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文太と真堂丸   作者: だかずお
41/159

暗妙坊主



文太と真堂丸



〜 暗妙坊主 〜


それは、とある地方の有名な話

そこの地域の子供達がおっかない話などをする時に話すのは、もののけ、幽霊の話などの類ではなかった。

決まって話されるのは

「おいっ、赤い風車がお前の家の壁にひっついていたぞ」


「やめてくれよ、そんなでたらめ」


「暗妙坊主がやってくる」


子供達が、なによりも恐がるのは幽霊ではない、ちゃんとした足がある人間。

そいつは暗妙坊主と呼ばれる男だった。

その地方では、特に暗妙坊主による殺しが非常に多く、その被害は千を越えるとも噂されている。


暗妙坊主は笑いながら、今新たな獲物を狩りに、山を全速力でかけおりて行っている。

その姿は正に人の姿をした、怪物。


「ねえ、あの速さであの坂下りれる普通」


「あれが、パパと喧嘩したら大変」


「さて、僕らも近くで見よう」


「そうしよう」


それはまだ、日も明るい真昼間の出来事。

清正は目をつむり、静かに座り、意識を周りに張り巡らせていた。

その察知能力は素晴らしく、仮に家の敷地内にどんな静かに人が忍び込んでも、何かを感じとり見つけ出してしまうだろう。

だが出現はあまりに堂々たるものだった。

突然、物凄い殺気を感じ清正は目を開き、即座に刀を抜き立ち上がった。

「来た、どうやら本物らしいな」


すぐ隣の娘の元に向かい部屋を覗く清正

娘は何も気づかずに普通にしている

「どうかしましたか?」

清正は何も答えなかった。

それは一瞬、娘からすれば目の前に何かが横ぎったかな?そんな感じでしか捉えることの出来ない何か。

突然目の前にはっきりとした人型の形がぼんやり見えはじめ、恐ろしくなり悲鳴をあげようとした一瞬の刹那の間

耳元に低いつぶやき声が聴こえた。

「はじめまして、さようなら」

だが、清正は全てを捉えていた

暗妙坊主の刀は娘の首元で止まっていた。


暗妙坊主はゆっくり、ゆっくり ゆっくりとまるで相手に恐怖を与えるかの様に振り返った。

それは、自身の仕事を邪魔され、怒り狂う鬼の形相で清正を睨みつける表情であった。

顔から頭、更には腕にまで血管がこれでもかと言わんばかり浮き上がっている。


「その娘の命はやらん」


ブチッ



僕と真堂丸は城に入れなかったので、屋台を見つけ食事を食べていた。

「まあ、様子見てきっかけを作りましょう、あっ、これ美味しい 一之助さんも しんべえさんも来れば良かったのに」


時刻は経ち 日が暮れはじめた夕暮れ時


城には清正の姿が


「姫」


清正は姫の目の前に立つ


「き よ ま さ・・・」


清正は突然土下座をした。


「清正すまない・・・わたし」


「姫すみません、あの娘を助けられませんでした」


姫の手は震えている


「すみません あの娘を守れませんでした」


「清正、もうよい もう、もうやめて」


清正の片目はえぐりとられていた。


暗妙坊主は怒っている。

それは、思い通りに殺せなかったからだ。

それを邪魔したのは清正という男に他ならなかった。

確かに娘は殺した、だが本当は真っ二つに斬り切り捨てる予定だった。

だが、清正がそれを許さなかったのだ。

娘の身体はしっかりと原型をとどめた遺体となっていた。


烏天狗の子供達は興奮している

「うはーっ、見た見た?凄い闘いだったね」


「清正、やっぱり強いね 暗妙坊主には勝てなかったけど、凄いものが見れた」


「それにしても、恐ろしいのは暗妙坊主 息ひとつきれてなかった こわいよ こわいよ」


「もう今は近づくな、絶対切り捨てられるよ」


「知ってる、知ってる そんなの あの目をみたらすぐ分かったよ」

仕事を終えた後の暗妙坊主の目は確かにイッていた、もう両目が何処を向いてるか分からない、それぞれの目は違う方角を向いて、ぐるぐると回っていたのだから。



僕と真堂丸は食事を終え、宿に戻る所だった。

僕は背筋がゾッとしてしまう事になる。

そう、それはあの家の前。

昨日まで、元気にしていた娘が倒れていた。

泣き叫ぶ、家族。中でも一番激しく激昂していたのは弟だった。


「そんな、本当だったんだ、って事は清正さんは?」


「?」真堂丸には一体何があったのか状況が分からなかった。

その時、僕にはある男の姿が目に入る、それは、はじめて目にした姿。目の前には、普段温厚な一之助が怒りの表情を浮かべて立ちつくし拳は強く握りしめられている。


「あっ、あれっ いっ、一之助さんですよね」


真堂丸は黙って見つめていた


その時

