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3.クネクネ

「いい加減答えたらどうなんだ?教祖様よぉッ!」


京極シュンスケは机を叩きそう問い詰める。怪異対策機動本部内の尋問室にて、京極、宝条、そして公安関係者が奈良で身柄を拘束した黎冥教(れいめいきょう)の教祖に対し尋問を行っている。


「信者の1人から「教祖が何者かと何度も会っていた」と話してくれました。いつまで黙秘し続けるつもりですか?」


公安の職員が淡々と問い詰める。しかし教祖は黙秘を貫いている。


「こりゃ京極さんお得意の指詰めですかねえ?」


「そっそんなッ!取り調べで容疑者に暴行を振るうのはよくないはずではッ?!」


「テロリストにジュネーヴ条約は適用されねえんだよ間抜けが」


今回の取り調べにおいて適用されるのは特別公務員暴行陵虐罪である。宝条はわざと出まかせを吹いたのだ。


「そっそんな...」


教祖は宝条の(ホラ)を本気で信じている。京極と公安職員も訂正に入らずただ見守っている。余計なことを言ってしまい教祖側に有利な状況となってしまうのは望ましくない。


「いい加減吐いて楽になろうぜ、ドラム缶に入って海の底に独りぼっちは、きっと寂しいだろうよ」


京極は優しい声色で教祖の耳元にASMRを仕掛ける。


「わかりました。話します、はなっ!?」


教祖は唐突に目・鼻・口・耳から血を垂れ流す。


「おいおい血を吐けとは言ってねえよッ!?」


「待ってくださいッ!様子がおかしいッ!」


教祖の目の焦点は全くもって定まらず、頭がゆらゆらと揺れ始める。


「パレイー...ズ...」


教祖はそう言い残し勢いよく机に頭突きをかます。


「パレイーズって言ったのか?おいッ!」


京極は教祖の身体を揺さぶるが返事はない。公安職員が手首の脈拍と呼吸を確認する。


「ダメです、もう死んでます」


「なんらかの術式。呪術、いや魔術か?恐らく機密を話そうとした瞬間に術式が発動し殺害する仕掛けかと」


宝条は冷静に分析する。


「相手の方が一枚上手だったって訳か...クソッ!お前らッ!「パレイーズ」について詳しく調べるぞ!」


「「了解!」」







僕はトレーニングルームに入る。有事でない場合はトレーニングや模擬戦をするのが僕たち装者の任務だ。トレーニングルームにはアオイさんとユウジさん、それから西園寺司令がいた。


「おっ、ナオくんやっほ~」


「ガハハッ!待ちわびたぞナオキッ!」


アオイさんと司令に歓迎を受ける。


「アレ?僕待ちですか?」


僕は小走りで3人の元に向かう。


「今日は模擬戦で司令が参加してくれるそうだ」


「そういうことだッ!今から滑走路に行くぞッ!」


「了解」


「りょうか~い」


トレーニングルームもそれなりに広いので今まではトレーニングルームで模擬戦を行っていた。


「...了解」


少し疑問に思いつつ僕は3人についていった。






立川駐屯地内の滑走路へ行く道すがら、何名かの自衛隊員とすれ違った。


「おいあれってッ!」


「西園寺さんと装者が滑走路に向かってるぞッ!」


「てことはアレが見れるのかッ!」


「総員、直ちに滑走路へ集合しろッ!」


自衛隊員たちがふざけたノリで会話を展開する。怪異対策機動本部は立川駐屯地内に位置しているとはいえ一緒に行動することはほぼない。装者の戦闘はさぞ珍しいのだろう。


であれば───

───行きますよ、装者の実力、知りたいんじゃないんですか?


とかそんなことを考えていたら滑走路に到着していた。滑走路の周囲には模擬戦を見に来た自衛隊員達(ギャラリー)が何名ほどかいた。


「おっ、今日は新人もいるのかッ!死ぬなよッ!」


「よっ!地球最強の生物ッ!」


「よっ!生きる憲法違反ッ!」


「日本が核を持たない理由ッ!」


身体(ガタイ)にちっちゃい核融合炉(エンジン)搭載(のっけ)てんのかいッ!」


僕はひとまず声援がする方向に手を振った。しかし、僕は地球最強の生物でもなければ生きる憲法違反でも、ましては核融合炉なんてものも搭載していない。ギアに変身しなければただの一般人だ。


