第5話 行方知れずの子たち
近所の子が、いなくなった。
可愛い子だった。
優しい子だった。
放課後。
小学校にあがったばかりのヨリは、仲良しがいない。
学校にいる間は、席の近い子や同じ班の子と気軽に話したりする。
家に帰ってくると、幼なじみの同じ長屋の子と遊んでいた。
けれど、ある日、大げんかをした。
向こうのほうが体格がいい。
相手に突き飛ばされた弾みに、ヨリは砂利道に激しく頭をぶつけた。
それから何も覚えていない。
気がついたら病院だった。
母親がいた。
いつも構ってくれないと思っていた母親が、ヨリが倒れて頭から血を流していると聞かされて仕事を放って駆けつけたのだと、後で知った。
自分は要らない子ではないのかもしれない。
初めてそう思った。
けれど、このままでは生きのびられない。
今は、母は自分の病室にいてくれる。
でも、また夜がくれば、きっと、あいつがやってくる。
一晩、入院することになった。
砂利に打ち付けた頭の後ろが切れていて、二針縫ったからだ。
病院の廊下で、ヨリは聞いた。
近所のおばさんが、泣いていた。
こどもが死んだのだ。
行方知れずになっていた女の子だった。
きれいな子だった。ヨリに親切にしてくれたことが何度かあった。
警察の人がおばさんと話していた。
あの子は、河で溺れたのだ。
でも、それにしては水を飲んでいないのだって。
おまけに、裸で見つかったんだって。
そこまで聞いて、ヨリはそこを離れた。
立ち聞きしていたのが、いけない気がした。
あいつだ。
きっと、あの影の男だ。
警察の人は言ってた。
最近、行方がわからなくなっている女の子が何人もいるって。
みんな影男にさらわれたんだ。
夜に現れるあいつに誘い出されたら、どこかへ連れ去られるって、誰からということもなく噂が流れていた。そしてどうなるのかは知らなかったけれど、ようやくわかった。
殺されるんだ。
病室に戻ってベッドに潜り込む。
家に帰りたくない。
きっといつか、あいつに捕まる。
そして殺されるんだ。
殺されるとか死ぬとか、本当のところはどういうことなのか、小学校一年のヨリには、実はよくわからない。
けれど、怖かった。
ただただ、怖かった。
ベッドでのたうちまわった。
付き添っていた母親は、着替えをとりに帰って、病室には誰も居ない。
今にも、影男がどこかしらの暗がりから現れそうな気がした。
叫びだしそうになった。
「おにいちゃん」
はじめて、言った。
「おにいちゃん、たすけて」
もういない兄に。助けを求めた。