【2】 竹細工の家
ヨリが住んでいる長屋の並びの、一列向こうの端っこに、いつも竹を編んでいるおじいさんたちがいる。
竹細工の工房だというのは、そのときのヨリには知るよしもない。
普通の、庭のある一軒家だった。
庭には水を張った金だらいが置いてあり、わらのざぶとんを敷いて、おじいさんたちが作業をしている。
竹をナタで細く割り、更に平たく薄く削いだ竹の板をたらいの水に浸す。それを取り上げて皺だらけの太い指で器用に籠を編んでいく。
誰も無口で無表情のままだ。
ヨリがじっと見ているのに、そんなこと気にしていないのだろう。
迷いのない手元で、みるみる籠目が編まれ、ざるや籠が出来上がっていく。
幼稚園や小学校が近いせいか、工房にはよく子供がふらっとやってきては、じっと見ていく。
だが、いつまでも飽きずに入り浸っているのはヨリぐらいだった。
けれど話しかけたことも話しかけられたこともない。
作業が一区切りついて、おじいさんたちは腰を上げ、小休止をとる。
そうするとヨリは立ち上がることにしていた。
工房から出てふと頭上を仰いだヨリは、唖然とした。
なんだろう……と、思った。
くっきりと稲妻があった。
午後三時。
それにしてはあたりは暗い。
空は分厚い鉛色の雲に覆われている。
大きな稲妻が、空に張りついたみたいにそこにある。
時間を止めたように瞬きもしない薄い光が、消えないでとどまっている。
こんなのを見たのははじめてだ。
ずっと外にいたのに雷鳴は聞こえなかった。
ふしぎだけど、とてもきれいだ。
そう納得してヨリは歩きだした。
また空を仰いでみる。
稲妻は、消えていた。
肩掛けカバンから磁石を取り出す。
カステラに似た立方形をした磁石には穴が一つあいていて、そこに紐を通して地面を引きずる。しばらく歩いただけでけっこう砂鉄がくっついてくる。
ヨリは砂鉄を集めている。
集めてどうするのか考えてはいないけれど、広告の紙を折って作った紙袋に入れて机にしまってある。
磁石の上に紙をのせて砂鉄を上からパラパラと撒く。
紙の端をトントンと軽く叩いたり揺すったりすると、砂鉄が自然と動いて、縞模様みたいなのを描き出すのだ。
そんなふうに遊ぶのを教えてくれたのは、お父さんだった。
真面目で堅物の溶接工。
眠るときは板張りの床の上、ふとんもかけないで。
若い頃に戦争に行ったって、話してくれたのは一度だけ。
「いい奴はみんな死んだ」
生き残ってしまったんだと言っているように聞こえた。
お父さんも、今はもういない。