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僕のお悩み解決大作戦  作者: 藤 理央
3/4

厳しいノルマ

 入学から既に2ヶ月以上が経ち、各々がノルマ達成に向けて最後の大詰めへと向かっていた。

 「いやいや、人気者の仁くんはノルマ達成が余裕で羨ましい限りですよ」

 隣から皮肉が聞こえてくる。さつきさん目が怖い。

 僕は最初の依頼をこなし矢下くんの評価を得た。矢下くんは柔道部として、良い成績を残しているみたいだ。僕が驚いたのは矢下くんは意外とみんなからの人望が厚い。僕がたったの1週間で依頼をこなし信頼できると、クラスメイトに言ってくれたおかげで、反響を呼びお客さんが後を絶たなかった。

 「依頼者の宣伝効果は絶大です。感謝感謝」

 最近は落ち着いたが、それなりに早く部活を安定させる事ができ、この2ヶ月で上限の60BPを確保した。

 「その宣伝効果に私もあやかる事が出来たから、何とかあとちょっとでノルマクリアできそうなんだけどね」

 前の矢下くん件で、Cクラスについて来てもらったお返しで、何度か手助けをした事があった。

 「この学校は年間ノルマさえ達成すれば、留年は無いから、夏休みは長く取って大学生活を謳歌するぞ!」

 「いや、流石に授業の単位は取っとかないとまずいと思うよ」

 我に帰り悲しむさつきさん。浮き沈みが激しい。

 とりあえず心配していたトランプ部も何とかなりそうで、良かったと思っている。

 安心できるのは束の間で、今日次のノルマが言い渡される。

あと1週間で期限の3ヶ月が終わりとなる為、事前に言い渡される事となっている。

 「次は楽なノルマでありますように!神様お助けを!」

 神頼みするさつきさんだが、願いが届くかは別の話。


 夜になり、僕の携帯に一通のメールがアプリに届く。


 ・この2つの部活を発展させろ

 1 麻雀部 1年

 2 宅配部 2年

 (1つの部活につき15BP)

 (尚、この2つの部活動に参加してもBPは得られない)

 

 なるほど。僕がBPに余裕があると見た学校側が、逆に好ましくない成績を残している、この2つの部活の手伝いをさせようとしているようだ。

 そもそも僕はカウンセリング部だからお手伝いをする部活動ではないのだが、最近は趣旨が変わりつつある事が否めない。

 発展されるのに難しい点は何となく分かる。

 1つ目は娯楽系の麻雀部。麻雀を知らなければ行く気にもならないだろう。

 2つ目は配達部。配達で思い付くものなんて限られてる。そうそう、依頼が来るものではないだろう。あと、気掛かりなのは2年と言う文字だ。もしかして、2年生のお手伝いをするのだろうか。話したことも無い2年生と話すのは難しい。ましてや、1年生の言う事に聞き耳を立ててくれるのだろうか。

 とりあえず開始まではあと1週間ある。

 気長に策を立てていくとするか。


○お姉様とギャル

 2回目のノルマが発表されてから1ヶ月が経ち、夏休みを迎えようとしていた。

 僕はこの1ヶ月間何もしていない。

 カウンセリングをしたくてこの学校に入ったのに、部活を開いたとしても、BPが入らない現実。そして、この2つの部活に参加したところで、BPが入らない現実。この2つの現実に直面した際に、やる気が一気に下がってしまったからである。

