――食べ物じゃないんだ!
私とセナは、駆とウルと共に、『最強! トップスクール!』の出演者の『木胡李 蜥影』の依頼を受けることとなり、鍵となる原生生物のトンビバチを追いかけた。
ウルが先行してトンビバチの後を付けると、トンビバチは大きな木の周辺にある花壇の方へと向かった……。
「……? あのトンビバチは……花の方に向かってる……」
「トンビバチはミツバチのように花の蜜を採集して、蜜を作る習性があるんだ。でも、ミツバチとは違ってType因子が含まれている花や野菜しか好まないから、農業に採用されることは結構限られるんだ」
「そうなのね……あら? この花壇に『コスモモス』が咲いているわ! 確か、コスモスと同じ花だけどこっちはType因子が含まれているから、まるで違う花になったのね。蜥影、よく知ってるのね」
「まあ……実は、実物を見たのは数回程度しかなくてて……詳しく観察しないとよく分からないんだ……さっきの情報は、図鑑で知ったことだし……」
セナは花壇に植えてあるコスモモスを見つめて、微笑みながら話してた。駆は蜥影に手を顎に当てながら――
「トンビバチはいい原生生物なのに、何で人を誘拐しちゃったんだろう? ひょっとして、腹ペコで騒ぎを起こしたからか?」
「ネリネやラルクじゃねぇんだから、単純な理由では暴れたりしねぇだろ……」
「うーむ……確か、襲ってきたのは雄の可能性が高い。トンビバチの雄は蜜を採集しない代わりに、防衛能力が高いはずだよ。巣をつつくと出てくるトンビバチはみんな雄で女王蜂や雌のトンビバチを守ろうと必死になるんだ」
「なるほどな……しかし妙だな……お前がいたテレビ局どころが、最新の建物全般に巣を作れる場所が何処にもねぇはずだ……蜥影、本当にトンビバチが人をかっさらうって事は不可能じゃねぇか?」
「ああ、それは一切考えたことはない。俺はあの時、「トンビバチが誘拐した」って事は一切言ってないからね。そもそもの所、トンビバチが一瞬でスタジオの人達をかっさらう事だなんて不可能だからね」
「……となると、裏に誰かがいるってことかな……」
「そういうこととなるね」
やっぱり、蜥影が言っていた事はトンビバチが囮で実際には、誰かが仕込んでいたんだ……。
「蜥影は心当たりがある?」
「……い、いや……特にないよ……」
蜥影に心当たりあるかと問いをかけたら、視線を逸らしたまま、首を横に振っていた。すると、ある広告が駆の目にとどまる……。
「あれ? 変わった看板がある……えっと、『ビートラーズ』……? 見たことない広告だな……」
「……!」
「駆……任務中だ……トンビバチを探してんのによそ見するなよ……昆虫食の会社だ、俺たちに縁のない話だ」
「ああ、ごめん……蜥影は最近、友人とルームシェアしたってTVで放送されてたからさ……ここで会ったのも何かの縁だし……ちょっと支援でもって……」
「支援なら、カレーパン買うついでにあいつに何か買う位でもいいだろう?」
蜥影は何故か、頭を抱えてながら虚ろ目で考え込んでいた……。
――「蜥影……なぜお前はこの会社の社長の座を継がないんだ! 虫を愛するお前にピッタリなはずだ……家族のためにも、何とかしたいって言ってたよな……少しは――」
「嫌……」
「蜥影、大体お前はワガママを直さないとならないんだ!! 兄は虫が嫌いだからって理由でしばらく帰って来てないんだぞ!!」
――「だって、虫は……虫は食べ物じゃないんだ……!」
「きゃあ!! びっくりしたわ……!」
突然、蜥影がこわばった表情で、大きな声を荒げていた……! 急にどうしたんだろうと、私達は蜥影の様子を伺う。駆は恐る恐る、蜥影の元へと向かう。
「オレ……ひょっとして君に……怒らせるような事しちゃった……?」
「あっ……す、すまない……昔の事を思い出しちゃって……」
蜥影はすぐに口を塞ぎながら、駆に大丈夫かの様にふるまいながら話していた……。その後、セナは何か発見したかの様に指を指した。
「あら? みんな、もう一匹のトンビバチよ!」
もう一匹のトンビバチが広場の方へと飛んで来ていた……しかし、お腹が一杯かのようにコスモモスに視線を入れることはなかった……。
「本当だ! でも、木にも花にも見向きしないね……どうしてだろう?」
木や花に興味を示さないどころが、何だかこちらへと向かっている気がした……! まるで、自分達の事を『敵』とみなしているかのように攻撃をしてきそうな気がする……ウルは何かに気付いて大剣を構えながら、私達に声を掛ける……!
