真堂丸と女狐
文太と真堂丸
〜 真堂丸と女狐 〜
ゴゴゴゴゴゴォー 異常な殺気が町を包んでいる。
「いいか、町の者達よ、この町もいずれは、何処かの侵略者達に狙われるやもしれぬ、だが心配するな我々大帝国がお前達の後ろにいるからだ、安心して戦え」女狐はほくそ笑んだ。
そして、小声で
勝手に争いあい、そして勝手に死ぬんだな馬鹿共め。
大きな口は耳元まで開いていた。
「大帝国万歳ー」
「私たちが負けるはずがない、女狐様も味方だ」
「これなら、大帝国に収入の八割納めたって構わないな、私達は守られてるんだから」町人達は大喜びだった。
くっく、永遠に搾取され続け、存在すらしない敵と戦っていろ。
女狐の目は天を見た。
ああ、妾は生まれながらにこの弱者共とは違う、妾は特別。
妾こそ支配者。くっくっく
笑いが止まらない。そう妾は天に選ばれたのだ。
それにしても女狐は不思議に思った。
手下の右官達がいつまでたっても姿をあらわさん。
まあ、よい代わりはいくらでもいる
もし、今日現れなかったら奴らとて皆殺しにするまでのこと。
「さて」
真っ黒の箱から、何かが飛び出した
「おおーっ」
町人達は叫ぶ
中から出てきたその姿は真っ黒の長い髪、目は細く鋭い。
色の白い顔はどことなく狐に似ている
ただ、何よりも人間と違ったのは尾っぽがある事だった。
「妾の姿を特別に見せてやろう」
それを見て大同は小声で言った
「大帝国の幹部は白い刃と呼ばれてるよう、普段は全身を真っ白い羽織のようなもので覆い、姿は見えぬよう隠してあると聞いていたが、いよいよ姿をあらわしたか」
人々は自分とは異なるその異形な姿を見て恐怖した。
くっくっく、妾を見て恐怖するか、可愛いものよのう、人間とやらは。
「どれ」
女狐は目の前に立つ人間に指を指した。
すると突然その男の身体が燃え始めたではないか
「ばっ、ばかな本物の化け物か」
そう叫んだ町人の首は一瞬で吹っ飛んだ。
「口をつつしめ」
「ひいいいいいっ」
「暇じゃのう」
大同は一之助に合図した
「もし、町人を襲い始めたらどうする?」
「今回はもう、あっしも我慢なりそうにない、二人でかかろう」
大同は頷く。
額には沢山の汗があらわれていた。
実は目の前に立つ者の力があまりに強大過ぎて自分が一体何を相手にしようとしてるのかすら分からない程の精神状態だったのだ。
「大同さん、おっ俺も」乱の全身は震えていた。
「いや、乱 お前はすぐに元郎達の所に戻り伝えろ」
「伝える?一体何を?」
「一刻も早くここから逃げろと」
「そっ、そんな大同さん達は?」
「行け」
その気迫のこもった表情に乱は返事をし、すぐさま走り始めた。
「ふっ、部下思いでごんすな」
「なに、何があったか伝え役が必要だっただけのこと、それよりあれを相手に我々の命はなさそうですな」
「そのようで」
「次、人を殺すようであれば、私はいく」
「あっしも同じですよ」
不気味で緊迫した空気が二人を襲う。
真堂丸は町に向かい走ってる最中
先ほどの事を思い返している。
先程崖から落ちた四人は皆怪我もなく地面に着地していた。
だが後に真堂丸に斬られ三人は倒れた。
それから起こったのは勝てないと思った三人の最後の行動だった。
「こんなに強いのか」
「我々じゃあ勝てんな」
「だが、このまま帰ったら」
「ああ、女狐様に地獄を見せられる」
三人は同時に自害したのだった。
「貴様も強いが女狐様には到底及ばぬ、この先地獄が待つぞ」
「私達は運がよかった、女狐様の前での失態じゃあなくフハハハ」
三人は笑いながら自らの命をたった。
真堂丸は町まで全力で急いだ
"間に合ってくれ"
町の外みんなを待つ文太達
「みなさん、大丈夫ですかね?」
文太は誰に聞いた訳でもなく一人質問するようつぶやいた。
答えたのは元郎
「大丈夫だとは、思います。だが大同が手を出すような事がなければいいんですが、大同も馬鹿じゃない、女狐を見たら手を出せる相手ではない事が分かるはずだ」
その後声を出さずに心で思った。
もし、町人が殺されるような堪え難い状況ではなければな・・・
元郎は突然立ち上がり
「ちょっと見てきます」
「っておいっ、俺たち二人だけかよ」
としんべえが慌てて叫ぶ
