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第8話 日進月歩、遠きを成すため

 自身の体をイメージしながら風を切りなんの障害物のない野原を走る。レベル1の訓練を初めて約1か月間毎日、処理限界(オーバーヒート)寸前まで走り込んだのもあり、ある程度無意識にイメージできる状態になり、そのおかげで体へ向けていた意識を外へ向けられるようになった。

 更に1か月、レベル2の林を突っ切る時間を10分以内に収める訓練、レベル3のトラップを避けながら10分以内に林を突っ切る訓練は、比較的容易にクリアすることが出来た。

 けれど、現在、レベル4の訓練に難航していた。その問題の訓練の内容がトラップではなく、先生が(当然全力ではない)の妨害を対処しながら林を10分以内に突っ切るというものだった。問題は、その妨害が厳しく未だレベル4になってから林を抜けることすらできなくなっていた。

 基本的に一日に挑戦できる回数は、日に1回。処理限界といった理由もあるが、先生の職務の関係で挑戦できるのは早朝のみに限られていた。レベル4に入ってか19回目の挑戦に向けて家から林のスタート地点までの道中で思考を巡らせる。


 どうしたものか。何が足りないんだ?ペースを上げるにも先生の妨害もあってそれができていないのが現状だ。能力を使うか?いや、下手に能力を使おうとすれば逆に集中がそっちに向いてしまう以上、妨害を避けるには致命的だ。レベル1の時にしていた形で能力を使う分には集中をもっていかれることもないか?実際にやってみないと何とも言えないな。1回やってみるか。


 スタートラインの前で足を止め、全身神経を研ぎ澄ませる。ひたすらに、深く、重く、高く研ぎ澄ませていく。閉じた瞳を開き周りを見る。本来ありえない開かれた世界への認識。閉じた瞼を開く。2つの異なる視界が吐き気を催す。肺に溜まった空気を吐き出すと初夏なのにも拘わらず白く濁る。


「はぁ――」

 

 これ視界が重なって気持ち悪いな。でも、おかげで全方位常に観察できる。問題は、どれだけ維持できるかだな。行くぞ。


「行きます」


「存分にきたまえ」


 俺の始まりの合図に林の中にいる先生は答える。

 地面を蹴り、林の中に入る。それと同時、正面、正面右、正面左の三方向から振り子のように丸太が迫る。


 0時、2時、10時から丸太。上は駄目、紐罠がある。なら下。


 丸太の下へスライディングの要領で滑り込むと、足に紐がひっかる。すぐに横に跳ぶと、俺がいた場所から網が上へあがっていった。跳んだ勢いを利用し立ち上がりすぐに走る。


 よし、後はこの調子を維持していけばいいだけだ。でも、行けるか?この先の地雷地帯以降は未知の領域。地雷地帯でも何されたのか分からずにやられた。その先、慎重に行きたいが、そうも言ってられ……って、もう地雷地帯か。


 最初の罠を抜け、フラッグが目に入る範囲でも数百が地面に刺さった地帯が広がっている。


 問題はこっからだ何度かここまで来てわかった事は、フラッグのすぐそばに地雷が埋まっているパターンと埋まっていないパターンの2パターンある。体感的には8割強がフラッグの下に地雷がある。

 問題は、残り二割はフラッグを避けると踏む以上全部のフラッグを避けて進むわけにはいかない事だ。幸い、殺傷性その他もろもろないおかげで後ろに吹っ飛ぶだけだが、この前は何かに吹っ飛ばされて地雷を踏んでしまって、吹っ飛んだ先が地雷で連鎖的に爆破したせいで時間を超過した。ただでさえ、2割のせいでいつ連鎖爆破しかねないのにプラスで妨害がはいる事で難易度がバカみたいに上がっている。能力を使ってどこまで食らいつけるか分からないが、やってみるしかない。

 

 沸騰したような脳をさっきよりも酷使し、地雷地帯へと侵入する。踏み入った瞬間に左右から丸太が挟むように迫る。


 最初から悪意たっぷりかよ?!性格ほんとに悪いな先生は!地面の間に隙間はあるけど迂闊にスライディングなんてすれば、地雷の餌食。受け止める?いや、何キロだど思ってんだ。ギリギリ、全力で跳べば間に合うか?無理だ。今、俺が出せる全力で走ってる。この罠は、俺が通過するタイミングを狙う撃ち、同時に止まろうとしても間に合わないようにされている。今俺が出せる手札を切ってもここまでか……?


 全身を鎖が縛っているように重く鈍く感じる僅かの時間の最中、諦念が心を縛る。次があると諦めが這い寄る。根を張ろうとする怠惰を何かがくべる。


 ――何を考えていたんだ俺は!?こんな程度で俺は諦めようとしたのか!ふざけるなよ!足りないなら今ここで補え!なんでもいい!今使えるもの全部捻りだせ!!!


 無意識の彼方で想像を巡らせる。迫る丸太、現在の速度、全身の状態を。作った想像上を走る。レールにのせられた列車のように全身を走らせる。

 能力者が持つ想像の力は、能力(フェイルノート)という力の形でなければ脆弱であり、世界を変革させるほどの力を持たない。しかし、今確かに微かに現実を歪め不可能を可能とした。

 俺の背後で丸太どうしが衝突した音が響く。能力者の想像の力により現実は歪み、本来人間では成しえない異業を成した。

 

「よしっ!」


 原因はわからないけど突破できた。間違いなく前までなら、あそこでやられていた。確実に成長してる!このまま、地雷地帯も、その先もクリアしていけばいい。って言っても、まだ油断できる状況じゃない。速度を落とすな。このまま、地雷地帯を駆け抜ける。



 ――――――――――――――


「やっとクリアだ!」


 林を抜けた野原に倒れ込みながら歓声を上げる。今にも火を噴きだしそうな体は大量の汗でぬれている。処理限界一歩手前な状態であり、能力を使うのを止めると頭の熱が一気に引くのを感じる。1ミリも動かしたくないと思えるように全身がダルさを訴える。

 

 地雷地帯直前の罠、不思議な感覚だった。やられると確信した状況だったのに突破できた。結局、あの後似たような感覚はなかった。結局、何だったんだ?あれ以降、そこまで酷い罠はなかった。急に難易度が落ちたように感じたが気のせいか?前までならもっと悪意がたっぷり込められたようなイメージだったが……。

 何とか突破してここにいるけど、正直たまたま10分切れただけだ。これを運が良かったと考えるべきか。時期尚早と考えるべきか。


 野原に吹く風に心地よさを感じながら何とか掴んだ結果を吟味していると林から先生が歩いてくる足音が耳に入った。


「やあ、募。だいぶグロッキーみたいだねぇ」


「誰のせいだと思ってるんですか」


「さて、私にはわからないかな。それはそれとして想像力(イマジナイリー)基礎訓練終了おめでとう」


 先生は地面に倒れている俺に手を差し出してくる。手を掴み、先生の力を借り何とか立ち上がる。


「ありがとうございます」


「今日いっぱいは、休んでおいて良いから。レベル4はかなりキツかっただろうしね」


「はい。お言葉に甘えさせていただきます」


 先生に家まで送ってもらい気絶したように眠った。

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