〈一章アウトロ〉共鳴する歌姫の未来-2
笑に案内されて、私達はType因子が含まれている花が咲いているという場所へとやって来た……辺りには、カラフルで様々な種類の花が調和し合っているかのような景色が目に映った……綺麗だな……でも、人が多くてて少し見づらかった……。
鑑賞していた人々を見つめていたアプルは、木製の手すりに手を置いていたキャップを被っていた、小学生ぐらいの男の子を発見した……知り合い……?
「あれ? 確か……天才子役の『大鈴 ラルド』君? アンタもこの花畑に?」
「……! 何で話しかけるんだよ……!」
ラルドって言う男の子は、アプルに対して強い声を発していた……アプルは、首を傾げながら――
「えっ?! 確か今日って、ドラマ撮影があったって――」
「そうだよ……! 今日は内緒で撮影を抜け出して来たんだ! パパもママも休みたいって言うとダメって振られるし……、スタッフからお仕事を連続で押しつけてくるし……」
ラルドは困り顔をしながら、木製の手すりに寄りかかっていた……それを聞いたセナは目を尖らせながら話していた。
「『エンタメ業界の闇』ってやつかしら? 酷いわね! でも、勝手に抜け出して行ったって事は流石にご両親も心配してるんじゃないかしら? 何とか説得して、あなたを休ませてあげるわ」
「……それが出来たら抜けだしたりしないよ……最近、パパとママが最近、ボクに対してすっごく厳しくなっちゃったんだよ……」
「厳しくなった……?」
ラルドは木製の手すりから離れて、私達に向かってズボンのポケットを摘まんでいた……。
「ボク……本当はアプルさんのような歌手になりたかったんだ……このことを話したら、両親は応援してくれて歌の稽古をさせてくれたんだ……歌の稽古は楽しかったんだ……でも、ある日突然――」
ラルドは今までの出来事を、真剣な表情で話している最中に、突然、強風が押し流されるほどに吹き荒れてきて、私は目を瞑ってしまった……。
「うわぁぁぁぁぁ! 帽子が!」
「きゃあ!」
ラルドの帽子がアプルに直撃して、アプルは風が静まるタイミングを見計らい、両手でキャップを掴んでラルドに返そうとしていた。すると、何だか人々の目線がこちらへ向かっているような気がしてきた……。
よく見たら、アプルは付けていたメガネも一緒に外れていた!
「あっ……!!」
「どうしたの? 真剣な顔で……って……あっ! メガネが……!」
アプルは慌ててメガネをかけようとして、あたふたしながらも、再びメガネをかけたが、辺りはもう注目の的だった……。
「アプルさんだぁぁぁぁぁああ!!」
「ラルド君までいる!!」
「すご~い!!」
「サインください!!」
いつの間にか熱狂的なファンに取り囲まれた、私達……セナと笑は、辺りをキョロキョロと見渡しながら戸惑い気味な様子を見せて、理央は迷惑そうな表情を隠し切れない様子だった……。
そして、アプルとラルドはやや疲れ果てながらもファンの対応をしていた……。
「なになに?! こんなに沢山……」
「チッ……群れることは嫌いなんだけど……」
(はぁ……結局ゆっくり休むことは出来なかった……)
(うぅ……このままだと、サボってたことが……)
理央は端末を操作して、何かを取り出していた……この白い人形って……?
(仕方ないね……あれを使うしかないな……)
理央は二つの人形を人々の後ろに目掛けて、床に転がすように投げた……すると、アプルとラルドのもう一つの姿が来た道を辿って行くように歩いて行った……ファンのみんなはそっちに目線を向けて――
「あっ、あっちにいるぞ!!」
「握手して~!!」
ファンの人達は、もう一つの姿の方に走ってサインや握手を求めようと追いかけていった……。
アプルとラルドは瞬きをした後に見渡しながら、急にどうなってるんだろうと言わんばかりの表情で私達に話していた……理央はアプルとラルドに状況の説明をした……。
「……あれ? ファンのみんなは……?」
「あいつらには悪いけど、少し時間を稼がせてもらった。桃さんの発明品の『ファイターズデコイ・ムーブタイプ』を使ってね……あんたも坊ちゃんも何だか休みたそうな表情をしてたから……」
「ありがとう……おかげでもう少し見て回れそう……!」
「んじゃあせっかくだし、観覧車でも乗らない? 展望から見るお花畑はきっと最高だと思う~!」
笑はすぐそこにあった、観覧車の方へと手を差し伸べた。
「えっ?! 観覧車……いいの?」
「うん! ラルド君も一緒にどうかな?」
「ボク……乗りたい!」
アプルとラルドと共に、観覧車に続く階段へと向かって行った……人が少なかったため、並ばずにすぐに入れた……観覧車は強風に吹かれると安全のため、止まってしまうが、この観覧車はどうやら最新の技術で強風に耐性がある頑丈な設計になっているらしい。
さてと……いよいよ入る番だ……私達はゆっくりと席に座った……ラルドは席を座った途端に深く深呼吸をした……。
「ふぅ……やっと安心して座れる……! しばらく歌えなかったからかな……」
「歌えなかった……?」
「うん、さっきの話の続きだけど……最近、立て続けに仕事が舞い降りて来たのは、パパもママも突然厳しくなっちゃったことなんだ……ボクに「演技をしろ」や「俳優を目指せ」とかで、演技は苦手なのに……無理矢理習わされたりしたんだ……それで文句を言うと「言う事聞かないと歌を二度と歌わせないからね」って……ボクに脅してきたりしたんだ」
