第11話 模擬戦準備
高ぶってきた!!!一狩り行くんじゃ!!!
昨日先生から渡された端末を頼りにして、退院した体のままで集合場所に向かっている。幸い、汚れた服なんかは先生が持ってきてくれた黒色のフォルダーの制服があったおかげで何とかなった。
それにしても、広いな、ここ。かれこれ1時間半近く歩いているのに、着かない。さすがに時間もまずいな。リハビリ兼準備運動がてら、少し走るか。
病院からまあまあの距離があるのはわかっていたのもあり、余裕をもって出たはずだが、端末に表示される時間を見て足を速める。そうすると、少し走ったあたりで違和感を覚える。
なんだ?イメージが崩れたわけじゃないけど、違和感がある……研ぎ澄まされているような感覚。よりイメージがリアルになったみたいだ。
俺の中で思い付く原因を探るように、記憶を思い出す。
あいつと戦った影響か?確かに自然にレベル4をクリアした時の感覚を使えていた。あれのおかげであの感覚が馴染んだのか?いや、何であんな自然に使えたのか自体が不明だしな。だけど、そう考える以外、他に思い当たる出来事がないから、こじつけてるだけだけど。あの感覚がいつでも使えて、もっと洗練できたのなら……この感覚がなくなる前に、使っておきたいな。
さらに1時間程度走ると、集合場所が見えてくる。時間まで10分ほどあるが、すでに10人が待機している。俺と同様のフォルダーの制服に身を包んでいる。それぞれ距離をとっているように、目に映る。俺が近づくと、全員から奇異の目が向けられる。最後が俺だったようで、その後に誰かが来ることはなかった。
所定の時間になると、紺色の髪に透き通った水のような瞳を持つ、先生と同様の白い軍服のような制服に身を包んだ優美と形容すべき女性は、片手にコップを持ち現れる。それと同時に、周囲の空気が急激に存在が希薄になったかのように変化する。身体は、空気を求め過剰に呼吸を始めようとする。それをイメージによって静止する。周りに視線を送ると、息苦しそうな仕草こそするものの、全員が彼女の前に立つことができている。
場を支配する威圧感。3人とは形こそ違えど間違いなくこの人も団長だろうな……着ているの仕事に行くときの先生と猜疑さんと同じだし。まあ、こんな形であの感覚を実践することになるのは予想外だけど、結果的にはよかったな。それはそれとして、俺は何度か食らっていて慣れている部分が大きい。それに対して、この圧に初見で耐えることができるものなのか、ものすごい精神力だな。
彼女の後に続くように13人のフォルダーの団員と思われる人間が壁を通過し終えると、周囲の威圧感は消えた。彼女がコップの中に入っていた液体を一気に飲み干すと元から何もなかったかのようにコップが消えた。
物消したり、出したりは団長の必須技能か何か何ですかね。能力が関係しているんだろけど、まったくと言っていいほど何しているのか分からない。
「フォルダー入団おめでとう。あなた達を第6番隊団員として歓迎します。先日、自己紹介等は済ませましたが、いなかった方もいますので改めて。私は、フォルダー第6番隊団長、華城 造花です。以後お見知りおきを。さて、前置きはここまでにして、本題に入りましょう。あなた達、新団員には、最初に私の後ろにいるあなた方の先輩にあたる彼らと模擬戦をしていただきます」
は?嘘だろ?こっちはまともに戦闘の訓練なんてろくにしてない素人の集まりなんだぞ?1対1で敵う奴いるわけないだろ。先生に以前、聞いたが、俺が30人いても正規団員1人に勝てないほどの力量差がある。訳が分からない。
「当然、ハンデは設けます。こちら側は、3人に対してあなた方は、11人全員で挑んでいただいて構いません。あくまでも、これはあなた方のテストで見ることができなかった素養などといった物を見定めるためのものです。気を張らず存分に挑んでください」