 「もう、部活がしたいよ。ノルマキツすぎだよ」

 「まあまあ、カウンセリングの一環としてさ、その部活の部長の悩みを聞いてあげたりすればいいじゃん!気を取り直そうよ!」

 最近はずっとさつきさんに、愚痴を聞いてもらってる。

 他のクラスメイトとも話すようになったが、基本はさつきさんと共に行動をしている。

 クラスのみんなからは付き合ってるのかと、噂されたがさつきさんお得意の全否定により噂は消えた。

 最初は真面目なイメージが抜けず、誤解されていたが、この底なしの明るさとのギャップもあり、今ではさつきさんはクラスの中心的存在だ。

 「もう夏休みにも入る訳だし、その部活に参加してみなよ!」

 さつきさんの後押しもあり、重くなった足を必死に動かし、ノルマの部活動に顔を出す事にした。

 3階の1番角の教室から、ガチャガチャと音が聞こえる。

 ここが麻雀部の部室である。

 僕は一応ノックをし教室に入る。

 「いらっしゃいませ〜」

 なんとも落ち着いた声で僕を歓迎してくる女性。

 「あれ、君は確か…睡眠不足で悩んでた子だよね?」

 そうこの子は1度僕の部活に足を運んでいる。

 「あ〜、その節は大変お世話になったよ。どうぞどうぞ、座って座って〜」

 逃げられたくないのだろうか?僕の袖を掴み座らせようとしてくる。従うままに僕は座る。

 「じゃあ、早速麻雀はじめましょ」

 僕の認識では麻雀は3.4人でやる遊びだと思ってたが…

 「いや、僕は麻雀を知らないんだ」

 あからさまに落ち込んだ様子。じゃあ何しにきたんだとは言わないが、こちらをじっと見つめている

 「じゃあ、何しにきたのかな?」

 あ、拗ねてるこの人。思った事口にしちゃってる。

 僕は自分の今回のノルマの事を伝える事にした。

 「確かに私前回のノルマは達成できず、30BP得るために、他の部活に30時間も参加したんだよね〜。すごい眠かったよ〜」

 30時間はえげつない、自分の部活が機能しないほど、時間を奪われてしまったようだ。最初僕が来た時の笑顔から察するに、しばらく僕以外のお客さんは来ていないのだろう。

 「まあ、ここからの2ヶ月でお客さんを多く引きつける案を僕が考える。ちなみに今回の君のノルマは何?」

 「10人麻雀を覚えてもらう事だよ〜」

 ふと、疑問点があることに気付く。この子のノルマ達成したとして、僕のノルマは達成されるのだろうか。明確にノルマの基準が設けられていない為、判断に苦しむが、この子が前回のノルマが達成出来てない事から、今回ノルマを達成させる事が出来れば僕のノルマ達成と見ても良いだろう。

 「その人数ならなんとかなりそうだ。まずは僕が覚えよう。さしたら残りは9人になる。」

 この子はうんと頷くと丁寧にゆっくり麻雀について教えてくれた。

 距離が近い為、鼻にはとても良い匂いが風と共に流れてくる。そして、同い年とは思えない落ち着いた様子。お姉様系キャラとして、良いポジションにつきそうだ。

 「ねえねえ、集中してないように見えるよ〜」

 僕は煩悩を見透かされている気がして、すぐ麻雀に集中するよう、煩悩と戦う。

 2時間ほどかかったが大体のルールは理解した。今まで一切、触れたことが無かったが、とても奥が深くて面白い。

 捨て牌により当たり牌を見つけ出したり、山を読んだり、何より頭を使う。単純に運だけではなく心理戦まで入ってくる要素があった。

 「これはハマってしまうかもしれないな」

 「ルールが多いから始めるのに苦労するけど、始めてしまえばどのゲームより面白いと思うんだけどな…」

 現に2時間かけて僕はルールを覚えた。それも、実践じゃなくて文字だけのルールを覚えるのに、それほど時間を有したのだ。せっかく覚えようと人が来てくれても、完全に覚える前に、飽きてしまう可能性は否めない。

