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親友に好きな人を取られたけど彼女の本性を知ってるから同情しかない

作者: マグロサメ

 中学三年の春。


 俺、佐々木蓮(ささきれん)の周りには、いつも誰かがいた。


「蓮、今日も塾?」

「蓮くん、このプリント見せて」

「佐々木、明日カラオケ行こうぜ」


 友達に囲まれた生活は、悪くない。


 むしろ恵まれてると思う。


 でも。


 心の奥底では、いつも同じことを考えていた。



 美咲さんのことだ。



 水瀬美咲(みずせみさき)


 俺が通う塾でアルバイト講師をしている、高校二年生。


 緑がかった髪色が珍しくて、最初に目に入ったのがきっかけだった。


 でも、すぐに気づいた。


 彼女の魅力は、外見だけじゃない。


 明るい笑顔。誰とでも話せる社交性。それでいて、どこか大人っぽい雰囲気。


 年上の女の人への憧れって、こういうことなんだと思った。


 気づいたときには、完全に惚れていた。


 でも、告白できなかった。


 一年間も。



「蓮、まだ告白してないのかよ」


 塾帰りのカフェで、親友の翔太がいつものように呆れた顔で言った。


 高橋翔太。


 小学校時代からの親友で、俺のことを一番よく知っている男だ。


 同じ塾に通ってるから、美咲さんのことも知っている。


「わかってるよ。でも…」


 俺はストローを噛んだ。


「でもじゃねえよ。一年だぞ? 一年も想い続けて何もしないって、それ本気なのか?」


 図星だった。


 翔太の言う通りだ。


「…本気だよ。だからこそ、失敗したくないんだ。相手、高校生だし」


「年上だからって、ビビってたら何も始まらねえだろ」


 翔太は真剣な顔で俺を見つめた。


「なあ、蓮。俺、今まで何度もお前の相談に乗ってきただろ?」


「…うん」


「でも今回は違う。今回は本気で手伝う」


 翔太の目が、いつもより真剣だった。


「絶対に告白させる。中学卒業しちゃうぞ?」


 その言葉を聞いて、俺の心が動いた。


「…本当に?」


「ああ。親友だからな」


 その言葉が、温かかった。



 次の日から、翔太は本当に動き始めた。


「よし、作戦会議だ」


 集められたのは、俺たちの仲間。


 田中健、山田優子、鈴木大輔。


 みんな俺が美咲さんを好きなことを知っている。


 駅前のカフェに集合して、作戦会議。


「まず、美咲さんの好みをリサーチしよう」


 優子が柔らかく提案した。


「告白する場所も大事だな。学校じゃないから、自由に選べる」


 健が冷静に分析する。


「俺はムード作り担当な!」


 大輔が元気よく笑った。


 みんなが協力してくれる。


 ありがたかった。



 一週間の準備期間。


 翔太は塾で美咲さんと話す機会を利用して、さりげなく彼女の好みを聞き出した。


 優子は女子ネットワークで美咲さんの情報を集めた。


 健は告白に最適な場所を下見し、大輔は当日のサポート体制を整えた。


「金曜日の夕方、駅前の公園で告白しろ」


 健が短く言った。


「塾が終わった後、夕日がきれいな時間帯だから、ロマンチックだ」


 そのアドバイスに従って、告白の日が決まった。


 その週は、あっという間に過ぎた。



 金曜日。


 心臓の音が、自分でもはっきり聞こえる。


 駅前の公園で、美咲さんを待つ。


 「話したいことがある」とLINEで伝えたら、「わかった」と返事が来た。


「蓮くん、どうしたの?」


 美咲さんが笑顔で現れた。


 夕日が彼女の緑がかった髪を照らして、綺麗だった。


 制服姿の彼女は、俺より大人に見える。


 深呼吸。


「美咲さん、俺、ずっとあなたのことが好きでした」


 言葉が震える。


「塾で初めて見たときから。だから…付き合ってください」


 言えた。


 ついに言えた。


 一年分の想いを込めた言葉。


