「君の体は――」
幼い頃からよく見る夢……この時のオレは、自分が周りと違っていたと言う事は、まだ知らなかった……。
より普通の家庭に生まれ、より普通の子と足並みを揃え、より普通の生活を送っていた。
それが、自分に隠された能力があったとしても……。
「グラス市南公園で、火事があったと119番通報があり、この火災により、小学生二人が火傷を負ったとみて調べています」
「噓だろ……あいつ……炎出しちゃった……?」
「はぁ? 駆?! あのクソ迷惑な暴れん坊を?」
「先生……オレ……悪い人になっちゃったの……?」
「いや……違うんだ、駆君……落ち着いて聞いてくれ……君の体は――」
「……う~ん……またあの夢かぁ……」
「おはよう、駆、何か困りごとか?」
闇バイトで集められた強盗達の事件を解決してから、二日後の今朝、オレは横向きになって目を開いた。滅多に二度寝しないオレは、どうやら二度寝しちゃったみたいだ……。
「あ、おはようウル……なんでもないよ~! あはは……」
「そうか? それよりもお前なぁ……いい加減、俺の尻尾を抱き枕代わりにすんのやめろよ! ここ数日間、起きたら駆が俺のベッドで寝てて、心臓止まるかと思ったぞ!」
そう言えば、オレは現在、ウルのベッドの上にいるんだった! 確かに今まさに、ウルの尻尾を抱きかかえている最中だ!
「ご、ごめんっ! じ、実はまた、一回早く起きちゃってて、テレビ付けるのも迷惑かもなと思って、もう一回ベッドに戻ろうとしたんだ。でも、その時またウルのベッドの方向へと歩んで行っちゃったみたいで……き、君の尻尾って、結構もふもふだったから、癖になっちゃってて……」
「なんだよ、もふもふが癖になったって……それは一旦置いといて、顔洗いに行くぞ。今日はニュートラルシティ全般で依頼があるから少しづつこなして行くんだろ」
そう言えば、ちょうどいい時間だ。早速、ウルのベッドから降りたオレとウルは、洗面所へ向かいにいった。今日はどんな一日になるんだろうな。
「ガーーン! もう、パンが売り切れちゃった……」
「ご、ごめんね……みんなうちのパン凄い勢いで買ってくれるから……明日も仕入れておくから」
「セナ……私は別に定食でもいいから……」
食堂にて、私とセナは会話の声のざわめきと、コーヒーの匂いに揺られながら、パン屋の直売所へ並んでいた。しかし、やっと出番が来たというところでパンが売り切れてしまった……。セナは頭を垂れながらたらたらと話していた。
「笑が美味しいって言っていたここのパン、どんな味か楽しみにしていたのに~……」
「仕方ないよ……セナ、次は朝一で並んでみる?」
「ん? どーしたんだ? お前たち」
セナを慰めようとした所、灰色のロボットに声をかけられた。人ような感じのロボットは『生命機械人』と呼ばれる者だ。レイ曰く、最初から生命機械人と、人間または獣人から、何らかの理由で生命機械人に生まれ変わる者がいる。前者は生命のプログラムをセットして、生命に関わるテストを複数回受けることで、ようやく人と認められるらしい。試験はかなり厳しいらしく、人と認められるのは、早くても5年かかるそうだ。
後者は、記憶をそのままに肉体がロボットになる技術だ。心は最初から人のままなので、特別なテストは不要で、身体に関わるテストを行うことで、人として認められるらしい。しかし、治療費はかなりの高額だそうだ……。
説明を終えた所で、その灰色の生命機械人は、両手に大量のパンを抱えながら、私達に話かけてきた。この大量のパン、まさか一人で全部食べる気なのかな……?
「今の聞いちゃったぜ? お前のちびドローン、パン食いたくて今朝、並んでて目の前で売り切れでガッカリしたことを!」
「全部聞こえるぐらいにバラさないで頂戴! それに、私はちびドローンじゃなくて、セナって名前があるんだから!」
「セナ……あんまり向きにならないで……私はトキワタリのイリル……あんたは?」
「俺? 俺は鉄山 ラルクって言うんだ! 俺はちょっと後に入隊したから、トキワタリのことは知らなかったんだ」
生命機械人の鉄山 ラルク(てつやま らるく)、射撃が得意な新入りだそうだ。
「ほらよっ、これ欲しかったんだろ?」
ラルクは私とセナに向かって、袋の音を立てて、何かを投げてきた。これって……焼きそばパン……?
