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謎の男②



「・・・あの。ラ・・・トナさん。」


「ん?」


「そんなに見つめられると食べづらい・・・のですけど。」




赤髪の青年こと、ラトナは先ほどからずっと少女の食べる姿を見ている。食事を取るために敷かれた絨毯に腰をおろし、ラトナと向かい合わせに座っていたのだが、食事中に向かい側からずっと見られているのだ。気になり過ぎて食べるものも食べれない。自分と一緒に食べ始めたはずが、ラトナは一瞬にして皿の中のものをぺろりと平らげてしまい、そのあとは少女の顔を見つめていたのだ。


掌から伝わる温かなシチューはまだ温かく半分近く残っていたが、こうも見られていては、正直食べづらい。

気にせず食事を続ければよいのだが、今までここまで容姿の整った人の見るのは初めてなので、ソワソワしてしまい落ち着かない。



食事をする手を休めちらりとラトナの顔を見つめると、彼はさらに優しく微笑む。



―綺麗。…だけど恥ずかしいくてご飯食べれないよ。



綺麗な人が自分を見つめているのに耐えられず、ラトナから視線を外し、気分を変えるために気になっていたことを聞いてみることにした。



「あの、ラトナさん、お聞きしたいことがあるんですけど良いですか?」

「うん。いいよ。答えられる範囲で良ければだけど。」

片足を抱えるように座っているラトナは、楽しそう眼をほころばせながら、膝の上に顎をのせ聞く体勢にとる。


「えっと、ここってインド…でしょうか?」

「ん…?どうしてそう思ったの?」

不安を浮かべながら自分を窺っている顔に向かって、赤髪の青年はシャラリと耳飾りを鳴らしながら首をかしげる。


「違うんですか?周りは砂漠ばかりだから、そうなのだと思っていたんですけど。でも、そうなると言葉通じないですよ…ね。私、今話しているのは日本語で英語喋ってるわけではないんですけど。日本だったら鳥取砂丘しか砂漠ないので…これって、アトラクションか何かですか?」

アトラクションであるならそうであってほしい。

緊張しながら逸らした眼をラトナへ向ける。


ラトナは一瞬眼を細めるが、ふっと微笑む。

「きみは、この状況をアトラクションだと思う?」

「…いいえ。」

淡い期待だった。

小さくため息を吐きながら、下を俯く。


「…詳しくは言えないけれど、僕の主は貿易をしている人でね。その人の影響もあって、僕も何カ国かは話せるんだよ。…聞き取りづらくはないかな?」

「いいえ。すごくお上手です。」

「ありがとう。あと今ここにいる場所もインドではないかな。砂漠はほかの場所にもあると思ったけど?」

「…そうですよね。…ちょっと、さっきまで私がいた場所とは全然違っているので、なんだか実感できなくて…。」



今、自分がいるのはゲルらしきテントの中。

外は砂漠で、自分のそばにいる青年は日本人にはない髪質を持っている。

自分が生活していたものが一切ない中、落ち着かないのも無理はない。



「そんなに違うかな?」

「えっと、服装が違うところ…とか、あと、私から見たらラトナさんは外国人さんなので外見が違いますし…。」



そう言って自分の服装を見ると、毎日のように着ている制服が眼に映る。

紺色のブレザーにチェックのプリーツスカート。ネクタイはスカートと同じチェックで統一されており、足元は入学祝に親から買ってもらったローファーを履いている。

髪は、日本人らしく黒髪…とはいかず、ちょっと茶色に染めてある。


いつものように学校へ登校して、授業を受けて今日は部活がお休みだからと、恋人と一緒にどこかに寄って帰ろうかと話しながら下校していたはずなのに。



今、私の目の前にいるのは、恋人ではなく外国人。

さっき自分を案内してくれた人も明らかに外国人。焚き火らしきそばにいた人たちも、きっと外国人だろう。




「…そう言えば聞いていなかったね。」

向かい側からの声に、気づき顔をあげると優しく微笑む顔があった。




「名前。君のこと何て呼べばいい?」




「名前…。」

「うん。君の名前。」

オウム返しのように、ラトナの言った言葉を呟くと同時に、自分の顔に熱が集まっていく。

「ごめんなさいっ!!今の今まで名乗らずにいたなんて!」

「いいよ。この状況に驚いていたんでしょ。―もしくは警戒してた?」

最後の言葉に身を震わせ、ハッとラトナの眼を見つめると、さっきまで優しかった眼は笑っていなかった。

温かな赤い眼から、冷たさが伝わるような怜悧な眼がこちらを向いていた。

人を突き放すような眼が自分を見ている。



その瞬間、ドクリと胸の動悸が大きくなる。

胸の奥がざわつき、手のひらにジトリといやな汗が出てくる。



―もしかして、自分はとてつもなく危ない状況にいる?

ずっと、考えないようにごまかしていた気持ちが奥底から這い上がってくる。

―気持ち悪い。




気がつけば口からは、小刻みに息を吐き出していた。





暫くの間、お互いの顔を見つめあっていると、クッと笑う声が聞こえた。




「ふふ。ごめん。」

眼の前でラトナが、口元を手で覆い、身体を折り曲げてクツクツ笑っている。

それも楽しそうに。

「は…?」

「君、ずっと溜息ばかりしているし、緊張しているのかなって思ったらつい。」

―からかいたくなっちゃった。




展開の速さについて行けず、そう言いながら笑うラトナをポカンと見つめる。




優しく微笑んでいたと思ったら、いきなり冷たい眼をして。怖いと思ったら、今度は楽しそうに笑い始めて。からかいたくなっちゃった?

冗談じゃない!って声を張り上げて言ってやりたいのに。

なのに先ほどまでの冷たかったラトナの眼に、温かさが灯り、穏やかなどこか安心させるように言うから。




「―大丈夫。ここにいる間は、君の安全は保障する。だから、君の名前を教えて?」




ストンと胸に下りてきた声に自然と口を開いていた。




「椎名要です。」

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