【1章】気まぐれな先輩と、春に迷う僕③
他愛のない会話、いつも独りの自分に違和感を感じながらも時間は過ぎていく
その違和感はどことなく心地の良いものだった
「そういえばお金の理由聞かないんだね」
澪は唐突に話題を振ってくる
「先程も言った通り戻ってこないものだと思っていたので…後お金の事を聞くのは野暮だと思いましたし…」
続けて僕は
「それに食堂のカレーくらいで恩着せがましい事いいませんよ」
「ふーん」
そう反応した澪はどこか違う方向を向いた後
「やっぱり見た目と違って男らしいよね」
聞こえないくらいに小さい声でボソッとそう呟いた
「え?なにか言いました?」
「なんにも!でも借りたものは返さないといけないからとりあえず連絡先だけでも教えてくれない?」
おもむろにポケットからスマホを出した澪はどこか焦ったように見えた
「わかりました、でも期待してないので気が向いたときでいいですよ」
そう言い僕はスマホを取り出し、連絡先を交換した
「可愛くない後輩くんだな!もっと可愛げないと女の子にモテないよ」
「図星だし、何も思ってないけど、結構ストレートに言いますよね、先輩って何も思ってませんけどー」
少しイラつきがあったが何故だかそこまでイライラせずむしろ気持ちがいいようにハッキリと言ってくれる先輩に僕はなぜだか憧れを抱いていたようだ。
それは今までになく対等に見てくれる友人とでもいうのだろうか?そんな気持ちだった
「冗談だよ、そんな命の恩人にそんなこと言わないよ」
その表情はニヤッと笑い、冗談という言葉が冗談だと言ってるようだった。
「また連絡するね!絶対に!」
そう大声の後、颯爽と姿を消した
その姿はまるで餌をもらって去ってゆく野良猫のようにも見えた気がした