 美咲さんは驚いた顔をして、少し考える素振りを見せた。


「蓮くん…」


 沈黙。


 長い沈黙。


「ありがとう。嬉しい。でも、ごめん」


 心臓が止まりそうになった。


「でもね、いきなり付き合うのはちょっと。友達からでいい? もっと蓮くんのこと知りたいな」


 美咲さんの笑顔は優しかった。


 年上の余裕を感じる。


 断られた。


 でも、完全に拒絶されたわけじゃない。


「…はい、わかりました」


 俺は精一杯の笑顔で答えた。


 少し離れた場所から、友人たちが集まってくる。


「お疲れ!」


 大輔が明るく声をかけてくる。


「友達からって、脈ありじゃん!」

「次のステップだよ、次の!」


 みんなが励ましてくれる。


 翔太も笑顔で肩を叩いてきた。


「よくやったよ、蓮」


 でも、そのとき。


 美咲さんが言った。


「あ、そういえば翔太くんも来てたんだ。翔太くんの連絡先も教えてもらっていい? 蓮くんの親友なら、仲良くしたいし」


 翔太が少し驚いた顔をして、でもすぐに笑顔で答えた。


「ああ、いいよ」


 そのとき。


 健が俺の肩に軽く触れた。


 何か言いたげな顔だった。


 でも、俺は気にしなかった。


 告白できたという達成感と、希望がまだあるという期待で、頭がいっぱいだった。


*


 告白から二週間。


 美咲さんとは、たまにLINEでやり取りするようになった。


 塾のことや、他愛ない話。


 距離が縮まっている気がした。


 でも。


 妙なことに気づき始めた。


 美咲さんのSNSに、翔太が映っている写真が増えている。


「翔太くんとランチ」

「翔太くんに映画誘われた」

「翔太くんとカフェなう」


 最初は気にしなかった。


 翔太は俺の親友だ。


 美咲さんと仲良くなってくれるのは、むしろ良いことだと思った。


 でも、ある日。



 駅前のショッピングモールで、見てしまった。



 美咲さんと翔太が、手を繋いで歩いている。


 笑い合いながら。


 幸せそうに。


 時間が止まった。


「あ、蓮」


 翔太が俺に気づいた。


 気まずそうな顔。


 年上の彼女ができて、少し大人になった気でいる顔。


「これ、その…」


 翔太の声が遠い。


「…付き合ってるの?」


 俺の声は、震えていた。


 翔太と美咲さんは、顔を見合わせた。


「うん…ごめん、蓮くん」


 美咲さんが申し訳なさそうに言う。


「翔太くんといろいろ話してるうちに、気づいたら…。でも、蓮くんとも友達でいたいよ」


 美咲さんの声が、遠くに聞こえる。


「蓮、ごめん。俺も、こんなつもりじゃなかったんだ」


 翔太が言う。


「でも、美咲さんと話してるうちに、自然と…」


 翔太の声も遠い。


「…そっか」


 それだけ言って、俺はその場を去った。



 家に帰って、ベッドに倒れ込んだ。


 失恋。


 それはまだ耐えられる。


 告白して振られることは、覚悟していた。


 でも。


 親友に取られるなんて。


 一年間想い続けた、年上の女の人。


 小学校時代からの、親友。


 両方を同時に失った。


 中学生の俺にとって、これは初めての大きな挫折だった。


 スマホが鳴る。


 翔太からだ。


 でも、出られない。


 友人グループのLINEも荒れている。


「翔太、お前何やってんだよ」

「蓮、大丈夫か?」

「美咲さんって、そういう人だったのか」


 みんなが心配してくれる。


 でも、何も響かない。


 『世界には他にもたくさん人がいるのに』


 自分に言い聞かせる。


 でも、無理だった。


 美咲さんのことも、翔太のことも、諦められない。


 特に翔太は親友だ。


 小学校時代からずっと一緒だった。


 些細なことで喧嘩することはあっても、こんな形で関係が壊れるなんて。


 翔太と話したい。


 でも、どう話せばいい?



