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グーパン令嬢〜グーパンしたら婚約破棄され、悪役令嬢的な扱い受けました〜

作者: わにわに

私の名前はカタリーナ・コブッシ。割とどこにでもいる平凡な伯爵令嬢だ。


年齢は15歳。恋をしたいお年頃!なのに⋯⋯伯爵令嬢という立場のせいで、私には親が決めた婚約者がいる。


自慢じゃないが、顔もいい。

自慢じゃないが、性格もいい。


それなのに、結婚相手の一人さえ自分自身で決められない。そんな立場に、私はある。


「あーあ、憂鬱」


マカロンをパクモグパクモグ食べながら、今日も私は伯爵令嬢という生まれを呪う。




◆◇◆◇




「カタリーナ様、ウワキン様が到着されました」


「あーはいはい、今行く」


メイドの呼びかけに心の中で一度舌打ちし、部屋を出る。


ウワキンとは、私の婚約者の名だ。子爵の息子、いわゆるボンボン。親の七光りで私の夫になる権利を得た、ラッキーボーイだ。


別にウワキンのことは嫌いじゃない。ウワキンは顔もいい(私とは釣り合わないが)し、性格もいい(私とは釣り合わないが)。


ただ、付き合うとなったら話は別だ。なぜなら私がウワキンにときめいていないから。ウワキンはいい人ではあるが、所詮いい人止まりの男。恋愛対象では無いのだ。


何度、他に男を作ろうかと思ったことか。

何度、駆け落ちを夢に見たことか。


けど、それは結局夢に終わった。性格のいい私には、親を、そして未来の旦那を悲しませることは出来ない。


そしてまた、まだ私の心臓をトゥクンと揺らす男に出逢えてもいないから。


「もしそんな殿方に出逢えても、きっと私はウワキンを⋯⋯コブッシ家を選ぶんだろうけど⋯⋯」


自分の淑女さに怒りさえ感じながら、私はウワキンの元へと向かう。




◆◇◆◇




「やぁ、カタリーナ。今日も素敵だ」


「どーも」


今日は月に一度の舞踏会の日。会場は持ち回り制であり、今月はコブッシ家の邸宅で行われる。


ホストとしてウワキン始め大勢の来客達に挨拶回りをし、一通り終わったところでワイン片手に一息ついた。


キラキラした会場、そこにひしめく貴族達。

ワイワイガヤガヤ、ワイワイガヤガヤ。


「⋯⋯まだダンスの時間までしばらくあるか」


うるさいのが苦手な私は、出なければいけないダンスの時間まで、目立たない庭の奥で隠れることにした。




◆◇◆◇




「やーだー、ウワキンったら〜」


「いいじゃんか。こんなとこ誰も来やしねぇよ」


「カタリーナって婚約者がいるのに悪い男ね」


「あいつヤらしてくんねーもん」


庭の奥、私お気に入りのプレイスに向かうと、そこにはもう発情期の先客がいた。猿がよ死ねよ。


⋯⋯ん?


⋯⋯⋯⋯ウワキン?カタリーナ?


