危機また危機
カランッ
真堂丸の刀は地面に落ちた。
「ばっ ばきゃろー」叫ぶ しんべえ
しかし、この勝利確実な状況であっても蠅王蛇は冷静に落ちついていた。
だからであろう、冷静にしっかりと全体を捉えられていたのだ。
真堂丸達からすれば、不運なことに、蠅王蛇は自分よりも強い相手から幾度なく勝利を掴んできた、勝つと言うより生き残ると言う生存本能だろうか、それについて誰よりもどん欲だったのだ。
蠅王蛇の蠅のような大きな目は真堂丸の刀の鞘すらも警戒していた。
これほどまでの達人、ただの鞘が俺をも討ち取る凶器になり兼ねん。
蠅王蛇はニヤリと不気味に笑う
頭の中に真堂丸を確実に殺す、計画が浮かんでいた。
一方森の寺付近では、鬼と道来が対峙している。
鬼は自身の腕を斬り落とした人間を既に侮ってはいかった。
「アッハッハハッハッハ」何を思ったか突然笑い出す鬼
「道来 道来 道来 道来 道来 道来 道来 道来」
なんだこいつ、太一は不気味に名前を連呼する鬼に一瞬嫌な感じがした。
「ふゅーーーーー」
鬼の吐く息で木々が揺れる
「これで名前と顔を覚えたぞ人間」
ドゴオオオーン
突然激しく地面を殴り、煙が舞い上がる
「なっなんだ?」叫ぶ一之介
「今日のところは勝負はおあずけだ、鬼にたてつく人間がいると鬼神様に報告する」
「ハッハッハー道来 短い余生を楽しむんだな」
「道来さん、追いましょう 逃がすと厄介だ」
「いや、やめておけ」道来は至って冷静であった。
地面には大きな鬼の腕が残されていた。
余談だが後に、この場所には今の古寺が建て直され、寺が新たにつくられることになる。
そこには、この鬼の腕が残され、これを斬り落とした人間がいたと、後世にまで伝えられることになる。
その頃
体に毒がまわり、人質をとられ、刀を失った真堂丸
だが、蠅王蛇は何一つ気に食わなかった。
なんだこの自分が負けるはずがない、何一つ焦りをみせないこいつの表情は。
これでも、負けないと言うのか。
だがな、俺も今、冷静なんだぜ。
どうせ、お前はその鞘で俺を倒すつもりなのだろう。
認めてやる、それが出来るほどお前は強い。
だから、俺は面白い遊びを考えた
二者択一の生き死にのかかる遊戯
さて、どちらを選ぶ。
「おいっ」突然叫ぶ、蠅王蛇
「そのガキを殺せ」
「えっ、人質をですか?」
「そうだ」
「分かりました」
しんべえは咄嗟に覚悟を決めたのと恐怖で目をつぶった。
ビュッ しんべえの首に振り下ろされてしまった刀
ズドンッ
しんべえは言った「どうして、どうして こっちを選んだんだ」
しんべえの後ろに刀を構えていた蠅王蛇の部下は吹っ飛んだ、下に落ちる真堂丸の刀の鞘
「アハハハ、やはりな。余興が見れたぜ、これで完全に万策つきたな」
しんべえの目に映る、真堂丸の後ろにうっすらと浮かぶ死と言う文字
「死ねよ」
「真堂丸」
だが蠅王蛇は止まった。
なんなんだ、なんだっ?
これが絶対的、死を迎える瞬間の人間の顔か?
何ひとつ焦りも揺らぎもない顔。まだ、何か手があるのか?
この状況でまだ自分が臆するだと?