 次の日、塾の自習室。


 黒木誠が強い口調で言った。


「蓮、絶対に翔太に連絡するな」


 黒木は俺の友人の一人だが、今回の件で激怒している。


「お前のためだ。あいつらに関わったら、もっと傷つくだけだ」


「でも、俺…」


「でももクソもねえ!」


 黒木が机を叩いた。


「もうゲームオーバーなんだよ。年上の女も親友も失ったんだ。これ以上何を求めるんだ?」


 黒木の隣には、伊藤悠斗と佐藤リサがいる。


 二人も黒木に同調している。


「蓮くん、美咲さんって元々男たらしだったのよ」


 リサが言う。


「年下を弄んでるだけ」


「翔太も最低だよ。親友の好きな女に手を出すとか」


 悠斗が吐き捨てる。


 でも。


 健が口を挟んだ。


「待てよ」


 健の声は、いつも通り冷静だった。


「蓮が決めることだろ。俺たちが決めることじゃない」


「健、お前甘いよ。蓮を守るためなんだ」


「守る?」


 健が黒木を見つめた。


「蓮の自由を奪ってるだけじゃないか」


 優子も健に同調した。


「蓮くんが翔太くんと話したいなら、話すべきだと思う。後悔しないように」


 友人たちの意見が、二分される。


 でも。


 俺の気持ちは、はっきりしていた。


「こんなふうには終わらせられない」


 俺は立ち上がった。


「ちゃんと向き合わなきゃ」


 黒木が舌打ちした。


「勝手にしろ。でも、俺たちは止めるからな」



 翔太に連絡しようとすると、黒木たちが邪魔をする。


 塾に行こうとすると、黒木が先回りして翔太を連れ去る。


 翔太に電話しようとすると、悠斗がスマホを取り上げようとする。


 翔太が来そうな駅前のカフェに行こうとすると、リサが「待ちぶせは犯罪よ」と止める。


 健や優子が説得してくれるが、黒木たちは聞く耳を持たない。


 ある日。


 健と大輔が、黒木たちを説得しようと直接対峙した。


「お前ら、やりすぎだぞ」


 健が言った。


「蓮の気持ちを尊重しろよ」


 大輔も続けた。


 でも。


 黒木たちは二人を突き飛ばした。


「お前らこそ、蓮をダメにしてるんだ。邪魔すんな」


 健と大輔は、それ以上何も言えなかった。


 俺は、孤立していた。


 翔太とは会えない。


 美咲さんとも会いたくない。


 友人たちは対立している。


 どうすればいいんだ。



 ある日。


 俺は一人で、川沿いの遊歩道を歩いていた。


 誰とも会いたくなくて、一人になりたかった。


 そのとき。


 見覚えのある声が聞こえた。


「もういいよ、飽きちゃった」


 美咲さんの声だ。


 橋の下を覗くと、そこには翔太と美咲さんがいた。


「え、美咲さん、どういうことですか」


 翔太の声は、動揺している。


「だって、つまんないんだもん」


 美咲さんの声は、冷たかった。


 年上の余裕なんてものじゃない。


 ただの冷淡さだ。


「最初は面白かったけど、もういいかなって。中学生と付き合うの、疲れた」


「俺たち、付き合って一ヶ月ですよ。それで飽きたって…」


「うん、飽きた」


 美咲さんは笑顔で手を振った。


「じゃあね、翔太くん。楽しかったよ」


 去っていく美咲さん。


 翔太は呆然と立ち尽くしていた。


 俺も呆然としていた。


 美咲さんの本性を見た気がした。


 人を道具のように扱う。


 飽きたら捨てる。


 年下の中学生を、遊びの対象としか見ていない。


 そういう人だったのか。


 美咲さんが橋の上に上がってきた。


 俺と目が合った。


「あ、蓮くん」


 美咲さんは何事もなかったかのように笑顔で近づいてくる。


「ちょうどよかった。ねえ、今度一緒に遊ばない? 今、時間あるよ」


 信じられなかった。


 たった今、翔太を捨てたばかりだ。


 それなのに、もう次のターゲットを探している。


 俺は、そのターゲットだ。


 ――違う。


 俺の中で、何かが吹っ切れた。


「ごめんなさい、美咲さん」


 俺ははっきりと言った。


「俺、もうあなたのことは好きじゃないんです」


 美咲さんが驚いた顔をする。


「それに、俺には親友がいる。翔太がいる」


 俺は美咲さんを見つめた。


「あなたみたいに人を道具みたいに扱う人より、ずっと大切な人が」


 美咲さんの顔が曇る。


「…そっか。じゃあね」


 去っていく美咲さんの背中を見ながら、俺は思った。


 ――ああ、これで本当に終わりなんだな。