「あ⋯⋯んっ⋯⋯」


「べローネ、好きだぜべローネ」


私には無論そんな趣味は無いのだけれど、耳に届いた固有名詞、耳に届く()()()()()()()()()。その正体を確かめるべく、猿共の発情を嫌々覗く。


「べローネっ!!べローネっ!!」


あ、ウワキンだ。




◆◇◆◇




「ウワキン!!いいっ!いい⋯⋯いっ!?」


「べローネ!!べロー⋯⋯ぎゃわっ!?」


私が茂みから姿を現すと、私に気付いた2匹が素っ頓狂な声を上げ、合体を解除した。別に合体したままでもいいのに。


「嘘!?カタリーナ様!?なんでここに!?」


「カタリーナ、違う。違うんd」


「死ね」


猿如きが人間様と会話しようとしてんじゃねーよ。本当は獣なんかには触れたくも無いのだが、罪には罰を。人間様にタメ口をきいた猿には躾をせねばなるまい。


なんかギャーギャー言ってる2匹を無視し、私は自慢のグーパンを猿Aの鼻っ柱に叩き込む。結果、


「ぎゃーっ!!!!!!」


「ウワキンー!!!!!」


猿Aの顔面は拳の形に陥没した。




◆◇◆◇




この世界では一人一つ、生まれたと同時に神様から『ギフト』を授かる。


それは例えば、『手のひらから水が出せる能力』であったり、例えば、『火傷をしても痕が残らない能力』であったり。人によって様々だ。


そして私の得たギフトは、


『音速のグーパン』


文字通り、音速のグーパンを繰り出せる能力(ちから)だ。


「何発で死ぬかな?」


速度は威力。隣で泣き叫ぶ猿Bのことなどガン無視し、2発、3発、4発、5発と、二度と人間様にナメた態度が取れぬよう、猿に躾を叩き込む。




◆◇◆◇




「汚れちゃった⋯⋯拳が」


「危うく殺人罪で経歴が汚れる所だったわ!!この大馬鹿もんが!!」


「嫌ですわお父様、これでもきちんと加減しましてよ」


「鼻骨複雑骨折、前歯全損、顎骨骨折、両肩骨折!!これのどこが加減した結果だ!!」


「死んでないではありませんか」


ニコッと笑い正解を述べる私に、はぁ〜〜〜っ、と深いため息を漏らす父。どうしたんだろう、向日葵のような私の笑顔に、俺の娘が可愛すぎて辛いんだが。とか思ってるのかな?


「とにかく⋯⋯原因は向こう側にあるとのことで今回は喧嘩両成敗という事に()()。しかし⋯⋯婚約は破棄されたよ」


しかし??お父様、日本語がおかしくてよ?


「お父様」


「⋯⋯なんだ娘よ」


「可愛い娘の純血が猿畜生に奪われずに済んだのに、お父様は何故悲しそうな顔をなさるのです?」


手をグーにし、それでも笑顔でそんな当たり前の意見を言うと、


「そ、そうだな!!」


父は滝のような汗をかきながら首をぶんぶんと縦に振り、はぁ〜〜〜〜っ、と深いため息をついた。


どうしたんだろう。俺の可愛すぎる娘が俺から巣立とうとしなくて困るんだが。とでも思ってるのかな?




◆◇◆◇




あれから数日、


「ほら、あれが噂の」


「顔面陥没ゴリラパンチ女?」


「そうそう!ほら見るからに凶暴そうな顔してる!」


「確かに〜!」


「⋯⋯⋯⋯」


ジロリ、私が睨みを向けると、2人は慌てて逃げていく。


「まずいわね、先手を打たれた」


いそいそと用事を済ませ、顔を伏せて屋敷へ帰る。




◆◇◆◇




街に噂が広まった。おそらくあのゴミ共のどちらか、あるいは両方の仕業だろう。


悪いのは向こうだ。それはもう間違いない。100人が聞いたら100人がそう答える。それくらい間違いない。


けど、困ったことにその100人は現場を見ていないのだ。現場を見ていないからこそ、噂が立ったら面白半分にそちらを信じる。例えそれが真実からはほど遠いものでも、関係の無い人間からすれば面白ければそれでいい。被害者の苦痛など、他者からしたらどうでも良いのだ。


「さて、どうするか⋯⋯」


面倒なのは、(ゴミ)の方から婚約破棄を申し出、また(ゴミ)の顔面が実際に陥没している2点の事実。


顔面陥没は(ゴミ)の自業自得だし、婚約破棄だって(ゴミ)が申し出なければこちら側から申し出た。それが真実だ。しかし、今更それを言ったところで噂が広まった後だとただの言い訳でしか無い。


