変わりゆく頃
文太と真堂丸
〜 変わりゆく頃 〜
道来は真剣に考えていた。
刀を捨てる時かと・・・
目指すべきもない、夢だった天下をとることは、もはや自分で不可能だと知った。
もう刀で目指す道がない、目的をすでに失っていた。
何度も敗北し、いつまでも刀を腰にぶら下げ、歩く自分が滑稽にさえ見えてしまうのだ。
空を見上げた。
私は・・・・
真堂丸は目をつむって岩の上に座っていた
どうしたんだ己は?
それは、あがいても、もがいても、振り払えない様な嫌な気持ち
そう、彼の気持ちに良心が芽生えることになり、同時に罪の意識が生まれたのである。
今まで奪った人の命、全ての人間に家族がいて、愛する者がいたはずだ。
真堂丸は心を落ち着かせようとしたが、無理だった。
呼吸は荒くなり、どうしようもない、暗闇に、出口のない暗闇に落っこちたのであった。
自分が殺した沢山の人間が、苦しみ悶えている表情が浮かぶ
彼らにも己と同じく心があったのだ。
周りに愛する者達も………
行く場所も 抜ける方法もない、もう戻れない
真堂丸は絶望に包まれていた
己の心からうまれる罪の意識にのまれていたのだ
身体を石に叩きつけ、頭を抱える様、もがき苦しみはじめていた
場面は変わり 文太は一山とまだ話をしている。
「良心が生まれ 彼は 己の罪の意識と向き合うことになる」一山は僕の眼を見つめ静かに言った。
「悩み苦しむものは自ら死を選ぶやもせん」
僕はその言葉にどきりとし、一山を見つめる
「ときに人間は自分によって足枷をつけ、自分によって裁き、自分によって傷つけ、自ら自身で己を出口のない闇へ突き落とす、それは己で産み出し縛る制約」
「時に人は見失い、自身のしてる事に分からなくなる、そして気づかぬまま そこから出れずにいる」
「君が彼に示してやれんか」
僕はなにを示して良いか分からず一山の顔を見る
「道じゃよ」
部屋の中、道来は横にある刀を、そのまま持たずに立ち上がった。刀に触れることはもうなかった
ここが潮時
別れ道
彼らとはここで別れよう
道来は空を見上げる
お別れだ
立ち上がり部屋を出て歩きはじめた。
道来の頭には数々の思い出が浮かんでいた。
一方道場では
文太は急に不安になり辺りを見渡し探していた、真堂丸どこ?
一山はちゃんと真堂丸の向かった先を見ていた。
「外に出て真っ直ぐ行きなさい、彼はそちらに歩いて行った」
すぐさま文太は駆け出す
一山は立ち上がり
じっと文太の背中を見つめた。
とても、慈愛に満ち、大きく見えた背中を一山はいつまでも、じっと見つめていた。
己も通った道
己も人により、時により、はたまた自然により、道に気づかされた
それは決して終着駅ではない
必ず抜ける ひとつの過程
生きよ 青年
光は必ず射す
罪を赦し
自身を赦し
自身を受け入れ
自身を愛すのじゃ
一山はじっと山道を見つめていた。
そこには、自身の通った道のりが重なるように浮かんでいた。
その時、道場の中から
「空 俺と勝負だ」と叫ぶ声
一山が振り向くと、そこには太一が立っていた
太一は考えることなど苦手だ。
ただただ、じっとしていられなかった、居ても立ってもいられなかった。
どういうつもりで自分でも勝負を挑んだか分からない
敵うち?そんなのじゃあない
ただ刀を握らずにいられなかった
不器用な男。
「お前じゃ 俺に勝てない 手加減しない、下手すりゃ死ぬぞ」
「構わない」太一は刀を突きだす
一山はジッと太一を見つめていた。
まだ身体がボロボロの道来はゆっくり、傷をおさまえながら歩いている
廊下がとても長く感じた
その時
激しい音が道場から
「やめろ、立つな 死ぬぞ」
道来はその光景を目の当たりにする
今にも瀕死な血まみれの太一が、叶わぬ相手に向かっているのだ
道来は、そこに立つ自分自身を見た
己の振るう刀
己の生き方
まさにそこに立つのは自分だった
太一は己に憧れ いつでも ついてきた
己を見て育ち、慕いついてきた、刀以外の事など知らない
己より強い人間など沢山知っていたはずだ
それでも 己に 憧れ、ずっと寄り添い 己の刀を学びつづけてくれていた。
己を信じ。
気がつけば、道来の瞳から涙がこぼれていた。
とめどなく溢れでる涙がとまらなかった。
俺は大切なものを見捨てていくところだった すまん 太一
お前はいつだって私を、私は自分の事だけでお前の気持ちを何も考えていなかった。
私がここで居なくなったら、お前は・・・・
私があきらめた姿勢で生き続けたら、お前はどうなる?