 でも、全然悲しくなかった。


 美咲さんはもういい。


 彼女は俺が一年間憧れ続けた相手じゃなかった。


 年上の大人の女性だと思っていたけど、ただ中学生を弄んで遊んでいるだけだった。


 でも。


 翔太は違う。


 親友だ。


 小学校時代からの、かけがえのない親友だ。


 俺は走った。


 橋の下へ。


 でも、翔太はもういなかった。



*



 その日から、俺は翔太を探し始めた。


 LINEを送る。


 既読スルー。


 電話をかける。


 出ない。


 塾に行く。


 来ていない。


 家に行く。


 不在。


 翔太は俺を避けていた。


 一週間。


 二週間。


 三週間。


 それでも、俺は諦めなかった。


 友人たちに協力を依頼した。


 カフェに集まって、みんなで作戦会議。


「翔太の居場所を知らないか?」

「翔太に会ったら、俺に連絡してくれ」

「翔太に伝えてくれ。話したいって」


 黒木たちは最初、渋っていた。


「まだ諦めてなかったのか」


 黒木が呆れた顔をした。


「ああ」


 俺は真剣な顔で答えた。


「翔太は親友だ。こんな形で終わらせられない」


 俺の目を見て、黒木は溜息をついた。


「…わかったよ。探すの手伝う」


 黒木も、リサも、悠斗も、最終的には協力してくれた。


 健も、優子も、大輔も、引き続き探してくれた。


 みんなが翔太を探してくれた。


 そして、ついに。



「翔太は今、河川敷のサッカーコートにいる」


 健からLINEが来た。


 俺は走った。


 河川敷のサッカーコート。


 そこに翔太はいた。


 一人でシュート練習をしている。


「翔太」


 俺が声をかけると、翔太は手を止めた。


「…蓮」


 翔太の顔は、憔悴していた。


「話せる?」


「…ああ」


 二人でベンチに座った。


 しばらく沈黙。


 川の音だけが聞こえる。


「ごめん」


 翔太が先に口を開いた。


「俺、最低だよな。お前の好きな人と付き合って。親友失格だ」


 翔太の声は、震えていた。


「最低だよ」


 俺は正直に言った。


「でも」


 間を置いて、続けた。


「それでもお前は、親友だ」


 翔太が顔を上げた。


「蓮…」


「美咲さんに振られたんだって?」


「…ああ。見てたのか」


「偶然、見ちゃった」


 翔太は苦笑した。


「情けないよな。お前を裏切って付き合った女に、あっさり捨てられた」


 翔太が俯く。


「『中学生と付き合うの疲れた』って。因果応報だ」


「美咲さんは、俺たちが思ってたような人じゃなかった」


 俺も苦笑した。


「あんな人のために、俺たちの友情を壊すなんて、馬鹿馬鹿しいよな」


 沈黙。


 俺は、ゆっくりと口を開いた。


「なあ、翔太」


「ん」


「俺さ、美咲さんのことずっと好きだった。一年間も」


 翔太が黙って聞いている。


「でも、今思うと、美咲さんの何が好きだったのかわからない」


 俺は自分の気持ちを整理するように話し続けた。


「見た目? 雰囲気? それとも、年上の女の人への憧れ? わからないんだ」


 川の音。


「でも、お前のことは違う」


 俺は翔太を見つめた。


「お前とは小学校時代から一緒だった。喧嘩もしたし、馬鹿なこともたくさんした。でも、いつもお前がいた」


 翔太が俺を見つめている。


「それが当たり前だと思ってた」


 俺の声が震える。


「だから、お前を失ったとき、失恋よりもずっと辛かった。お前がいない生活なんて、想像できなかった」


「蓮…」


「俺、気づいたんだ」


 俺は続けた。


「年上の女の人に夢中で、本当に大切なものを見失ってた」


 翔太が俯いた。


「俺も同じだ」


 翔太の声は小さかった。


「美咲さんに夢中で、お前のこと考えられなかった。いや、考えないようにしてた」


 翔太が拳を握る。


「お前を傷つけてるって、わかってたのに。年上の彼女ができて、浮かれてたんだ」


「でも、美咲さんが綺麗で魅力的だったのは事実だろ? お前が惹かれたのも無理ないよ」


「そうかもな」


 翔太が顔を上げた。


「でも、美咲さんとの一ヶ月より、お前との八年間の方がずっと価値がある」


 翔太の言葉に、俺の目が熱くなった。


「これが恋ってやつなら、もっと早く知っておきたかった」


 俺は笑った。


「恋に溺れると、周りが見えなくなるって。もっと早く知っておけば、こんな失敗しなかったのに」


