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僕のお悩み解決大作戦  作者: 藤 理央
2/4

入学式と部活動

 静岡に着いてからは嵐の連発。

 空き巣に入られたり、見知らぬ女の子にコンドームをもらったり…。

 これを、波乱の幕開けと言わずに何と呼ぶ。

 コンドームを貰ってしまったせいで、僕の初めては0.3ミリに、包まれてしまう事が確定してしまう。

 捨てようかとも思ったけど、大学は何があるかわからない。大事に保管しておくことにする。備えあれば憂なしと言うやつだ。とりあえず、一個だけお財布にでも入れておこう。これも、いつでも対処できる為の保険。

 「朝から、僕はなんて破廉恥なことを…」

 あの心優しい女の子からのプレゼントを、この大学生活のお守りとして大事にしていこうだなんて…


 今日は入学式。

 念願であった大学の門を叩く。

 「意外と、緊張するかも…でもお守りもあるし…」

 家から歩き出して5分で大学に到着する。

 もともと大学から近いアパートを借りた事と、毎日の散歩で下見したおかげで、迷いなく到着することができた。散歩の際に何度か、外から大学を見ていたけど、新設校なだけあって、とても綺麗で過ごしやすそうな印象が強い。

 大学に入り、入学式の会場である体育館に到着する。事前に伝えられた座席に座る。周りにはちらほらと新入生がいるが、まだ半分も来ていない様子だ。

 この学校は親の同伴は認められていない。僕の親は東京だから、その方が都合がいいが、子供の晴れ姿を見たい親からしたら残念だなと思う。

 体育館入り口に置いてあった、学校概要とクラスメイト一覧に目を通しながら、入学式の開始を待つことにした。

 入学式が始まる5分前。

 周りを見渡すが空いている席は1つもない。大体の人間が到着している事だろう。

 しばらく待っていると、入学式が始まる。

 そこからは、お偉いさんのよくわからない話や、学校についてなどひたすら話を聞かされた。

 入学式は学校側からしたら、ビッグイベントだろう。でも、僕はこんなもの必要ないんじゃ無いかと思ってしまう。自分が代表スピーチでもするなら大事な行事だが、その他大勢の1人の僕からしたら退屈でしか無い。

 もちろん大学はとても楽しみだ。でも、入学式は楽しくない。そんな不満を抱き入学式は進行し終了した。

 

 入学式が終わり、自分のクラスの教室へと足を運ぶ。

 「1-A 1番」

 僕のクラスと出席番号。

 この大学ではクラス制を使っている。ちなみにA〜Fの6クラスが存在していて、1つのクラスには大体20人くらいしかいない。

 クラスごとに専門の分野が決められている。だが、高校とは違い常に一緒にクラスメイトと行動するわけではなく、ただ単に自分の専門科目を他の人に知ってもらうために、クラス分けがされている。

 教室に到着するが、一足遅かったようで他の生徒はみんな自分の席に座っていた。

 そして教卓には1人の女性。

 「全員到着したようだな。まずは入学おめでとう」

 とても、ハキハキした声で聞き取りやすい。

 歳は30歳くらいだろうか。

 その後もスラスラと話を進める女性。

 「早速だが、君達には来週から始まる。この大学独自の課題について説明をする」

 僕は、勿論この課題を入学前から知っている。むしろ、この課題目当てでこの大学を選んだ。

 「この学校はもちろん大学だが、高校の延長線と思ってもらっていい。クラスも存在しているし、出席番号もある。私の事も早川先生と呼べばいい。ただ、高校と違うことが1つ。単位とは別にノルマがある事だ」

 周りを少し確認するが誰1人驚いている様子はない。当たり前だが、この事はみんなも知っているようだ。

 「1年生の間はそんなにノルマもキツく無いから、とりあえず安心してくれ。課題についてだが、お前らには部活を作ってもらう」

 ここにいる全員が部活を作り、ノルマを達成しなければならない。ノルマとペナルティについては何も聞いていないが、成績を残さないと留年は間違いないだろう。

 「このクラスの専門分野は精神科だ。かと言って、部活は全く関係ない分野を選んでもらっても構わない。どんな部活を創設し何を目標にするのかを明日提出してもらう」

 この事も事前に知らされていたが、まさか期限が明日までとは。僕は創設する部活を決めていたが、悩んでいる人間からしたら、焦るのは無理はない。

 「早川先生。質問です」

 隣の席の黒髪ショートカットの女の子が手を挙げる。雰囲気からして、真面目そうで堅物を連想させる。

 「部活動は娯楽分野でもよろしいのでしょうか?」

 意外な質問だった。でも、この真面目そうな子は自分のためじゃなく、みんなの気持ちを代弁して発言している可能性の方が高そうだ。

 「君は、五十嵐さつきさんだね。初日から質問するなんて、とても好感が持てるよ。その質問に対しての返答は、勿論許可されている、だ。ただ、目標はしっかり立ててもらう必要がある」