 「中々大変かもしれないが、僕に任せてほしい」

 期待はしてないかもしれないが、できる限りの事はつくそう。

 「仁、これからよろしくね。あと、申し遅れたけど、私、新橋晴香って言うの。」

 「そうだ、名前まだ知らなかったんだっけ。新橋さんよろしく」

 「嫌だ、その呼び方とても嫌」

 急に駄々をこねるお姉様系女子。

 「え、じゃあ…晴香さん?」

 「それも嫌!」

 「分かった。晴香。これで良いか?」

 「待って、ごめん。いきなり呼び捨ては恥ずかしい…間をとって晴香ちゃんでもいい?」

 …何だこの幸せなやり取りは。恥ずかしいって。

 このお姉様系女子あざとすぎる。

 「晴香ちゃん、また会いにくるよ」

 顔を赤くして、頷く晴香ちゃん。

 なんかすごい、ムズムズする。

 僕も雰囲気にやられて会いにくるとか言っちゃったし。

 この雰囲気に耐え切れず、僕はすぐに部屋を出た。

 気付けば重い足は羽が生えたかのように、軽くなっていた。

 男って単純。僕って単純。


 軽くなった足で僕はもう1つの部活に向かう。

 初めて2年生の校舎に足を運ぶ事となる。

 この学校では1年から4年まで全学年校舎が別に用意されている。その為配達部を見学する為には、2年生の校舎に行かなければならない。

 2年の校舎入口には、沢山の部活の貼り紙が貼られていた。

 「2年になると、ここまで必死になるのか…」

 ここだけを見ると、競争率が高いようにも感じる。

 2年校舎の廊下には1年生とは違い、人の姿が見られなかった。しばらく歩いていると、1人の女性が沢山のプリントを両手で抱きしめるように運んでいた。

 「あ!あぁ…」

 金髪女性は僕の顔を見た瞬間、両手を緩めてしまう。

 そして、廊下には大量のプリントがばら撒かれた。

 「また、ドジしちゃった…」

 どこかで見た顔だとは思ったけど、こんなところで会うとは。

 「大丈夫ですか?空き巣さん」

 静岡に来た日に僕の部屋にいた女性と再会。

 ついつい、変な呼び方で呼んでしまったが。

 「大丈夫。あ、ありがとう…」

 髪の毛で顔が隠れているが、ドジして恥ずかしがってる様子が、仕草で分かる。

 この空き巣さんもそうだけど、静岡に来てからの巡り合わせは、異常だと思う。

 「あ、あの…今からお時間いただけますか…?」

 いきなり、空き巣さんは僕に確認を取ってくる。

 「僕も空き巣さんに用事があるんです。丁度良かった。ここで話すのも落ち着きませんし、移動しましょう。その前に、とりあえずこのプリントだけでも片付けましょう」

 そう言い僕達はプリントを片付けた。どうやら、このプリントを先生のところまで運ぶらしい。

 「ごめんね、実は今日教室の予約取ってなくて、話すとしても学校の外になっちゃうけど…」

 ずっと自信なさそうにモゴモゴしている空き巣さん。

 プリントを先生のところまで運び終え、学校を出る。

 「もし良ければですけど、僕のお家来ませんか?前に1度入ってますし、抵抗もそんな無いんじゃないですか?」

 「へ、部屋!?て、抵抗が無いわけじゃ無いけど…分かった。お邪魔させてもらうね」

 この金髪ギャルは見た目とは裏腹にナヨナヨしている。

 前に感じた違和感はこれか。

 何故か、見た目と性格が反対となっている。


 「ここが僕の家です。知ってると思いますが」

 ここまでの道のり、道が分かってるかのように進み続ける女性。その歩きは自分の家に帰るようなペースだった。

 「お、お邪魔しまーす」

 そう言って部屋に入る空き巣さん。礼儀正しい。

 「お茶だしますね。適当にそこら辺に座っててください」

 そういうと、女性は僕のベットの上に座る。

 部屋に女性を入れた事が初めてだった事もあり、緊張してしまっている自分。

 これって、もしかして積極的すぎるのかも。

 誘ったのは自分なのに、後悔と緊張感が押し寄せる。

 その緊張を断ち切るかのように空き巣さんが切り出す。

 「話したい事いっぱいあるんだけど、まずは謝らせてほしい。この間はごめんなさい!」

 きっと、空き巣と疑われた時に逃げてしまった事だろう。

 「あの時は急にドアが空いて人が来たからびっくりしちゃって…。私実は学校で配達部をやってて、あの日はあのアパートの大家さんから依頼を受けたの。大家さんから鍵を借りて、外にあった荷物を中に運んだの」

