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デカの張り込み

作者: 竹仲法順

     *

「こんなくそ暑いのに、張り込みだな」

「ええ。……でも、仕方ないですよ。奴さん、放っておいたら逃げますから」

「まあな。きついけどな」

 軽く息をつき、路上に停めている覆面パトカーの中から、眼前にある小さなビルを見つめる。中に、つい最近この街で起きた倉方(くらかた)美幸(みゆき)殺害の容疑者石井伸二がいるものと思われた。俺もじっと見ている。サイドシートにいる相方で警部補の寺岡勉が、

沖島(おきしま)警部(けいぶ)、本当に石井はいるんですか?」

 と訊いてきた。

「ああ、間違いない。県警本部にタレこみがあった。倉方美幸殺しの容疑が掛かった石井が、ここにいるとな」

 そう言って一瞬気を抜き、吸い慣れたタバコをタバコ入れから取り出して、銜え込む。ジッポで火を点け、吸おうとしたまさに時、石井と目される人間が建物から出てきた。警察が張り込んでいると気付かなかったのだろう、丸腰で出てきて、通りを歩き出した。

「行くぞ」

 タバコを仕舞い込み、寺岡にそう言って車を出る。石井の後を付いて歩き、追い始めた。あっちも俺たちが捜査中の警官だと知って、徐々に早足になる。俺も寺岡も駆け足になり、追った。何としてでも捕まえるために。

     *

 やっと追いつき、

「石井、止まれ!」

 と言うと、ヤツも観念したのだろう、歩を止め、振り返った。

「警部、逮捕しましょう」

 寺岡がそう言い、石井に近付いて、予め取っていた令状を翳し、

「石井伸二、倉方美幸殺害容疑で逮捕する」

 と言って手錠を掛けた。そして連行する。俺も付いていった。真夏の真昼の張り込みは体力を消耗するのだが、仕方ない。犯罪者など、いくらでもいるのである。殺人犯など、捕まえないとのさばる。いつの時代でも同じだ。

 車に戻ると、車内には染み付いたタバコ臭が幾分していたのだが、後部座席に石井を押し込め、車両を出す。そして県警本部へ向かった。たくさんの車が街を行き来している。覆面パトカーは一般の車両と混じり、全く気付かれない。

 車が警察署へ入り、捜査一課の捜査員である俺たちも、石井の脇を固めてから、本部内へ入っていった。一課のフロアに着き、石井を地下の拘留場へ移したことを五係の管理官の勝島(かつしま)に報告してから、取調べ担当の刑事へ打診する。倉方美幸殺害の容疑が掛かっているので、早く取り調べてほしいと。

     *

 その日の夕刻、拘留場から石井が出され、取調べ担当の刑事である吉村に取調べを受ける。吉村は淡々と事実関係を訊き出した。石井が倉方美幸の部屋で口論の末、キッチンにあった包丁を使い、腹部を二回刺して殺したことを。石井は包丁に付いていた自身の指紋を拭い取り、死後硬直が始まる前に倉方美幸の手に持たせ、自殺に見せかけた。

 事後報告で聞いた限りでは、石井が事実関係を大筋で認め、倉方美幸殺害を自白したようだ。そしてあの張り込みの甲斐があったと思った。寺岡が一課のフロア内で庶務をこなしながら、言う。「警部、石井を検挙できてよかったですね」と。

 タバコを吸った後、コーヒーを口にしながら、

「寺岡、まだたくさん事件あるぞ。一々言ってたら、キリがないからな」

 と言った。そして燃え尽きたタバコを置いてあった簡易灰皿に押し付け、軽く息を付き、フロアを出る。半袖のワイシャツ下には汗が浮き出ていた。寺岡が追って、いつも通り、また街で起きていた事件捜査にまい進する。

 犯罪者どもは腐るほどのさばっていて、実に性質が悪い。石井を挙げただけでも手柄だった。倉方美幸事件の犯人はアイツで決まりだからである。事件当日、被害者宅に出入りしていたのは、マンション近辺に設置してあった防犯カメラで石井しかいないと分かっていたのだから……。

 それから寺岡と一緒に、また外勤し始めた。犯歴者データベースは持っていたタブレット端末に入れてあって、それを元手に探す。思っていた。殺しなど、首都圏から遠く離れたこの街でも多数起きると。

 石井が殺害の事実を認め、地元のI地検に送検されたのは二日後のことで、取調べは迅速に進んだ。それを聞いて安堵する。また一つ、案件が片付いたなと。

                                 (了)

                  



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