 翔太も笑った。


「次から気をつけような」


「ああ」


 二人で笑い合った。


 しばらく沈黙が続いた。


 川の音。


 風の音。


 俺は、ゆっくりと口を開いた。


「…なあ、翔太」


「ん」


「俺たち、また友達に…戻れる?」


 翔太が顔を上げた。


 そして、少しだけ笑った。


「…馬鹿」


 短く言って、翔太は立ち上がった。


「友達じゃなくなったことなんて、一度もねえよ」


 そう言って、翔太は拳を突き出した。


 俺の目が熱くなる。


 涙が出そうになるのを堪えて、俺も立ち上がった。


「…ああ」


 拳を突き出す。


 ゴツン、と拳と拳がぶつかった。


 小学校の頃から、何百回、何千回と繰り返してきた、この動作。


 ――ああ、これだ。


 これが、俺の帰る場所だ。


「翔太」


「ん」


「お前がいてくれて、よかった」


 翔太が少し照れたような顔をした。


「…気持ちわりい。そういうのやめろ」


 でも、嬉しそうだった。


 俺も笑った。


 二人で笑い合った。


 夕日が、二人を照らしていた。



*


 その後、カフェにみんなで集まった。


 健、優子、大輔、黒木、悠斗、リサ。


 そして、俺と翔太。


「よかったな」


 健がコーヒーを飲みながら、短く言った。


「うん。ほんとによかった」


 優子が柔らかく笑う。


「次は俺が恋愛相談するから、お前らアドバイスしろよ!」


 大輔が明るく茶化してくる。


 黒木は少しバツが悪そうにしていたが、


「…まあ、結果オーライだな」


 と、小さく呟いた。


「ほんとだよ。心配したんだから」


 リサが言う。


「俺らもな」


 悠斗が続けた。


 翔太が頭を下げた。


「みんな、ごめん。心配かけて」


「いいっていいって」


 大輔が翔太の肩を叩く。


 俺も頭を下げた。


「ありがとう、みんな」


 健が肩を叩いた。


「当たり前だろ。俺たち、友達じゃん」


 ――友達。


 この言葉が、今、こんなにも温かく感じる。


 俺には、こんなにたくさんの友達がいる。


 美咲さんに振られて、翔太に裏切られて、すべてを失ったと思った。


 でも、失ってなかった。


 俺には、友達がいる。


 それが、一番の幸せなんだ。


「…なあ、みんな」


 俺は、ゆっくりと言った。


「これからも、よろしくな」


 みんなが笑った。


 翔太も笑った。


 健も、優子も、大輔も、黒木も、悠斗も、リサも。


 みんなが笑っていた。


 この瞬間を、俺は一生忘れないと思う。



 数ヶ月後。


 塾で、噂を聞いた。


 美咲さんが、塾を辞めたらしい。


 複数の男子生徒と同時に連絡を取っていたことがバレて、保護者からクレームが入ったとか。


 自分で蒔いた種だ。


「自業自得だよね」


 優子が小さく呟いた。


 俺と翔太は顔を見合わせた。


「…ちょっとは、可哀想かな」


「…まあ、ちょっとはな」


 二人で苦笑した。


 恨んではいない。


 でも、同情もそんなにない。


 ただ、「ああ、そうなるよね」って思うだけだ。


 人を道具みたいに扱っていたら、最後は一人になる。


 当たり前のことだ。


 ――でも、俺は違う。


 俺には、友達がいる。


 それが、何よりも大切なんだ。



 ある日、駅前で美咲さんを見かけた。


 新しい男子高校生と腕を組んで歩いている。


 また別の男だ。


 俺と翔太は顔を見合わせた。


「見たか?」


「ああ」


「俺たち、よく引っかからなかったよな」


「いや、思いっきり引っかかったけどな」


 二人で笑った。


「女より友情だな」


 翔太が言った。


「Bros before hoes、ってやつだな」


 俺も言った。


「次に好きな女ができたら、お互い報告しような」


「ああ。で、相手のこともちゃんと見極めような」


「当たり前だ」


 俺たちは歩き出した。


 心の傷は、まだ完全には癒えていない。


 美咲さんへの憧れも、裏切られた悲しみも、簡単には消えない。


 でも。


 親友がいる。


 それだけで、前を向ける。


 中学三年生の俺たちは、少しだけ大人になった。


 恋愛の裏側を知って、友情の大切さを知って。


 そして、俺たちは笑いながら、新しい日常へと歩いていった。

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