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4.悪竜の血

「おはようございます」


オペレータールームに入るとアオイとユウジさんがそこにいた。


「ナオキ、おはよう」


「今日は何事もないといいですね」


「給料泥棒ができるからね~」


アオイさんの言い方はは最悪だが、僕たちの出動がないということはそれだけ平和だということ。そう言い換えられる。


(あね)さん、今日はギアの定期点検の日じゃありませんでしたっけ?」


「あ~そういえばそうだったね~」


アオイさんが適当に返事をする。リープロギアは月1で定期点検を行っている。変身の際に誤作動を起こされては困る。


「うし!じゃあ技術課に行こうぜぃ~」


アオイさんは立ち上がりオペレータールームの扉へと向かう。僕たちもアオイさんに倣って後ろから付いていく。






「サボりに来ましたーッ!」


「いや!アオイさんだけです」


僕はすかさず訂正する。勝手に共犯者にしないでほしい。


「やあ、いらっしゃい。待ってたよ」


パソコンと向き合って作業していた男性が身体をこちらに向け立ち上がる。髪を七三に分け黒縁のスクエアメガネを掛けている。いかにも真面目そうなこの男性は八千代スバルさん。現在失踪している平野ゲンジュウロウさんの代わりに怪異対策機動本部技術課の技術主任を務めている。


「今日はムラクモの定期点検だったね」


「お願いしやす」


そう言ってアオイさんはムラクモのペンダントをスバルさんに渡す。


「4時ぐらいに終わると思うから時間になったら受け取りに来てね」


「了解デ~ス。そういえばアカネちゃんいる?」


「氷室くんならあそこにいるよ」


スバルさんが指差した先には対怪異防御兵装(プロテクター)が積まれておりその隣で赤の派手髪で丸メガネをした女性が忙しなく作業している。


「おい!加藤ユウジ!お前も手伝え!」


そうユウジさんに呼び掛けたのは氷室アカネ。15歳にして難関大学を首席で合格、そのまま2回も飛び級しまたしても首席で卒業した異例の天才児である。


「いや、俺それのメンテナンスの仕方とかわかんねぇし」


「使えねえなあクソロン毛」


「殺すぞクソガキッ!」


互いが互いを罵り合う。相変わらず犬猿の仲と言いますか。


「仲が良くていいね~」


え?どこが?アルコールで脳がやられました?そんなことを思っているとアオイさんはアカネちゃんに近づいて抱き着く。


「んへへ~アカネちゃん成分吸収させて~❤」


あらあらいいですわね。女の子同士が仲睦まじいのはいいことですわね!


「ちょっと今忙しいんで辞めてもらえます?」


アカネちゃんはそう言い片手でアオイさんを押しのける。


「あぁん❤冷たぁい❤」


「てかなんで主任手伝ってくんないんスか?」


アカネちゃんはぼやきつつ作業を再開する。


「だってそれ規格は統一されてないし原理とか意味不明だし構造もさっぱりだし」


「まったく、これだから凡人は...」


「はいはい、今度から凡人にもメンテナンスできるように作ってくださいね」


スバルさんは怒るでもなく淡々と言葉を返す。数年も一緒に仕事していたらおのずと対処法もわかるのだろう。瞬間、突如としてけたたましいサイレンが室内に流れる。


「基地正門にて不審な人物が侵入しました。装者の皆様は速やかに対応をお願いします」


「え?装者なんですか?自衛隊員ではなく?」


「行ってみないことにはわかんねぇ!行くぞッ!ナオキッ!」


「了解ッ!アオイさんはどうします?」


僕はアオイさんに投げかける。


「私も行くよ、スバルさんメンテは後でッ!」


「了解した。ご武運を」


2人に見送られながら僕たち3人は基地正門へと向かって走り出した。



基地正門に急行すれば、一課と自衛隊員の方たちが小学生の体操服を着た成人男性に向けて発砲している。


「キッッッッッッッッッショッ!」


アオイさんがそう叫ぶのも無理はない。成人男性が小学生の体操服をパツパツに張らせている姿を見ると面白さよりも嫌悪感が勝ってしまう。なんなんだそのすね毛は。ちゃんとムダ毛は剃りなさい。


「状況はどうなってます?」


僕たち3人はそれぞれ宝条さん、天海さん、京極さんの隠れている遮蔽物の元へ行く。


「見ての通りの襲撃だ。あのおっさんが周囲の悪霊をばらまいた」


さっきは気付かなかったが確かに数体ほど悪霊を侍らせている。仕方なかったんだよ、おっさんが体操服着てたらさすがにそっちに目が行ってしまう。


「それだけじゃない、あのおっさんに向けて発砲しているが全く通用していない」


「霊体タイプですか?」


受肉や憑依タイプであれば物理攻撃が通用するんだが。


「いや、肌が固すぎてダメージが通らないんだ。君たちのリープロギアならあるいは...」


「了解です、異常中年男性は僕たちで相手しますッ!」


装者3人は同時に遮蔽物から抜け出し体操服の中年の元へ駆けよる。


「おっさん生きるの辛いよなぁッ!ストレスでそんな奇行に走ってるもんなぁッ!」


「私らが楽にしてやるよォッ!」


ユウジさんとアオイさんが叫びながら(はし)る。二人はそれぞれ拳と鉤爪を中年男性の身体に叩き込む。しかし岩をも砕く拳も丸太を切り裂く鉤爪の斬撃もまるで通じなかった。傷一つさえつかなかった。