「すぐ戻りますから」
元郎は町に向かって行った。
ヒョオオオオオーッ
不気味な殺気
「妾の強さが分かったか?」
「さて、もう少し遊ぶかな」
大同と一之助は武器を握ろうとした。
その時だった
「嘘じゃ、嘘 今日は演説だったのじゃな カハハハハ」
女狐は高く跳び地面に降りた
「さて帰るぞ」
女狐は立ち止り、突然目を見開いた。
ギョロリ
人々はあまりの気迫に一斉に地面に倒れるよう腰をつけてしまう。
口角が耳の近くまであがり
「なるほどなぁ、なるほど」
少し何かを考えた表情を浮かべ指をならす。
何かの命令であったのだろうか?部下が武器を持ち構え始めたのだ。
「何でごんすか?」
「いい気はしないな」
二人もいつでも武器を使えるよう身構え、町人達は震えあがっている
「おいっ」突然 大同が一之助の肩を引っ張った。
「なんで、ごんす?」
「あれ」
大同の指さした方角に人影が
「あっ、ああっ」
「 せっ、 先生」
家屋の屋根の上
そこに立つのはなんと真堂丸であった。
「久しぶりじゃのう、右官どもが帰らんと思ったら、貴様じゃな」
「くっくっ 妾とやりあうか?」
真堂丸にとっては、この上ない機会だった。
これを逃せば敵の城に侵入して女狐を追わなければいけない
だが、真堂丸は辺りを見回した。
沢山の町の人間、ここでやり合えば沢山の死者が出る。
真堂丸は刀を抜かなかった。
いや、抜けなかったのだ。
「今日は妾は機嫌が良い、生かしといてやろう、さようなら真堂丸 近いうちに会おうぞ」
女狐は背を向け 去って行った。
町の人間達は恐怖からいまだ立ち上がれずにいる
あれには逆らってはならん、絶対に・・・・
町人は、今やただ単に女狐の奴隷なのではなかった、自身の内に巣食う恐怖の奴隷でもあったのだ。
「先生、ご無事でしたか」
「ああ」
「あの三人組は?」
「奴らは三人自害した」
「そうでしたか」
三人は町の人間の表情を見渡す
闇に支配された顔
希望は削がれ、いっぺんの光すら、その顔は見えていないようだった。
「怖いよう 母ちゃん」
「誰かぁ助けてよ」
「もうお終いじゃあ」
辺りには悲しく泣き叫ぶ大人、ただただ震え、絶望に打ちひしがれる幼き子供達、家族を抱きしめる老人などが目に入った。
「ちっ、しっかりしろと言いたいところだが、無理もねぇ あんな強さの次元の違う存在に触れちまったんだ、無意識にでも怯えちまうな、私も足が震えてる」
「行くぞ、女狐の城へ」
真堂丸は歩き始めた。
だが、直後に足を止め高く跳んだ。
「先生?」
なんと真堂丸が斬ったのはさっきまで女狐の居た真っ黒の大きな木箱
縦に真っ二つに斬ったそのなかから、女?
「あーっ、しゃらくせぇ 後ろから斬り殺してやろうと思ってたのに」
「なっ、何だあいつは?」
真っ黒の着物に短い黒髪 顔は何処となく女狐に似ている。
「こいつは? 妹君か?」大同が叫ぶ
「ちっ、失敗だわ だが覚えておけ、お前らは必ず死ぬことになる
何も知らない可哀想な人間、あっ駄目ねわたくしったら喋りすぎね くっくっくっく あはははははは」
その女は刀を振りかざした
「伏せろ」
まるで空気が刃の様になり大同と一之助を襲う
「うおっ」
スパン
「大同さん」その声は乱、背後の異変に気付き心配でこちらに戻って来ていたのだ。
二人は瞬時に反応して、躱し。
一之助はその斬撃が地面に鋭い切れ込みを残したのを確認した。
「さようなら」
女狐の妹は手足を地面につけ、まるで獣のように走り物凄い速度でその場から去っていった。
「二人とも大丈夫か?」
「ええ」 「大丈夫でごんす」
「乱。お前戻れと言ったろ」
「すいません、騒がしさに心配になって」
「一度 、みんなと合流しましょう」大同が言った。
四人は文太達の待つ場所へ戻る
「あっ! 真堂丸良かった、みなさんも無事でしたか」と文太
「んっ 、元郎さんは?」
乱は辺りを見回し言った。
「先程、町に向かいましたが」
すると、後ろから
「みなさん無事でしたか?」元郎の声が
「女狐の城はここからどのくらいだ?」真堂丸がすぐさま問う
「もうすぐです」
「案内してくれ」
いよいよだ、いよいよ本当に行くんだ……
しんべえは考えていた。自分はこのまま逃げようか?
