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第7話 基礎はスルメみたいなもの


「さて、募の能力(フェイルノート)が分かった所で訓練を始めよう。君の能力を活かす為の最低条件を満たすには基礎体力の向上の他にすることがある」


 先生は、どこから取り出したかわからないホワイトボードを持ってきて書きながら説明を始める。


 他にする事?能力を使う上で必要なことって何だ?


「まず前提だが、能力者は、本来人間が扱えない異能を使う者を指すのは理解しているかい?」


「はい」


「一般的に異能の根幹を成すと言われているのが、我々がフェイルノートと呼んでいる力なのだよ。しかし、この認識は間違いだ」


 え?じゃあ、能力者の力って何なんだ?そもそも、能力者は、異能を扱うからそう呼ばれているのに、それじゃあ矛盾こそないにしろもっと別の呼び方があるんじゃ……。


「まあ、色々と疑問はあるだろうが、説明を続けさせてもらうよ。能力者が持つ力は主に2つに分類される。1つ目が、私達が能力と呼ぶ経験から生まれる固有の力、能力(フェイルノート)。そして、2つ目。能力者ならば得手不得手こそあるものの全員が使う事ができる力であり、能力者の力の根幹とも言える力、想像力(イマジナリー)。この2つが能力者の持つ力なのさ」


 想像力?初めて聞くな。いや、一般にそんな情報が広まるわけないか。それに先生が全員使えるって言っているあたり、見ていてもそれを能力と異なるものと認識できてないはずだ。


「正確に言えば、能力者が持つ力は想像力に帰結するのだよ。能力とは、想像力という力をそれぞれが持つ能力の形へと変容させたものの事をいうのさ。つまり、能力を伸ばすためにはその根源たる想像力を伸ばす必要があるんだよ。単純じゃないか」


 なるほど、想像力の絶対量が増えればその分、能力の使用回数なんかが増えていくのか。確かに必要になるだろうな。って事は今からするのは、この想像力の基礎性能を伸ばす訓練か。いや、でも想像力を伸ばすって絶対に体を鍛えるのとは大きく異なるはず、そうなると、そんなに簡単に鍛えられるものなのか?


「そうは言っても、誰でも想像つくだろうけど、想像力は一筋縄では鍛える事はできない。だから、今は何も疑わず私のいう通りにするんだねぇ。ほら、立った立った。すぐ、想像力を鍛える方法を教えるからね」


 先生は、そう話ながら説明に使っていたホワイトボードをどこかにやると、立つように促してくる。

 俺が立ったのを確認する素振りをして歩き始める。それから20分程度歩いた場所で止まった。辺りには、木々といった障害物になるようなものは無く、見晴らしがよいといえるような場所だった。


 ここに来て何があるんだ?いや、想像力を鍛えるのにも、能力を最初に使うときみたいに周り影響がでるのか?


「さ~て、募には今からここでレベル1の訓練を始めるとしようか。やることはいたって単純。ただひたすらに走る。ただし走っている時、常に自分の体をイメージし続けること。できるだけ正確に、詳細に行うように。とりあえず、立った状態で自身の体をイメージできるようになったら走り始めようか。まあ、無理そうならそう言ってくれてもいいんだよ?」


 何言ってんだ。煽ってるのか知らないけど、こんな初歩的な段階でつまずく訳にいかない。


「いいえ」


 全身のイメージ……能力を使った時のあの感覚を体に向ければいいのか?そうすれば、自分の体を明確にイメージできるはずだ。でも、できるのか?あれはかなりの集中が必要だった。それを走りながらするのか。いや、やるしかない。今は少しずつ与えられたことをしろ。


「そう。説明は以上、はじめて」


 開始の合図を聞き能力を使った時のように瞼を閉じ全神経を研ぎ澄ませる。瞼を閉じたまま景色が映る。その周りへ向けている何かを自身へ向ける。全身をその視界に収め、周りへの認識をボカし、より自身へと向ける。そして、現状できる限界点。血流の状態を把握できなくとも流れている事を、筋繊維の一本一本を把握できなくとも筋肉の動きをイメージできた。全身からは、汗が滝のように流れ出てるのが分かる。


 なんっとかできた。でも、これ一瞬でも気が抜け、ればイメージが崩れる。こんな状態で走れるのか?いや、やるしかない。とりあえず、まずは目を開けるところからだ。とりあえず、慎重に……。


 自身のイメージが崩れないように細心の注意を払い少しずつ瞼を開く。やけに久しく感じる日の光に一瞬そちらへ気が逸れそうになったのをすぐに修正した。

 先生は、俺が目を開いたのを確認してポケットから時計を取り出し時間を見た。


「45分くらいか。まあ、早い方だね。そのまま歩いてみなよ」


「……っはい!」


 さも、簡単なことみたいに言うの本当止めてほしい。実際、簡単なことなんだろうけど!

 歩くなんて何気なくやってるん行為だけど、こんな風に意識しただけで歩くのはこんなに難しいのか!?


 ただ歩く。その行為をするのに幾つの工程があるのか。今や習得により、無意識下で行われているそれに逆行するような所業は、ただの動きに僅かなズレを生む。僅かなズレは、積み重ねれば必然、そよ風程度の干渉で容易く瓦解する。


 あ……壊れる。イメージがズレる。脈拍が、筋肉の動きが、イメージと違う。


 目の前で何とか積み上げていた感覚が音を立てて壊れ始める。止めようとするが、全て無為に空を切る。


 ダメか。何がダメだったんだ?確実に歩いてすぐはできていたはず。ならなんで?


 俺が失敗の原因について座り込み考えていると背後から先生が近づいてきた先生が頭に手を乗せワシャワシャと動かす。


「そんな気を落とさなくていいんだよ?確かに進展は小さいけど、他の能力者に比べたら早いぐらいだ。自分を誇りたまえ。私の言葉じゃ何の足しにもならないだろうがね」


「……はい」


 他の人は関係ないじゃないか。俺は、少しでも早く……。その為にはこんな風に座ってちゃ何の意味もない。早く立って、え?


 俺が立ち上がろうと足に力を入れた途端に力は抜けて地面に倒れる。俺の思考は何故という疑問で埋め尽くされていた。


 何がおきて……そんなことより早く立ち上がらないと。足に力が入らない。違う、足だけじゃない腕もだ。何で……?


 この疑問の回答は、すぐに先生の口から出た。


処理限界(オーバーヒート)だね。能力者特有の現象で、要は頭を使いすぎて無理矢理休もうとしてる状態さ。本来、人が扱えない力を使うんだ。それ相応に体力を消費するもんだよ。募の場合は、能力を途中まで止めた状態で使い続けた上、初めてする想像力を扱う訓練で頭が休眠状態に入り始めたみたいだね。要は、ゆっくり休みたまえよ」


 そんな重要な事は先に言ってくだ……さいよ。


「一昨日話したじゃないか。忘れたのかい?募もまだまだだね」


 おぼえてるわけないでしょうが……。


 先生に対して心の中で文句を言いながら意識を手放した。


 ――――


「で、昨日渡したあれの調査はどうなったんだい?」


「結論から言いますと同一物質ではありません。しかし、こちらの反応を見てください。こちらのライト反応では、全て同じ反応になっています。これは本来ありえません」


「おおよそ予測はしていたが……報告ありがとう。引き続き調査よろしく」


「はい」

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