高校時代の仲間5人が集まる毎年恒例の「闇鍋会」。今年のルールは「未知の食材を求めて」。鍋の中は大混乱!
闇鍋の夜 ~未知の食材に挑む~
毎年恒例の「闇鍋会」。昨年の甘じょっぱカオス鍋を反省し、今年のルールは「甘いもの禁止」となった。しかし、そう簡単に普通の鍋にはならない。むしろ、甘さの制限がさらなる未知の領域へと彼らを誘っていた——。
土鍋の中で、ぐつぐつと何かが煮えたぎっている。立ち上る湯気からは、意外にもまともな出汁の香りが漂っていた。
「今年はちゃんとした鍋になるんじゃないか?」
誰かが呟く。いや、そんなはずはない。今年の幹事は鈴木。彼は「甘くなければ何を入れてもいい」というルールの抜け穴を、最大限に利用するつもりだった。
「さて、今年もやるか!」
「じゃあ、俺からいくわ」
鈴木が箸を持ち、鍋の中を探る。そして、何かを掴み上げた。
「……白い……塊?」
全員が身を乗り出す。見ると、白くてぷるぷるした何かが湯気をまとって揺れている。
「これ、なんだ?」
「それは……羊の脳みそ!」
「は!?」
「うわぁーーー!」
「いやいやいやいや! なんでそんなもん鍋に入れるんだよ!」
「だって、フレンチとか中華じゃ普通に食うらしいし……」
「……マジかよ」
意を決して口に入れる。口の中でとろーりと溶ける独特の食感。しかし、その後に広がるクセのある風味——。
「……あぁ、俺は、これダメだ」
「なんか、豆腐みたいだけど、脳みそだと思うと無理」
全員が深く頷き笑った。
「次、私がいくわ」
石田が鍋の中をかき混ぜ、何かを掴んだ。
「……ん? これ、ウニョウニョしてない?」
「なにそれ……」
「……ヌタウナギ」
ヌタウナギ——。それは、異常なまでに粘液を分泌する深海の生物。見た目のインパクトが強烈で、一部の地域では食べる文化があるが、日本では一般的に食卓に上ることはない。
「いやいやいや、一瞬、ヘビかと思ったわ!」
「そっちにすれば良かったか?来年考えとく」
「うわー言わなきゃ良かった」
覚悟を決めた石田が口に運ぶ。
「……コリィ……」
噛んだ瞬間、口の中で広がる独特の歯ごたえ。しかし、意外にも味は悪くない。むしろ、出汁が染み込んで旨味がある。
「……うん、見た目さえ気にしなければいける」
「それが一番の問題なんだよ!!!」
全員で笑う!
「次は私ね」
藤崎が意を決して、鍋の中に箸を突っ込む。慎重に探り、何かを掴んだ。そして、それを持ち上げた瞬間——
「……は?」
全員の視線が、それに集中する。鍋から現れたのは、黒光りする奇妙な物体。よく見ると、長い足が何本もついている。
「いやいやいやっ! キモッ!」
「タランチュラの素揚げだ!」
「鈴木ぃぃぃぃ!!!」
「いや、昆虫食が流行ってるじゃん? 栄養価も高いし、タンパク質たっぷりだぞ?」
「しかも、ちゃんと食用のやつだから安全だって!」
「お前、そういう問題じゃねぇ!!」
それでもルールはルール。取った人が、口にしなければならない。しばしの沈黙の後、覚悟を決めた藤崎。
「……じゃぁいくよ」
彼女は深く息を吸い込み、意を決してタランチュラを口に運ぶ。殻は柔らかくなっているはずだが、足の部分はまだ少し歯ごたえがある。噛むと、独特の香ばしさが広がり……
「……あれ?」
「どうした?」
「意外と……美味しい」
まさかの好リアクションに、全員がざわつく。
「マジかよ」
「香ばしくて、エビの殻を食べてるみたいな感じだよ」
「いや、それを聞いても食いたくねえよ……」
全員が笑う!
今年は当たりか!全員が思いはじめた時、地獄が訪れる
「さて、次は俺だ」
高橋が箸を入れ、何かを引き上げた。
「……おい、ふざけんなよ」
「どうした?」
「これ、何だかわかるか?」
そう言って彼が掲げたのは、ヌルヌルとした長い物体。
「……ウツボ?」
「正解!」
「いや、せめて下処理しろよ!誰が入れたんだよ!」
「私、だって高級食材だよ? 絶対美味しいって!」
確かに、ウツボは食用として珍重されることもある。しかし、通常は下処理をきちんとしてから調理するものだ。一匹丸々、こんな雑な扱いで鍋に放り込んでいい代物ではない。
「……これ、大丈夫なのか?」
「まぁ、一応加熱はされてるから……」
高橋はウツボを口に運ぶ。すると——
「……っっ!!!」
「どうした!?」
「ウツボ感がすごすぎて……口の中が全部ウツボになった……!」
「どういうことだよ!」
「いや、なんか、すげぇクセぇ!!」
もがきながらなんとか飲み込む高橋。だが、残りの量に絶望していた。
「これ、誰か一口食ってみ?」
「お断りだ!」
笑いとともに着々と闇鍋は消費されていく。
「じゃあ、最後は俺な」
篠崎が鍋に箸を入れ、何かを引き上げる。
「……ん?」
そこには、グロテスクな何かがあった。
「え、これ……カエル?」
「正解!しかも、そこの田んぼでとった天然物!!」
「やめろおおおおお!!!!!」
全員が爆笑する!
今年の闇鍋も、混沌のまま何とか完食し幕を閉じた。
来年こそは、まともな鍋を——。
そう誓いながら、誰もその約束を守る気はなかった。