足元に映るもの
「足元に何かいましたか。」
突然、頭上から声が聞こえ、あわてて顔をあげると先導していた男が私の様子を窺っていた。
「あ・・・。すみません。・・・その、歩くのに集中していました。」
取ってつけたような言い訳に、内心、嘘だとバレているんだろうなと思っていると、その人はさして興味がないのか、ただ ― そうですか。と、一言残し何事もなかったかのように歩き出した。
私は、前を歩く人に気づかれないよう、そっと小さな溜息をついた。
――砂漠って、海岸の砂浜よりもサラサラしているんだ・・・。
足元を見ると、そこには自分の足と砂漠しか映っていなかった。
砂漠。
日本にも鳥取砂丘と呼ばれる砂漠はあるけれど、一度も行ったことなんてない。TVや教科書などで見たことはあるけれど、直に見れる日がくるなんて思ってもみなかった。・・・いや、これから先、自分と縁遠いものだと思っていたのに。
――砂漠の上を・・・歩いてるんだよね、私。
しかも、この場に不釣り合いな格好をして。
もし今、彼がいたらきっと何をのんきなこと言っているんだよ、とか言われていたかもしれない。― 足元が安定していないせいか、身体がぐらつくのを必死に堪えながら、ぼんやりと思った。
はぁ、と小さな溜息をつきながら、先を歩く人の後ろ姿を見つめる。
そして、じわりと背後から何かが這い上がってくる感覚がして後ろを振り返ってみるが、あるのは砂漠と自分がつけた足跡だけだった。
他には何もない。
そう。自分の知っているものが何もないのだ。
無意識にぐっと手を強く握りしめ、いつの間にか止まっていた足を動かし始める。
――ここは、どこ?
少女は、なぜ自分が一面に広がる砂漠の上にいるのか、未だに理解できずにいるのであった。
そんな少女を、後ろから夕闇が優しく包みこんでいた。