どうすれば誤解が解ける?どうすれば信じてもらえる?考えろ、考えろ私⋯⋯⋯⋯。


「そうだ!本人に誤解を解かせればいいんだ!」




◆◇◆◇




メイドに木の板を持ってきてもらい、そこにでかでかと文字を書く。


『悪いのは全て浮気猿の私です。どうか石を投げて下さい!』


うん、我ながら完璧だ。


板の2箇所に穴を開け、鼻歌混じりにロープを括り付けていると、メイドの一人が聞いてきた。


「⋯⋯それ、どうするのですか?」


「ウワキンの首に下げて、町を一周してきてもらうの!」


ウキウキで家を出ようとしたところ、従者総出で止められた。




◆◇◆◇




「カタリーナよ」


「なんですかお父様」


「鼻骨複雑骨折、前歯全損、顎骨骨折、両肩骨折だ」


「はい?」


「まともに物も食べれないらしい」


「なんのことです?」


「ウワキンのことだよ」


「それが?」


父が何を言っているのかわからない。


「確かに他の女に手を出していたウワキンも悪い。悪いが⋯⋯」


「悪いですね」


「もう復讐は十分だろう??」


あらま、嫌ですわお父様。


「私がネチネチ復讐するような陰険女に見えまして?」




◆◇◆◇




父は私の手作りプラカードを持って、叫んだ。


「こんなもんを首に下げて町内一周!?ここまでする必要があるか、と言ってるんだ!!」


父はどうやら勘違いをしているらしい。


「お父様、それは復讐ではありませんわ」


「じゃあどういう事だ!説明してみろ!!」


「私、今町内で噂になってるようですの。それはそれは酷い噂。顔面陥没ゴリラパンチ女ですって⋯⋯」


悲しげに言う私に、後ろを向いて笑う父。⋯⋯グーパンしたろかなこいつ。


「その誤解を解く為には、この手段を取るしか無い。それだけのことです」


私の訴えに、頭を抱える父。可愛すぎる娘を疑ってしまった自分を恥じているのだろう。


「もっと他にやりようがあるだろ⋯⋯」


本心では納得していても父親という立場が後戻りをさせぬのか、意固地に否定してくる父に流石の私も少し呆れる。


「それではお父様は、他にどんな方法を思いつきまして?」




◆◇◆◇




―――――2週間後、私室。


「カタリーナ様、ギロッグ様がお待ちです」


「はーい!」


生まれて初めての能動的な恋活に、私の胸はトゥクンと高鳴る。


ギロッグ様、一体どんな方なのかしら?




◆◇◆◇




そう、あれは2週間前のこと。


「他にどんな方法を思いつきまして?」


父なんぞに代案など、思いつく筈が無い。そう思っていたのだけれど。


「⋯⋯要は、カタリーナがウワキンに振られるような女だと思われているのが問題なのだ」


「と言うと?」


「すぐに別の男と婚約すればいい。引く手あまたの令嬢と見られれば、噂も間違いなのではと、次第に消えていくだろう。⋯⋯ウワキンには使えない手だ。あれではしばらく婚約どころでは無いだろうしな」


「さすがお父様!!」


流石は私のお父様よ!なんて頭の良い男!!


こうして私は人生初の、自由恋愛を楽しむ権利を手に入れた!