覚悟を決めよ道来
拳は力強く握りしめられていた。
己は人より秀でる必要はない
人と比べる必要はない
己の刀を磨けば良い
今や道来の刀を握る理由は変わっていた
目指すべきは一番ではない
今や、強さや、比較ではなく、太一と共に己 の道を創りたい。
その時、背後から声がする
一山が言った「友を、刀を捨てるのか?」
道来は涙を頬に伝わせながらつぶやく「まさか」
「試合そこまで」一山は声を張り上げ、叫んだ。
道来は傷だらけの身体で、意識を失った太一を、すぐさま支えに行った。
道来の瞳から溢れる涙は止まらなかった。
一山は空を見上げ 微笑んでいた。
世界にはこのような者たちがいる、まだまだ可能性がある
そして自身に誓った。
私の命 世界の人々の為になら、これっぽっちも惜しくはない、目に見えぬ、大きな力よ 私に仕事をさせてくれ。
力尽きても構わない、希望を残させてくれ、人々の為、役立たせてくれ。
それは、一山が、一人 命をかけ大帝国に挑む決意であった。
その頃
出口のない暗闇の中 もがく男は苦しんでいた。抜け道のない苦しみ、なにも見えない 永遠にここ?
そんな時だった
「真堂丸」
それは聞き覚えのある声
優しい声
幾度となく自身の心に触れた声だった
「文太?」
「はい」
優しく響く安心する声のほうに意識を向けた
その時 目の前に再び景色がひろがる
呼吸は乱れていた
「俺はたくさんの人間の命を奪って来た、斬った中には家族を持つ者 、良き人間 俺を殺そうとした人間 たくさんいた。今更になって 己は苦しい」
太一はしばらく じっと黙った後
今自分の出来る、考えつく気持ちを心より伝えた 本気で伝えた
「僕は弱いし何も出来ないかもしれない。でも良かったらその苦しみを一緒に持たせてください、そして二人で奪った命が無駄にならないよう、一緒にその命達と共に生きましょう、 過去を受け入れ 再び一緒に歩きましょう、一人じゃなく僕も一緒に背負います。 僕らにこれから出来る事はたくさんある。苦しんで、悩んだぶん強く光輝く力になる、大事なのはこれから何をするかじゃないんでしょうか、奪った命と共に生きましょう、罪悪感にのまれていては誰も救われません」
真堂丸は泣いた
無邪気な子供の様に泣いた
こんな自分も許されるのなら
何か役に立てる事があるのなら
心が少し晴れた 気がした
軽くなった気がした
大事な今と言う瞬間に、安堵が自身の心の内と共に再び目の前にひろがっていたのだ。
全ての過去を受け入れ 生きる
そんな中、時代はうねりをあげていく
大帝国は支配を広め、国は力によって制圧されて行った。
不気味な闇が勢力を増していたのだ
だが、それだけではなかった。
いろんな場所では、ある噂が立ちはじめていたのだ
「おいっ聞いたか? 」
「なに?」
「剛大 と妖魔師をやった野郎がいるらしい?」
「まじか?」
「信じられん、狼泊まで最近倒されたという噂も」
「どこのどいつだ?」
「そいつを倒し俺が名をあげる」
「で、誰の仕業よ?」
「噂がたってるぜ、まさかあの野郎が生きてるんじゃないかって」
「まさか?」
「そんなこと出来るのは奴くらいだろ」
「真堂丸」
名を上げたい強者達
刀に生き命を賭ける男達が再び真堂丸の命をねらいはじめたのだった。
とある村
「へぇーあの妖魔師 死んだのか、なるほど、あいつと道で会った時期と重なるなぁ 」
「ふぅー あいつが真堂丸か」
「お勘定」
男は席を立つ
手には刀傷
「さてと行くか」
男は天を見つぶやいた
時代は動き始めていた。
誰も見たことのない新しい時に向かって