この武器すら持たない男に手が出せないだと…
本当にふざけた野郎だ
この状況でまだ俺が動けないでいやがるんだからな
良いだろう、念には念をだ。
蠅王蛇は勝利を目前にしても、いっさい気をゆるめず慎重にことを運んだ。
目の前に立つ男はそれ程までの男
もうこいつとは二度と対峙したくねぇ、額から汗が流れた。
腕をあげる、蠅王蛇
ビュッと後ろから飛び出したのはしんべえを噛んだ蛇であった。
ガブリッ 蛇は真堂丸の足に噛み付いた。
「表情一つ変えないな、後ろで蛇が狙っていることを知っていたか?」
真堂丸は答えなかった。
真堂丸は噛み付いた蛇を手で掴み、命はとらず、気を失わせ地面に落とした。
「なんとっ、信じ難いね、これが冷酷無比と噂された真堂丸の本当の姿か?何故蛇の命をとらん?」
「こいつは、お前の言葉に従っているだけ」
「なんだ、この腑抜けは これが真堂丸かよ」
蠅王蛇は笑い出した。
そして、いよいよだった。
真堂丸が地面に倒れこんだ
ズサッ
「真堂丸」
全てを見ていてこの絶対絶命の危機に焦るしんべえ
今自分に出来ること、それは真堂丸に武器をひろう隙を与えること、奴の意識が俺に向けば必ず落ちてる刀を拾い、勝ってくれる筈。
しんべえは体を動かそうとした。
が、身体に激痛が走る
「うおおおおおおーっ」必死に立ち上がろうとする、しんべえ。
その姿に真堂丸は驚いた
何故なら今までしんべえから自分の身体をはり、仲間の命を守る為に動く意思を感じたことはなかった。
別にそれで良かった。
だが、今のしんべえは違う 己の為 必死に立ち上がろうとするしんべえがいた。
この事が真堂丸の魂に火をつけた。
もう、さすがに動けねぇかもしれないと感じた、だがあきらめるわけにはいかないみたいだな。
仲間の命がかかってんだよ
両者の意見は一致した。
なんと二人は立ち上がったのだ。
馬鹿な、真堂丸ならまだしも、あのガキまで立つか。
一瞬取り乱した、蠅王蛇。
シュルルルルルル
冷静に息を吐き、落ちつきを取り戻した。
俺が勝つのだ
蠅王蛇の数々の生と死を乗り越えてきた戦がこの強靭な落ちつきをうみだしていた。
ここで、慌てればひっくり返される
だが落ちつけ、立ち上がっただけだ、俺の優勢は変わらない。
後ろのガキは何も出来ない、唯一気をつけることがあるとすれば、鞘を拾い真堂丸に手渡されない事くらいか。
「うおおおおおー」
なにっ?
鞘を持ちしんべえは蠅王蛇に立ち向かっていた。
「しんべえ」叫ぶ真堂丸
しんべえは感じる、時がまるで違う所に来たかのようにゆっくりと流れているよう これが死ぬ瞬間の感覚か。
しんべえの覚悟は自分の命をもって真堂丸に隙をつくることだった。
ああ、死ぬ瞬間だからだな、すべてが ゆっくりに感じる、これが走馬灯ってやつか。
笑えるよな これが俺か
人なんて信じられないし、大嫌いだった俺がよお、仲間の命引き換えに死ねることがこんなに嬉しいなんて、本当に笑っちまう
俺が、あの臆病な俺が大帝国の幹部に刀持って挑んでんだぜ
なぁ、真堂丸、文太 ずっと嘘ついてた俺を許してくれょなぁ それから 絶対に負けるんじゃねえぞ
こんな俺を友達と呼んでくれてありがとよ。
「蠅王蛇ーーーーっ」
「この野郎、刺し違えて隙をつくるつもりか」
ちっ、こいつを斬り捨てるのに0.2秒、致命的な時間
奴は必ず刀を拾いあげる
この時、蠅王蛇の下した即断は実に見事だった。
瞬間の決断
それは勝敗を逆転させない 最良の決断となる
蠅王蛇はしんべえを全く無視し
真堂丸に斬りかかった
「おいっ、嘘だろっ」叫ぶしんべえ
即座に真堂丸は両手を、身体真ん中辺りに引き上げ構えた。
「俺の太刀を白刃取りか?手で受け止めるつもりか天晴れ、だがな、毒がついてるぜ」
叫ぶ真堂丸「しんべえ、右の脇腹だ」
真堂丸は知っていた、最初の一撃で相手が一番致命傷を受けている箇所が。
「うおおおおおーっ」
スピィン
自身が放てるであろう最速の振りを蠅王蛇は放った。
こっ
この野郎ううううっっっっっっっっっ
なんと真堂丸はそれを両手で挟み止めた
受け止めた手から身体に毒がまわる
直後後ろから全力のしんべえの一撃 見事に決まった。
「ぐおおおっ」
「くそがっ」
三人は同時に地面に倒れこむ。
ズドンッ
すぐに立ち上がったのは、蠅王蛇と真堂丸だった。
だが、立ち上がった光景からよみとれる勝者はあきらかだった。
瀕死の真堂丸の手には刀は握られておらず
蠅王蛇の手には自身の刀と、片方の手には真堂丸の刀が握られていた。
「決まりだな」
「この後にをよんで、まだその目か、本当に気にくわねぇ野郎だ」
「じゃあな、死ねよ」
ズバッ
刀は心の蔵を貫いていた。




