みさきの噂
誰もが一度は耳にしたことのある「学校の七不思議」。
それを確かめようとした少女たちに訪れた、
“信じることの代償”を描いたホラー作品です。
何気ない好奇心が、取り返しのつかない夜へと変わっていく――。
私たちは、学校に伝わる噂を確かめるために――
夜の学校へと足を踏み入れた。
「ねぇ……やっぱりやめない?」
怖くなった私は、震える声でそう呟いた。
「何言ってるのよ。前々から計画してたのに今さら帰れないでしょ」
そう言って、みさきは笑った。
あみも「そうだよ!楽しみにしてたのに」と明るく言って、
ふたりは迷うことなく校舎の中へと入っていった。
夜の学校は、昼間とはまるで別の顔をしていた。
ドアの隙間から吹き抜ける風が、ヒュー……と鳴る。
その音さえ、私には何かの“声”のように聞こえた。
「最初はどこに行くの?」
私が尋ねると、みさきは口角を上げて答えた。
「最初はやっぱり――二階の踊り場の鏡でしょ」
その鏡には“未来を映す”不思議な力があると言われていた。
夜の七時を過ぎてから覗くと、自分の未来の姿が見えるという。
私たちは階段を上がり、その鏡の前に立った。
あみが言った。「ねぇ、これじゃない?不思議な鏡」
「みんなで覗こうよ」
三人で鏡を覗き込んだ。
けれど――何も映らなかった。
どれだけ見つめても、そこにあるのは私たちの顔だけ。
その後、他の噂も確かめてみたけれど、どれも何も起きなかった。
気味の悪さだけを残して、私たちは学校を後にした。
「みさき、大丈夫?」
校門を出ると、みさきはどこか元気がなかった。
「うん……ちょっと疲れちゃって」
そう言って微笑むと、「また明日、学校で話そ」と言って帰っていった。
しかし――翌日、みさきは学校に来なかった。
心配になった私とあみは、放課後、みさきの家へ向かった。
インターホンを押すと、しばらくしてドアが開き、
青ざめた顔のみさきが現れた。
「どうしたの?学校休むなんて珍しいじゃん」
そう声をかけると、みさきは怯えた目で私たちを見つめ、
かすれた声で言った。
「……昨日ね、鏡を見た時、
私だけ――服がボロボロで、まるで焼け焦げてたの」
みさきの手は震えていた。
その指先から、焦げたような匂いがした気がした。
「噂なんだから、信じちゃだめだよ」
そう言って私たちは家を後にした。
けれど次の日も、みさきは学校に現れなかった。
先生に理由を尋ねても、「知らない」と言うばかり。
不安を押えきれず、放課後、再びあみとみさきの家へ行った。
──そこに、家はなかった。
跡形もなく焼け落ち、黒い灰だけが風に舞っていた。
あとから聞いた噂によると、
その家に住む少女が自分で火をつけたのだという。
私はもう、学校の噂を確かめることはやめた。
……そう、みさきの噂も――。
この物語は、単なる怪談ではありません。
誰かの噂を軽い気持ちで確かめた先にある「後悔」と「恐怖」。
見てはいけないものを見たとき、
人はその記憶を消せるのでしょうか。
あなたももし、夜の学校に鏡を見つけたら――
決して、覗かないでください。