あまり変わっていないな。仮に11人で束になった所で訓練された能力者3人の前では大きな力関係の変化はない。文字通り、見定めのためか。もとから勝たせる気はゼロってわけだ。まあ、勝って何になるわけでもなし、できるだけ全力でやって済ませますか。
「詳細は、訓練用シミュレーション室でお話します。私達の後について来てください。シミュレーション室まで案内します」
華城団長は、話終えるとすぐに向き直り、出てきた壁へ歩を進め、壁を通過した。俺を含めた全員、華城団長の後ろに続き壁を通過する。不思議な感覚が全身を包む。フォーミュラに乗っていた際には、一瞬で感じる間もなかったものが、歩くことで確かに全身で感じている。確かに壁の中にいるのにも関わず、呼吸が遮られず、視覚や聴覚、嗅覚にも異常がなく、前にいる華城団長の後ろ姿をとらえられている。少し歩いたところで壁が終わり廊下に出た。さらにしばらく廊下を歩き、10分ほどで、第2訓練用シミュレーション室と書かれた扉を開く。
「は?(え?)」
視界に入ってきた白く染められた広大な空間に驚きのあまり俺だけではなく、初めてこの場所に入ったであろう同期からも声が漏れる。1m四方の板が一直線に見える限りでも100枚は並んでいる。驚いている俺たちをよそに凡そシミュレーション室の中心で華城団長は足を止める。俺たちもその場で足を止める。
うん?10人足りない?
よく見てみると華城団長の近くにいた団員の数が減っている。元から気配を殺していて視界にいなければ、その場にいることにも気づかないほどであったのもあり、いなくなったことに気づかなった。
残ったのは、右から赤い髪をポニーテールのようにし、腰まで伸ばしている。身長は、160㎝後半だろうか?軍服で体系はわかりにくいが、かなりすらっとしている女性。
真ん中の男性は、スキンヘッドに身長で185㎝いかない程度。体つきは、余分なものがないといった印象を受ける。
最後は、この中で一番身長が小さく165㎝ない程度の茶髪の女性。話したことないのに何となく幾人もの男性を勘違いさせ泣かせてきたような雰囲気がある。
華城団長と団員達は、こちらに振り返り、華城団長が話始める。
「今回、あなた方の相手をするのは、ここにいる3名です。右から矢部 火凛、音無 陵、木宮 色音です。うちの中でも優秀な方々ですから安心して力を振るってください」
華城団長は、音無さん達の方へ向き指示を出す。
「では、あなた達は、先に定位置について準備を済ませていてください」
「ハッ!」
音無さん達は、華城団長の指示に従い離れていく。
「さて、模擬戦ですが、制限時間は、最長30分。勝敗は、あなた方が全滅するか、先ほどの3名が全滅するかで決まります。死亡判定は、この武器によって行います」
華城団長のすぐ横のタイルが動き、武器が納められたラックが現れた。武器の中からナイフを右手に取る。
「これは、フォルダーで作られた訓練用の武器です。身体への接触の際には、このように」
ナイフを持つ反対の自分の手の平へ刺そうとするが、刃は刺さらず、ホログラムのように手を透過した。ナイフを左手から抜き、突然現れたリンゴをナイフで剥き、切り分け、皿に並べる。
リンゴ?なんでこの人は普通にリンゴを切ってるわけ?
「無害です。ですが、他の武器や植物といった物にはナイフとして機能します。リンゴ、いりますか?」
『無害です』じゃ、ねぇよ? いります?ってこっちの気持ちを少しは考えてほしいんだが……。
「い、いいえ。大丈夫です」
全員が、若干困惑しながら断ると「そうですか」といい華城団長はリンゴを食べ始める。
リンゴ食い始めるし、何なんだこの人。
「あなた方には、一本ずつ持っていただきます。様々な武器をご用意しています。好きなのをお選びください」
そういうと、華城団長の背後のタイルが動き、大量の武器が並べられたラックが現れる。俺を含め、その量に一瞬固まるが、すぐに我に返り各々が使う武器をラックの中から選び始める。