「なっ!?」


「はっ!?」


「効かないんだよおおおおおおおッ!!!!!!!!!!」


突如として叫び出す体操服の男。同時に、その男の口から衝撃波が発生し二人は吹き飛ばされる。二人は上手く受け身を取り体操服の男を視界に捉える。


「大丈夫ですかッ!?」


「ああ、咄嗟に防いだから問題ない」


「ったく、一瞬鼓膜が破れたかと思ったよ」


悪竜の咆哮(イビルバウンド)


体操服の男は呟く。


「イビルバウンド?」


僕がそう聞き返すとその男は語り始める。


「ニーベルンゲンの歌に登場するジークフリート、彼は悪竜「ファフニール」を屠った際、その血を浴びて強靭な皮膚を手に入れたんだょ」


「ッ!?まさかッ!?」


ユウジさんが声を出す。僕とアオイさんも瞬時に理解する。


「そうだょ。小生はファフニールの血を飲んで最強の肉体を手に入れたんだょ、あと小生28歳だからおっさんじゃないょッ!」


いや28はもうおっさんの域なんだよ。そんなことよりファフニールの血が現実世界に存在していたことに驚いた。いや、霊や妖怪などの怪異が存在するんだ。神話の生物がいたっておかしくはない。もしくは、虚構共通認識の現実化フロイト・リアライゼーションによって架空の存在が現実へと昇華された線もあるか。どちらにせよ今は目の前のおっさんを相手しないと。


「じゃあさっきのバカうるせえ声も悪竜の血のおかげってか?」


「そうだょ。悪竜の咆哮(イビルバウンド)って言ってほしいょ」


体操服といい猫なで声といいほんとに小学生になりきってるつもりなんだろうけど、ムダ毛処理だったり減量して筋肉落としたりとかの細かい所にも目を向けるべきなんだよね。筋肉ムキムキの小学生とかいても嫌なだけなんだよな。まあ身長は150cm代っぽいしそれぐらいの小学生ならいるだろう。


「どうせぶっ駆除(ころ)すんだから何でもいいだろッ!」


アオイさんがそう叫び体操服の男へと駆ける。僕とユウジさんも後を追うように走る。アオイさんの鉤爪、ユウジさんの拳に続き、男の頸動脈を目掛けて短剣を振り抜く。しかし短剣は粉々になり、逆に男の首は無傷であった。


「本当に効かないのか!?」


拳と鉤爪そして短剣の連携攻撃を仕掛けるも全くもって通用しない。


「だから効かないって言ってんだよおおおおおおおおおおッ!!!!!!!!」


僕の身体は悪竜の咆哮(イビルバウンド)によって吹き飛ばされ強制的に距離を取らされる。


(あね)さんッ!目と口ならイケるんじゃないですかッ!」


「その案いいねぇッ!そしてナオくんは別アプローチッ!熱で攻撃してッ!」


熱で攻撃...火炎放射器などの類は僕のジョワユーズには搭載されていない。いや、摩擦熱なら作れるか。


「ユウくんは取り付いてあのおっさんの口を開けさせてッ!」


(おう)ッ!」


ユウジさんが先行し男の頬を掴む。しかし体操服男は口を開けようとしない。アオイさんが鉤爪を目に突き刺そうとするも片眼を閉じそれを防ぐ。


「ウインクしやがってよぉッ!アイドル気取りかよぉッ!おっさんがよぉッ!」


「おっさん呼ばわりするんじゃないよおおおおおおおッ!!!!!!」


またしても悪竜の咆哮(イビルバウンド)によって吹き飛ばされる二人。駄目だ、これじゃ攻撃に専念できない。僕は体操服男を中心に弧を描きながら密かに背後にまわる


「小生は鞍馬ヒデオ、ヒデって呼んでほしいょ」


「ヒデ死ねッ!」


僕は背後から首を目掛けて斬りかかる。さきほどアオイさんに言われていた熱による攻撃、僕は摩擦熱で実行することにした。短剣の形状を少し変え、刃先に細かい無数の刃を作りをチェーンソーのように動かす。熱で斬るのは本来の用途とは違うが今はやむなし。チェーンソーは首に直撃する。僕はそのまま体操服男の首に押し当てる。チェーンソーは火花をまき散らすがヒデオの肉体は無傷のままだ。


「チェーンソーの方が負けているッ!?」


「アッツイッ!アッツイねんもうッ!!!!!!!!!」


悪竜の咆哮(イビルバウンド)の衝撃波によって吹き飛ばされる前に僕は回避行動を取る。なんで関西弁?


「ダメだッ!焼き切る前に剥がされるッ!」


どうしたらいい?どうやったらヤツを殺しきれる?考えろ黒田ナオキ。父さんを越えるために、どうやって殺せばいい?


