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風灯亭の朝

 朝の陽射しが、風灯亭かざあかりていの窓辺に差し込み、キラキラと輝いていました。

 今日もいい天気だ――。

 この宿のおかみ、トゥーリは光を浴びながら、気持ちよさそうに伸びをしました。

 少し熱を帯びた陽射しでした。今日は暑くなるかもしれません。


「ありがとうございました」

 昨日宿泊したカルガモの親子が、チェックアウトをしにカウンターへやってきました。

「ぴぃ」「ピピッ」

 あっという間にロビーがにぎやかになりました。

 ひい、ふう、みい……6羽の子どもたちは、生まれたばかりのようでした。たどたどしく歩いたり、しりもちをついたりしながら、兄弟たちと仲良くじゃれあっていました。

 その様子を目にしたトゥーリは、楽しい気分になり、目を細めながら微笑みました。

「やぁ、おはよう。ゆっくり休めたかい? おちびちゃんたちも、おはよう」

「はい。疲れていたのか、この子たちもグッスリで、よく休めました」

「そりゃよかった。どこまで行くんだい?」

「南の草原を抜けた先にある湖まで行こうかと思います。そこなら、この子たちも安心して過ごせると思いますから」

「そりゃいい。気をつけて行くんだよ。またおいで」

「はい。さぁ、みんな行きますよ」

 カルガモのお母さんは、もう一度お礼を言ってから、ドアを開けました。

 カランカラン――ドアベルが優しく鳴りました。


 カルガモの赤ちゃんたちは、お母さんの後を懸命に追っていきます。体を左右に揺らしながら進む後ろ姿は、なんとも可愛らしいものでした。

 トゥーリは、クスクスと小さく笑いながら、親子を見送ろうと思い、店先に出ました。

 すると、一番最後を歩いていた赤ちゃんがチラリとこちらを振り向いて、小さな羽を大きく振っていました。

 トゥーリは手を振りながら、前に追いつこうと懸命に歩くその小さな背中を、見えなくなるまで見送っていました。

「おかみさん、すみませーん」

 自分を呼ぶ声に気づき、トゥーリは慌てて宿に戻りました。

 青草の匂いが混じった、爽やかな夏の風がすぅっと吹きました。


 気がついたら、暖かな場所で、僕そっくりな子たちと一緒にぴぃぴぃと一生懸命鳴いてた。ママはどこ? お腹がすいたよ!

 しばらくすると、ママがやってきて、僕たちにご飯をくれるんだ。お腹がいっぱいになると、僕たちはちょこっとだけ遊んだ。たくさん遊んでいたかったけど、すぐに眠くなって寝ちゃうんだ。みんなで寝ると暖かくて、とても気持ちいい。僕はこの場所が大好きだった。


 でも、突然ママが張り切った声で「さぁ、みんな行きますよ」と言って、歩き出しちゃった。みんな慌ててママの後についていく。僕も行かなきゃ……。

 でも僕、ここが大好きだから離れたくないのに。どうしても行かないとダメ? あれ? 大好きな場所なのに、みんながいないと寂しいな。それに、なんだか寒い。

 待って! みんな置いていかないで! 僕も行くから、待ってよ!


 それから、みんなに追いつくため一生懸命歩いた。たくさん歩くのは初めてで、難しくて。どうしても体が右や左にフリフリしちゃう。たくさん転んだ。

 少し前を歩く僕のそっくりさん達も、僕と同じように体を揺らしている。あっちへフラフラ、こっちへフラフラ、コテンと転ぶ。ふふっ、本当に僕にそっくりだ。

 少し歩くのに慣れてきたら、周りの景色に気づいた。僕より背の高い草が、道の両脇にたくさんあって、向こうには何があるのか何も見えない。何があるんだろう? すごく気になる。確かめに行きたいけど、ママたちはどんどん先に行ってしまう。

