強者
ズドオンッ
ズドオンッ
ズドオオオオオン
鬼神の歩く足音が、心臓に突き刺さる様に激しく、全身に響き渡る
「さて、地獄へようこそ」
目の前に立つ大きな大きな怪物
「おまえ達はこれから、仲間が残酷に殺される様を見届けるしかないんだ、恐れろ、俺様が鬼神」
アアア~~あああああーー 風が悲鳴をあげる様に泣きわめく
瞬間、一之助の首が飛び、太一は真っ二つになる
ああああああああああああああああああああああああーっ
しんべえの脳裏にこんな画が浮かび、しんべえはぶるりと震えあがった。
やべえ
やべえ
やべえ
やべえ
俺の友達が殺される
みんな鬼神に殺されちまう
目の前で見る鬼神の風貌と迫力は、しんべえに即座にそう思わせる。
全身が震えあがったその瞬間だった
スパアアアアンッ
しんべえはその音にゾッとし、恐る恐る振り返る
怖くて前が見れない……
もし、直視出来ない現実が目の前に広がっていたら。
なぁ、頼むよ 頼むよ
頼むっ
だっ、誰も死んでねぇよな?
目の前の現実が恐ろしく本当に直視出来なかった
振り向くのを躊躇する
あっ、あうえあああっ
ドサッ
「ぎゃああああああああああああっ」
腕が地面に落っこちていた
嘘だろ………
それは、鬼神の部下の鬼の腕だった。
「おまえらも、皆コロス」
ヒョオオオオオオオオオオオオオオオーッ
「フハハハハハハハハ」笑う鬼神
その時、しんべえが涙を流し突然叫び始めた
「ぐっ、ぐぎぎぎぎ」
「おいっ、てめぇ何やってんだよ、仲間が殺されちまうぞ、おめぇが負けるなんてそんな訳があるかああっ」
しんべえは必死に岩を持ち上げようとしていた。
それは、真堂丸を押しつぶしている処刑岩
「真堂丸、おまえが負けるはずねぇだろう」
「しんべえさん」
鬼神は一歩一歩ゆっくりと近づいてきている
ズパアアンッ
鬼神の手により、真っ二つになる鬼
「おまえ達は俺の後ろに下がっていろ」それは道来の言葉
「俺たちはどうしたら?」鬼達の言葉だった。
「おまえ達もだ」
鬼たちは初めて知った
人間
こいつらは他者を大切に出来る
種族が違えど、相手を大切に出来るんだ
鬼たちはこの時、初めて家畜同然だった人間に感謝することとなる
餌に感謝するという感覚が生まれた、鬼達にとってそれは信じがたい感覚だった。
すまなかった
「貴様は知っている俺には勝てないことを、何故命をすて仲間を助けようなどとする?」
「おまえからそんな疑問が浮かぶとはな鬼神、大好きな友の命、守りたい生かしたいと思うからだ」
「それなら、鬼は関係ないはずだが」
「ああ、そうかもな だが、ほうってはおけん」
「笑かせる」
ザッ
鬼神は腕を突き出した
その時
「鬼神さんもうやめねえか?人間を殺すのやめて、もしかしたら、人間とうまくやっていけるかも知れねぇ、そんな未来もあるかも知れねぇ」
おおおおっ
その言葉に自然と涙が、青鬼の頬を伝い流れ始める
鬼達からこんな言葉が
人間を殺すことしか考えなかった鬼達の口から
嬉しい
嬉しい
鬼も変わっていけるんだ
俺たちも変われる
「なにを阿保なことをぬかしやがって、貴様」
「俺は本当に怒りが頂点に達したぞ、皆殺し開始だ」
「まずは、我が部下達からな」
「しまった、鬼達逃げろーー」道来が叫ぶ
ズシャアアン ズドオオオンッ ズバッ
次々に倒れていく鬼達
ひどいっ、ひどいっ 鬼神さん 今まであんたを慕い、ついてきた仲間じゃねえか
これから、これからやっと大事な事に目を開き、歩き出す者たち
青鬼は叫ぶ「もう、やめてくれー」
ズパアアンッ ズパアアンッ
ズシャ グチャ
「貴様やめろおおおおっ」叫び、立ち向かい、吹っ飛ばされる道来
地獄だ、地獄だ ここは地獄だ
焦るしんべえ 、誰も奴を止められない。
真堂丸
しんどうまるっ
助けてくれ
その時、文太が走り出す「きじいぃぃぃーん 」
「おいっ、待て」叫ぶしんべえ
鬼神の前に立ちはだかるのは文太
「小僧」
目の前に映る光景
それは
大きな大きな鬼と小さな小さな人間の対峙する姿
「これ以上はやらせない」
「じゃあ、てめぇが死ね」
「もう止めて」
その必死の声はののだった。
「のの」青鬼がののを見つめる
「鬼神様、私はあなたの事を赦します、もうお願いですからやめてください、あなたは他者を傷つけるごとに自身を傷つけていることに気づいておりません、もうやめましょう」
「あなたの心は悲鳴をあげております」
文太はののを見つめた
そして、鬼神を見つめる
「これから、新しい道を共に歩みましょう、人間と鬼だって仲良くやっていけます」
「クッハッハッッハ クッハッハッッハ笑わせる、俺が涙を流し改心でもすると思ったか、小僧よ死ね、貴様は最後までホラ吹きだった、ののを守るだと、何一つ嘘だったな」
「やっ、やめろー」
鬼神の鋭い爪が文太の喉元に向けられる
走り止めようとする、道来、太一、一之助、青鬼
「間に合わねえよ」
文太は鬼神を見つめる
「真堂丸は絶対に負けない」
「なんだと?」
鬼神は目の前にいる、ただの小僧の瞳を一瞬恐れた、産まれて初めて人間の瞳なぞを己が恐れた。
何一つ揺るがぬ信念
それは仲間を信じ抜く強き心
なぜ そこまで信じぬける?