 「はい、ありがとうございます」

 隣の席の五十嵐さんが礼儀正しく会釈をする。

 だが、机の下をみるとガッツポーズをしている。ガッツポーズをしている事から、何かに手応えか喜びを感じていると分かる。それが娯楽が認められた事か、意欲があると褒められた事のどちらかは僕には分からないが。

 「今の五十嵐さんの様に、疑問点があれば質問してくれ。部活についての詳細は机に置いてある紙を見て貰えば分かる。とりあえず、今日からよろしく頼む」

 早川先生は真面目だが、根は優しそうで安心した。

 課題を伝え終わると、今日は解散と言い教室から出る早川先生。

 それに続くように、席を立つクラスメイト達。

 僕は学校内を見て回りたかった為、全員が教室を出るのを待つ事にした。

 だが、中々立ち上がらない隣の席の五十嵐さつきさん。

 「君、どんな部活にするかもう決めた?」

 急に話しかけられ驚きつつも返答する。

 「もちろん。入学する前から考えてたよ」

 「そうなんだ。やっぱり、娯楽?」

 笑顔を見せる五十嵐さん。この子は見た目のイメージと違って、話せば良い子タイプなんだろう。

 「僕の部活は娯楽っぽいけど、娯楽では無いんだ。ごめんね、五十嵐さん。せっかくみんなの為に、娯楽分野が許可されるか聞いてくれたのに」

 五十嵐さんは僕の発言に対して首を傾げる。

 「みんなの為に言ったわけじゃ無いよ!私自分の為に言ったの。大学入ったらみんなでトランプやりたいなって!」

 あ、この子トランプ部作る気だ。

 さっきのガッツポーズも娯楽が認められたからだ。

 この子真面目じゃない。馬鹿だ。

 「さっきついつい出ちゃったガッツポーズ見てたでしょ!私

やばい、見られた!って思ったけど、君が凄い優しい笑顔で微笑んでたから、この人話しかけやすそうって思ったんだよね」

 うわっ、恥ずかしい。無意識に微笑んでたのか僕は。

 「僕知り合いいないから、隣の席の人が話しやすそうな人で良かったよ。トランプ部許可されるといいね」

 「すご!私がトランプ部作りたいって何で分かったの?君もしかして、エスパーか何かかな?」

 さっき自分でトランプと言っていたが…。

 話している間、ずっと笑顔の五十嵐さん。こういう女の子は高校の頃とかモテてたんだろな。男子からしたら良く笑う女の子って人気だから。

 「やっぱり、トランプ部か。僕は人の心読めるからね」

 「うんうん!すごい!人の心読む事よりも、そのドヤ顔がすごい!」

 またまた、恥ずかしい。微笑んだりドヤ顔したり、僕は顔に出やすいタイプなのかもしれない。

 「君の名前は、藍川仁くんだね!仁くんって呼ぶね!」

 小学校の頃からみんなからは名前で呼ばれてたらから、そっちの方がしっくりくる。

 「じゃあ僕も、さつきさんって呼ばせてもらうね」

 「んー、さん付けは嫌だけど、慣れるまではそれでいいや!

これからお隣さん同士なかよくやろうぜ!仁くん!」

 初日から友達に慣れそうな人が出来て良かった。

 親睦を深める為にも校内見学に誘う。

 「ちなみに僕今から校内散歩するけど、ご一緒にどう?」

 「お、行く行く!案内係よろしくね!」

 「ちゃんとエスコート出来るか分からないけど、頑張るよ」

 僕達は何気ない会話をしながら教室を後にした。


○部活動始動

 入学式から約1週間が経ち、今日から、部活動が始まる。

 入学式の次の日に、全員が部活を決めた後、部活動の概要の説明を聞いた。


 部活動概要( 1年生 )