◆◇◆◇




扉を開けると、そこにはダンディなおじ様がいた。少し年齢が上な気もしなくもないが、まぁ許容範囲だ。許そう。


「君がカタリーナかい?」


「⋯⋯お初にお目にかかります」


「はは、そんなに畏まらなくてもいいよ。さぁこちらへ」


「ではお言葉に甘えて⋯⋯」


席に座り、談笑する。喋れば喋るほど、ギロッグ様は素敵なお方だった。


会話は知識に富んでいて、時折混ざるウィットなジョークもセンスがいい。そして何より、私の話を親身になって聞いてくれた。


「⋯⋯浮気の現場を見られ、慌てて転んだ拍子に大怪我。それなのに君のせいにし、君を悪者に仕立て上げることで自分は罪を逃れる、か。⋯⋯酷い話だな」


「⋯⋯ありがとうございます。そう言って頂けると、私の心も少しばかり救われます」


「君は反論しなかったのかい?」


「⋯⋯か弱き少女一人に、一体何ができましょうか。今はただ、噂が消えてくれるのを願い、怯えて過ごすばかりです」


「それはいかん。君は悪くないのだから、悪評など気にせず堂々としているべきだ」


「ギロッグ様はお強いのですね。⋯⋯私もギロッグ様くらい、強い人間であれれば良かったのですが」


目に涙を浮かべ、微笑む私。


涙を拭こうと出したその手を、ギロッグ様が強く掴んだ。


「私が君の力になろう。噂など明日には消えているだろう」


「ギロッグ様⋯⋯」


ギロッグ様の真っ直ぐな眼差しに、私の胸がトゥクン、と高鳴る。


「庭に出よう。君にはこんな狭い部屋より、花の方がよく似合う」




◆◇◆◇




庭に出た私達は、同じ歩幅で並んで歩く。


ギロッグ様に言われ、すぅ〜っと息を大きく吸う。視界が開け、今ならどこまでも見渡せる気がした。


「カタリーナ、あの花を見てごらん」


「まぁ、素敵なお花」


「綺麗な花だね」


「はい、とっても」


花を眺める私の肩に、ギロッグ様が手を置いた。


「カタリーナ、君の方が断然綺麗だ」


ギロッグ様は手に力を入れ、私の身体を引き寄せる。私はそれになす術無く、頭をコツン、と、ギロッグ様の胸に置いた。


トゥクン、トゥクン、トゥクン、トゥクン。




◆◇◆◇




心臓が痛い。まるで病にかかったようだ。


トゥクン、トゥクン、トゥクン、トゥクン。


「カタリーナ⋯⋯」


ギロッグ様の優しい声が、私の耳を、私の顔を、私の胸を赤く染める。


鯉がなんで赤いかわかった。きっと恋から来てるんだ。


トゥククン、トゥククン、トゥククン、トゥククン。


爆発しそうな私の胸を、


ギロッグ様がムニッと揉んだ。




◆◇◆◇




むに、むに、むに、むに。むに、むに、むに、むに。


胸がやらしく揉まれる度に、


胸のトゥクンが消え去っていく。


「カタリーナ、私が君を守るよ。だから⋯⋯」


いい年したおっさんが、


鼻息荒く私に迫る。


その気持ち悪い鼻めがけて私は、


「死ねカス」


自慢のグーパンを打ち込んだ。


「ぐわぎゃあああああっ!!!!!」


凹む顔面、吹っ飛ぶおっさん。


折れた鼻からどく、どく、どく、どく、


流れるその血は、赤かった。




◆◇◆◇




あれからまた1ヶ月、メイドが私を呼びに来る。


「カタリーナ様、ケリー様がお待ちです」


「⋯⋯なんか今回遅くない?候補1人見つけるのに1ヶ月って」


「そりゃまぁ⋯⋯」


「もっとちゃんと仕事して!ってお父様に言っといて」


「承りました」


ケリー様、どんな殿方なのだろう。


願わくば、ムッツリスケベロリコンジジイではありませんよう。




◆◇◆◇




「よぉ、お前がカタリーナか」


扉を開けると、ワイルドな感じのイケメンが立っていた。


歳は20歳くらいか?よし、合格。


「⋯⋯本日はよろしくお願いします」


「敬語なんざいらねぇ。本性見せてみろよ」


失礼な事を言う奴だ。不合格。