 今はママと一緒にいたい。せめて草の向こうが見える場所はないか、首も右や左にフリフリしながら歩いた。そしたら、また転んだ。


 しばらく歩くと、草よりも大きくて、木よりも小さいカラフルなものがたくさん見えてきた。とんがり頭のてっぺんには、鳥さんがクルクル楽しそうに回っている。

 大きかったり、小さかったり、耳が長かったり、僕たちとおなじお口じゃなかったり。みんな楽しそうにしていて、とても賑やかな場所だ。

「ここは『まち』って言うんだって」

「あの大きいのは『おうち』なんだって。あんなに大きくて、寒くないのかな?」

「大家族かもよ?」

 ママは『まち』に入ってから、後ろを振り返り、僕たちの数を数える回数が増えた。

 僕は、そっくりさん達の話を聞きながら、しっかりと後をついていった。ここではぐれてしまったら大変だ。僕にだって、そのくらい分かるんだ。

 まだ明るいけれど、遠くのお空には、お星さまがキラキラしはじめた。ちょっと疲れたな。すごく遠くまで来た気がする。僕、こんなに歩けるんだ。

「もうちょっとよ」

 ママの声に、もうちょっとだけ頑張ることにした。


 ママは、たくさんある『いえ』の1つに入っていった。橙色の光がふわりと灯っていて、夕焼けがもう1つそこにあるかと思った。『いえ』は、その光でキラキラしていて、とてもきれいだ。中に入ろうとすると、カランカランと楽しい音がした。いらっしゃい。どうぞ。って言っているみたいだ。

 ママは誰かと楽しそうに話している。ずんぐりしていて、とっても大きいけれど、おめめはとっても小さい。あっ、こっち見た。ニコニコしていて優しそうだけど、なんか……ちょっとだけ怖いかも。


 今日はここで眠るんだって、知らない場所で眠るのは怖いな。そうだ、さっきの『おかみ?さん』に眠っているところを食べられちゃったらどうしよう……?

 中へ進むと、たくさんドアが並んでいた。ママがその中の1つを開けると、そこはとても居心地のよさそうな広さでフワフワな巣があった。気持ちよく眠れそうだ。

 そう思ったら眠たくなってきた。と同時に忘れないでというかのようにお腹の虫も騒ぎ始めた。そっくりさん達も、眠かったり、お腹がすいたりでぴぃぴぃ鳴いていた。それを聞いたら僕もイヤイヤな気持ちになって一緒に鳴いた。


 ママはそれから大忙しだった。僕たちを優しく抱きしめ、ご飯を用意して食べさせてくれた。それから丁寧に毛づくろいをしてから、あのフワフワな巣に乗せてくれた。

 本当にフワフワだった。お空に浮かんでいる雲みたいで暖かかった。

 もうそこからは覚えてない。みんなですぐに眠ってしまったみたい。

 とても気持ちよくてグッスリ眠れた。それに食べられなかったみたい。みんな無事だ。あぁよかった。

 それから朝ごはんもたくさん食べた。とってもおいしいご飯だったし、『お?かみさん』は僕たちが食べるのを優しく助けてくれた。


「さぁ、みんな行きますよ」

 今日はどこに行くんだろう。今日もたくさん歩くのかな。

 お外に出る時も、来た時と同じカランカラン――という音がした。今度はいってらっしゃいって言ってるみたいだ。不思議だな。

 歩きながら、今度いつ『おっかみさん』に会えるんだろう。またフワフワの巣で眠りたいなって思ったら、昨日怖いとか、食べられちゃうかも?なんて思ってごめんなさいって気持ちでいっぱいになった。

 振り向いたら、もう戻れないくらい離れていたけど、『おかみさん』が見えた。ごめんなさいは聞こえないと思ったから、思いっきり大きく羽を振ったんだ。そしたら、おかみさんも手を振ってくれた。胸のあたりがほわっと暖かくなって、すごくうれしかったんだ。


 昨日は夕焼けの時間でちょっと暗くて賑やかだったけど、今朝はお空が元気で、全部がキラキラしていてとっても綺麗。でもちょっと静かだ。同じ場所なのに、なんだか違うところみたい。

 何を見ても楽しくて、僕はまたきょろきょろとしながら町を進んだ。ちゃんとはぐれないように気を付けながら。


 すると、お空に綺麗な光がふわり、ふわりと飛んで行った。なんだろう。

 あ、また飛んできた。次々に飛んでくるのに誰も気づいてないみたい。こんなに綺麗なのに。どこからだろう。

 あたりを探すと、すぐに見つかった。あの家から飛んできているみたいだ。

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