だが目の前にチラつく女狐の財宝がそれを躊躇させていたのだ。
しんべえの足は震えていた。
「乱 お前はどうする?」大同が言った。
乱に迷いはなかった「俺も行かせてください」
「お前の決断なんだな?」
「はいっ」
大同は乱の目を見つめ、馬車に乗り込んだ。
そう、いよいよ本当に誰も引き返すことの出来ない、本物の化け物が待つ城に本当に乗り込むのだ。
この先、いかなる恐怖が待つのか、
まだ誰も想像することは出来なかった。
そして、誰が殺されてもおかしくない状況下に進んでることを誰もが口にはしなかったが、現状をそれぞれは知っていた。
ガタッ ゴトッ 馬車は進む。
馬車の中は静かだった。
みんなの緊迫感が充分過ぎるほど伝わる
外はもう真っ暗。
一時間程走っただろうか、外から元郎の声が聞こえた。
「みなさん、ここに止めて一回おりましょう」
僕らは馬車を止め外へ。
「あれが見えますか?」
元郎が指差す先にはとてつもなく大きな城
「えっ?」文太は驚いた
至る場所から見えていた女狐の城だと思っていた それはただの外壁に過ぎなかったのだ。
「そうです、人々に恐怖を植えつける為にどこからでも見えるようにああやって巨大な外壁を作ってあるんです」
なんとその外壁の内側に森のように木々が生い茂り、その中心に不気味な真っ黒な本殿があるではないか。
「こりゃ、あそこまで辿りつくのに一苦労しそうだな」と大同
「さすがにこの暗闇じゃあ、至るところにしかけられた罠を僕も見逃すかもしれません、少し明るくなったら乗り込みましょう」
元郎が言った。
静かな時が流れていた。
女狐の兵が見回ってるかもしれない
まわりの兵に見つからないよう、息を潜めるように夜が明けるのを待つことになった。
もう、ここから命がかかった最上の緊張感はとれる時はない。
この緊迫した状況は予想以上に僕の体力を奪っていた。
至るところに死が見えるのだ。
僕は真堂丸達を思った。
彼らはずっとこんな中、いやこれ以上に死を間近に感じる状況で闘ってるんだ。
僕は本当に彼らの凄さを目の当たりにした気がした。
突然 沈黙を破ったのは大同
「おい、元郎 お前 龍心のこと何にも喋らないな」
「・・・・・」
龍心?
「お前が命よりも大切にしてた息子、本当に無事なんだろうな?」
大同はただ恐ろしかった。
自分は先程、女狐を見た。
あんな怪物の下、本当にばれずに潜入出来ていたのか?
本当になにもばれずに潜入出来てたのか?
これから先は考えるのが恐ろしかった。親友の最愛の息子
今は亡き元郎の奥さんが残した最後の宝。
まさか、まさか殺されたんじゃないだろうな・・・
力を振り絞った
「おいっ元郎答えろ」
「元郎さん」乱は小さく囁く
僕らみんなも元郎さんを見つめていた。
「ああ、大丈夫 ちゃんと生きてるよ」
ふぅーっ
「そうか」大同は安心したのか?そう言い目をつむった。
元郎はそんな大同の行動が嬉しくもあった。
自分の親友は今でも、僕の事を自分の事のように心配してくれていた。
気づいたら元郎は心の中 ただただ大同に感謝していた。
皆はその後一睡もすることなく 夜が明けるのを待つ
そして、いよいよその時が来たのだ。
「みなさん、本当に覚悟は良いですね。この先誰が死んでも、到達すべきは女狐を討つこと 進みつづけるしかありません、もう本当にこの先は逃げることは出来ないですよ?」
しんべえは全身震え始めていた。
「大丈夫か?」と一之助
「うっ、うるせー」
くそっ、今帰ったら俺には何にも残らないんだ、なんも・・・
背後にある言いしれぬ空虚感
自分の姿を思い、惨めで悲しく泣きたくなったしんべえがいた。
俺には金が必要なんだ、金さえ手に入れたならすべては変わる・・・
しんべえは歯を食いしばり、唇からはひとすじの血が流れていた。
一之助は目を閉じ、浮かぶ恐ろしい女狐のあの目、あの顔、あの姿
ここに来る途中に見て来た、町、そこで傷ついた人々の姿が頭をよぎり、拳を強く握り目をあけた。
殿 行ってきます。
大同は今は亡き殿にこころの中、誓う
「文太、大丈夫か?」
真堂丸は文太に声をかける
「大丈夫です、真堂丸を信じてるから」
真堂丸は優しく微笑み
表情は一瞬にして険しく変わった。
「行くぞ」
遂に女狐の城への潜入が始まる。
目の前には不気味で巨大な城が手招きをしてるように待ち構えていたのだった。




