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第11話 小さな目覚め

朝の光が、静かに部屋へと差し込んでいた。

カーテン越しに吹き抜ける風が、初夏の匂いをふわりと運んでくる。


「……ん、ん〜……しどぉ……まぶしぃ〜……」


あまゆりは布団の中でごろごろと転がりながら、手を目にかざして、ふにゃっとした声を漏らした。


「起床確認。あまゆり様、朝でアリマス」


ベッドのそばでは、ユユが静かに待機していた。球体のボディがゆるやかに揺れ、いつものように朝の支度を済ませている。


ここは福島にある祖父母の家――かつて折籠家の旧宅として使われていた場所。いま、あまゆりとユユはそこを仮の住まいとして過ごしている。

畳の匂い。軋む床の音。遠くから聞こえる潮騒。それらは、あまゆりにとってどこか懐かしく、心地よい響きを持っていた。


眠そうな目をこすりながら、あまゆりは椅子にちょこんと座る。

テーブルの上には、彼女専用の“ゆりナミンD”が用意されていた。淡い緑色の液体が、光を受けてゆらゆらと揺れている。


「はぅぅ……やっぱり、これ飲まなきゃ動けないの〜?」

「はい。稼働率安定のため、毎朝1回の補給は必須でアリマス」

「……お砂糖、入れちゃダメ?」

「ダメでアリマス」


しょんぼりした顔で、あまゆりは両手でボトルを持ち、覚悟を決めるように、ぐいっと一口を飲み干す。


「うぅぅ、やっぱりちょっぴり苦い……」


飲み終えたその瞬間、瞳がわずかに明るくなり、体内から“ピピッ”という小さな起動音が鳴る。


「……ん。これで、今日もがんばれる、かなっ」


少しずつ、“日常”が戻りつつある朝。 けれど、世界の裏側では、なお多くの“異常”が続いていた。

モニターには、昨日届いたばかりのメールのログが表示されている。


【From: Sayuri】

【Message: “……見てるわよ。”】


「ねえ、ユユ……さゆりって、しどぉのお姉ちゃんだよね?……どこにいるのかな……」

少女の問いに、ユユはわずかに間を置いてから、静かに答えた。


「不明でアリマス。しかし……あのメールは、本物の可能性が高いと判断されマス」

その言葉に、あまゆりは小さくうなずいた。


「じゃあ、いこっか。今日は町の方をちょっと見てみようかなって」

 

ぱたん、と空になったボトルをテーブルに置いて、少女とロボは、朝の空気の中へと歩み出す。世界は穏やかに見えても、その奥では、確かに何かが静かに動き出していた。


誰にも気づかれぬまま広がる“祈りの残響”が、ゆっくりと、世界を包みはじめていた。

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