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文太と真堂丸   作者: だかずお
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出会い



文太と真堂丸




〜 出会い 〜



時はいつの時代の事だろう

人が刀を持ち争う時代

力が人を支配する時代

誰もが強さに憧れ

名声を求め

力を求め

そう、僕 文太もまた、刀を持ち故郷を捨て 奉公先を探していた。

必ず、良い奉公先を見つけて、おっかあや村の人達を助けてやるんだ。


元来、穏やかで、大人しい性格の僕は、刀など握った事もなかった

そんな、僕を、おっかあは止めた


「優しいお前に人など殺せない、村で農家を続けなさい」


「僕は侍になるんだ、おっかあ、この村はほとんどあいつらの年貢で、もういっぱいいっぱいだ、このまま払えなきゃ、みんな殺されちゃう」


「やっぱり、それがあんたの本音だね、本当は誰よりもこの村で農家として暮らしたいんだ、そうだろ?」


僕の心をちゃんと分かってる、そのおっかあの言葉が嬉しくもあり辛くもあった。


「違う、自分でやりたいから行くんだ」


「嘘をつきなさい、この村を助けるために行くんだ、そうだろう?」


僕は耐えられなくなった、これ以上ここにいたら母の優しさに甘え、何よりこの溢れんばかりに瞳にたまる涙に気付かれてしまう。

心を殺し、僕は走って村を出るのを決意した、おっかあごめん 黙って行くよ。

必ずお金を稼いで戻るから きっと きっと。


「待て文太」


おっかあは僕の肩を突然掴んだ、振り払おうと振り向いた時、おっかあの瞳から涙がこぼれているのを見た。

それを見て立ち止まってしまった。

そして、おっかあは僕の着物の懐に何かをいれた

それが貨幣だという事はすぐに分かった。


「おっかあ、どういうつもり?お金はギリギリなんじゃ、村で使ってよ」

おっかあの優しさに触れ、その時には瞳からこぼれ落ちる溢れんばかりの涙を、すでに堪えられなくなっていた。


「私のたった一人の息子、己の命、村の命、それ以上何よりも大切なのは当たり前じゃ 死ぬんじゃないぞ 生きろ」

強いおっかあが泣きくずれたのを、僕は生まれて初めて見た。

そして、その言葉に含む母の心を知り、涙がこぼれ落ちた。


これ以上ここにいたら、気持ちが揺らいでしまう、必ず 必ずお金を稼いで戻って来るから、そしてまた一緒に暮らそう


生まれて初めて村を出た

生まれて初めて刀を持った

生まれて初めておっかあが泣くのをみた


山を歩いてる夕暮れ時、丘の上から見た村の景色に僕は泣いた。

僕は今日、生まれて初めて村を出る

何もわからぬまま

何もあてのないまま、頼るものもいないまま、これからは優しい村の人もいない、おっかあもいない

もう戻って来られないかも知れない

人生で最後の村になるかも知れない

これからは一人ぼっちだ

最後にみた村の景色がいつまでも心から離れなかった。


あれから二日間歩きっぱなしだった

大きな街に行き、奉公先を見つけてお金を稼ぐんだ

そう心に決意していた。


山路を歩いてる時、目の前から背丈は僕とかわらず体格もどちらかというと自分に似、痩せている男が歩いて来た。

歳は同じくらいだろうか?

腰に刀をさげている

僕は彼も同じような境遇なのかもしれないと、何だか親近感がわき挨拶をしてみる事にした

「どうも」

その時だった、男は突然僕の目の前で倒れこんだのだ。

「大丈夫ですか?」


僕は近くにあったぼろぼろの廃小屋のような場所で彼の看病をした、村ではよくこういう役割を任されていたので少しは慣れていた。


暫くして、彼は目をあける


「?」


「突然倒れたから看病したんです、何かの病気かと思ったけど、何も食べてなかったんでしょ?」

僕は母のくれたお金で食料を買って、それを彼に差し出した。


「どうして俺を助けた?」


「どうしてって、言われても」


「みな己の命の事だけを考え、赤の他人など斬り捨てるはずだ、なぜ俺に食料まで」


「なぜって言われても、そういう性格なんです」


彼は、僕のあげた食料をものすごい勢いで食べ始める。


「借りができた」


「僕は文太 名前はなんですか?」


「真堂丸」


彼はこの会話の間、いっさい笑みを見せなかった。


「刀を持ってる所を見るとお侍ですか?」


返事はない

僕は気まずくなり、その日は夜も遅かったので、その小屋で過ごす事にした、真堂丸はもう寝ているようだ。


僕も少し休もう


物音がして目を開けた時、僕は声を失う

三人の山賊が僕と真堂丸に刀を向け「持ってるもの全て置いていけ」と言っているからだ。

さっ、山賊、うっ嘘だろう

僕は初めて見る山賊の姿と迫力に恐怖で足がガクガク震え出していた。


そっ、そうだ、僕には刀がある、真堂丸 今、守ってあげるから

刀に手をかけようとしたその瞬間、一人の山賊が僕を睨みつける


僕は恐怖に包まれ一歩も動けなくなった。だっ、だめだこいつらは本気で人を斬り殺す連中、気迫が違う。

そんな中、僕は真堂丸を見て驚く事になる

彼は何事もないように平然とした顔でそこに座っているのだ

まるで、山賊がそこに居る事にすら気付いていないかのように


「おい小僧、怖くて動けないか?ほら殺されたくなきゃ、身ぐるみ全部置いてけ」


僕は刀を出し、おっかあからのお金をすぐに手渡した。

ごめんねおっかあ、おっかあが一生懸命作ったお金を……


「なんだ、あるじゃねえか、よこせ」


僕の頭の中には、おっかあが一日中休まず働いた姿が浮かんでいた。

やっぱり黙ってこいつらには渡したくない

「どうかお願いします、この金だけは見逃して下さい」

僕は地面に頭をつけ土下座していた


「なにーっ?バカかおまえ何処の山賊が財を前にして、見過ごすって言うんだよ」


一人の山賊が僕の頭を思いっきり踏みつける


ドンッ「ぐふぅおっ」僕の顔面に強烈な痛みが走る


「借りはかえしたぞ」


それは真堂丸の声


「えっ?」


見ると僕の頭を踏みつけた、山賊の両脚は斬り捨てられていた

僕は初めて見るおそろしい光景に言葉を失う、こっこれが 人を斬るということ・・・


「きっ貴様~やれー」

一瞬のうちだった

山賊は全員斬り伏せられていた

先程まで動き、話し、呼吸していた人間達は死体となり、ぴくりとも動かなくなっていたのだ。


僕はあまりの恐怖に腰をぬかす、この男は平気で人を斬り伏せる

こっこれが、刀を持つということ、殺らねば殺られる

僕には決して出来ないかもしれない

足はまだがくがくと音を立て震えていた


真堂丸は人を刺す様な視線で僕を見つめたと思えば、すぐ横になった


僕は逃げ出したい気分だった

これが、これから僕がしなきゃいけないこと

これから生きていく世界・・・


僕はそのまま、真堂丸を置いて逃げることも出来た、しかしこの男から何かを学べるかもしれない、この男はおそろしく強い

そして一体何者なのだろう?

僕は少しの好奇心と恐怖と共に、勇気を振り絞り、この得体の知れない男のそばにいることを決めた


これが僕、文太と真堂丸の初めての出会いだった

僕たちはこの狂おしい時代に生き

そして出会ったのだ

二人の行く手に何が待ち受けてるのか、この時は、まだ誰も知る由もなかった。




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