 1 自ら立てた目標を1年間かけて達成する事。

   目標達成とは別に部活動ポイント(BP)200ポイン 

   トを貯める事。

 2 3ヶ月毎に学校が個人に用意したノルマを達成する事。

   達成すれば30BP以上得る。

 3 他の部活動参加により1時間に付き1BP得る。

 4 ノルマ達成不可能な場合は他の部活動に参加し、期限

   内にの間に30BP得る事。

 5 BPは他人に譲る事は出来ない。

 6 部活動の場所は携帯アプリにて事前に予約する事。

 7 BP管理は全て携帯アプリにて行われる。

 8 年間で200BP貯めれなかった場合留年とする。

 9 1年生の間は部活の合併を禁止する。

   

 簡単に説明すると、1年かけて自分の目標を達成させ、それとは別に200BP貯めなければいけない。BPを貯めるために部活動を行い、ノルマが達成出来ないようであれば、他の部活動に参加してBPを得る。

 仕組みは単純だが、学校側が用意したノルマ次第で、部活の難易度が大きく変わってくると思う。

 僕のノルマは比較的簡単で、

 ・学校生徒の悩みを解決し30BP得ること。

 (1人解決に付き5BP、上限は60BPまで)

 単純に3ヶ月で6人の悩みを解決する事だ。6人以上解決しても良いが、最大12人で60BPまでしか手に入らない。

 難易度が低い為、他の部活には参加しなくて済みそうだ。

 僕とは違い、さつきさんはトランプ部が無事通ったようだが、ノルマの事で少し悩んでいる様子だった。

 「仁くんは部活の日程は何曜日にしたの?」

 「僕は毎週月曜日にしようかなと思ってる。もちろん今週は今日から部活始めるつもりだよ」

 「初日からいきなり始めるなんて勇気あるね。私は今日は様子見して明日からスタートする予定!」

 逆に初日は様子見する見物人が多いと見て、今日から部活動を開始する事にした。上手くいけばすぐにノルマ達成出来るかもしれないからだ。

 「でも私のような娯楽分野だと、ノルマ達成が大変そうだし、そもそもトランプ好きな人しか来てくれないと思う…」

 トランプは1人では成立しない。トランプ部のように1人では成り立たない場合は、必ず誰かに参加してもらわなければならない。

 「まあ、トランプ部結構大変だとは思うけど、1年の間は途中で部活変更も可能だし、無理だったら変更すれば良いと思うよ」

 「んー、でもトランプをクラスのみんなとやるって言う目標は達成したいかも」

 さつきさんの目標は僕の想像していたよりも、ずっと難しい内容だった。みんなの都合もあるし、無理だと思うけど…。

 「ま、気長に考えるとするよ!とりあえず60人とトランプするノルマをクリアする為に、今日から声かけ運動頑張る!」

 そう言ってさつきさんは、僕に軽く手を振り、クラスのみんなに声をかけ始めた。あの子は見た目とは違い、気さくな子だからすぐに友達が増えるだろう。ノルマもあっさりクリアするかもしれない。


 放課後になり保健室に足を運んだ。

 僕は今日からカウンセラーとなる。

 中学生の頃から趣味で始めた、カウンセリング。最初は、友達の相談に乗っていたぐらいだったが、高校生が終わる頃には、先生含め色々な人の悩みを解決してきた。

 「カウンセリング部創設記念日だ」

 僕は元々人の話を聞くのが好きだ。そして、僕は人の心が読める。この学校では、部活動として成果が評価される。評価されたい気持ちと、みんなの役に立ちたい気持ちでこの学校を選んだ。