「突然として厳しく……何か、心当たりはないか?」
「ううん……今まで普段通りに生活してたから、変なことがあったら気づくはずだよ……! みんなはボクの事『天才子役』だって言ってたけどさ……そこがプレッシャーだったりするんだ……おまけに俳優を目指していた同級生に白い目で見られるようになったりするから……」
ラルドは虚ろ目で、左腕を掴みながら話していた……アプルはラルドに近寄って、柔らかい声でこう話した……。
「……ラルド君……アタシもその経験をした事があるんだ……アタシは俳優を目指していたお父さんがいたんだけど、すごく厳しくて……アタシが芸能界デビューを果たすと、お父さんは自分の考えをアタシに押し付けられたの……アタシに脅しながらも演技をさせたり、予定を勝手に入れられたり……それで、怪我や事故に繋がっちゃったんだ……」
「アプル……あんたの親も毒親だったんだね……李徴の実父もそうだった……」
「イリルさん……? 私は隊長のお父さんは大らかで自由人だって聞いたけど……?」
「笑、その人は多分、李徴の義父の方よ……実父の方は関係が悪いまま、李徴の母と離婚していたの……」
「そんなことがあったんだね……でも、隊長は何でそんなことを言わなかったのかな……」
「まぁ、隊長は自分の過去を明かしたがらないから、驚くのも無理もないよ……」
私達はラルドの気持ちに寄り添いながら、話した……。
それにしても……毒親はこの時代にも存在していたのか……セナ曰く、自分の子供に対して、児童虐待や自立の阻害などといった、子供の人生を支配し、子供に害悪を及ぼす親と説明されることが多い……。
完璧主義な親が、毒親になる傾向が高く、理想の親になろうとして子供に「必ずこうなってほしい」「こうならないとダメ」と理想通りに育つことを求める……というような感じで、気づかないうちに毒親になる事があるそうだ……。
理央が挙げたケースだと、子供は望んでいないのに宗教団体に入れさせ、他の子と同じことが出来なかったり、「全国大会へ行ける」と言われて、スポーツチームの監督が暴言や暴行などの行為で子供を辞めさせなかったり、訴えなかったりと……こんな感じで、まるで「監視されている」と、精神障害や殺人事件を引き起こすケースも少なくない……。
対応としては、こういった子供にはカウンセリングを受けさせたり、毒親との距離を置くことが一般的だ……。
……説明はこんなところかな……笑は窓辺の方を見ながら、呼んでいるかのように手を振った。
「ほら、みんな……窓を見て!」
「わぁ! 辺り一面、お花が!」
「すご~い! ボク達、何だか空を飛んでいるみたいだね!」
私達が乗っているゴンドラは今、見ごろになっている位置にいるらしい……窓を見渡すと、Type因子で出来た花を一度に全て拝見した……高い場所から見渡すと、景色が変わって見えて大きな花畑が、ミニチュアのように小さくなっているような感じだった……ゴンドラ内では、先ほどの重い空気から一転して、穏やかな空気となっていた……。
「わぁ! 綺麗ね~! 絶景スポット良く知ってるわね!」
「ほらっ、ラルド君がさっき観ていた青い花もあるよ!」
「ボク……あれはわかるよ……! ネモフィラでしょ?」
「あれは、ただのネモフィラじゃないの、『Aqua』のType因子で出来た『アクアネモ』って呼ばれているの! 赤いのは『Fire』の因子で出来た『ファイアチュリアン』、あっちの黄色いのは『Thunder』タイプの『スパークパンジー』、白いお花は全て『Steel』の因子で出来ているみたい!」
「わぁ~お姉さん、よく知ってるね!」
ラルドは目を輝かせながら、花畑を見つめていた……元気を取り戻したラルドは――
「アプルさん……皆さん……ボク、何だか話したらスッキリしちゃったよ……ドラマ撮影に戻ったら歌を歌わせてくれるように説得してみるね!」
はきはきした声で言いながら、ラルドは話していた。いよいよ、ゴンドラはそろそろ降りる頃合いだ……私達はゴンドラの出口から降りて行った……。
そして、階段から降りた後……ラルドとアプルは私達の前に向かって、こう話していた……。
「ごめん……お姉さん達……そろそろ戻らないと……」
「アタシはこの後、予定があるから……ここでお別れね……今夜放送の『生中継! クイズ大戦!!』を是非、お茶の間で観てね! 今日はありがとう!」
「うん、またね」
アプルとラルドは、二人で手を振りながら、来た道へと帰っていった……。
さてと、そろそろ日が沈む時がやって来た……笑は深く深呼吸をしながら、話していた。
「私達もそろそろ帰らないとね……楽しかった~! でも、ラルド君の事について気になる事が出来ちゃったけどね……」
「そうね……何かあったら、私達に連絡するはずよ。あの番組は二人出演するって言ったみたいだから……」
私達も、駅に向かおうとして、門に向かおうとしていた……その途中で、理央は何故かしゃがんでいた……。
(……? これは……シキミか……? これは猛毒の植物だ……でも、この辺りには生えないはずだ……食料に使われる八角と間違える可能性が高いな……念のため、瓶に入れとくか……いや……帰ったらすぐに……桃さんの所で調べるべきだな……)
理央は何故か瓶を取り出して、すぐさまにしまった……どうしたのって言ったら、「何でもない」って返すばかりだった……。




