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文太と真堂丸   作者: だかずお
15/159

一彦の道



文太と真堂丸



〜 一彦の道 〜


「おいっ起きろ」

真堂丸は一彦に声をかけた


「命をかける覚悟があるなら立て行くぞ」


一彦は高鳴る鼓動と共に息をゆっくりと飲んだ。

いよいよ仇をとるんだ、母ちゃんの…遂に今日

「俺は死ぬのなんかこわくねぇ」

一彦は立ち上がった。


村には一刻一刻山賊達が近づいて来ている。

何やら異変に気づいた村人達は気が動転する者、慌てふためく者、祈る者、村は慌ただしくなっていた。

「やばい、山賊達が仲間を連れてこっちに来ている!」


「もし依頼主が殺されたら、俺たちも殺されるんでねぇか」


「本当にあいつらは信用できるのかよ」


山賊達は遂に村の入り口まで来ていた。

数は三十人はいる。


「おい、村人 俺たちを殺すために誰かに依頼したらしいな、そいつらを出せ」


「ひいいいっ」震えあがる村人達


すると後ろから


「呼ばれなくてもこっちからいってやるよ」太一の声が


「三十ってところか、思ったより数揃えたじゃねえか」

山賊達は依頼された者たちを見ていっせいに吹き出し笑っている


「なんだ、ただのガキ三匹じゃねえか」


「俺もいる」

林の中から聞こえるその声は、一彦だった。

そして、その後ろには真堂丸


あっ、真堂丸。

僕はようやく真堂丸がどこに行ってたのか理解した。


「ふっ、やっぱりな物好きな奴め」道来がつぶやく


「あいつだ、あいつが母ちゃんの仇だ」


「なにを、ごちゃごちゃとやっちまえ」山賊達はいっせいに襲いかかる


その光景を見て、驚いたのは、一彦と村人であった

山賊達は次々に倒れて行き、残ったのは一彦の仇だけだったのだ


「つえぇ こんなに強いんだ」


「真の兄貴、ここは俺たちで充分って言ったじゃないっすか」

三人は刀を鞘に収める。


「お前にやれるのか?」太一が一彦の目を見て言う


「ああ」


「おっ、俺の相手はくそがきか よっ、よかった」山賊の大将は三人のあまりの強さに震えあがっていた。


「一対一で勝負だ」

一彦は声をあげ、刀を向け近づいて行く。


「貴様となら良いだろう」

山賊は刀を抜き、安心した表情を浮かべている、こっ、このがきは村の奴、強くはねえはずだ。

一彦はとても落ちついていた。

静かだ 心臓の音ってこうして毎時、脈うっていたんだ 相手の刀を見る。

こいつ、あの稽古をつけてくれた人と比べものにならないくらい弱い、冷静に一彦は状況を把握していた。


そして


「死ねえ」

キイインッ

見事だった、相手の刀を躱し、はじき、見事に相手を地面に叩き伏せた

だが、本当の戦いはこれからだった

それは相手との戦いではない

己との

一人の人間の命を奪うことが出来るかの戦い

今まで堂々としていた 一彦の脚は震えはじめていた。

山賊はかがみ「命だけは」と泣きじゃくってブルブル震えている。

一彦は刀を力いっぱい振りかざした、母の仇

真堂丸達は誰一人として口はださなかった

自分の決めること

大事な局面

自分で決断して、決意して進んで行く、刀の世界に生きるなら、瞬間瞬間自分で命をかけた決断をしなきゃならない、一瞬でも判断を遅らせれば背後にあるのは死のみである、それを彼らは心得ていたからだ。

酷だが、本当にこの世界に足を踏み入れるならば斬らねば斬られるしかないのだ。


ヒョオオオ~~


一彦は動けないでいた

いくら仇とは言え、この怖がってるだけの人間の命をここで絶つことが俺に出来るか?

これが本当に一番望ましい強さの証明か?

一彦は精神の狭間で自問自答するしかなかった。

揺れる決意


本当に母はこれを望んでいるのか?


僕はふと気がついた、祈るように手を合わせかがんでいる一彦の父の姿を。

彼もまた、この局面を黙って息子の判断に任せるという選択をしたようだ。


一彦の身体がピクリと動く


「一彦君」文太は思わず声をあげてしまった。


刀は振りかざされ

ズサアアンッ

山賊の首の横の地面にめり込んでいた


「俺にはできねぇ、母ちゃんごめんよ、俺は弱虫だ、仇をうてなかった」


山賊はいまだと言わんばかりに一目散に逃げて行く

すぐに父親が一彦を抱きしめに向かった。

瞳からはたくさんの涙が、一彦もなんとなくホッとしたようだった。

その場はそこで終わった。

僕はなんだかほっとする、良かった、良かった。


夜僕らは村人に誘われ、ご馳走される事に、宴会が村中をあげ行われたのだ。

僕も、道来さんも、太一さんも美味しい村の料理やお酒に終始ホロ酔い気分でご機嫌だった。


「あれっ、そういえば真堂丸は?さっきまでいたのに」僕はまた姿の見えない真堂丸をキョロキョロ探し辺りを見渡した。


あの川辺

一彦は川を見つめ一人座っていた

後ろからの足音に振り返る

そこに立つのは真堂丸の姿だった。


「ごめんよ、せっかく刀を教えてくれたのに、弱くて度胸のない俺には仇すら討てなかった、刀の道は諦めるよ」


真堂丸は何も言わなかった

静かな沈黙と、優しい月明かりが、二人を包む

川に映る月の姿は、ぼんやり揺れていた。


しばらくの沈黙の後

川の流れる音が、再び自身の耳に大きくよみがえる


そして足音がふたたび、今度は遠ざかり離れて行く音


その時だった


「勘違いするな、仇を討たないことでお前は強くなった、人を殺さなかったことでお前は強くなった、すくなくとも俺にはそう見える 母のぶんまで生きろ」

そう言い 真堂丸はその場から消えた


川辺では一人堪えられず声をあげ泣いている、一彦の声がいつまでも月明かりの下 鳴り響いていた。



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