 カウンセリングと言えば、医者っぽいから部活動の場所を、保健室にする事に決めた。

 「なんだか、それっぽくなってきたな」

 念願の部活動創設により、心が弾む。

 早くお悩み相談をしたいと、思いつつ保健室のドアが開くのを待つ。

 携帯アプリで検索すれば、誰がどこで部活を開いているか、すぐにわかるようになっている。カウンセリング部の文字を見れば、すぐに人が来てくれると思ったのだが…。


 「失礼します」

 部屋のドアが2回ノックされ、男性の声が聞こえて来る。

 部屋に入ってきたのは、堅いが良く身長が高い、強面の男性。一目見ただけだと、カウンセリングが必要なさそうな容姿だが…。

 「カウンセリング部であってるよな?」

 僕は首を縦に振る。この人が初めてのお客さんだ。

 「俺は1年Cの矢下だ。よろしく」

 Cクラスといえば、体育系のコースだ。スポーツでもやっているのだろうか。

 「僕は藍川仁、よろしく。矢下くんが初めてのお客さんだよ。ご期待に応えられるよう頑張るよ」

 「早速なんだが、誰にも言えなかった悩みを聞いてほしいんだ」

 切り出しが早くてこちらも助かる。

 「俺高校の頃からよ、片想いしててさ、その片想いの相手を追いかけて、この大学へ進学したんだ」

 誰が何の恋をしようが勝手だが、恋愛とは程遠い男性からの恋愛相談により、僕の目がカッと開く。

 「それでよ、俺見ちまったんだ。あいつの…」

 片想いの相手の何かを見てしまったようだ。

 「あいつの…あいつの彼氏みたいな奴を。夜、男と2人でいるところを見ちまったんだ。あれが彼氏かどうかは、正直わからないが、あいつは泣いていた」

 悔しそうに話す矢下くん。話すのが苦手か知らないけど、スラスラと言葉が出るタイプではないようだ。

 「あいつを泣かせた男が彼氏がどうか知りたいんだ」

 簡単に言えば、夜自分の好きな女の子が、男といるところを見てしまった。だが、女の子は泣いていた。その泣かせた男を突き止めてくれってところかな。

 「矢下くんは自分の好きな子を、泣かせるような奴に取られたくないと。僕はその男を突き止めればいいのかな?」

 正直、初めてのお客さんがカウンセリングではなく、探偵紛いの事をさせようとしてきて、がっかりしている。一応矢下くんは悩んでいるようだし、適当にあしらうわけにもいかない。

 「いや、違うんだ。その男が誰であろうが関係ない。あいつが付き合っているかどうかだけ知りたいんだ」

 なるほど、矢下くんはきっと慎重派だ。告白する時に、彼氏がいたら勝ち目がないと思っている。だから、彼氏がいるかいないかを知りたがっている。

 てっきり、泣かせた男を倒すのかと思ってしまった。

 「話は理解できたよ。じゃあ同じ大学のその好きな相手の名前を教えてもらっても良い?」

 矢下くんはモゴモゴし始め、何故か沈黙が続く。

 「…そんなこと、言えるわけないだろう」

 この人は何を言っているんだ。彼氏の所存について、知りたがっているくせに、女の子の名前は言わないつもりなのか。

 「それだと、僕はどうしようも出来ないけど…」

 「そうだよな…分かった。名前は言わないが、俺が男といるところを見た場所と時間だけ伝える。そこを見張って、彼氏かどうかお前の目で確かめてくれ」

 矢下くんは慎重派が過ぎる。悩み相談してきたが、女の子の名前は知られたくないし、自分が彼氏の所存を知りたがってると女の子に知られたくもない。だから、僕を良いように使おうとしている。

 「場所はこの大学のすぐそばにある、コンビニ。夜の9時。

女の特徴は茶髪、それ以上は言いたくない」

 「結構難しいな…でも、分かったよ。その願いできる限り叶えると誓うよ。ただ、特徴がちゃんとわからない分、時間は掛かると思う。とりあえず、矢下くんの連絡先だけでも教えてほしい。気になる事があったら、連絡させてもらいたい」

 またストーカーみたいな事をするのか。しかも、同じコンビニだし。不満を隠しながら、連絡先を交換する。

 連絡先を交換し終えたが、矢下くんは帰らない。

 きっとBP獲得の為に、1時間は居座るつもりだろう。

 僕は慎重派は真面目なんだなと実感した。


 1時間が経ち矢下くんが退室していった。

 女の子が彼氏と来るかも分からないのに、コンビニに張り付いて貴重な時間を潰す。それで得られるBPがたったの5BPだ。割に合わないと思ってはいるが、始めてのお客さんだから引き受けた。

 「意外と僕のノルマも馬鹿にできないかもな…」

 時刻はもう6時をすぎている。

 そろそろ帰り支度でもするか。

 「たのもー!やってる??」

 勢いよくドアが開き、ハイテンションのさつきさんが入ってくる。

 「いやいやー、初日からBP獲得できたかな?この部屋に、人が入るの私ちゃんと見たんだから!」

 こんな時間まで残っているとは。他の部活に参加でもしていたのだろうか。

 「それが、BP獲得には時間と労力がかかりそうだよ」

 僕の疲れた姿を見て、さつきさんは肩をポンと叩いてくる。

 「まだ、若いんだ。気長に行こうぜ!」

 「人生の先輩感だしてるけど、同じ歳だよね、君」

 さつきさんはケタケタと笑う。さつきさんといると、何だか悩みもなくなるように感じる。

 「ま、時間も時間だし、一緒に帰ろう!」

 初日から毎日、一緒に帰る仲となった。

 今日も僕達は何気ない会話をし、学校を後にした。

 