───考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ。


「小生は無敵なんだょ。誰にも倒すことはできないょ」


「ガハハッ!この俺を差し置いて最強とは大きく出たもんだなッ!」


「その声はッ!」


空から白い何かが飛来し地面へと着弾する。爆音を轟く、コンクリートはひび割れ、巨大なクレーターとなった。クレーターの中心には道着を着た西園寺司令が立っていた。


「呪術、妖術の類なし。霊体タイプでもなし。であれば、俺の役目だろ?」


そうだ、西園寺司令の実力ならあのおっさんを倒せる!


「誰が来ても無駄だょ。誰も小生の身体を傷付けることはできないょ」


「それはやってみないと、わかんねぇだろッ!」


司令の姿が消えヒデオの目の前に現れる。司令は正拳突きをヒデオの肉体に叩き込む。歪な金属の音がした。しかしヒデオの肉体は傷一つついていない。


「こいつは驚いた」


司令はバックステップでヒデオから大きく距離を取る。


「だから言ったんだょ。小生を傷つけるのは誰一人とし、()ッ!!!!!!!」


ヒデオは突如として左肩を手で押さえながら塞ぎこむ。


「な...何をしたんだょ...」


司令はあっけらかんとした態度で言葉を返す。


「ん?何って、()()()()()()()()()()()()()()()()だけだが?」


「そんな当たり前のことのように言わないでほしいょッ!」


体操服のおっさんの気持ちもわかる。常識の埒外を平然とやってのける。リープロギアに変身できていれば怪異対策輝度本部の戦力は司令一人で充分だっただろう。


「オラオラどうした~そんなんじゃ虫も殺せねぇぞ~」


司令は軽口を叩きながら常人では致死レベルの衝撃を何度も叩き込む。


「あああああもうッ!痛い痛い痛いッ!痛いんだよおおおおおッッッッ!!!!!!!!」


ヒデオはどさくさに紛れて悪竜の咆哮(イビルバウンド)を発動する。


「破ァッ!!!!!!」


司令の身体から一瞬衝撃波らしきものが発生し悪竜の咆哮(イビルバウンド)を相殺する。やっぱこの人、人間じゃない。怪異か何かだきっと。


「あああああああああもうやだあああああああああああッ!!!!!!!!!!!!」


ヒデオは大声で喚きながら走り去っていく。逃がしてたまるかッ!ヒデオに向かって跳躍しようとした瞬間、司令の手で遮られる。


「司令...?」


「こっそり小型発信機を付けておいた。少し泳がせる。悪竜の血なんてものを個人で用意できるわけないからな」


それもそうだ。神話に登場する聖遺物を用意できるとなれば、国家レベル。それぐらいの巨大な組織がスポンサー(バック)にいると考えたほうがいい。


「さて!お前たちには修繕の手伝いでもしてもらおうかなッ!ガハハッ!」


いや、9割ぐらいはあなたが破壊したものでは....?







山中を鞍馬ヒデオが走る。


「ハァ....ハァ.....あんなの...出鱈目だょ....あん?」


鞍馬ヒデオの視線の先には一人の男が立っている。納刀されたままの刀を持ち、ワイシャツをタックインさせた中肉中背の男だ。


「おじさんは誰?」


「早乙女アキラ、お前を処分する男だ」


早乙女アキラは刀の鞘から抜刀し刀を構える。刀の刃先は白く輝いている。


「おじさんじゃ返り討ちに合うだけだょ」


「お前さァ、失敗した分際で俺に口答えすンのか?」


「アレは仕方なかったんだょ...」


「関係ねえよッ!」


早乙女アキラは瞬時に間合いを詰めヒデオの目の前に迫る。そのまま刀で切り払いヒデオの右腕を落とす。


「あああああああああああッ!!!!!!」


ヒデオは悶絶しその場に塞ぎこむ。


「なっ...なんでっ...悪竜の血が....」


早乙女アキラはヒデオの背中を踏みつけ両足を難なく切り落とす。まるで豆腐を包丁で切るかのように。


「ああああああああああああああああああッ!!!!!!」


「あの装者どもはこンな雑魚すら殺せねえのかよ」


ヒデオは残った左腕でなんとかその場を這って逃げようとするが虚しくも左腕も切り落とされる。


「あああっ....ああああっ....ああっ!」


「さっきまでのきっしょい媚びた声はどうしたよ?それで助けでも呼ンだらどうだ?」


早乙女アキラは足でヒデオの胴体を仰向けにさせる。


「ああああああああああああああもうやだあああああああああああッ!!!!!!!!!!」


ヒデオは最後の抵抗で悪竜の咆哮(イビルバウンド)を発動する。しかし早乙女アキラは悪竜の咆哮(イビルバウンド)()()()()()()しそのままヒデオの首を刎ねる。ヒデオの頭は重力に従って斜面を転がっていく。


「さて、次は装者どもだ。アイツらを殺せば俺の強さの証明になる。またブッ殺してやるよ、装者ども」




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