人魚を釣った話
書いているとだんだん長くなってきます。
とはいえ、この内容だともっと長くなる気がします。
ショートショートで内容を増やすのは難しいです。
いっそ枚数を増やしてしまうか・・・
その日は暇で天気も良かったので近くの川に釣りをしに行った。
すると人魚が釣れてしまった。
「なんでこんなところに人魚がいるんだ」
その人魚はきょろきょろしながら、
「ここはどこ?。あなたは誰なの?」
と聞いてきた。
「ここはエルムの国。僕はセレン。君の名前は?」
人魚は川にもいるのか?
「私はカルシュ。川なんか知らないわ。海で泳いでいたらいきなり引っぱられたのよ」
カルシュは僕をじっとりと睨んでいる。
何かおかしなことが起こっていることだけはわかる。
「えっと、私を食べても美味しくないし、不老不死にもならないわよ」
彼女はこちらを睨んだまま静かに告げる。
「食べないよ」
慌てて手を振って答える。
しゃべる相手を食べる気になるかよ。
カルシュは少しほっとしたようだ。
しかし他の人に見つかると面倒だ。
「とりあえず家に隠れよう」
「やっぱり食べるの?」
「食べないよ!」
幸い誰にも見つからずに家に入ることができた。
しかし困った、こいつをどうやって海に帰そう。
「まあ焦ってもしかたないわよね」
カルシュは目を閉じ、何か気を入れる。
しばらくすると二本の足で立っていた。
「お前人型になれるのかよ!」
「人魚は優れた人類なのよ」
ふふん、とカルシュは自慢げに言った。
なんか腹立つ子だな。
それから二人で話し合い、カルシュの故郷を探しに行こうということになった。
釣り上げてしまった負い目もあったし、ずっと居られても困る。
休みの度にあちこちに出かけた。
僕は海のことがわからないしカルシュは陸のことがわからないので全くの手探りだ。
水族館や図書館なども調べてみたが、これといった手掛かりは見つからない。
「だめだ、わからん」
1年近く探したが、カルシュのいたところの目星すらつかめなかった。
「もう一度あの川を探してみるか?」
「あそこは何度も見てみたけど何もなかったじゃない。普通の川よ」
カルシュが現れた川は既に調査済みで、だからこうして旅行していたのだ。
「明日ちょうど一年目だから行ってみよう」
カルシュもしかたないといった顔で、
「そうね、念のため行きましょうか」
川は一年前と同じく静かに流れていた。
ここから人魚が出てきたとは思えない。
二人してため息を付いていた時、川向こうから誰かが泳いでくるのを見つけた。
何か前にも見たことのある光景だな。
そんなことを考えていると、やがてその人は水の上に現れた。
人魚だった。
なんでまた人魚が出てくるんだ?
「お姉様!」
お姉様?
「フローラ、何でここに?」
「お姉様がいなくなったので皆で探していたのです。見つかってよかった。さあ、帰りますよ」
「え、ちょっと待・・・」
カルシュは同族らしき人魚に強引に手を引かれ、そのまま川の中に消えていった。
後には呆然と立っている僕だけが残された。
僕はとぼとぼと家に戻った。
カルシュの消えた家は、なんだか寂しさが増した感じがする。
たった一年間の事なのに。
ため息しか出なかった。
それからしばらく経った。
夕方の空に半月が出ている。
あの日も確か半月だったなあ、と思い出す。
家に入ると誰かいる。
僕に気が付くとニコニコ笑って、
「やっと帰ってきた」
「カルシュ?。戻ったんじゃないのか?」
カルシュは混乱している僕に構わず、
「いやあ、大叔父が一年も世話になっておいて何の礼もしないのは一族の恥だとか言ってさ。セレンを連れて行くことになったんだ」
え?、どういうこと?
「さあ、行くよ~」
カルシュは僕の手をつかんでそのまま引きずっていった。
「行くってお前の家にか?」
「そうだよ~」
「待てよ、僕はまだ行くといってないぞ!」
カルシュを釣ってしまった僕は、今度はカルシュの国に連れていかれることになった。
こいつら人の話を聞けよ。