○意外な再会

 僕のノルマは3ヶ月で6件の悩み解決である。単純に、1ヶ月あたり2件解決していけばノルマ達成である。そして、1つあたりの依頼に掛けられる時間は2週間が限度だろう。

 昨日来た矢下さんの依頼はかなり時間がかかりそうだ。だが、僕は毎日その時間に散歩をしている。日課である散歩の延長線として、ただコンビニにより茶髪の女性を探せば良いだけである。散歩のついでと考えれば、見つける事が出来なくても、無駄になった気はしなさそうだ。

 昨日の夜散歩した時には見つけられなかったが、ここから約2週間根気強く頑張ろう。


 「いや、特徴が茶髪だけじゃ無理だ」

 依頼を受けてから、1週間経った。その間毎日コンビニに通い詰めているが、特徴が茶髪だけだと見つかるものも見つからない。

 コンビニで買ったおでんを外で食べていると、急に後ろから声をかけられる。

 「あなた、まだ懲りずにストーカーさん続けてるんですね」

 この子は僕が万引き犯と間違えた女の子だ。

 「いきなり、ストーカー呼ばわりとは。あの事は水に流してくれたと思っていたんだけど」

 「うちだって、好きであなたと話したいとは思っていません!でも、うち以外にも被害者が出そうな雰囲気が凄い出てたので、抑制する為に声を掛けたのです!」

 僕が前と同様、コンビニに張り付いて色々な人を見ていたから、怪しいと思って声を掛けたのだろう。

 「確かに僕は人を探している。でも、ストーカーとかじゃなくて、学校の課題でこんな事やらされてるんだ」

 僕の発言が可笑しかったのか、女の子はクスクスと笑う。

 「学校側がストーカーする課題を出すわけないじゃないですか!何、とんちんかんな事言ってるんですか。うち簡単には、騙されませんよ!」

 僕の言い方だと、確かに変な学校に通ってると思われても仕方ない。また疑われるのも嫌だし、軽く理由を説明した。

 「なるほど…。じゃあ、あなたはその依頼者の為に、ここで泣いていた茶髪の女の子を探しているって事ですね」

 「まあ、そんな感じだ」

 「それ、絶対見つかりませんよね。ここ1週間見張ってて成果が無いのも当たり前です。もっと特徴が分かれば良いのですが…」

 僕もこの事同意見だ。見つかるはずもない。

 「例えば茶髪は茶髪でも、濃さとかあるじゃないですか?うちも茶髪だけど結構明るいし。それくらい、教えてもらっても良さそうな気がしますけど…」

 そう言えばこの子も茶髪だ。この暗さでも分かるくらい明るい色をしている。

 「それが分かったところで、無理な事には変わりなさそうだけど…」

 意外とこの子は親身になって考えてくれている。出会いは最悪だが、万引き犯じゃないと分かった今なら、この子を素直に良い子だと思える。

 「まあ、あなたが今回はストーカーじゃないと分かった事ですし、うちは帰りますよ。でも、側から見たら怪しいので、警察に捕まらないように気をつけてください」

 笑顔で手を振り去っていく女の子。ここから家が近いのだろうか。ここに来ればまた会えるかもしれない。

 「散歩しばらく続ける事にするか」

 僕は散歩の理由がまた1つ増えた。


 この1週間の成果は全くなかったが、僕は確実に矢下くんの好きな相手を見つける案を思い付いた。

 「我ながら、完璧な作戦」

 好きな相手を見つける為、僕はCクラスに足を運んだ。

 「ねえねえ、私って必要あるのかな〜、理由くらい教えてくれたって、いいじゃんか〜」

 1人だと心細いのでさつきさんを付き添わせている。

 「僕のBPの為だと思ってほしい。さつきさんの部活の手伝いも今度するからさ」

 さつきさんは納得してないようだが、ついてきてくれる。求められたら断れないタイプだと分かっているから頼んだ。


 僕がここに足を運んだ理由は矢下くんの好きな子が、このクラスにいる可能性が高いからだ。矢下くんはそもそも好きな子を追って、この学校に入学している。という事は、この学年に好きな子がいるのは確率的に高い。長い時間一緒にいたいのであれば、同じ専門コースを選んでも不思議じゃない。