 やはりこの人が、配達部の人だったか。先程プリントを運んでいる姿を見てそんな気がしていたが。

 これも巡り合わせ、巡り合わせ。

 それにしても、あの大量の荷物を女性1人で運んだとしたら、相当大変だっただろう。僕はお礼と謝罪を伝えなければならない。

 「あの時はすみませんでした。わざわざ、僕の荷物を運んでくれたのに空き巣呼ばわりしてしまって」

 「いいの、いいの!気にしないで!理由を言わなかった私も悪いから…」

 女性は両手を左右に振り、全身で気にしないでと伝えてくる。

 「あのまた今度ちゃんと、お礼がしたいです。僕は藍川仁と言います。良ければ先輩のお名前聞いても良いですか?」

 基本的に先輩は僕と目を合わせてくれない。

 「えっと、私は藤島雅!あと、お礼なんてそんなの必要ないよ!お仕事だから!」

 雅先輩のこの低姿勢な態度は余計に僕に罪悪感を与える。

 空き巣事件の真相は分かったが、別に気になっている事について、少し突っ込んでみる。

 「雅先輩、僕に話があると言いましたが、この前の一件の話だけですか?」

 話したい事があると言っていた事から、これだけじゃない事が分かる。僕の質問に対し、雅先輩は何か考えるように下を向き、僕の目から見ても困っている様子だ。

 「僕は1年でカウンセリング部を開いています。雅先輩の悩みを聞いてあげたいと心から思っています」

 僕は真っ直ぐに雅先輩を見つめる。その眼差しをチラリと見た後、背けていた目を僕の方に向けゆっくり話し始める。

 「私ね…こう見えてギャルじゃないの」

 見た目はギャルだが、話し方しぐさはギャルでは無いと僕も思っていた。

 「藍川君がカウンセリングで良い成績を残しているのは、2年生の耳にも入ってて知ってたの。だから、相談してみようかなって思ってたんだ。」

 矢下くんのおかげか、2年生にも僕は知られているようだ。

 「あのね…私、高校まで友達がいなくて、大学になったら友達欲しいなって、ずっと思ってたの。それでね、こんな、自信なさそうな態度だと友達作れないと思って、勇気を振り絞って、ギャルになってみたの」

 いわゆる大学デビューと言うやつか。この様子だと、うまくいっていないように感じる。

 「最初は放課後に声をかけてくれる人もいたの。それがすごく嬉しくて、学校楽しいって思えたんだけど…」

「今では違うと?」

 話の途中で遮ってしまったせいか、雅先輩はどんどん縮こまってしまった。相手の心を読めてしまうのも罪な事だ。

 「そんなことはないの…今でも楽しい…よ」

 雅先輩は嘘をついている。現に相談に乗ってほしいと言っているのだから、学校生活が円満であれば、相談なんてしてこないはずだ。

 「雅先輩。僕は学校がとても楽しいです。こうやって先輩と話せるのだって、楽しいと思っています」

 雅先輩には本音で話してほしい。僕は今この時間が、楽しいかと聞かれたら楽しいとは思っていない。だけど、雅先輩の心を開くために必要な嘘だ。

 「僕は雅先輩の相談を真剣に受けています。だから、雅先輩も真剣に話してほしいです。嘘も意地も全部無くしましょう」

 相変わらず、縮こまった身体は大きくならない。しばらく沈黙が続く。このまま話しても、雅先輩は心を開かないだろう。

 「雅先輩って、好きな人います?」

 真剣な話から一変して、僕の急な変化球により、雅先輩の丸まった背中がピンと伸びる。

 「な、何を急に…!え、ええと、その…してみたい」

 顔を赤らめてごにょごにょと話す雅先輩の表情は、とても可愛くて今までの表情より似合っている。

 「してみたい、とは?」

 「私静かだし、魅力なんて一切ないから…恋愛とかした事なくて…いつかしてみたいなって」

 「そんなに悲観しなくても…僕は雅先輩を可愛いと思っています。正直まだ雅先輩の事全然分かりませんが、初めて会った時から可愛いと思ってますよ。まあ、僕に言われても嬉しくないと思いますけど」

 どんどん顔が赤くなる雅先輩を見て、照れている事が分かりやすくて、もっといじめたくなる性分に駆られるが気持ちを抑える。

 「入学してから雅先輩は1年以上経ちましたが、まだ、男性とは話とかした事ないですか?」

 うん、と首を縦に振る雅先輩。

 クラスに男子生徒はいると思うし、全く話したことが無いのも珍しい話だ。

 「でも、一応僕は男ですし、今、普通に雅先輩は僕と会話ができてます。」

 終始おどおどとしているが、会話は成り立っている。

 「ここからは、僕の勝手な憶測ですが、雅先輩は気付かぬ内に、話しかけるなオーラを出しているのかも知れません。実際、僕は普通にギャルに話しかけることが出来ません。びびっちゃって。」

