4/34
2023/2/2 東京、男
ぱらり。
男の手がページをめくる。何かの目印だろう、時折隅を折り曲げられた紙の束は、日記ほどの厚みがある。本か何かを丸ごとコピーしたかのようなそれは、A4 の茶封筒に入っていた書類のひとつだ。
茶封筒には他に、恋心を綴るにふさわしい花柄の便箋と、それからクリアファイルに纏められた資料が同封されていた。しかし男の興味の対象ではなかったのか、一度目を通されたそれらは、机の隅へと放られている。
それよりも。と男はもうひとつ、白地の小さな封筒を再び開いた。茶封筒とは別に届いていたものだ。時候の挨拶からはじまりいくつかの言葉が綴られたその内容は、どこか謎めいている。けれどとある明確な期限が切られていることだけは読み取れた。二月十日。それが送り主にとって、あるいは男にとって、運命の日なのだろう。男は小さく呟いた。
――タイムリミットまで、あと 8 日。