしてると思う』
「ならいいや。ワリィな月見」
福田くんも、火ノ宮くんに続いて謝った。河村くんもごめんと言ってきた。うん。そんなに怖かったのかな?
《あかり様の後ろに般若がいましたからね》
あ、ごめんなさい。
『で、実技ってどんな事するの?』
昼御飯を食べながら三人とは仲良くなり、ユウくん、タツくん、シンくんと呼ぶように。
「まだよく分かんないんだよね。
カントク、あ、先輩なんだけどが放課後までに伝えられること纏めてくれるんだって。あかりんにも伝えるんだってよ」
いいなぁ、優しい先輩がいてくれて。
………って、私にも?テッちゃんたちのお陰だからしっかりお礼言わないといけないなぁ。
『能力使って、ミッションみたいなのをこなすんだっけ?』
「あぁ。大概生徒同士で奪い合いになるけどな。あかりじゃ、黒羽と一緒でもきついだろ」
「珍しいですね。火ノ宮くんが心配するなんて」
「うっせーよ!!」
火ノ宮くん、照れて耳まで真っ赤なので全員に笑われてる。
「ま、できるだけ点稼いで黒羽のテレポで逃げんのがいいだろうな」
「あ、そうかも。裏山使うだろうし」
河村くんの言葉に福田くんが同意する。
私がテレポ(他人によるもの)に酔う事を知らないから言えるアドバイスだけど、私の事を心配してくれているのが嬉しい。仲良くなるの早かったし、テっちゃんたちの友達もやっぱりいい人ばかりなのだろう。
つか、実技ってやっぱり逃げ回ったりするのも必要なのか。面倒だな。
《お嬢なら平気だろ、朝のあれからして逃げんの得意だろ》
朝のあれ、というのは剣術の練習だろう。毎朝してるしね。しないと落ち着かないし。これでも、月見流の後継者であり、虹村派の弓道の師範代なんだから、無様な姿は刀や弓を持った状態で見せる訳にはいかないし。
「あ、そろそろチャイムだ。もう一回テレポで帰るから、あかりんはしっかり酔い止め飲んでよ!?」
みっちゃん、君は私の母ちゃんか。