女性の声が

「すまなかった、清正がついていながら」


「あっ、真堂丸 あの人が姫です」


横には眼帯をした清正が一緒に立っていた。


「謝らないでください、清正様は必死に闘ってくれました、本当に感謝しています」父はそう言い泣きくずれ、弟は動かぬ姉から離れ様とはしなかった。


暗妙坊主、貴様はまだこのように人の命を。殺してやる 殺してやる、一之助の心は完全に憎悪に飲み込まれている様に見え、真堂丸はその一之助を見逃さなかった。


暗闇に向かい歩き出そうと一之助が動きはじめようとした時だった。

何者かの手が自分の肩を掴んだ。

足を止めた一之助


「先生ですかい?」


それは真堂丸の腕だった。


「一之助、何があった?」


「放っておいておくんなせえ」


「あの娘の遺体を見た、あれをやった奴の腕は本物だ」


一之助は黙ってきいていた。

「ふうーっ 先生が言う程の腕でしたか、本当にあいつは強いんですね」


「待て、何処に行く?」


「あいつを殺しに」


「何があった?」


「暗妙坊主あいつは、あっしの妻と子の命をあっしの目の前で奪った張本人」


「敵討ちか?」


「そんなところです」


「待て、お前の心は今何も見えていない、憎悪で盲目だ、そんなお前に勝てる相手じゃない」


「知っていますよ、あいつが化け物だと言う事くらいしっている。だから、あきらめろと?」一之助は歩き出した。


「一之助、俺が力をかす」


一之助はこの時、どれ程嬉しかったか。

そして、どれ程この言葉に甘えたかったか。

どれ程、「お願いします」と泣きつきたかったか。

ずっと独り真っ暗闇の海の中、一筋の光が見えた様でもあった


だが、先生とて奴と闘って無事ですむはずがない。

これ以上、迷惑はかけられない。


「結構、敵討ちくらい自分でやります」

一之助は真堂丸から離れた。


「先生、文太さん あっしが帰ったら約束とおり、力をかします また必ず会いましょう」振り向き様に見せた表情は笑っていた。


「そっ、そんな一之助さん」


「ねえ、真堂丸大丈夫だよね、一之助さん大丈夫だよね?」


「暗妙坊主 こいつは強い 一之助は殺される」


「そっ、そんな」


「それに、あやつの目は憎悪に取り込まれてる、そう言いたいのだろ」それは後ろで見ていた姫の声だった。


「お主の友達、今止めないと戻って来れないぞ、もう二度と」


「そっ、そんな」


「僕止めてきます」


「今のあいつにお前の声はとどかないかも知れないぞ 」


「でっ、でも、それでも放っておけません」文太は走って一之助の後を追った。


「ほぉ、今時 珍しい仲間思いの奴じゃな、 んっ、お主も刀を持ってるんだな」


「だが、暗妙坊主には手を出さないほうがいい、うちの清正がやられた程の相手、本物の化け物に間違いない。友達を説得して止めて関わらない方が身のためだ」


「あんたは、あの城の姫らしいな、俺たちはあんたに用がある」


「???」


「私に用?」


「詳しい話はあいつが戻って来たら、話そう」

真堂丸は歩き出した。


真堂丸の瞳を見た姫は、初めて見る何処の誰かも分からない男を信頼することにした。

そこには、何故信頼することにしたか皆目理由はなかった様に思えたが全くそうではなかった。

その男の瞳になにかただならぬ、凄み、強さ、真剣さを感じた姫の絶対的な直感があったのだ。

「分かった、待っている」

ふっ、この刀を持つ男もなんだかんだ言ってあの男を止めるつもりなんだな瞳がそう語っていたのが姫には分かっていた。

「ところで清正 目は大丈夫か?」


「問題ありません、それよりもあんな約束をして」

姫の視線はすでに、姉の遺体にしがみつき泣きじゃくる弟の姿を見つめていた。


「自身のお父上の時と重なっているんですか?」


姫は何も言わずただ泣いている弟の姿をじっと見つめ続けていた。

「さあ、姫 城に戻りましょう、あなたも命を狙われてる身ですよ」


「ああ、分かっておる」



僕は一之助さんを探していた。


「文太、一之助は?」

背後から真堂丸の声が

「真堂丸、それがもう見当たらないんです」



暗妙坊主その男が頼まれた依頼の成功率百

今まで、失敗したことは一度もない。

「あの、野郎只の雑魚じゃなかったな、中々楽しめた、俺に歯向かって来た奴なんてのは久しぶりだ」

暗妙坊主は手にした目ん玉を口にした。


「まだ、いやがるのか?天狗の餓鬼、ずっとつけて来やがる一匹随分好奇心旺盛じゃねぇか」


「僕、一人着いて来ちゃった、二人は恐いって帰ったけど、恐いけど見たいあなたは僕をそんな気分にさせる、ねえ依頼何でも受けてくれるの?」


「ああ、俺の気分でな」


