逃亡
文太と真堂丸
〜 逃亡 〜
「うおおおおっ」
道来の気迫は凄まじいものだった。
命をかけた人間の覚悟
闘いながら、道来自身、己の変化に気がついていた。
今までの自分は己の名声、己の評価、まさに己の為だけの刀だった。
だが、ここにきて 初めて自分は自分の為ではなく人のため、愛する者の為に刀を振るっている
初めて強くなれた気がした。
そして初めて気がついた。
強さとは、力や支配力、権力 などではない。
真の強さはまさに愛からくるものだと。
その場にいる兵士達は次々に倒されていった
「こいつ強い」
「怯むな、かかれ」
だが、兵士達はその道を抜けることがどうしても出来なかった。
道来は突然刀を右斜め上に向け
「来たな」
「おやまあ、随分と我々をかき乱してくれましたね」
「ここまでの活躍お褒めしましょう、そのお詫びと言っちゃあなんですが、私自らあなたを斬って差し上げましょう」
「望むところだ」
僕らはひたすら全力で走っていた。
太一さんも真堂丸を担ぎこの速度で走れるなんて、やっぱりすごい。
道来さん、どうか生き延びてくれ、僕は心で強く願った。
「真の兄貴?」太一の突然の叫び声
真堂丸の意識が戻った
「俺は意識を失っていたのか?ここは?」
「残念ながら、安心するにはまだはえぇです、敵の城内今逃げてる最中です」
「そうか」
真堂丸はあることに気がついた
「道来は?」
太一は一瞬黙り、すぐさま話はじめた
「道来さんは別の道で逃げてます、相手をまくために」
「そうか」
太一さんは真実を伝えなかった。
きっと真堂丸の気持ちを配慮したんだ。
それにもし事実を知ったら助けに行こうとするだろう。僕は何も言えなかった。
その時だった。突然太一は足を止める
「まさか、嘘だろ」
僕は前を見て、少しでも逃げられると思っていた気持ちが絶望へと変わったのを感じた。
目の前には全身を白で包む幹部が一人立っていたのだ。
「ちっ、嘘だろうここまで来て、文太の兄貴」
「はい」
「真の兄貴をよろしく頼む、俺が時間を稼ぐ、俺だってせめて五分くらいは」
「そっ、そんなっ」
一体どうしたら、まさか太一さんまで。
自分が捕まったことを心底、僕は悔やんだ、僕のせいだ 僕のせいでみんなが
「文太、太一 逃げろ」
真堂丸は地面に刀を突き、それを支えに立った。
「馬鹿言っちゃいけねえ、今のあんたなら俺でも勝てる、あいつは俺が」
「はやく、文太の兄貴連れて逃げてください、ここは俺が」
「待て、太一あいつは強い 殺されるぞ」
太一は文太に合図した
「はやく真の兄貴を連れて逃げ…」
だが動く間もなかった、気づいた時にはそいつは、僕らの目の前にいた。
そして、太一は自身の考えの甘さを知ることになった、五分?無理だ 自分じゃあ一秒の時間稼ぎにもならない。
太一はそいつの目を見てしまったのだ。
底がまったくないかのような、どす黒い真っ黒な瞳
見つめているだけで、取り込まれてしまうような、恐怖が太一を包んだ。
その瞬間、足は震え太一はあまりに格の違う強大な相手を前に地面に立つことすらままならなかった。
「よお 」
「やはり、さっきの奴か」
「骸ってんだ、覚えときな」
こっ、こいつが骸
太一が眼力だけでここまで自分を震えあがらせ、格の違いを見せつけられたのは生まれて初めてだった。
確かに、色んな化け物達を見た、剛大、狼泊 妖魔師 そいつらも確かに自分を震えあがらせた。
だが、こいつはそんなんじゃない
今、俺の目の前に立つこいつは、あいつらとは比にならない。
本物の化け物だ、身体中が震えあがっていた。
全身が本能のまま叫んでいる
怖い 怖い 怖い クソッタレ刀を握ることすらもはや出来なかった。
「さっきの決着忘れるな」
骸と真堂丸は互いに視線を合わせた
「そんなに睨むなよ、命の恩人によぉ」骸は何かを見て笑った。
僕が振り返り、後ろを見ると女?
「見つけたぞ」
黒い長い髪の女
赤い着物を着て狐の面を被る、不気味な人間が立っていた。
その人間の放つ不気味な空気感は僕を一瞬で震えあがらせた。
太一はその姿を見てすぐに気が付く
なんてことだ、一山さんの言った話は本当だ、まさかあいつが女狐
信じられない
子供の頃から奴等の名前を耳にして育った、恐ろしい噂を沢山きいてきた、そんな連中が今、自分達の行く手を阻んでいる。
ここまでか………
「皆殺しだ、その二匹は骸お前にくれてやる」
「冗談抜かすなよ、そいつは俺の獲物だ」
「何だと 」
「って、ことだ 助けてやるよ だが覚えとけ お前は俺からは逃げられない、結局は斬られる運命にあるんだ、それまで余生を楽しみな」
骸は刀を抜いた。
「どいつも、こいつもうっとおしいねぇ 貴様も妾の邪魔をするかい」女狐も構えた。
「太一さん、今だ逃げましょう」
「あっ、はい」
太一は我にかえり立ち上がる
その少し前
道来は血塗れになり地面に倒れていた
意識はもうろうとしているがまだかろうじてある
何度斬られただろう、気持ちが道来を何度も限界の淵から救い、気がついたら また自分は立ち上がっていた。
「ビックリしますね、確かに殺したと思ったんですが、次は確実に斬ります」
ハアハア あいつらもう逃げたか?もう大丈夫か?
どうやら、俺はここまでだ すまん、俺のぶんまで生きろ 太一。
「うおおおおーっ」
道来は最後の力を振り絞って刀を振りかざした。
「さようなら」
スパァン
身体は真っ二つになったと思った
「んっ?」
だが道来はまだ生きている
「どういうことですか?」
その刀をとめていたのは雷獣
「秀峰よく聞け、今こんなことしてる場合じゃねえぞ、骸さんがあっちに向った」
「まずいですね」
「ああ、今頃は」
「真堂丸を逃がす為、女狐さんと交戦中って訳ですね」
「ここは、俺がやっとく、そうゆうのを止めるのはお前が上手い そっちを任せる」
「良いでしょう」
道来は倒れた。
「お前も真堂丸の仲間か、まったく。とんでもねぇ、馬鹿どもだな、大帝国に手ぇだすとは。お前も仲間の為、自分の命をかけるか」
「雷獣様、この者はどうします?」
「ここは、俺がやる お前達は向こうの片付けをやっておけ」
「はいっ」
「さてと、背中に乗れよ」
「貴様どういうことだ?」
「気がかわらねぇうちにはやくしろ、馬を二頭、外に用意しておいた、俺がそこまで連れて行った後、それに乗って逃げるんだな」
城内から出る頃には、真堂丸は再び意識を失っていた。
しかし、なにより驚いたのは、馬に乗った道来さんが待っていたことだった。
「道来さん」太一は涙を流し喜んだ
「しかし、どうやって?」
「話は後だ、まずはこっから逃げるぞ」
「はいっ」
僕と太一さんは道来さんの無事が嬉しくて顔を見合わせ笑いあった。
「しかし何処に逃げれば、この辺に近い俺達の町じゃ今はマズイ」
「僕に良い案があります、そこなら安全です」
「文太それは何処だ?」
「僕の生まれ育った場所、行きましょう 案内します」
僕の故郷へ