「……! お前ら、そいつから離れろ! うらぁ!!」
ウルは変わったトンビバチに向かって、大剣を横に降った。すると、トンビバチは木の方へと吹き飛ばされた……。
「ウルさん……そんなに刺激すると……あれ……?」
目の前にトンビバチが一瞬で大量発生していた……私は原生生物の現れ方にしては違和感がある……蜥影は目を見開いたまま話していた。
「これはトンビバチじゃない! トンビバチを元に作られた幻影だ! こいつらは俺が!」
「えっ……戦えるの……? オレも手伝うけど……」
「まぁ……少しなら……」
蜥影と駆はそれぞれハンマーとグローブにヨーヨーを取り出して、幻影達に向かってTypeの力を使った!
「じっくりと観察っと!」
「フレイムヨーヨー!」
蜥影はハンマーに『Poison』タイプの力を纏い、幻影にハンマーを振り下ろし、その後に駆がヨーヨーに、『Fire』タイプの力を纏い幻影に向かって投げた。
すると、『燃毒』反応が起こり、トンビバチの幻影達が次々と落ちていき、因子となっていった……。
「さすがだね……あっ、何か落ちてる……」
先ほどの幻影から、何かが光り輝いていて金属が落ちるかのような音がした……。私はその金属の元へと調べに行った。
「これは……ピンバッチ……?」
「やたらとデコ石が多いな……弓が持ってそうだ……」
「イリル、ちょっと見せて頂戴。何かありそうな感じがするわ……。」
セナは桃に入れられたアプリ、『アイテムスキャナー』を使って、目を青く光らせてピンバッジをスキャンした。
すると突然、マップにピコピコと赤い点が現れていった……。
「このピンバッジ……GPSが付いてるわ! しかも、マップに信号が示されたわ! ここって……」
「うげっ……この前ならず者共が住みついてて、一掃したばかりの場所じゃねぇか……あいつらの汗の臭いを嗅覚に入れるのはもうごめんだ!」
「でも、アプル達がここにいるってわけだよね……」
「アプルさんなら、時間を稼いでくれそうだけど、いつまで持つかわからないな……」
駆は蜥影の腰に付けてある四角いポーチを見つめていた……。
「ん? そういえば蜥影、見慣れない物腰に付けてたけど、それって?」
「ああ、これはアプルさんが使ってたマジックユニットだ。古代から伝わる電子機器の『スマートフォン』を基にして、マネージャーが作ってくれたらしい。これのお陰でアプルが――」
「待って?! ここにあったらダメじゃない!」
「ああっ! まずい! あの子、おっちょこちょいな所があるから……今頃忘れ物に気付いたに違いない! 急ごう!」
「うん……!」
蜥影は一秒も無駄にはしないような速さで、急いで赤い点の場所へと向かった……。その後で、蜥影を追いかけるかの様に私達も走った……!
(そう言えば、さっきの蜥影のこわばった表情……あっ、ひょっとして……昆虫食が原因……?)
――一方その頃……薄暗くて水が落ちる音がハッキリと聞こえるコンクリートが打ちっぱなしの部屋で、『最強! トップスクール!』の出演者全員や一部のスタッフ達が縄で縛られ、身動きが取れなくなっていた……。
「蜥影……次に見つけたら、わが社に貢献させよう……」
「待ってよ! アンタがあたし達を連れ去らったの? 一体何が目的?」
「ああ、いきなり捕えてしまって、すまなかったね。私は『健康昆虫社』のスカウトマンだ……君たちの知り合いの木胡李 蜥影君をどうしても必要としているんだが、相手は昆虫食を嫌っているからこうするしかなかったんだ!」
「俺らを昆虫食にするってことかいな? アホか! 『人間食』は違法やろがい!!」
「昆虫食ならぬ人間食になるか! 俺らはただ脅されてるっちゅうねん! あのおっさんの要求は蜥影君なんやて!」
「……でも、残念ね!」
アプルは手慣れたかのように、縄を両手から全身まで、速やかにほどいていった……。
「あたしはバラエティー番組で縄抜けの特訓をしてるから、この程度の束縛は無駄なのよ!」
「フン、まあいいでしょう……幻影よ、やってしまいなさい!」
アプルがトンビバチの幻影に立ち向かおうとしているその横に、他に捕らわれているのは出演者やスタッフの他に、ゲストとして出演するはずの戦士も巻き込まれてしまったのだ……。
そう……ネリネと弓だ……彼女たちは戦士の中で最もタレント業に向いているとのことで、番組プロデューサーにゲスト出演して欲しいと依頼をして来たからだ。しかし、この時はまだ部外者がひっそりといたことにプロデューサーも、二人も気付いていなかった……。
二人互いに背を向けて縛られながら、小声で話していた……。
(アプルちゃん大丈夫なのか? アタシ達も加勢したいけど、テレビ局に武器は持てないって言われてたから、寮に置いてきちゃった……)
(心配しないでネリネ、いざとなったら助けがここに来てくれるって♪ なぜなら、コッソリとピンバッジを外に出て行ったトンビバチに仕込ませちゃったのよね~)
弓は小声でウインクをしながら、ネリネを安心させた。しかし、問題点はまだあるようで……。
(おお! さっすが弓先輩! ……じゃなくって、アプルちゃん一人でどうにかできるのかってことだよ~ほら~)
(ああ、確かにね……でもあの子なりにやってくれるだろうし……)




