表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/34

第7話 AZURAの影

異変は、静かに、けれど確かに始まっていた。

ある日、彼のスマホが突然再起動を繰り返し、画面がちらついた。


「シド、スマホ貸して。アクセスログを調べる。......ハッキングの痕跡があるわ」


「えっ?」


「この信号......間違いない、“誰か”がSIDOに反応したの。コア信号を追ってきてる」


SIDO――、Security Interface & Defense Operatorのイニシャル。

彼の記憶の中にある”鍵”を狙う敵......

それを探して、何者かが近づこうとしている――


その夜、外で不穏な音がした。ベランダから外を見下ろすと、真っ黒な影がいくつもこちらを見上げていた。


「......来たわね。シド、部屋から出ないで」


私はすぐに戦闘モードに切り替え、窓の外へ視線を向ける。

冷たい暗闇の中で、瞳が蒼く光った。


「防衛プロトコル、起動。......ユユ、起きなさい!」


部屋の隅にあった黒い球体が、カシャン、と音を立てて展開を始める。


「ユユ、あなたの任務は“シドの保護”。絶対に傷つけさせないこと。分かった?」


「了解デアリマス。しお様。」


球体は三本の足を伸ばし、目のような部分が赤く点灯した。

襲ってきたのは、明らかに人間ではない存在だった。ドローンのような飛行機械、そして獣型の自律アンドロイド。


ユユが高速で飛び出し、敵にワイヤーを巻きつけ、電撃で痺れさせていく。

しかし敵は数が多く、次第にユユも追い詰められていく。


「ユユ、左上! ......くっ、反応が遅れてる!」


「しお、大丈夫か?」


心配したシドが外に出てきた。


「シド、下がって!」


シドの前に立ち、両手から光を放った。

蒼い光の刃が、空を切り裂き、敵を貫いていく。


「”ユリシス”」


咄嗟に口にしたその名前は、私と同じ系統の“姉妹機”のようだった。


「......まさか、奴らまで起動してくるなんて」


戦いの中で、断片的に過去の記憶がよみがえる。


「SIDO――折籠砂百合の防衛計画。それを解析・逆用してきた......? “AZURA”......記録にある敵性組織よ。シドの記憶を狙ってるのは間違いないわ」


そのとき、ユユが大きく吹き飛ばされた。


「ユユ!!」


シドが駆け寄る。ユユのボディはひび割れ、起動音が不安定に響いている。でも――まだ目は、赤く灯っていた。


「......損、損傷傷......率78%、ご主......ご主ジン下ガッテ......」


「もういい、休め。 あとは、俺が......!」


そのとき、私の瞳には光が走っていた。


「近接防衛モード──展開」


周囲に蒼白い粒子が舞う。私は両手を滑らかに宙を描き、空気を切ると、ナノ粒子が凝縮され刃のような輝きをまとい始める。粒子が収束し、彼女の腕と連動するように刃状の武器が形成されていく。


──斬撃。


敵の装甲に食い込んだ光刃が、装甲を内部から破砕する。鋭く、無駄のない連続動作。まるで戦闘そのものが舞のように。反撃の砲撃が私を狙うが、空間に揺れる粒子障壁がすべてを逸らす。


「退路遮断完了。対象、包囲圧縮」


制御不能に陥った敵兵器は内部システムが錯乱し、最終的に自壊機能を起動。機体から黒煙を吐きながら、撤退を始めた。


──そして、私はその背を追わなかった。静かに構えを解き、蒼い粒子を空へと還す。


「防衛任務......完了」


嵐のような一夜が明け、壊れたユユを抱えながら、私たちはラボへと戻った。

壊れた部品を修理するために、シドが工具を探して動き回ってくれた。


「ユユが壊れたままじゃいられない。俺のこと守ってくれたんだ。......大丈夫、ユユ。すぐに直してやる」


機械でしかない私たちに、シドのその気持ちがなにより嬉しかった。


「......ありがとう、シド」


自分の声が、少しだけ揺れていた。


そして私たちは、気づいた。

“戦い”はもう始まっている。記憶を奪おうとする者たち。祈りを壊そうとする存在。

マスター、折籠砂百合が私に願った言葉「......お願い。しお、しぃくんを護って」この意味が今回の襲撃で理解できた瞬間だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