最高にうまいもののレベルを100とするなら焼きそばのうまさの上限は65ぐらいだと思う。
俺の名前は鰓萌鹿尾菜ワッショイ。俺は今、クラス一の大金持ちの牙城院クレアラと料理対決の真っ最中だ。
なんでこんなことになってるかって言うと、俺にも譲れないものがあるからってことなんだ。
俺の父さん、鰓萌鹿尾菜チョクレイは料理人だ。それを聞いた牙城院が自分ちのパーティで父さんを総料理長として雇ったんだ。
父さんは張り切って皿にてんこ盛りの焼きそばを作った。そしたら牙城院のヤロウ、貧乏人が考えそうなご馳走だこととバカにしやがった!
そしたら父さんは自信をすっかり無くして今では来る日も来る日もぼけっと生きる毎日。
ちくしょう! 父さんはすごい料理人なんだ! けちょんけちょんにされたまま黙ってるなんて俺には出来ない!
そう思った俺は牙城院に謝れと言った。そしたら
「おーっほっほっほっ! あんなひもじいものを牙城院家のパーティに出したんだから当然ですわ!」
「なんだと! 焼きそばがひもじいだって!」
「その通りですわ! まああんなものをご馳走とありがたがって食べているあなたには到底ホンモノを理解するなんて出来ないでしょうがねえ! おーっほっほっほっ!」
「バカにしやがって! そんなに言うなら俺と料理勝負しろ!」
「なんですって?」
「父さんの仇は息子の俺がとる! そんなに言うなら俺よりもいい料理が作れるんだろうな!」
「モチのロンですわ! わたくしの肥えに肥えまくった舌に不可能はありませんことよ!」
「よしっ! じゃあ勝負は三日後だ! 吠え面かく準備でもしとくんだな!」
「あなたこそ、包丁が握れなくなるのを見越して電子レンジの練習をしておきなさい!」
これが料理対決に至った経緯だ。
しかし牙城院のやつ、審査員は第三者に任せようと言ってきたが全員自分とこの執事ばっかじゃないか! 汚え女だ。
まあ何でもいい、人間ってのは舌に嘘をつくことは出来ない。牙城院の料理を上回るものを作っちまえば何も問題はない。やってやろうじゃねえか!
今は牙城院のターンだ。しかしあいつ、このためにてんこ盛りに用意された食材には一切手を付けず、コソコソ何かやっている。本当に料理をしているのか?
「おーっほっほっほっ! 鰓萌鹿尾菜さん? 料理は掛け算ってことは知っていて?」
「食材同士の相乗効果とか、そういうことか?」
「まあ当たらずも遠からずですわ。そしてわたくしはその真髄を把握済みですことよ! 見よ! これがわたくしの料理ですわ!」
牙城院が料理を見せてくる。それは
「カップ焼きそば……?」
それは全然硬そうだしなんならまだ湯切りをしていないカップ焼きそばだった。
「これはカップ焼きそばに水を入れて10秒ほど経ったものですわ!」
「なんだそれ、そんなんがうまいわけないだろ」
「あなたは経済的にも頭脳的にも貧困層なのですわね。わたくしが先程言ったことをもう忘れていて?」
「言ったことって、料理は掛け算ってことか……はっ!」
「そう! これはカップ焼きそばという大きなマイナスと、粗雑な調理方法という大きなマイナスを掛けた産物ですわ!」
「な、なんだって!」
「マイナス掛けるマイナスはプラス。最近なら小学生でも理解していますわ! さあ審査員の皆さま、お召し上がりなって!」
「まずいです」
「料理以前です」
「歯が欠けそうです」
「なっ……ななっ……何てことを言いますの! この牙城院クレアラが作った至高の料理が食べられないとでも言いますの!」
「はっはっは、牙城院さんよぉ、やっぱお嬢様にはこれは分からないかなぁ」
「……何が言いたいんですの?」
「確かにお前の理論は間違ってない……でも決定的な、大事なことが見えてないんだよ。」
「もったいぶらずにさっさと言ってくださいまし!」
「カップ焼きそばってのはな、大きなマイナスじゃねえ……ちっちぇープラスなんだよ!」
「な……なんですってぇぇぇ!!!!」
「見てろお嬢様、俺が本当の料理ってもんを見せてやるよ。」
あんだけ言ってた牙城院は大したこと無かった。所詮は口だけ、いや舌だけだったようだ。
これなら俺の勝利は間違いない……とは言ってもそれで手を抜くような俺ではない。牙城院に勝つことが目標ではない、父さんの仇をとるために俺は勝負しているんだ。
そのための料理を俺は準備した。見てやがれ牙城院、これが俺のっ!
「焼き……そば……?」
そう、焼きそばだ。
「父さんを貶めたお前を、これで分からせてやる……」
「ひっ!」
「お前はこれを貧乏臭い畜生の筑前煮の如き豚の餌と言った。」
「そこまでは言ってませんわ!」
「さあ審査員共、お前らがバカにした焼きそばにひれ伏すがいい!」
「普通です」
「可もなく不可もなく」
「焼きそばのイデア」
「勝者、鰓萌鹿尾菜!」
「よっしゃああああ!!!! 勝ったぜ父さん!」
「まあまずいと普通なら普通を選びます。」
「異議なし」
「やむなし」
「鰓も……いえワッショイさん、わたくし感動いたしましたわ! あなたの料理への情熱、それはわたくしのチンケなプライドなんて簡単に崩しましたの。今度わたくしに料理を教えて下さらない?」
「クレアラ……よし! 俺ん家に来い! なんでも教えてやらぁ!」
「いえ、鰓萌鹿尾菜様もお父上同様特段上手なわけではありません。今から牙城院家直属の料理人に教えさせます。」
この後コックに色々教えてもらったけどよく分かんなかったぜ! あとなんやかんやあって今はクレアラと結婚して牙城院家の跡継ぎとして頑張ってるから応援してくれよな!