「噂は聞いてるぜ、顔面陥没ゴリラパンチ女。お前みたいなじゃじゃ馬を乗りこなせるのは、この俺位なもんだろうよ」




◆◇◆◇




まさかまさかの馬扱い。


あまりの態度に、さしもの私もムッとする。


「その呼び方をするのはお止め下さい。初対面の相手に失礼だとは思わないのですか?」


「怒ったか?それなら俺を殴ってみろよ。心配しなくても俺は女々しく噂を広めたりなんかしねぇからよ」


「⋯⋯では」


つかつかつか、ピタ。


ケリーの前で止まった私は、ノーモーションで自慢のグーパンを繰り出した。が、


「ヒュウ!これが噂の顔面陥没パンチか!確かに当たったらヤバそうだ。ま、当たらねぇけどな」


皮一枚、すんでのところで避けられる。


「びっくりか?じゃじゃ馬娘。お前の拳と同じように、俺にもギフトがあるってこった」




◆◇◆◇




「俺のギフトは『完全回避』。どんな攻撃であろうと、この俺にゃあ届かねぇ」


私のグーパンを避けたのが余程嬉しかったのか、自らギフトの説明をするケリー。だがしかし、どうやら馬はケリーの方だったようだ。


『完全回避』。一見万能のようだが、種が割れればなんてことの無いギフトだ。20年も生きてて自分のギフトの欠点にも気づいて無いなんて、まったくとんだお馬鹿さんだこと。


「もう一度挑戦してもよろしくて?」


「おう何度でもいいぜ。当てれるもんなら当ててみな」


「では遠慮なく」




◆◇◆◇




「よっ、と」


自慢のグーパンが空を切る。


「まだまだ」


2発、3発。私自慢のグーパンを余裕そうに躱すケリー。だが、


「ぐほあっ!?」


その表情は次の瞬間苦悶に変わる。私自慢のグーパンが、ケリーの肝臓(リバー)を完璧に捉えたからだ。


「加減はしました。今日はもうお家に帰って、ミルクでもしゃぶってお休みなさいな」




◆◇◆◇




「な⋯⋯ぜ⋯⋯」


床に倒れ込みながら、自分のギフトが何故発動しなかったのか不思議がるケリー。親切な私は、その疑問にお答えする。


「簡単な事ですわ。私はただ、誘導しただけですの」


「誘⋯⋯導⋯⋯?」


「人には骨と関節があります。いかに完全回避であろうと、その可動域は絶対です。それを無視した場合、避けた瞬間骨が外れてしまいますからね。それならば、避けられない姿勢になる様、グーパンの位置や角度を調整してあげればいい」


「なる⋯⋯程⋯⋯負け⋯た⋯ぜ⋯⋯カタリーナ⋯⋯⋯⋯」


そう言い残し、彼は意識を失った。




◆◇◆◇




それから3日後、メイドがドアをノックする。


「カタリーナ様、サッチ様がお呼びです」


「はーい。今回は早いわね」


「そのようですね」


父もやれば出来るじゃん、後で褒めてさしあげよう。私はルンルンで扉を開けた。




◆◇◆◇




「カカカ、カタリーナ様!本日はご機嫌麗しゅう!!」


扉を開けると、そこにはバキバキに緊張してる地味メンがいた。


てか服装からしてこいつ貴族ですら無いだろ。あのクソ親父、面倒がって適当に募集してやがんな。


「⋯⋯そんなに緊張なさらず」


「はは、はいいいっっ!!」


あかん。これは好きになんかなれん。


「⋯⋯サッチ様、申し訳ありませんが、私と貴方は住んでいる世界が違う。誰より貴方がそう感じているのでは?」


「そそそそ、そんなこと!!」


「感じて無ければ緊張などしませんわ。そして対等で無い相手を好きになれる程、私自身まだ人間が出来ておりません。⋯⋯この度はご縁が無かったということで」


深々とお辞儀をした後、踵を返して部屋を出ようとする私。そんな私をサッチは大声で引き留める。


「ままま待って下さいっ!!!」


待たねーよ。


「町の噂で貴方を知って以来、貴方が好きになりました!貴方への愛だけは、僕は誰にも負けません!!だからどうか!どうか!!」


⋯⋯ほう。町の噂とな?




