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文太と真堂丸   作者: だかずお
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巨大な敵



文太と真堂丸



〜 巨大な敵 〜


その後、僕もすぐさま、道来さんのもとに向かうことにした。


現在、道来は布団に横たわり 依然目を閉じたまま。

周りには数人の一山の門下生、それに太一が心配そうについていた。

その時、道来は突然目を開ける

目を見開いたまま天井を見つめた道来は、一言もはっさなかった。


「大丈夫ですか?」門下生達が言う

天井を見つめたままの道来からの返事はない

その様子を見ていた太一が

「ありがとう、もう大丈夫だ、しばらくここから出てくれないか」


「ですが、しばらくは様子を」


太一は睨みつける様に言った

「もう大丈夫だ」

門下生達は部屋から出て行き。

太一も道来に頭を下げ、すぐさま部屋から出て行った。

依然道来は天井を一人見つめたまま、何の反応も示さない

文太が部屋に着くころ、中から太一がちょうど出て来た


「太一さん道来さんは?」


「ああ、もう大丈夫です しばらく そっとしておいてもらえやすか」

僕は太一さんの表情を見つめ 静かに頷き、その場を離れた


しばらく後、中から声を押し殺し泣く男の声が響く

命をかけてきた、刀に。

真剣勝負に挑んだ時、いつだって命を捨てる覚悟で生きてきた。

小さい頃から周りに刀の天才と言われ、育てあげられてきた男は自分の無力さを痛いほど痛感せざるを得なかった。

自分の世界に現れた強気者たち

悔しい 情けない 自分に腹が立つ

私はまた勝負にも負けて、今こうしておめおめと生きている

私は刀の道で天下をとるんじゃなかったのか?

それはあまりにも遠い道のりだった。

敗北に続く敗北

完璧に叶わぬ夢

男は一人泣いた

自分の無力さに 泣いた

扉の外で 誰も知らず、道来すらも知らない中

ずっと目をつむり、黙ってその痛みに一緒に寄り添う 太一の姿があった。


太一はその場からしばらく離れることはなかった、余計なお世話なことは百も承知。

でも、どうしても離れられなかったのだ。

目をつむり黙ってその痛みに一緒に寄り添う様に壁に背をつけ、じっとその場を離れずいつまでも立っていた。


夕暮れ時の森の中

真堂丸は岩の上に寝転び一人空を見上げている

自分の変わりゆく心は分かっていた、文太に会ってから他者の命と言うものを無駄に奪えなくなってきている自分がいるのに気がついていた。

自分でもそれが迷いに繋がってることに、はっきり気がついていた。

この刀の世界で生きつづけるには、それは決して避けては通れないことでもあったのだ。

いつだって己はためらわずに斬った

何百、何千という人間を斬り殺したやも知れん

殺らなきゃ殺られる、そこに罪の意識などは毛頭なかった

そう今までは……

これからも 同じふうに生きつづけられるか?

今後も、今までと同じように人を斬り続けられるだろうか。


心は揺らいでいた。


道場の中では

「青年、何が彼の迷いなのかときくか?」


「はい、僕に何か手伝えることができればと、何も出来なくても理由が知りたいんです」

文太は一山に問いていた。


一山は僕の瞳をジッと見つめる

吸い込まれそうな、彼の果てしなく奥深い瞳に僕は息をのんだ

なんて、奥の深い目、どんな境地に到達すればこんな瞳になるの?

文太が感じた。


「彼はまだ若い、この世界に生きて闇に落ちなかった者は、良心の心がある。剣客はいつかは必ずぶつかる問題がある、それは避けては通れない」


僕は一山の瞳を見つめた


「命じゃよ」


「彼は人との関わりを知り、温もりを知り、今までの様になんとも思わず命を、人間という存在を、斬り殺す事に迷いがしょうじている」


「もちろん、私は素晴らしいことだと思っている、生きる者を大切にする心。

だがな、青年、殺す殺されるの世界で生きる者にとってその迷いは自分の死に直結することになるのもまた事実、相手にそんなためらいはない」


「じゃあどうしたら?」


一山は笑った

「わしのように手をひきなさい、殺す殺されるの世界。心の優しい青年には、ちと荷が重い、剣術で生きるのに何も、そんな前線で生きなくてもたくさん道はある」


一山は少し困った様な表情を浮かべつぶやいた

「わしも出来れば、このまま平和に死にたかったがのう、だけど今そうはいかんかもな・・・ 彼もまたそこから逃げられない運命にあるやもせんなあ」

悲しい表情を浮かべていた。


僕にはまだその言葉の意味が分からなかった。

一山の瞳は何処か遠くを見つめている。


「帰ってきたか」一山は外を見て突然言った


それは二人の坊主の黒装束の男達

僕ははじめて彼らの事を思い出した。

そうだ、最初に感じた違和感、僕は彼らを見たことがある、そう、街で見たお尋ね者の看板だ


二人の男は僕に軽く頭をさげ、すぐさま話はじめる


「一山先生、もうこの国は終わりやも知れません」


僕の心臓の鼓動は突然の衝撃的な言葉に速く脈打つ


「和公の村は全滅でした、酷い有様です、村人すべて皆殺しにされていました」


一山が険しい表情を浮かべる

「もうそこまで動くか」


「みっ、皆殺しってそんな 誰に?」


「大帝国」


僕はその名をきいて、忘れていた絶望を身体の底から感じていた


「この国が彼らにのっとられるのは時間の問題でしょう、数はいまや10万を越え着実に増えつづけています、正直抵抗勢力はありません」


一山は目をつむり暫く黙った後

「ご苦労じゃった」と男達に言った。


大帝国 人間を平気で殺し

恐怖で支配する勢力

僕の頭には街で見た光景が脳裏によみがえっていた。

足はガクガク震えはじめる

そんな、これが世界の現実

避ける事の出来ないこれから到来する時代?

世界全体が闇に覆われてるような言いしれぬ不安が僕をつつんでいた。


それを目にした一山は優しく肩を叩く、僕はハッと我に返る

「君たちには色々話しておくとしよう、この出会いはきっと偶然とは思えんからのう」


世界は巨大な闇に脅かされようとしている、一体これからどうなってしまうんだろう。

この時、大きな不安が僕の胸を支配していた。



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