「ようし!お前たちッ!ギアに変身して少し俺と距離を取れッ!」


僕たち3人はギアを纏い司令を中心にそれぞれ100mほど離れた地点へと移動し正三角形を形成する。


ヘッドセットから司令の声が聞こえる。


「よし!好きなタイミングで仕掛けてこいッ!いつでもいいぞッ!」


いや待て、何を言っているんだ?司令は一般人なんだから装者の戦いについて来れるわけがない。


「いくよユウくんッ!ナオくんは援護ねッ!」


「えっ、ちょ」


僕が戸惑っている間にアオイさんとユウジさんがそれぞれ別の方向から挟撃を仕掛ける。ユウジさんは司令の右側から拳の連撃を叩き込む。対してアオイさん鉤爪による連撃を繰り出す。にも関わらず、司令はそれぞれ片手で連撃をいなしていく。


「今日こそぶっ倒してみせますよッ!ムエタイモンキーッ!」


「ガハハッ!せめて空手バカと言えッ!」


司令がユウジさんに対し正拳突きを繰り出す。ユウジさんは咄嗟にガードをするが衝撃を抑えきれず50mほど吹き飛ばされ転がっていく。


「は?」


状況が理解できなかった。生身の人間がリープロギアを圧倒しているこの状況に。僕は夢でも見ているのだろうか。


「こっちは3人ッ!勝たせてもらいますよッ!司令ッ!」


「その心意気やよしッ!だがッ!」


司令はアオイさんの手首を掴みポイと放り投げる。アオイさんは放物線を描き遠くへ飛ばされる。アオイさんが何かを叫んでいるが聞こえなくなった。アオイさんは身長165cn程度でそれなりに筋肉もついている。最低でも50kgはある人間を片手でしかも楽々と放り投げる司令の異質さがにじみ出ている。


「ッ!?」


司令は僕の方をじっと見ていた。


「まずいッ!」


僕は咄嗟に身構えたがその瞬間に司令の姿は消えていた。いや、()()()()()()()。視界の右端で突如として道着が写り込んでいるのだ。


「戦闘中に余所見はよくないぞ、ナオキ」


司令の呆れと戒め、そして失望が入り混じった声に心臓が握られたように痛んだ。僕は短剣を司令へ向けて振り抜く。しかし司令は僕の短剣を手刀で粉々に粉砕する。一度後方へ跳び距離を取る。


「そういえばナオキに見せるのはこれが初めてか。仕方ない、手を抜いてやる」


司令は空手の構えのポーズをとる。


「来るッ!」


「まずは空手の基本の正拳突き」


一瞬何が起きたかわからなかった。いや、あとから理解できた。司令は一瞬で間合いを詰め僕の胸を目掛けて正拳突きを叩き込んだ。僕の身体は衝撃に耐えきれず吹き飛ばされていた。70mほど吹き飛ばされ残り30mを地面を転がり続ける。合計100mも吹き飛ばされたのだ。


「...ガハッ....ゲホッ...ゲホッ...」


何が手を抜いてやるだあのムエタイモンキーッ!殺す気かッ!僕のギアの胸部装甲は完全に砕かれ煙が上がっている。この胸部装甲が無ければ死んでいたかもしれない。


「大丈夫か新人~」


僕の後ろから自衛隊員達(オーディエンス)の声が聞こえる。


「大丈夫っすよ、だから今度は吠え面かかせますッ!」


「おっ今回の新人はイキがいいねぇ~」


そうでなければ困る。僕は父さんを越えなきゃいけないのだから。僕は胸部装甲と短剣を生成する。生成した短剣は空中で待機させる。


報復(リベンジ)、いくぞ」


僕は3人が戦っている場所へ駆け抜ける。リープロギアで全速力で走れば100m程度3秒で駆け抜けられる。10m程度付近まで迫ったところでそこから3人の戦闘を中心として円描くように走る。アオイさんに援護するよう命令されているからだ。実際問題、今の僕が近接戦を挑んだところでさっきと同じように短剣を砕かれて終わりだろう。


「お二方ッ!僕は周囲からの投擲で援護しますッ!」


「了解したッ!イイ感じの援護期待してるぜッ!ナオキッ!」


僕は走り続けながら隙を見つけて空中に待機していた短剣を射出していく。一瞬生身の人間に対し短剣の掃射をすることに躊躇ったがその迷いはすぐさま捨てた。油断をすればこちらが死ぬ。それに短剣を手刀で砕いていたんだし大丈夫だろう。信頼感の方が上回る。


