第12話 模擬戦開始
俺は、武器が並んだラックの前で頭を捻る。ここに用意されているのは、ほとんどが近接武器であり、その種類も千差万別だ。同じ武器であっても、サイズの違いも見受けられた。
さて、どうしようか。武器を選ぶのは簡単なようで、安易に選べない。前提として、自分に合った武器を選ぶのは必須。仮に合う武器があっても、ほとんど武器を使う訓練なんてしていない以上、メインの戦闘に使うことで考えるのは論外、扱いやすさ、汎用性に重きを置かないと……じゃないと、まともに武器として扱ったこともないもので1つの武器を訓練してきた相手と戦うなんて無謀が過ぎる。と、なるとナイフか?安牌だけど、それ以上に俺の能力は、どこまでできるのかを把握してない。これが一番の……。
ラックにかかった一本の武器に目が引かれた。何の根拠も、触れたことすらない物に引かれた。刀身は、太刀ほどの長さはあるが、反りが浅く、切っ先に行くにつれて身幅が広くなっているのがわかる。刀に引かれて手に取ってみると、触れた柄が一瞬淡く明滅した。その刀に触ると、不思議と体の一部のように感じられた。
何となく、しっくりくる感じがする。それにこの刀、長巻直しってやつか。いや、長巻直し風ってだけか。刃文もきれいだ。っと、それはそれだ。確かに、この刀に気を引かれたし、握った時にしっくりと来たのも事実だ。だけど、それを理由に汎用性その他諸々を捨てるのか?
軽く振ってみると、自然と馴染むように刀が走り、心地のよい空を斬る音が鼓膜を揺らす。
……振り心地も良い。もう、これで良いんじゃないか?いや、でも、ぬーん。
心の中で頭を抱えながら周りを見回すと、俺以外は、ほとんど決まって待機してるようだった。
後からいくらでも替えは効く。今はとりあえずこれでやってみるか。
刀を鞘に収め、元々立っていた位置に戻る。その様子を見て話し始める。
「全員、武器を選び終わったようですね」
俺らを見回して、華城団長は、武器が納められたラックに触れると、ラックは床に収納されていき、元通りの何もないタイルに戻った。
「この場所では、文字通り様々な状況、環境を想定し、訓練が可能です。今回の模擬戦では、森林タイプ1。起伏の少ない森林が設定されますので、その事を念頭に入れて策を練ってください。あなた方のような烏合の衆が、個々人で挑んで勝てるなどと驕らないことを願います。15分後に開始します」
そう言って華城団長は、入ってきた扉の方へ歩いて行った。その場に残された全員が自身の周りにいる人間へ互いに様子を窺うような視線を向け、凍り付いたかのように誰も動かず、気まずい沈黙が流れる。その沈黙を破るように1人の少女が声を上げる。黒い髪に青い瞳を持ち、年齢も俺とそう変わらないように見える。
「そんな風に睨み合っても何も生みません。団長が言った通り策を練りませんか。協力してくれる人は、私の所に来てください」
さて、どうするか。そもそも、この模擬戦の意味がさっき言っていた実力の把握な訳がない。おそらく、そんなものテストの時点で分かってるだろうし、俺の場合は、先生経由で伝わっているだろう。そうなると、別の目的がありそうだな。とは言え、ここで推論を立ててもどれも妄想の域を出ないな。できることは、可能な限り勝ちに行くしかないな。そのためには、協力できるならした方がいいだろうな。
一向に人が集まらず、苛立ちつつあるような顔をしている彼女に近づき、声をかける。
「俺で良ければ、協力しますよ」
「あなたは?初めて見る顔ですね。テストに出ていましたか?」
声をかけると振り返り、俺の顔を見て疑問符を浮かべる。
「いや、訳あってテスト当日、入院していてね。出ていない」
「そうですか。それでも、ここにいるということは、実力が認められているんでしょう。まずは、自己紹介をしましょう。私は花木 磨衣、能力は、魔法?魔術って呼ばれるものを扱います。応用が利くので、こんなこともできます」
花木は、手のひら大の炎を出すと、炎が魚の形に変わり、彼女の周りを泳ぐ。一周したあたりで炎を握り消す。
「このように、色々なことができます。あなたは?」
「俺は、明石家 募。能力は――」「おい、俺も混ぜろ」
俺の言葉を遮るよう声が聞こえてきた。振り返ると白い髪と紫の瞳を持った俺より1回り歳上に見える180cm越えだろう男がいた。
え?なんだこいつ?急に来たと思ったら第一声が「おい」かよ。ていうか誰?……今、混ぜろって言った?
