桃の発明品
天閃野家と別れた後の、フューチャーファイターズの拠点内にて、オペレーターが戦士全員に声を掛けた。
「ファイター各員に通達、隊長から緊急通達があります。ファイター各員はモニターのある部屋への移動をお願いします。または、特別通信アプリでの視聴をお願いします」
ファイターズの拠点の各モニターや端末のアプリに李徴が映っていた。
「みんな、こんな遅くにすまない……依頼に疲れて、寝てた者も多少いただろう……実は、隊員から連絡があった……実は、ウイルス因子が、ニュートラルシティどころが、メイキョウ地方全体にバラまかれてしまったと、連絡が来たのだ……」
李徴は、これまで起こったことを踏まえて、関連する画像を次々と映し出した。
「発覚したのは、天閃野家の長男、楠木様が、車でご家族と合流する途中で、ある家族がウイルス物質を持っていたと証言をした。調べてみた結果、ウイルス物質があちらこちらに現れていったのだ……。恐らく、原因は海賊版街から出てきたウイルスの世界と繋がる穴だろう……その穴は今、塞がれているが、再び活発になる可能性もある。それと同時に、『シャドウ・ウイルス』のエネルギーも前よりも動きを見せてきている……我々は急いで情報収集をして、戦いに備える、皆はウイルス物質の回収、又は除去に専念してくれ、それでは」
翌朝、私達は荷物を運んでいた。誰のなのか、何なのか分からない、ダンボール箱を急いで部屋から片付けていた。部屋中、埃が被っており、紙も散らかっていた……。セナは、眠そうに話していた。
「気になる点が沢山あって、寝れなかったわ……」
「私も……」
セナは、ロボット掃除機のスイッチを押した。
「これでよし、今日はイリルの部屋を急いで片付けましょう、あと桃も、私達に用があるって言ってたから」
「わかった……」
時は遡ること、昨日の今朝――
「あ、それと別件なんだが……」
「何?」
「君たちにそろそろ部屋を用意しないといけない。ずっと医療室生活で、さぞ退屈していただろう」
李徴はセナにマップアプリの位置をマークした……。
「今日、会議で決まった事だが、メイキョウ地方拠点のこの辺りに、かつての大戦士が使っていたという部屋が発見された。そこを君達の部屋として贈呈したい」
「えっ……? 大戦士ってことは、ライルの……?」
「誰の部屋かは明かされていないが、きっと、かなりの成績を残した大戦士だと、別の隊長から口にしていた。しかし……誰も使っていないがため、ただの物置となってしまっている……片付けなら、自身でやったり、ロボット掃除機を使う必要があるが、それでも大丈夫か?」
「私達は大丈夫よ。でも、李徴は手は空いてないのかしら?」
「……なんて言うか……すまない……とりあえず、天閃野家との合流をよろしく頼む」
李徴はそう言いながら、医療室を振り向かずに去っていった……。
――こんな感じで、私達はかつての大戦士の部屋を呼ばれる部屋に住むこととなった……。セナは最初は「いきなりこの展開?!」って理不尽だと思いながら話していたけど、きっと、ライルの部屋かもしれないって説得したら、あっさりと受け入れていた。
「はぁ……これでやっと半分ね……」
セナと一緒に、あと少しで終わるかもと思った所に、廊下からペースが速い足音が聞こえてきた……。
「ん? この部屋って……うわぁ!」
「か、駆?」
駆は入口付近の積んであって、落ちそうになったダンボール箱を抱えながら、話していた。
「イ、イリルさん?! 君達、部屋の掃除頼まれてたの?」
「うん……色々あって、所で、どうしたの?」
「あっ、実はさぁ……桃さんがどうしてもセナさんに見せたいものあるって言ってきて、君達を呼びに、探し回ってたんだけど……」
私達は、駆の後をついてきて、桃がいる研究室へと入っていった……。研究室には、液体が入った柱みたいな物やコンピューターがいっぱいあった……。入って行って、すぐにウルも来ていて、頭をかきながら独り言を言っていた。
「いったい何の用なんだ……俺、まだ小説読み終えてねぇぞ……」
「ウルー桃さんーイリルさん達を連れて来たよー!」
「駆、イリルにセナ、やっと来たか」
私達が、ウルの元へ来た途端に、コンピューターの前のゲーミングチェアらしき椅子に、桃が立ち上がっていた。
「やぁやぁ、諸君、よぉ~く来てくれたね~」
桃は私達に近づいた後、駆は桃に、何故ここに呼ばれたか話した。
「ひょっとして、昨日回収したウイルス物質のことですか? あれ、どっからどう見てもたい焼きで、持ってた人と新しいのを交換するのに大変でしたよ……」
「俺も……昨日、食料買いに行ったら、服屋の方から変な臭いがして、何事だと思ったらマネキンで、帽子にウイルス因子がくっついてたんだ……その帽子は昨日仕立てたばっからしいが、ならず者の足みてぇな臭いで持ち歩く事ですらままならなかった……」
ひょっとして、笑や美菜が見つけたっていうウイルス物質かな……? いつの間にか回収されてたんだ……。ももは、気難しい顔でこう話した。
「ああ……そうだよ……ウイルス因子は何でも、無差別でウイルス物質にしてしまう恐ろしいものだからね……、一度感染すると、新品の洋服でもボロボロになったり、最新技術の乗り物が殺人マシーンに変えられちゃったりするからね……。でも、私がすごいものを発明したのさ!」
桃は何かを右手に持って見せた……これってディスク……?