「セイッ!」


案の定、二人を相手取りつつも僕の短剣を叩き落とす。というか、なんで背後からの攻撃を余裕でいなしているんだ。困惑しつつ僕は短剣の射出を続ける。


「ふむ...」


司令は先程と同様、ユウジさんとアオイさんを吹き飛ばし僕の方向へ向かってくる。短剣を射出した瞬間に着弾予想地点から消える。それを5回ほど繰り返され気付けば目の前まで距離を詰められていた。


「甘いッ!」


司令は右足で僕を目掛けて蹴りを繰り出す。僕は咄嗟に短剣を左側へと構える。相手の動く進路に攻撃を置く。置きビームならぬ置き短剣だ。しかし短剣はあっけなく砕かれ蹴りは僕の頭部へと向かう。短剣と頭部の間に左腕で構えていたおかげで左腕が攻撃を受ける。僕はそのまま吹き飛ばされ地面を転がっていく。すぐに立ち上がろうとした瞬間。


「!?」


視界がぐらついている。足がふらつく。しまった。当たりどころが悪かった。僕はそのまま地面に吸い込まれるように倒れ気絶した。





気付けば知らない天井が目に入ってきた。どうやら僕はあの後医務室に運ばれたらしい。


「あっ、ナオくん起きた」


「ガハハ!すまんナオキ!加減を誤った!」


首を横に向けるとアオイさんとユウジさん、そして空手ゴリラがいた。


「最初は誰だって驚くよな。実際俺もそうだったし」


「だからって、あの強さはおかしいでしょうが。どこぞの戦闘宇宙民族ですか」


僕はそう言いながらベッドに手を突き上体を起こす。


「なんか気付いたら最強になってた」


「はぁ?」


思わず呆れと苛立ちが混じった声を出してしまう。


「冗談だ。でも、いきなり強くなったのは本当だ。言うなれば覚醒といったところか?」


「覚醒って、逆境に晒された主人公みたいですね」


ユウジさんが笑いながらそう呟く。


「逆境か...たしかあん時もそうだったな」


西園寺さんの眼差しはどこか懐かしむように遠くを眺めていた。


「2017年の「多川総理大臣テロ画策事件」の時だ」


「あーッ!それ知ってるッ!総理大臣が怪異使って大規模テロ起こそうとしてたやつじゃんッ!」


さすがのアオイさんでも知ってたか。いや、研修で教わるから知ってなきゃおかしいんだがな。


「その時はまだ一般人並みの身体能力だったんだけどな。死にかけた時に「このまま最強に成れず終わっていいのか?」って考えてたらめちゃんこ強くなってた、ガハハ」


「ガハハじゃないんすよ」


限度ってもんがあるでしょうに。


「それに、トオルに負けてらんないなって思ってさ」


そう、西園寺リョウと黒田トオルはこの事件に関わっている。黒田トオルはこの事件からリープロギア装者となったのだ。


「ギアに変身したトオルは最高に強くて、最高にかっこよかった...正直シビれたよ」


ああ、そうだ。父さんは強くてかっこいい、僕の自慢の父親だ。


───でもなんだろう、すごく...


「ナオキもトオルレベルまで強くなってもらわないとな、ガハハ」


「そういうのモラルハラスメントって言うんですよ、司令」


「何!それは本当かッ!今後は気を付ける」


ユウジさんの指摘に司令は反省の色を見せる。


「それで黒田トオルさんってのはどれぐらい強かったんですか?」


アオイさんがそう尋ねる。


「トオルはな、一言でいえば天才だ。今回の模擬戦は全力の内の3割程度だったが、黒田トオル(アイツ)との戦闘は7割ほど出していた」


さっきの戦闘3割以下であの強さかよッ!このおっさんが全力出したら世界が終わるんじゃないか?


「戦闘スタイルはナオキと同じ短剣をを使った戦い方だが、なんせ物量が凄まじい。1000基程の短剣を空中に生成、そして一斉掃射してくる。並大抵の怪異ならこれで倒せる」