突然話しかけられたことに若干フリーズしていると花木が質問を投げかける。
「いいですけど、あなたは、誰で、何ができるのか話してくれるますか?」
「天瀬 秤事。能力は、天秤。物の釣り合いをとるか、崩せる」
天瀬は、槍の柄頭を指の上に乗せ、横に倒す。本来、重力に従い指から落下するはずの槍は、あり得ない形で指の上で安定する。
「こんな感じだ。一応、投げた物を曲げることもできる。だが、俺の能力で操るには一度触れて置く必要がある。以上だ」
便利だな。色んなことができそうだ。俺の生成は、生成した物体は、操作できないからな。あくまでも、物体の生成のせいで、制約がかなりかかるから、できることが少なくて困る。
「秤事さんですね。分かりました。遮られてしまったけど、募さん続きお願いします」
さっき、秤事が割って入ってきたことなどないように淡々とした声色で俺へ自己紹介を促す。
「あぁ、改めて、俺は、明石家 募。能力は、物体の生成。生成物は、具体的な形状と骨子、材質をイメージすることで生成できる。生成完成時の範囲に何かしらある際には、形状によって突き刺さることもある。けど、この生成での攻撃は正直まだ実践段階じゃない。生成速度が遅い上に、ダメージを与えるほどの大きさを生成しようとするとイメージを固めるのに時間が掛かっちまうから今はできない。ってところだ」
自己紹介が終わり、流れを切るように花木は手を叩く。彼女の手の叩く音は、何故か、自然と俺たち3人の中にある空気を自然と切り替えた。
「さて、自己紹介も終わったので作戦を練りましょう。お二人も遺憾なく案を出してください。私だけだと限界がありますから」
――――
木宮 色音、音無 陵、矢部 火凛の三名は、募たちとの模擬戦に向けて錆び付いた関節に油を刺すように身体を伸ばし、エンジンを暖めるように準備を進める。
坦々と進め、自身の身体を把握しようと確認の最中、木宮が、現状の状況に質問を他の2人に質問を投げる。
「そういえば、今回何で3人なの?説明されなかったけど、普段は、1人か2人じゃん」
矢部は、本気で言ってるのかという目を向け、木宮の純粋な疑問といった表情を見て、そういえばそういう奴だったと、ため息を吐く。
「今回、私たちのところに新種のAMを殺した奴がいるからね。後は、こっちは噂程度だけど、元執行官もこっちいるって話しもあったはずだし」
「はぁ?!」
矢部の言葉に木宮と音無の声が重なる。驚きのあまり、準備の手を止めてしまっていた。
「あくまでも噂の範囲は出ないわ。そんなに気にしてもしょうがでしょ。それよりも、今は新種を殺した方を気にするべきでしょ」
「そうは、言っても気にするなって方が無理あるぜ火凛。なんたって元とはいえ、執行官が俺たちの拠点の中に入ってきているんだからな」
音無の声色と表情には、僅かではあるが心配や不安といった感情が映る。矢部も音無の心配については理解しており、かといって噂程度に振り回されるわけにもいかず、これといった根拠を見つけられていない。しかし、火のない所に煙は立たない。現状、第6番隊の雰囲気は良いとは言えないのもあり、彼女自身、心地良いものでなかった。それもあり、僅かながらが、声を荒げる。
「そんなことわかってるわよ。でも、噂は噂。根拠のないものに振り回されてどうすんの。ほら、そろそろ時間よ。久しぶりだからとか、の言い訳できないからね。気をつけなさい色音、陵」
「あいよ」「は~い」
『あ~テスト、テスト』
木宮と音無が返事した直後に、シミュレート室全体に華城団長の声が響く。
――――
『あ~テスト、テスト』
華城団長の声が響き、自然に耳にした者たちが俺と同様に緊張を覚える。
『今から10カウント後に模擬戦を開始します。両者の健闘をいのります。10』
『シミュレーター起動。シミュレーション室内部ノ人ハ、ソノ場カラ動カナイデクダサイ』
華城団長のカウントが始まった直後、機械音声と共にシミュレーション室に敷き詰められたタイルが発光を始める。
『9』
『設定条件確認。地形条件カラ適応。想定生態再現開始。地形適応後、生態適応開始シマス』
発光しながら平坦だった床は動き出し、起伏が生まれ始める。タイルの動きが止まると、岩肌や土壌などが再現され始める。
『8』
『地形適応終了。生態適応開始。』
どこからともなく、植物が現れ、俺たちを覆い、すぐに森と呼べる環境が再現された。
『7』
『気象条件再現終了。設定条件再現完了。シミュレーター起動終了』
真っ白だった空間は、たった5カウントのうちにシミュレーション室と言われても信じないほどに森を再現していた。天井も空を映している。木々は、実物と遜色なく、見分けはつかないだろう。
『6,5』
「募さん、秤事さん、作戦通りいきますよ」
『4,3』
「了解」「分かってる」
『2,1』
花木の確認するような声に、俺と秤事が短いながら返答を返す。その間も華城団長のカウントは進んでいく。
『0、模擬戦闘開始』