 見た目だけだがここまで完成されたギャルは今時めずらしい。周りからしたら、異質に見えているのかもしれない。

 「その見た目と話しかけるオーラによって、誰も近寄ってこないのかも…」

 なんか、話していてこんな優しい雅先輩にリアルを突きつけていいのかと葛藤するが、真剣に話した方がいいだろう。

 「そ、そうかな…そんなことないと思うけど…」

 雅先輩のちょっとした抵抗。というか、意地がでる。

 「じゃあ、休み時間とかいつもなにしてます?」

 「え、普通にネイルとかしてるよ。家だと支度の時間が掛かりすぎちゃうから、学校でもちゃんとギャルに徹底してる」

 あ、この人1番やっちゃいけない事してる。

 「雅先輩、それたぶん原因ですよ。話しかけたくても、雅先輩が何かに夢中になってたら誰も話しかけれませんよ」

 確かに!と、手を合わせるがすぐにその手を引っ込める。

 「それも、原因だとは思いますがそれだけじゃないと思います。他に何か原因があるはずだと思いますが…」

 この小さな空間で悩み混む2人。無言が続けば続くほど僕の神経が良くない方向に研ぎ澄まされていく。

 密室で男と女の2人きり。他には誰もいない。誰も入ってくることは無い。そして、部屋いっぱいに広がる雅先輩の良い匂い。

 「これは、かなりやばいですよ、本当に」

 つい声に出してします。

 「そんなに、やばいかな。私…」

 僕の発言にもっと自信を無くしてしまう雅先輩。

 「いや、違うんです!やばい事には変わりないんですけど、そのやばい事が別といいますか、なんと言いますか。」

 首を傾げる雅先輩。頭からハテナマークが出ているご様子。

 雅先輩への対応よりも僕は他の事で頭がいっぱいだ。

 それは椿が僕に与えてくれたコンドーム。あれは、やばい。

この状況下に置いて必須アイテム。あの、椿とのストーカー事件は今日この時の為の、重要イベントだったと思わざるを得ない。

 神は僕があの厳しいイベントを乗り越えたご褒美に、今日この場を設けてくれたのかもしれない。

 「あぁ、神よ…」

 僕は天に向かってお祈りをする。感謝の気持ちを込めて。

その様子を見ていた雅先輩は困りに困っている。

 「藍川君、大丈夫…?それも別のやばい事かな…?」

 僕はその質問に対し、声を高らかに返事をする。

 「はいっ!!!」

 部屋の中でこだまする僕の声と共に聞こえてきたのは、雅先輩のクスクスと笑う笑い声。

 「藍川君おかしいよ…面白すぎて…お腹痛い…」

 余程おかしかったのか、普段なら自信のなさから、話の語尾が小さくなるが、今回は笑って声が出ていない。

 「いや、これは雅先輩を和ませる為にわざと演じた、あの、そうゆうボケ的なやつです!」

 必死に弁解し僕の煩悩を見透かされないようにする。

 「嘘だぁ、絶対に素だよ、あれは」

 終始笑い続ける雅先輩を見ていたら、僕も釣られて笑い出してしまった。確かに1人で真剣に考えたり天を仰いだり大きな返事をしたら、面白い光景でしかない。

 「雅先輩、楽しいですね」

 笑いながらうんうん、と首を縦に振る。

 楽しいですね、なんて口にするのも恥ずかしいが、本当に今は思えるからあえて口に出す。

 「雅先輩なら絶対友達できます!僕が保証します!よく笑う女の子は可愛い!それが僕の持論です!ギャルではなくよく笑う女の子を目指しましょう!」

 僕は立ち上がり力強く雅先輩を見つめる。

 「でも、流石に急にギャルじゃなくなったら、周りもびっくりすると思うので、徐々に元に戻しましょう」

 「勇気振り絞ったのに…」

 雅先輩からしたら、ギャルは頼みの綱だったのかもしれない。だが、それが逆効果ならやめてしまった方が、残りの学生生活楽しめると僕は思う。

 「すぐにとは言わないので、気長に行きましょう。今最優先で取り組まなければ行けないのは、部活を発展させる事です。今回のノルマを達成させることから始めましょう!」

 「うん、わかった。でも、今回のノルマって…私もう終わってるけど…」

 雅先輩の口から発せられた言葉。「ワタシモウオワッテル」。頭が追いつかない。

 僕のノルマである2つの部活を発展させろは、指定された部活のノルマを達成する事により、クリアだと思っていたが、そうではないみたいだ。雅先輩は今回もうノルマをクリアしているということは矛盾が発生している。かなり抽象的ではあるが、配達部と麻雀部共に、言葉通り発展させる必要があるのかもしれない。