「1000基ってトオくんすごッ!」


「僕の父さんまでくん付けするのやめてもらえます?」


「加えて27基の追尾してくる短剣、そして本人の突出した剣技。なかなか骨が折れる」


「司令がそうおっしゃるなら俺ら3人掛かりでも倒すのは難しそうですね」


「まっ、俺なら余裕で対応できるんだけどなッ!ガハハッ!」


司令のあの強さなら納得だ。だから、僕の父さんはなぜ死んだのか。どこの怪異(ヤツ)に殺されたのか。強かったはずの父さんがなぜ負けたのか、それが知りたい。


「司令、教えてください。僕の父さんはなんで死んだんですか?どこの怪異(どいつ)に殺されたんですか」


「...」


沈黙が流れる。だが、僕は知らなければならない。さらに畳みかける。


「教えてください。僕には知る権利があります」


数秒の沈黙の後、司令が口を開く。


「国家機密であるリープロギアとそれに関連する事項。これらを関係者以外へ口外することは例え装者の遺族であっても許されない」


さきほどのように模擬戦を行い他の自衛隊員に見られこそしたものの、本来リープロギアは国家最重要機密であり、その存在自体秘匿されなければならない。


「でも僕は装者になっています。父と同じ装者であれば問題ないのでは?」


「それもそうだな」


「ナオキ、俺と(あね)さんは席外した方がいいか?」


ユウジさんとアオイさんは僕の方を見てくる。


「大丈夫です。続けてください」


「うむ、2022年10月17日、トオルは長野県松代象山地下壕にて任務に就いていた。旧日本陸軍が開発していたといわれる妖刀の確保、その調査班の護衛を任されていたんだが、突如として悪霊が大量発生。調査班を外に避難させ悪霊たちと戦っていたそうだ。しかし、15分程度経ってもトオルが姿を現さず、調査班が中に入ったところ倒れているトオルが発見されたとのことだ」


それはおかしい。リープロギアが悪霊ごときに負けるわけがない。


「死因は心臓を損傷したことによる出血性ショック死だそうだ」


「あっ!もしかして妖刀を持った悪霊がトオくんを殺したってこと?」


「妖刀の方は合っているが悪霊の方は違う。後日地下壕付近にて日本刀らしきものをもった青年が目撃されている」


父さんを殺したのは生きた人間。怒りが込み上げてくる。


「その青年は今も捜索中だ。そして謎はもう一つ」


「もう一つ?」


ユウジさんが尋ねると司令は話し始める。


「実は病院に搬送されてもまだ少し息はあったんだ。集中治療室に運び込まれ傷口を縫い合わせようとしたが縫い合わせることができなかった。いや、正確には縫い合わせた部分がすぐに開くと言った感じだ。担当医が言っていた。「何度縫い合わせてもすぐに傷口が開く。まるでその状態が正しいかのように」」


「妖刀の能力ですかね?」


僕が聞こうとしたことをアオイさんが先に聞いた。


「断定はできないがその可能性は高い」


「妖刀の能力はわかってないんですか?」


「すまん。俺達も「地下壕に妖刀が存在する」以外の情報は持っていなかったんだ。せめてその妖刀を持った青年を捕まえられれば話が聞けるんだがな...」





例の模擬戦から数日が経過し、僕は日々のトレーニングをこなしていく。突如として右耳に付けていたヘッドセットに通信が入ってくる。


「ナオキ、今すぐオペレータールームに来れるか」


司令からだ。


「了解です。すぐに向かいます」


僕はトレーニングを中断しオペレータールームへと向かった。





「遅くなりましたッ!」


オペレータールームの自動ドアが開き中に入ると司令が腕を組んで仁王立ちしていた。


「来たか、怪異の出現が確認された。No.21466、俗称、クネクネだ」


「どこのアイドルの現場ですかッ!?今すぐ殺しに行きますッ!」


「...何か別のやつと勘違いしてないか?」


そうだった。怪異の方だった。田舎の水田や水辺に出現する存在。色は白く、人間とはかけ離れた動きで体をくねらせる。遠くから眺める分には問題ないが近距離で視認した場合、精神異常を引き起こすと言われている。


「...勘違いしてました。詳細は大丈夫です」


「うむ、場所は神奈川県厚木市七沢の水田だ。ここまではいいんだが少し厄介なことがあってな」


「厄介なことですか?」


「発生したのが1体ではないということだ」


数体程度であれば僕のギアの短剣掃射で対応できる。アオイさんやユウジさんの近接特化のギアは今回の任務には不向きだろう。


「2体でも3体でも余裕ですよ」


「発生したのは83体だ」


「ハチジュウサン...?団体さん?」


「ああ、クネクネさん団体のご来場だ。どうする?ユウジとアオイの帰投を待つか?」


アオイさんは鹿児島に赴き巨頭オ(きょとうお)群体の討伐、ユウジさんは佐渡島で発生したリゾート闇バイト事件の調査の付き添い。恐らく二人とも明日には帰ってこれるだろう。だが。