 「とりあえず茶髪の子探せば良いんだよね?見た感じ3人くらいしかいないよ!」

 学年全体を見ても茶髪は少ない。まだ、大学入学して間もない為、茶髪にしている子は少ないからだ。この学年の茶髪の子の顔を覚えれば、コンビニに現れた際特定できる。

 「1人だと流石に女の子をジロジロみるのは、気が引けるから、さつきさんがいてくれて本当に助かったよ」

 心からの感謝の気持ちだ。さつきさんは嬉しそうに頷く。

 「あれ、あなたってもしかして…ストーカーさん?」

 後ろから聞き覚えのある声が聞こえてくる。

 「やっぱり!あなたストーカーさんだ!まさかまさか同じ学校とはうちビックリだよ!」

 お互い意外なところでの再会により驚きを隠せない。

 「コンビニの近くに住んでるのかなとは、思っていたけど、まさか一緒だとは。何かの縁だしよろしく頼むよ」

 世間は狭いとよく言うが、ここまでとは。

 「お隣の綺麗な女性は、彼女さんですか?初めまして、うち内田椿って言います!」

 この子は椿って名前なのか。静岡に来てから散々見てきたが、名前を知ろうともしてなかった。

 「いやいやいやいや!違うよ!ただの隣の席!仁くんとは普通の友達だよ!」

 めちゃくちゃ否定された。いや、別に良いんだけど、そこまで露骨に彼氏否定されると、なんだか不愉快だ。

 「そうだったんですね!失礼しました!とてもお似合いだったから…。私も大学生になったし、恋愛してみたいなって思ってるんです!お互い頑張りましょう!」

 男がいる前で恋愛したい発言とは…。この言い分からして、今まで恋愛してきてないのだろう。

 「可愛いのに意外だな」

 つい思わず、思った事が出てしまう。

 「あなたは良く平気でそんな事言えますね〜。この前も言いましたけど、うちはそんなに単純じゃありません!」

 自分で単純じゃないとよく言っているが、この子は相当単純な女の子である。

 「仁くんって、意外と積極的なんだね…」

 後退りしながら目を細くしてこちらを見るさつきさん。

 「僕は人に誤解を与えやすいのかもしれないな」

 ここ最近は空回りしている感が否めない。

 あまり良い収穫は無かったが、休み時間の合間で、人探しに来た為、内田椿に別れを告げ、教室に帰る事にした。


○BP獲得

 今日からはCクラスの人間がコンビニに来ないか監視する作業となる。まだ、学年全員を見る事ができていない為、Cクラスだけにはなってしまうが。

 いつも通り散歩に向かう準備をする。

 コンビニに到着すると、そこには内田椿の姿があった。

 「やっぱり来ると思ってましたよ。仁さん」

 ランニング終わりだろうか、身軽な服にタオルを持った内田椿。不思議な事に僕の名前を覚えている。

 「ああ、今日も人探しの為にちょっとな。それより、僕の名前知ってたんだ」

 「もちろんもちろん!今日さつきさんがあなたの事を仁くんと呼んでいましたからね!」

 そいえば昼間話した時にさつきさんが僕を呼んでいた。

 「今日はうちも仁くんのお手伝いをしてあげようと思って」

 僕の周りにはお節介が寄ってくるのだろうか?さつきさんも

内田椿も両方お節介だ。

 「それはそうと、昼間自己紹介しましたが、うちの事は椿って呼んでください!名字は嫌なので」

 向こうがそう呼べと言うなら従うしかない。

 「分かったよ、椿。手伝ってくれてありがとう」

 どういたしてましてと、椿はにっこり笑う。

 話をしながら、コンビニを監視していると携帯が鳴る。

 僕にメールが来たようだ。

 矢下くんからのメール。

 「お前、もう俺の好きな相手見つけたんだな。明日までに、彼氏がいるかいないか確認してくれ。お前がここまで、できるやつだとは思ってなかった」

 向こうからの一方通行な文章が送られてくる。

 だが、不思議な点がある。

 僕はまだ矢下くんの好きな相手を見つけ出せていない。それなのに、見つけたと言ってきている。

 「誰からのメールですか?」

 考え込む僕を見て心配そうに聞いてくる椿。

 「いや、依頼主からのメールだが、僕が好きな人を見つけたと勘違いしているらしい」