◆◇◆◇




恋活の原因ともなった根も葉もない悪い噂。いつの間にかそれが反転しているとな?


「⋯⋯噂とはいったい?」


ニヤけそうになる口元を抑え、サッチに尋ねる。


「はは、はいっ!!あの⋯⋯あの⋯⋯素敵な方だって!!」


「具体的には?」


「具体的!?具体的⋯⋯ですか⋯⋯⋯⋯」


思っきし言い淀むサッチ。なんだ嘘かよ、がっかりさせやがって。


「⋯⋯サッチ様、申し訳ありません。私、嘘つきは嫌いですの」


ゴミを見る目でサッチを睨み、今度こそ部屋を出ようとする私。しかしサッチはダッシュで私の前に先回りし、両手を広げて通せんぼしてきた。


「どいて下さるかしら?」


「どきません!!」


あーもうめんどくさ。一応気を使ってたけど、もういいや。


「邪魔」


ドス。と、自慢のグーパンをがら空きの鳩尾に叩き込む。崩れ落ちるサッチを尻目に、私はドアに手をかけた。しかし、


「待って⋯⋯待って⋯⋯」


息も絶え絶えになりながら、それでもサッチは私の足首を掴み、離さない。


何故?なんで??


私とサッチは今日が初対面だ。好かれるような対応もしていない。それなのに何故、サッチはここまで粘るのだ??


意味が分からない。本当にわからない。だから⋯⋯、


「サッチ様」


「⋯⋯はい」


「そこまで私にご執心な理由、もし宜しければ教えて頂けませんか?」




◆◇◆◇




「⋯⋯言えません」


「言えないなら帰ります。ですが言って下さるのであれば、それが例えどんな理由であろうと、今日1日デート致します」


決して他言も致しません。そして、これが最後です。サッチの目を見て、勧告する。


「それは⋯⋯本当ですか?」


「はい。誠意には誠意で、貴族の誇りにかけて」


「⋯⋯信じます」


「はい、信じて下さい」


私の笑顔にサッチはようやく、その重い口を開く。


「⋯⋯貴族の娘で、顔もいい。そして何より貴族の娘だ!こんな良物件と結婚できるチャンスなんてもうこの先二度と無い!!簡単に諦めてたまるかよ!!」


「⋯⋯⋯⋯⋯」


心がきちんと折れるよう、もう2発程自慢のグーパンを叩き込んだ。




◆◇◆◇




「⋯⋯なんで私ってここまで男運が無いのかしら」


マカロンをパクモグパクモグ食べながら、自分の男運の無さを呪う。


「ねぇリララ、なんでだと思う?」


「さぁ⋯⋯私には」


お付きのメイドに尋ねるも、メイドも分からないようだ。


「はぁ〜あ」


ため息をつき、紅茶に手をかけたところで、ドアからノックの音がした。


「カタリーナ様、ケリー様から連絡が」


「ケリー?⋯⋯あ〜、あいつか。なんて?」


「どうやらもう一度会いたいと。如何致しますか?」


その報告を聞いたリララが隣で目をまん丸く見開いた。どうしたのだろう、顔芸の練習でもしてるのかな?


「う〜ん⋯⋯まぁ今日なら暇だしいいわよ」


「分かりました。ではそのように伝えます」


それにしても、あれだけ綺麗な腹パン貰ったのにまた会いたいだなんて⋯⋯。


「奇特な(ひと)ね」


「私もそう思います」


「ん?リララ、今の言い方なんか棘なかった?」


「いえ、ありません」


「そう?まーいいや、じゃあ一応おめかしするから手伝って」


「かしこまりました」





この身を焦がすような恋、いつか私にもできるのだろうか?

まだ見ぬ明日の出逢いにむけて、今日も私はパンチする。

作品を読んで下さり、ありがとうございます!!


普段は「死神の英雄記」という作品を連載しております!

だいぶ作風は違いますが、一生懸命書いているので宜しければ是非そちらもご一読を!!!!

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