「大丈夫です。僕一人でもやれますッ!」


そうだ。僕ははやく強くなって父さんを越えなきゃいけないんだ。こんな雑魚におたついてる暇はない。


「わかった。黒田ナオキッ!ただちに神奈川県厚木市に向かいクネクネ83体を討伐せよッ!」


「了解ッ!」






天海カズハさんが運転するクラウンで神奈川県厚木市七沢の水田に到着する。農道には一人の巡査が農道のど真ん中に立っている。この夏の暑い真昼間(まっぴるま)の中ご苦労様なことだ。


「怪異対策機動本部です」


「お待ちしておりました。クネクネは発生してから1時間程度経過していますが今のところ発生位置から移動はしておりません。御覧の通り、身体を動かしている以外は不審な点はないかと」


巡査が指差した先には大量のクネクネが身体を動かしているのが見える。83体すべてが身体をくねらせている様はまるでボウフラ彷彿とさせる。


「一般市民の避難は完了していますか?」


「ええ、大丈夫です」


「了解しました、あとは我々が引き継ぎます。黒田くん、変身をお願いします」


「了解ッ!ジョワユーズッ!」


僕はペンダントを翳しギアの名を叫ぶ。ギアは呼応するかのように反応し僕の身体を装甲で包む。


「作戦は車内で説明したとおりです」


「了解しました」


作戦と呼ぶほどのものでもない。遠距離から短剣を掃射しチマチマと当てていく。射的のようなものだ。僕は短剣を数本空中に展開しクネクネたちへと掃射していく。


「一つッ!二つッ!」


次々と数を減らしていくクネクネたち。だが、残り十体程度となったところでその勢いは止まる。


「なんかあいつらだけ動きが激しいんですけど」


激しく身体をくねらせているせいで短剣を投擲しても躱されてしまう。意図的ではなく偶然だと思うが厄介なことこの上ない。


「変異種の可能性がありますね。アオイさんとユウジさんが帰投するのを待ちますか?」


「大丈夫ですよ、僕に策があります」


父さんのように自動追尾短剣(ブレイド・ビット)を扱う技量は僕にはない。かといって短剣の投擲は躱されてしまう。であれば。


「近接攻撃を仕掛けます」


「黒田くん、わかっているとは思いますがクネクネを近くで認識すること、それはクネクネに対しての友愛行動を示します。友愛を示した人間を完全なる善意で同族、クネクネへと変貌させます。リープロギアの対呪防御機構では防げません」


クネクネを間近で見た人間は精神に異常をきたし、やがて同じように身体をくねらせる。この精神に異常をきたすプロセスに関してはいまだに解明されていない。だが、少なくとも呪い、呪術の類ではないことだけは確からしい。


「なので、視なければいいんですよ」


カズハさんが何言ってんだコイツと言いたげな、冷ややかな視線をこちらに向けてくる。すみません僕が悪かったです。


「ソナーの要領でなんとかしますッ!」


「ちょっと黒田くんッ!?」


カズハさんは僕が唐突に走り出したことに驚いている。無理もない、傍から見ればただの自殺行為だ。

だが、僕には策がある。潜水艦のソナーは、水中を伝播する音波を用いて、水中・水底の物体に関する情報を得る装置。僕は目を閉じて駆け抜ける。代わりにギアで集音量を増加させる。疾走時の足音の反射から位置、形状、動作を推測する。さらにギアを外付け演算処理装置として利用、推測した光景の解像度を上げる。


「一つッ!」


推測したクネクネに斬りかかる。手には切った感触が伝わる。クネクネの断末魔が聞こえる。


「二つッ!三つッ!」


次々とクネクネを駆除していく。


「ラストッ!」


最後のクネクネに斬りかかり断末魔が小さくなっていく。周囲は風が草木を鳴らす音が聞こえる。


「すべてのクネクネの駆除を確認、まったくヒヤヒヤしましたよ」


僕は目を開ける。よかった。ホラーのド定番展開、目の前にクネクネがいるなんてことは起きずに済んだ。そういえば、カズハさんと巡査さん以外の呼吸音が聞こえたけど。まあ野生動物か何かだろう。さて、帰って報告書でも仕上げますかね。






山中にて、一人の男が木の影からナオキとクネクネの戦闘を監視している。


「あれがパレイーズの人が言ってた怪異退治の人?強そうだね」


男は猫なで声でそう呟く。


「でも小生には勝てないよ。小生の肉体は誰にも傷付けられないから」


そう言って男はその場を立ち去って行った。

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