 矢下くんが見つけたと知っていると言う事は、僕はいつの間にか好きな相手と接触していたという事。だが、学校に入学してから話した女性はさつきさんと椿だけ。

 僕は考える。

 矢下くんの好きな相手は茶髪で同じ学校。

 その線からしてさつきさんは黒髪だから外れる。

 勝手に違うと決めつけていたが、普通に椿は茶髪で条件が一致している。

 矢下くんは21時にコンビニで茶髪女性が男に泣かされているのを見たと言っていた。

 確かに椿は21時にこのコンビニに現れる。

 「変な質問して良いか?最近ここで泣かされたりしたか?」

 「泣かされる?うちが?身に覚えは全く無いですが…」

 本人が泣かされていないと言うなら、違う気がするが。

 「じゃあ、もう1つ。ここ最近、ここで男と2人で遊んだりしたか?」

 「え、うち彼氏いませんし、そもそも男の人と2人で遊んだ事とかありません!でも、ここ最近で言うなら仁さんとストーカー騒動で話はしましたけど…」

 確かに僕はこの子と話をした。本人であるから覚えている。

 僕は矢下くんに確認のメールを送る。

 すぐに矢下くんからメールの返信が来る。

 「確か2週間くらい前だった。入学式の前の日だと思う」

 入学式の前の日。ストーカー騒動の日と一致している。

 ただ僕はその日、その時間に椿を監視していたから分かる。

 泣いてなどいなかった。

 僕はもう1度考えを整理する事にした。

 客観的に僕と椿を見たとしたら…

 そして全てがつながる。

 「椿、依頼主から好きな相手を聞き出せたから、今日はもう大丈夫だ。すぐ終わったけど、また学校で会ったら話しかけてくれ」

 「あ、はい!分かりました!うちが知らないところで解決したみたいですけど、こういうハラハラドキドキなら全然また付き合いますよ!ストーカーって案外楽しいかもですね!」

 満面の笑みを浮かべる椿に対して、しっかり訂正する。

 「あのな、ストーカーはダメ。される側は違う意味でハラハラドキドキしちゃってるから」

 確かにそうですね!と言わんばかりに、両手を合わせ納得する。

 本当に単純ですこと。口にはあえて出さないが…

 そして僕達は、用が無くなった為、お互い帰路に着く。

 今日も椿はバイバイと手を振ってくれた。

 女の子が手を振ってバイバイすると、あんなに可愛いなんて…。あれは強力な技だと思った。


 僕は家までの帰り道で今回の件を、まとめることが出来た。

 矢下くんが勘違いした全容はこうだ。

 まず僕達がストーカー騒動を起こしている時に、矢下くんは他の場所から僕達を見ていた。慎重派が故に遠くから姿を隠して見ていたのだろう。彼氏側が僕だとわからなかった点からして、遠すぎて、ちゃんと見る事が出来なかったのだと思う。

 遠くから見ていた矢下くんは、僕が椿のコンドーム入ったビニール袋を奪う姿や椿と僕がお互い最後に手を振り合っているところからカップルだと思い込んだ。

 泣いていたと言ったがそれは勘違いだ。椿は僕にコンドームを見られた際に、しゃがみ込んだ時があった。それは泣いたのでなく、恥ずかしくてしゃがみ込んでいた。

 こんなところだと自分では納得したが、恐ろしい事にも気付く。

 矢下くん…マジのストーカーじゃん…。

 事件当日もそうだし、もしかしたら今日も見ていたのかもしれない。

 「もし当日僕は、顔を見られてたらどうなっていたのだろうか」

 あの大柄な矢下くんを敵に回したくはない。

 不幸中の幸いとでも言うべきか。

 そして僕は矢下くんにメールを送る。

 「内田椿は恋愛経験がない」と。

 これで依頼達成。5BPが貯まる事になる。

 だが、もう1つだけ気掛かりな点がある。

 何故恋愛経験が無く彼氏もいない、椿がコンドームを買ったのか。

 あの純粋で単純そうな女の子が嘘をついてるとは思えないが、コンドームを買った事は事実。

 僕はこの謎を解決する方法を考えながら家に帰る事にした。

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