2023/2/3 東京、男
ユーザID:maki1206xxxx@xxx...
パスワード:***********
男の手が紙面に書かれた英数字を打ち込んでいく。たん、とリズミカルにエンターキーを押下すれば、歓迎を示すメッセージが表示された。
――ようこそ 篠原真希 さま
二段階認証の設定がされていないアカウントは、いくつかの文字列といくつかの文字列の照合だけで簡単にログインできてしまう。それぞれのマイページを見れば、彼女の渡航歴が、立ち寄った店が、宿泊先が、赤裸々になった。
『2023/2/1 9:30 HND → 2023/2/1 16:30 CDG』
『2023/2/1 17:56 xxx Bus 1,989』
『2023/2/1 19:24 Restaurant xxx 10,356』
『Plan to stay xxx Hotel』
…
男はそれまで持っていた紙を放ると、別の紙束を手繰り寄せた。
幾ページかめくった先に踊る文字と画面とを見比べ、小さく頷く。
『☐ ドイツに入国する』
『☐ カールスルーエ城に行く』
『☐ トゥルムベルクに行く』
『☐ シュトゥットガルトに行く』
男はある一都市に狙いを定めると、国際線の空席照会ページを開いた。
――タイムリミットまで、あと 7 日。