「おうよ! それ、俺のオススメだ! またなっ!」
「あっ待って、譲ってくれてありがとう、またね」
ラルクは私達と別れたら、食堂を後にした。
焼きそばパンを食べた後、私達は様々な依頼を受けようとしていた。この仕事に、記憶関するものがあればいいなと、私は思った。
ここ、フューチャーファイターズはウイルスの討伐が基本だけど、それ以外のことにも力を入れているそうだ。例えば、日常で茶番に起きる事件の解決や、猫探しまでもある。他にも『3020メイキョウコレクション』とか言うイベントの出演や、ファミレスの厨房の依頼にも手を貸している。
まぁ……セナ曰く、冒険者ギルドのような感じだって……何故か言うと、セナはライトノベルやアニメをよく読んだり、観たりするらしく、仕事中や会話中でも、良く例えることがあるらしいんだ……。
……この話はさておき、私とセナはニュートラルシティで、いくつかの依頼を受けている最中に、電気屋の前に見覚えがある人物をぼんやりと見つけた。
「あら? あの後ろ姿……駆じゃないかしら?」
あれって……駆? 街の親子と何話してるんだろう……。
「ありがとうございます、ファイターさん! ほら、ありがとうは?」
「あ、ありがとう……お、お兄ちゃん……?」
駆は迷子になっていた子供を、母親の元へ送り届けた後のようだった。
「いえ、このくらい大丈夫ですよ! あと、君はお母さんから離れちゃダメだよ!」
兄弟の兄の子が駆に問いをかけた。
「ねぇねぇ、ファイターさんって、『タイプのチカラ』って言うの使えるんでしょ?」
「そうだよ! この力で悪い怪物をやっつけたりするんだぜ!」
続いて弟の子が駆に問いをかけた。
「もしかして、お兄ちゃん『ぞくせいたい』と言う呪文使えたりするの~?」
駆は、少し沈黙をした後に、声を震えながら話していた。
「え、えええええっと……呪文はちょっと使えないかな~……それよりも君、その言葉どこで習ったの……?」
「お母さんがそのニュースみてた~」
「もうっ! この子ったら……すみません……」
「「おしえて~! ねぇ早く~!」」
兄弟は目を輝かせながら、駆のことをじーっと見つめている。しかし、駆の方はしばらく、視線をそらしていたままだ……うん、私は兄弟を何とかして説得してみよう……私はセナと共に、子供達の所へ向かって行った。
「二人とも、このお兄ちゃんはTypeの力は使えっても『ぞくせいたい』って言うのは使えないよ。それに、お兄ちゃん困っているから、しっかりごめんなさいしてね」
「は~い、ごめんなさい……お兄ちゃん……」
兄弟の子供は、駆に向かって、首を下げた。その後、兄弟の母親も続いて、首を下げた。その後、その家族はデパートの方へと行った。
その後、私達もこの場から離れようとしたけど、駆はまだ表情が曇っていた……確か、さっきの子供達が言ってた『ぞくせいたい』とか何とか言っていたけど、駆に関係があることなのかな……時間を見つけて、駆と話すことにしよう……。
「イ、イリルさん……さっきはありがとう! カッコ悪い所を見せられちゃったね……」
「別にいいよ……」
セナは少し疑問に思ったことを駆に問いをかけた。
「そう言えば、さっきの会話についてだけど……子供達が言ってた『ぞくせいたい』とか言うのってなに? それについて聞かれていた駆、変だったわよ」
「あっ……聞いてたんだね……んじゃあ……他の人にはバラさないでって約束してくれる……かな……?」
「う、うん……」
――一方その頃、ニュートラルシティビルで……。
「フぬぬ……あのトキワタリだがなんだが知らない、あの女~! 今度会ったらこれで全力で襲い掛かるから!」
以前、テング・マッシュとの戦いで、イリルに倒されたウイルス先遣隊の三人組、人気のない静かな場所で座り込んだ。ベンガルは足を強く踏み込み、ヴェンルは、ベンガルを落ち着かせようとしていた。
「ベンガル……」
その横目に、シャド・ニャンは何やらニヤリと笑ってきて……。
「ニャフフフ……いい事思いついちゃったニャ!」