 「雅先輩ノルマ達成してるんですか?まだ、1ヶ月しか経っていないのに…。失礼ですが、依頼主来てくれたんですか?」

 クッション言葉は入れたが、結構失礼な事を聞いてみる。

 「うん、すぐに達成できたよ。私友達は居ないけど、先生達が気にかけてくれれて結構依頼してくれんだよね。今日のプリント運んでたのもそうだけど。」

 ニコッと、微笑み話しているが、結構寂しい事口に出していると自分では気付いていないようだ…。

 「あ、そうなんですね。てっきりまだ終わってないと思っていたので。まだ、説明してませんでしたが、僕のノルマは雅先輩の配達部を発展させる事です。その為に雅先輩のノルマ達成のお手伝いを出来たらと、思っていたのですが…」

 「あ、そう言うことだったんだね…今日廊下で会ったのは、

たまたまかと思ってた…」

 何故か、落ち込んでるように思える。運命的なものでも感じたのだろうか。いや、それはないな。

 思い返してみれば、雅先輩は一切部活の相談などしてこなかったし、現に今日依頼されていた。配達部としては機能していると思うが…これ以上の発展が何なのか分からなくなる。

 「ちなみにですが、ノルマ不達成の経験はありますか?」

 「今のところ毎回達成できてるよ。主に先生とか、学校関係者の人からの依頼ばかりだけどね」

 やはり配達部としてはちゃんと機能しているようだ。じゃあ何を発展させればいいのだろうか。先輩との会話の中に手掛かりがあるようにも感じるが。

 「了解しました。ひとまず僕はしばらく雅先輩に、友達が出来るようにサポートしたいと思います。あと、抽象的ですが、配達部の更なる発展に貢献できるよう頑張ります!」

 謎は多いがやれる事はやっておこう。自分に言い聞かせるように、僕は決意を伝える。

 「そしてこの場所で雅先輩には初の友達が出来ました。僕とは歳が1つ違いますが、もう友達です!雅先輩が嫌でももう友達です!」

 満面の笑みで友達だと伝えた瞬間、雅先輩は手を顔に当て泣き出す。

 「大丈夫ですか…?そんなに嫌でしたか…?」

 「ううん…違うの。嬉しいの。」

 先程までは笑っていたのに今では、泣いている。なんか、雅先輩の気持ち考えたらこちらまで、感動してきてしまう。初めての友達が僕。なんか特別感あっていいな。いや、不謹慎だ、今はそんなこと考えてる場合じゃない。

 泣いている雅先輩に対し声は掛けず、落ち着くまで待ってあげようと思う。

 しばらく時間が経ち、落ち着いた雅先輩が立ち上がる。

 「藍川君、ありがとう!いきなりは無理だけど、少しずつ少しずつ友達作る努力してみる!私自分に自信がなくて、おどおどしちゃって、人とまともに会話もできないと思ってたけど、なんか自信が出てきたかも…こうやって、藍川君とも話ができたし…」

 自信出てきたかもと言いつつも、徐々に語尾が小さくなってきてはいるが、雅先輩にとっては大きな第一歩なのかもしれない。

 「その粋です!雅先輩は人と話せないんじゃなくて、話さないんです!僕とも普通に話してますし、先生達とも恐らく話が出来ています!あとは、人と話す機会さえあれば友達なんてすぐに出来ますって!」

 「そ、そうかな…うん、そうだね!私ならできる!うん、ギャルになった勇気を違う方向に向ける努力!うん、私ならできる…はず…」

 めちゃくちゃ自分に言い聞かせてる、なんだこれ。可愛い。

 「そうですそうです!出来ますとも!雅先輩のご発展を祈り、えいえいおー!えいえいおー!えいえいおー!」

 「えいえいおー!えいえいおー…えいえい…おぉ…」

 僕の気合いに押されながらも、声を合わせてくる。

 雅先輩本当にありがとうございます。僕のテンションについてきてくれて…


 僕達はその後何気ない話をし解散した。

 だがしかし、何故か解散した後も、僕の興奮はおさまらなかった。それもそのはず、雅先輩の初めの友達の実感。2人で合わせたえいえいおー。そして微かに残る雅先輩の匂い。

 くそぉ…悔しい。今日は僕の初めて記念日になったはずなのに。

 えいえいおーなんてしてる場合じゃなかった!ちょめちょめえいえいおーが僕はしたかったんだ!くぅ…悔しい…。

 あぁ、神よ。こんなのひどいですよ、あんまりだ。まだ僕に厳しく耐え難いイベントを用意していたのですね。

 今回もご褒美イベントでは無かった。次回に期待するしかない。

 僕はそっと涙を拭い部屋の片付けをした。


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