真堂丸と一山と言う男
文太と真堂丸
〜 真堂丸と一山と言う男 〜
一山は叫んだ「そこの木の机以上、前には来るな、巻きこまれるぞ」
「さて、やろうかのう真堂丸君」
二人は黙ったまま一歩も動かない
あんな真堂丸をはじめて見る。
いつもは、すごい速度で動いていたが今回はピクリとも動かない
「動けないんですよ、達人の域の二人だからこそ、うかつに」太一は息をのみ、つぶやいた。
喋ってる間も太一の視線が二人から離れることはなかった。
先に動いたのは真堂丸
空はその動きを見て叫ぶ
「そんな馬鹿な」
これは、空の気持ちを素直に表現した言葉である
そう、実際見えないのである。
仮に例えるとするならば、今まで右端にいた人間が気がついたら左端にいる、これには何度となく驚かされた。
これだけ、鍛練をつんだ男の目にしても、動きを追えないでいるのだ。
空の拳はふるふると震えていた。
信じられん
しかし、さすがは一山
すべての刀の動きを躱し、さばいている
そして 刀を槍で防いでからが、また見事だった。
なんて優しい動き
なにも抵抗を感じさせないその動きは、その場の空気すらも味方をしてるようにすべてが滑らかに流れ動いていた。
真堂丸の刀をすんなり、なんの抵抗も感じさせないまま、美しくさばき そのまま、真堂丸の背中を打った。
真堂丸は吹き飛んだのだ
「先生」
空、陸、海は叫んだ
「これが、先生だ やはり先生こそ無敵で、最強なんだ」
「危ない、危ないのぅ、わざと背中を打たせ、儂を一気に気絶させようと狙っていたのぅ、だが今ので確信した」
「どうやら、ワシはお主の力をまだかいかぶっていたようじゃのう？」
「外さんかい、いくらワシでもそう甘くはない」
真堂丸は笑う
「こんな相手に出会うとはな」
真堂丸は自分の足についてる何かを外しはじめたのだ。
それは、鉄の重しだった。
知らなかった、今まであんなのを足につけていたなんて。
「あまりにも、出会う相手が弱すぎるもんだから、ある時から俺は足に重しをつけることにした、外すのは久しぶりだ」
一山はほくそ笑んだ
「更に速くなるか」
「嘘だろう、あんなのつけて、狼泊や妖魔師、剛大と闘ってたのかよ」太一は驚きをかくせなかった。
横にいる道来も同じだった「信じられん、こないだの戦いも、あんな奴らにハンデをつけて戦っていたのか」
二人の攻防は更に激しさを増す
真堂丸は更なる速度で一山に刀を振るう
「おいっ道来、今 何太刀目まで見えた？」と空
「悔しいが、十くらいしか見えなかったぜ」
「俺もだよ」
すごい、一山さんはやはり強い
この速度の真堂丸と見事に闘っている
やはり只者ではなかった。
すると突然槍を床につけ
「さすがだな、楽しかった。大体力は分かった、ワシに教えることはないようじゃの、このまま行けば君が勝つ、そうこのまま行けば」
そうつぶやいた瞬間、一山は消えた
次の瞬間、文太は驚いた
何故なら気づいた時には、一山さんの槍が僕の喉元、目の前にあったからだ。
「先生？」空達は驚きを隠せず叫ぶ
「一体なにを？」
「真堂丸君、君は強い だが敵がこうしたらどうする？ 今の君は彼を見捨てて刀を振るいつづけることは出来ないはずじゃ、いいか、これからの敵はこれを狙ってくる、これがワシの伝えたかった事じゃ、これで今君は死んだんじゃ」
「忘れるな、敵は正々堂々とは来んぞ」
一山は槍をしまう。
真堂丸は黙って立ったままだった。
「しかし、強いのう、まさかここまでとは、儂はさすがに疲れたもう寝るとする」
一山は手をあげ挨拶し、そのまま廊下を歩いて行った。
一山の弟子達は驚いていた。
あの先生があんな風に言う、強き者がいたのが信じられなかった。
空は遥かに自分の想像を越えた闘いを目の当たりにして、自然と涙していた。
ここまで、見事に剣客として腕を磨き上げた男達を目の当たりにして涙がとめどなく流れ止まらなかったのだ。
陸と海も真堂丸に頭を下げた。
それは一人の剣客に対して賞賛と敬意の表れだった。
「兄貴さすがです、あまりのすごさに手の震えが止まらないですよ」太一の言葉
「正直、悔しいが見事だとしか言えない」道来が言う。
僕らはその日の夜、みんなで決めた
それは、自分達の街に帰ることにした事
「そろそろあっしらの場所へ帰りましょうか」
「平八郎さん達も心配してるだろうし、そうしましょう」
僕らは長くお世話になった一山さん達に明日、お別れを告げることにした。
その日の夜、それはそれは凄まじい豪雨だった
雨はとめどなく降り続き
地面に降り注ぐ雨の音はまるで大勢の武人が壁になにかをうちつけてる、そんな風にも聞こえた。
僕は何故か嫌な予感がした
なぜかは分からないが、この雨が自分の大切なものを洗い流してしまう様な気がして不安になったのだ。
気のせいだ
気のせいさ
大丈夫
僕は自分に言いきかし、眠ることにした。
その夜、雨は物凄い音を立て降りつづけ、止むことはなかった。
僕らに強大な魔の手が近づいてることをこの時、まだ誰も知らない……
それは突然の襲来だったのだ。