現実にこうして奴が敗北したのを直視しているはずだ
こいつの目は俺の大嫌いだったあのババアを思い出させる
希望だと笑わせる
そう、こうして現実に奴等の勝利はあり得ない。
だが、鬼神は自身がこのただの小僧に一瞬でも臆した気がした。
それは一瞬ほんのわずかな一瞬だったが感じてしまった事実
力もない、肉体も小さく貧弱、何故そんな小僧に俺が臆する
いや、俺にこそすべての権利が属する、何故ならこいつを俺は殺せるからだ
絶対に揺るがぬ我が権限
俺は弱者の上に立つ勝者
それが本当に我が勝利なのか?
心のどこかでそんな言葉が一瞬浮かんだ様な気がした。
「いやくだらねぇ、それらは幻想、我が勝利だ」
「死ね」
「文太~~ーー~~ーー~~ーー~~っ」
「文太さん」
「文太の兄貴」
それは鬼神の鋭い爪が文太の首を跳ねる瞬間だった
鬼神は信じられない光景を目の当たりにする
ズゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ ドシャアアアアアアアアンッ
なんとっ
処刑岩が真っ二つに斬り崩されたのだ
「ばっ、ばかなあっっ」
なんということ
これでも奴は死なんのか?
岩の下には刀を構える真堂丸が立っていた
「くそがあああっ」
真堂丸が歩きこちらに向かって来る
「鬼神、俺の友を離せ」
ふっ、慌てるな小僧は俺の手の中、こいつをまずは殺せばいい
ゾクッ
なんだこの感情は?
ザッ ザザッ
「はなせっ」
真堂丸の言葉に鬼神は気づけば文太を放していた。
なんて、目をしやがる
「ふふふふふ、ふふっ ふっ」
「見えるからだ、虚像が、見えるから」
鬼神は自身の両の目を潰した
ズパアアンッ
「これで、俺は無敵、貴様を殺し再び鬼神として君臨しよう」
「うおおおおおおっ」
キィン キィン キン キン キキィン
「とらえた、そこだっ」
ズゴオオンッ
鬼神の拳が真堂丸の腹に打ちこまれる
「がはっ」
ズパアアンッ
それと、同時に真堂丸の刀も鬼神を斬る
「ハアハア ハアッ」
両者共に限界
「次で決まるな」
「ああっ」
「勝負は次の一撃、いれたほうの勝ちで間違いないだろう」道来が言った。
「行くぞ」真堂丸が動き出す
ズパアアンッ
鬼神はこの時、妙なことに気付く
やけに静かだ
すべてを感じている
視界をつぶしたからか?
前より全体が視える
雑念が消えた
今ならすべてを見切れる気がする
そんな思いが湧き上がっていたのだ
その予感は的中することとなる
ズパァアアアアアアアンッ
鬼神は自身の首ギリギリのところ、真堂丸の刀を感じる、確実に先ほどまでの自分ならばこれはかわせなかっただろう。
だが、今なら
ザアアンッ
なんと鬼神は真堂丸の刀を見切りかわしたのだった。
「あっ」その光景に声を失う一同
「俺の勝ちだったな」
ニヤリ
鬼神の大きな口が耳まで開く
ズギヤッ
ボギッ
鬼神の拳が真堂丸を撃ち抜く
「これでとどめだ」
「真堂丸ーーーーーー」
叫ぶ仲間達の目の前
鬼神の拳は見事に真堂丸の顎を下からとらえ真堂丸の身体は宙に舞い、そのまま地面に倒れこんだ
ズシャアアアアン
「真堂丸、敗れたり」
「うっ、嘘だろっ、真の兄貴が負けちまった」
ギロリ
「さて、地獄の続きをやろうぜ」
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオー
「負けるか、あいつが負ける訳ねぇ」叫ぶしんべえ
「いや、あいつは良くやった、相手はあの鬼神なんだ、この追い込みを無駄にしちゃあいけねぇ、後は俺たちがやるぞ」青鬼が言う
「さあ、可愛い餌たちよ、遊んでやるよ」
この時、場面は変わり 龍山での出来事
菊一とガルゥラは龍山に入り山を登っていた。
「なぁ、菊一目の前を見てみろ、あの真っ二つになってる野郎は」
「真っ黒の奴」
「それに」
「あの大きな鎌」
「あの野郎のいでたち、死神ではないか?」
その時だった
二人の全身に戦慄が走る
ヒョオオオオオオオー
なんだっ?
寒気?味わったことのない感覚だった、恐怖、俺たちほどの奴らが全身を恐怖で包まれ一瞬動き方を忘れてしまった。
数々の猛者と対峙してきた俺たちが・・・
なぁ、一山 お前ならこの時どうした?
こいつを目の前にどうした?
二人の目の前に立つのは骸であった。