「これは、ウイルス物質のウイルス因子を取り除く、専用ソフトさ!」
桃はセナに向かって、こう話していた。
「セナ君、ちょっと君のドライバーで、これを入れてみてくれ」
「これでいいの? 先に言っとくけど、変な事になったらタダじゃおかないわよ!」
セナは、ドライバー画面を開いた。そのドライバー画面に、桃がディスクを入れた……。
――『ウイルストリノゾーク』がインストールされました。
「あら? 何だか急に、ウイルス因子を取り除けるような気がしてきたわ」
「うむ、それじゃあ試しに、あのウイルス物質を狙って取り除いてくれ」
あっちのデスクの上に、回収してあったウイルス物質二つが置いてあった。早速、セナはアプリを起動する。
「えいっ!」
セナは、ウイルス物質に向かって、手を指した。すると、ウイルス物質から、ウイルス因子が煙のように、浮かび上がって消え去っていった。
「あっ! ウイルス物質のたい焼きと帽子からウイルス因子がかけ離れていく!」
「どうやら成功のようだね! 調べてみた結果、ウイルス因子の反応がなくなった事も確認したよ」
「すげぇ! 汚染しちゃったたい焼きが、ただのたい焼きに戻った!」
「……桃さんにしては、常識だな……」
「ウル君……褒め言葉になってないと思うが? まぁともかく、このアプリをうまく使って、ウイルス物質を取り除いてくれたまえ!」
駆とウル、それぞれ、たい焼きと帽子を手に持った。
「ありがとう! セナさんに桃さん! それじゃあ、オレはそろそろ行くよ」
「俺もちょっと帽子を返しに行ってくる、じゃあな」
「助かったよ。それじゃあそろそろ行くね」
私は、再び部屋の片付けに戻ろうかとした所、桃はまだ何かあるかのように止めていた。
「あっ、待ってくれ! ついでに、これも試して来てくれ! もし、君達がこれから、冒険に出るって時に役に立つかもしれないよ?」
「別に、私達は冒険に行くって決まったわけじゃ――」
「記憶探しの冒険に行くって事も万が一あり得るだろう? 今の時代、アシストロボットと一緒に向き合わないと難しい時代だからね。ましてや、セナ君は、トキワタリのロボット……端末機器も兼ねてるから、私にとっても、イリル君にとっても好都合って言ってもいいだろう! あっ、今までのディスクは全部君たちに贈呈しよう」
……桃に言われるがまま、セナにディスクを入れて、インストールを連続で続けた……。セナも連続で入れられて、少し戸惑いを感じていた。
そして、やっと部屋へ戻って掃除を再開した。日が暮れる時間にはスッキリした空間になっていた。
「ふぅ……やっと終わったわね……後は、必要最低限の家具を置きましょう」
「ねぇ、セナ……」
「何? イリル?」
「思ったんだけど、私達が二人で使うにしてはちょっと広くない? ベッドやテーブル、クロゼットを置く後を想定しても……」
私は広い部屋を贈呈されると、嬉しいけど、何だか物寂しさを感じる……。普段は日常茶飯事に耳にしていた、ざわめぎ声もしないし、微かにしか耳にしない雫の音も普段よりも大きく感じていた。
「そうね……大きいこと、広いことはいい事だとよく言われるけど、実際には程々の面積や体積が一番と言うことの方が多いわ……わざわざ、大きいサイズの箱に小さくて細かすぎるものなんか入れないでしょ?」
「うん……」
その日の夜……、私はベッドの上で仰向けになって、深いため息を吐きながら、目をつぶっていた……。
――一方その頃、桃が端末を見続けながら、ソワソワしながら、キーボードを打ち付ていた……。
(まさか、ウイルス因子がバラまかれる事態になるとは……正直、あれだけは使いたくなかったけど、状況は異常事態だ……。こんな所で必要になってくるなんてね……)




