【1章】夢の終わりと春のはじまり①
また、あの夢だった。
額にじっとりと汗をにじませながら、ゆっくりと身体を起こす。
ゆったりとした動きとは裏腹に、心臓だけが早鐘のように鳴っていた。
深く息を吸い込もうとしても、肺の奥にまで届かない。
ふらつく足取りで台所へ向かい、慣れた手つきで薬を手に取る。
壁に掛かった時計の針は、まだ朝の四時を指したままだった。
その瞬間、胸の奥がざわつく。
「……今日だったか」
つぶやいた言葉は、誰にも届かず、湿った空気の中に溶けていった。
澪の命日――。
この部屋も、一人で暮らすには広すぎるよな……
自嘲気味に、そんな独り言が漏れた。
夢の中の彼女の姿が、まだ脳裏に焼きついて離れない。
「……先輩」
気づけば、懐かしい呼び方が自然と口をついていた。
忘れられるわけがない。
あれほど、大切だった人を。
――四年前。
僕が彼女と出会ったのは、大学一年の春。
特別でもなんでもない、昼下がりの学食だった。
「やっば……財布ないじゃん」
その声は、ざわめく食堂の中でも妙に耳に残った。
苦笑まじりに小さくため息をつく。
周囲の目も気にせず、気ままに独り言をつぶやく姿は、どこか猫のようだった。
「最悪……朝から何も食べてないのに。せめてカレー食べられたら、一日はもつのに……」
誰に向けたわけでもない、気だるげで素直な声。
僕はその様子をちらりと横目で見ながら、
今日の昼は何を食べようかと、ぼんやり考えていた。
そしてその日、僕は先輩――澪と出会った。