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02世界の終わりは突然に

 世界が終わってもまだ電気は生きていたようで、スマホを充電器にぶっ刺しながら職場に電話してみたが当然つながることはなかった。

ついでに日付も確認したが、映画では『3日も寝ていた』なんて常套句があるが、百合の場合は1週間ほど眠っていた。


(さて、どうしたものか……)


 百合は再びベランダに出ると今度はコーヒーの代わりにビールを飲んだ。

もう仕事に行くこともないし、そもそも世界は滅んでいる。

まだ午前中ではあるが、この時間から酒を飲んでも文句をいう人は誰一人としていやしない。


「あ゛ぁー……」


 隣からうめき声が聞こえてきた。

隣のベランダには普段よくしてもらっていた元住人の梅子おばあさんがゾンビとなって出てきている。


「梅子さん」

「あ゛ぁー……」


 声に反応はするが、こちらの顔をみたあとは興味なさそうにベランダからの景色を眺めている。


(私に興味ないのかな……ゾンビだったら人を襲うもんじゃないの?)


 映画やドラマのゾンビたちは人を見つけるやいなや食べようとして襲い掛かるイメージがある。

しかし、目の前の梅子ゾンビは生きている百合に全く関心を示さない。


「うーめーこーさーんー」

「あ゛ぁー……」


 もう一度呼び掛けてみるが、梅子ゾンビは同じように少しだけ百合をみて、興味なさげに視線を景色に戻す。


「ほらー新鮮なお肉だよー」


 試しにぎりぎりまで近づいて手のひらをパタパタ動かしてみる。

しかし、梅子ゾンビはまるで反応を示さない。

目の前にある新鮮な人肉よりも、景色のほうが梅子ゾンビには興味が惹かれるもののようだ。


(……やっぱり一回噛まれてるから、私もゾンビと同じにみられてるのかな)


 もう傷跡はない。

しかし、噛まれたということははっきりと覚えている。

ならば自分もゾンビになってしまったのかというと違う気がする。

目の前の梅子ゾンビは首筋や腕など至るところに噛まれたあとがあり、流血のあとがある。

顔色も青白く生気を感じない。

だが、今の百合は生きている人間とまったく同じ。見た目は生身の人間となんら変わりはないのだ。


(ゾンビは私に反応しないのかな? 試してみようかな……)



 興味本位で外に出てみた。

道にはすでにゾンビが数体徘徊している。こちら側に向かって歩くゾンビもいる。

何か反応するかと思ってその場で待ってみたが、ゾンビは百合の目の前をゆっくりと歩きそのまま通過していった。


「ゾーンービー」

「あ゛ぁー……」


 声をかけると一瞬振り向きはするが、梅子ゾンビ同様『なんだ、お仲間か……』とでもいうようにすぐに視線を前に戻してしまう。


「マジで反応しねぇー」


 世界が崩壊し、ゾンビだらけになった。

普通ならばここからどうやって生き残るのかというサバイバルストーリーが幕を開けるのだろう。

だが、ゾンビたちは百合を『仲間』と認識しているのか、まるで反応をしめさない。


 部屋着のスウェットのまま、スーパーへと向かった。

映画とかだったらショッピングモールなどで籠城するのがよくあるパターンだ。

もしかしたら生きている人たちがスーパーに立てこもり、なんとか生き延びようとしているかもしれない。

そんなまだ生き残りがいるかもしれないという希望、あとはタバコと酒と食料の調達を目的に百合は足を伸ばした。


 結果からいうと、答えはすでに籠城が終わったあとだった。

スーパーの前には頭に斧やナイフが刺さったゾンビの死骸が複数、そして戦ったであろう人たちの死体が複数。

噛まれる対策としてか腕や足に雑誌を巻き付けたり、衣類でグルグル巻きにしている姿が見られる。

だが、兵たちが夢のあと。

そこに残るは骸かゾンビとなって徘徊する姿である。


(1週間しか経ってないのに、もうそんなになる?)


 店内も確認してみたが、同様である。

徘徊するゾンビ、戦ったであろう人たちの死体。


(この死体もしばらくすればゾンビになるのかな……)


 もう息絶えたものを見ながらそう思う。


 しばらく人が籠城していたのだろうが、それでも食料品はまだ残っていた。

生ものは痛んだものばかりだったが、乾き物やパッキングされたもの、定番の缶詰などは一人で消費するには十分な量がある。

ショッピングカートにそれらを片っ端からぶちこみ、レジに残っていたタバコとライター、ついでに蝋燭なども入れて今日のお買い物は終わりにした。


 夜になると、ついに電気がつかなくなった。

むしろ一週間無人でよく稼働していたなと思う、もしくは昼までには動かせる人物が生きていたのか。

 ありったけもってきていた蝋燭に火を灯せば、1kの百合の部屋はそこそこ明るい。

もしかしたら同じように生きている人がいたら、蠟燭に火を灯しているかもしれない。

そんな思いで夜の景色をベランダから見てみたが、空に月と星が輝くだけだった。


(今日は食料品とタバコとライターを持ってきたから、明日は何持って来よう。

必要なもの……あ、充電器と充電式の電池とかあったらいいな。

ホームセンターでソーラーパネルとか置いてないかな。

あー、あと医薬品とかもあったほうがいいんだろうな。ドラッグストアにも行ってみるか)


 必要そうなものをスマホにメモし、百合はベランダからの静かすぎる闇に眼を向ける。

暗くてわからないが、時折ゾンビのうめき声が聞こえてくるから近くにゾンビがいるのだろう。

隣をみれば相変わらず梅子ゾンビが景色を眺めている。


「梅子さん世界終わっちゃったね」

「あ゛ぁー」

「もうここらへんの人は皆死んだのかな」

「あ゛ぁー」

「どうして私だけ生きてるのかな」

「あ゛ぁー」

「私はゾンビ? 人間? どっちだと思う?」

「あ゛ぁー」

「たまーに嫌気がさして“世界なんか滅びればいい”って思うことはあったけど、本当に滅ぶと思わなかった」

「あ゛ぁー」

「明日から何して生きよう」


 答えが返ってくることはないが、それでも百合は梅子ゾンビに話し続けた。

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