「もし、父上の烏天狗を殺してって言ったら?やる?」


「こいつは、笑えるな 俺を試してるのか?それとも本気か?」


「ただの、冗談 暗妙坊主ならどうするかなと思って」


「その依頼別に構わないぜ、たまには骨のある仕事をしたくなった気分だ」


「うわぁ、あんな怖い父上とやれる何てあんたも正気じゃないよ、怒った父上ったらもう怪物でもちびっちゃうよきっと」


「清正と闘って、本能が疼いちゃったみたいだね、光真組確かに強いから」


「光真組?、あいつは何番目に強い?」


「二番目だよ」


「・・・・」


「ちょっと、暗妙坊主に依頼をするかも知れない、また会いに来ても?」


「いいだろう」


「ふふふふ」天狗は不気味に笑い去って行った。


真堂丸達の所では

「文太、一之助は大丈夫だ あれ程の手練れが簡単に居場所を突き止めさせることはしない。見つけられないはずだ」


「やっぱり暗妙坊主強いんだね」

文太は一之助の事を思い心配になった。


「ところで、あの姫と会う約束が出来た、これからすぐ行こう」


「本当ですか、分かりました行きましょう」

一旦僕等は姿の見えない一之助さんを探すのをやめ城に向かう事に。

僕らは城に着き、門の所で門番に話をすると、今度はすんなり通してくれた。

「姫から話はうかがった、さあどうぞ」


通された部屋には、清正と姫がいた。

「本当に来たのぅ」


「話とはなんじゃ」


僕はすぐさま応え

「僕らは大帝国を倒す仲間を集めています、一緒に手を組みませんか?」

姫は驚いた、あまりの驚きに言葉すら失っていた。

後ろにいる、清正も同じ気持ちでいた。

すると突然姫は声を出して笑いはじめ

「正気か?お前達 相手がどれ程やばい連中だか理解してるか?

幹部連中がどれ程強大な強さを持ってる連中か知っておるか?

どれ程の勢力を持ってるか知ってるか?」

姫は真剣だった。


その直後、もの凄い真っ直ぐな瞳で僕らを見つめ

「勝機はあるのか」


僕は即答した。

「希望があります」

姫と清正は視線を合わせる。


「あの人みたいなことを言うの、この納言お主らの言葉を信頼しよう」


「姫」


「清正、他に希望があるか?」


「ですが、何処の馬の骨だか分からない連中、信頼するにはいささか問題が、この辺りの均衡が狂うことになるのですよ」


「明日の集まりにこの二人を連れて行く」


「ばっ、馬鹿な?何を言ってございますか」


「もう、決めたのじゃ清正ごちゃごちゃ抜かすでない」


「分かりました」


「それと、友達は大丈夫だったのか?」


僕はその質問で姫の人柄、優しさに触れた気がして嬉しかった。


「荷物も宿にあるし、また戻ってくると思います」


「そうか」


「名はなんと申す?」


「僕は文太」


「そなたは?」


「真」

あれっ?真堂丸名前言わないんだ、僕は何故だか分からなかったが、そのままとおすことにした。


「そうか、文太に真か、私は納言だ。よろしくな」


「明日、ここ近辺の城の主達で定期的に行われてる集まりにお主達も連れて行く事にした、是非一緒に来てくれないか?」


「分かりました」


「明日の朝、城で待つ」


宿に戻ると

「おい、お前達きいたか暗妙坊主が出たってよお、早くこの町から逃げようぜ」しんべえだった。


「僕らはこの町でやることがあるんで」


「信じられない奴等だな、暗妙坊主が近くにいるかも知れないんだぞ、俺は・・・・」しんべえに友達はいない、帰る場所もない。

しんべえは暗妙坊主もこわかったが、何より孤独もこわかった。


「おっ、俺もまだいるよ」


「いいか? いいのか?」


「べつに構わないですけど」


「そうかよ」プイッとするようにしんべえは布団に入った。


「そういや、もう一人は戻らないのか?」


「・・・・」


「まあ、いいけどよ」


一之助さん、大丈夫だろうか?

今どんな気持ちで暗妙坊主を追ってるの?


一之助さん。



一之助は至る所で痕跡を探していた、奴の居場所の手がかりになるもの、居そうな場所。

結局、なにも見つからず 風車のさしこまれた家の近くに戻って来ていた。


それは家の中からの声

「姉ちゃん 姉ちゃん、必ず敵をうつから、暗妙坊主は俺が殺すよ、一生かかったって」

泣き声は永遠に終わらないかの様に辺りに悲しく鳴り響いていた。


暗妙坊主、まだ貴様はあっしと同じ様な気持ちにする人間を増やしている様だな、一之助のこころの中にはますます燃えあがる怒りが芽生え、今や完全に怒り、憎悪に支配されていた。

その夜、一之助が文太達の元に戻ることはなかった。




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