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自宅で倒れて入院したら人生の選択を迫られた

作者: 枝野はっぱ


 身動きができないなぁと感じながら目が覚めた。自宅ではないことはわかる。周りにたくさん機械があって、何故か手足をベッドに固定されている。

 ……これは、知らないうちに誘拐にでもあったのか?または宇宙人にさらわれたとか、そんな摩訶不思議なことでも私の身に起こったのだろうか。



「水無月さん、気が付かれたんですね。今日が何日かわかりますか?」

「………え?あ、今日ですか?…………へ?」

「ゆっくりでいいですよ。寝る前は何月何日でしたか?」

「寝る前?……えっと、12月の…20日?」

「わかりました。リラックスしててくださいね」



 そう言って部屋から出ていった人は、どう見ても看護師さんだった。でも、そうだとしたらここは病院ってことだよね?……なぜ私は拘束されているの?

 ……というか、あれ?今月ってまだ11月だったかな?確かもうすぐ年末だとか職場で話してたから12月で合ってたよね?

 少し混乱しているけど、今目が覚める前にも何回か起きた記憶がある。その時は、なんとなくいろんな選択肢を選んでいたような変な感覚だけがあって内容は覚えていない。でも、家にいたときの記憶で言うと覚えている。


 週末、特に予定も入れてないお休みだった。朝からなんとなくだるさがあって、風邪ではなさそうだけどゆっくり休もうと思って横になっていた。

 でも、全然良くならなくて食べても吐いたりして「トイレの前で寝起きしたほうが楽かも」なんて思いながら過ごして迎えた月曜日。もちろん良くならなくて会社にお休みの連絡を入れて、お母さんにも連絡したのは覚えてる。………ただ、そこまでしか覚えてない。


 ということは、お母さんが来る前に意識がなくなったのかもしれない。それで連絡をもらって様子を見に来た時に、家で倒れてた私を見つけて連絡してくれた…と考えると今の状況もうなずける。

 ……あれ?確かその時の連絡で「年末年始はいつから休み?それに合わせて来月のシフト調整するから」なんて返事が来てた気がする。それなら今は11月だったかも。看護師さんに嘘ついちゃったなぁ。


 そんなことを考えている間に、さっきの看護師さんとお医者さんっぽい人が部屋に入ってきた。

 何個か質問されてわかったことは、ここは地元で大きな総合病院の集中治療室だということ。お母さんの通報で11月22日に運ばれて今日は11月25日だということ。その間は意識が混濁していたので薬の投与や検査のため、暴れないようにベッドに固定されているということ。

 ……なのに先程、今日が12月20日だと言ってしまったので看護師さんがまだ混濁している可能性があると判断していたことを聞かされた。

 本当に申し訳なく思う。でも「さっきのは間違ってて、今は11月だってわかってます!」って言ったけど信じてくれてなさそうだった。


 とりあえず意識が戻ったばかりだから、あと2日ほど様子を見て問題なさそうなら一般病棟に移れると言われた。それまではこの拘束された状態なのかと不安だったが「大きな混乱は見られない」ということで速攻で固定具を外してもらえたのでホッとした。また拘束されないように変なこと言わないようにしないと。





 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆





 意識が戻ってから2日たって一般病棟に移ったわけだけど、同室者がなんかおかしい。

 集中治療室から出たばかりだからなのか部屋がなかったからかわからないが、二人部屋に移されたときに相手が私を見て「なんで男の人が入ってきたの?」なんて言ってきたのだ。

 ……失礼な!身長は172センチあるし、ショートヘアでぱっと見は男っぽく見えるかもしれないけど看護師さんが「水無月陽菜子さんはこちらのベッドになります」って私の話をしたあとの言葉だからね。

 私の偏見もあるかもしれないけど「ひなこ」って名前の男の人はほぼいないと思うのよ。これで「ひかる」とか「りん」とかなら勘違いすることもあるかもしれないけど…ホントに失礼しちゃう。


 始まりがそれだったのもあって私の中では「人の話を聞かないタイプ?」なんて思っていたわけだけど、今は話を聞かないどころかちょっとおかしいのかもって思ってる。

 理由は簡単。彼女とはほとんど会話にならないのだ。お互いに無言というのもなぁと話しかけるのだが、見当違いなことばかりを返されてしまう。

 彼女の入院理由はわからないけど、意識がずっと混濁しているのかもしれない。……私が言えたものじゃないけど。もしかして彼女と同室になった私も同じように思われてるのかな?いや、私はすでにきちんと受け答えできてるし、しばらく点滴と寝たきりだったからリハビリとお粥生活が改善されれば退院できるって言われてるし。

 このご時世だから、面会禁止にされてるのもあって家族も友達も連絡は取れても会いに来ることはない。それもあって早く退院したいと思っているが、それを診断するのはお医者さんなので「一般病棟に移ってから1週間は様子を見てから判断します」と言われている以上、どうにも出来ない。

 

 ちなみに二人部屋に移ってから、会話にならない同室者だったのもあって私はスマホゲームと電子書籍で時間をつぶしていた。私がスマホとにらめっこしている間も彼女は「もう少しでお迎えに来れるのね」とか「こちらからはどうにもならないから仕方無いわ」とか、見えない誰かに話しかけていることが多かった。

 勿論、その語りかけの間は私の方を全く見ていないので一体誰に話しているのかと考えると…ちょっと怖い。

 そんな時はゲームで怖さを紛らわしたし、逆に不思議ちゃんが出てくる漫画とか読んでみたりもした。結果は特に変わらず、同室者は変わった子なんだなぁ〜って思うくらいだった。


 それが変わったのは11月30日。同室者である神無月弥勒さん(どう考えても私の名前より彼女の名前の方が男っぽいと思ってる)が、突然「12月1日は運命の日になるわね」と話しかけてきたのだ。

 私に話しかけてきたとわかったのは、初日以来、目も合わなかった彼女と目があったことと「水無月さんも楽しみね」と言われたからだ。

 一体何が運命の日で、楽しみなのかさっぱりわからなかったが話しかけられたのだから「そうだね〜」と無難に返事をした。

 そしたら、彼女は笑顔で頷いていた。初めて会話が成り立った気がする。



「これでようやく自由に動けるようになるわ。長かったけど以前のように戻れると思うと、その時間も価値があるものね」

「あ、神無月さんもリハビリ行ってたんですか?時間が被らなかったけど、お互いきちんと動けるようになったら退院できるって思うと頑張れますよね」

「見えているのに手が届かない悲しみは大きかったわ。でも、もうすぐすべて元通りよ」

「目標があると辛いことも乗り越えられますよね〜。わかります」

「今日は眠れないわ」

「あ、大きな声で喋らないでもらえるなら消灯過ぎてても私は気にしないですから」



 こんなに会話が続くなんて思わなかったけど、明日が楽しみすぎていつもの彼女とは違うのかもしれない。寝れないくらい楽しみだと言うなら、今日くらいいつも以上に喋っていても我慢してもいいかなと思う。

 もしかしたら、明日が誕生日なのかもしれないなぁ〜と考えながら日課になっていた電子書籍の更新分を読み始める。

 日課と言っても、二人部屋になってまだ3日しか経っていないのだ。会話のできなかった同室者と少しだけ交流ができたのは嬉しい気持ちもあるが、たった3日とはいえ電子書籍はかなり読んだ気がする。

 スマホゲームもいろいろ試したけど、私の中でヒットしたのは電子書籍のとある漫画だった。


 その漫画は、ある日突然異世界から日本に迷い込んでしまった女の子が主人公の、いわゆるローファンタジーというジャンルのものだった。

 ……読み始めたきっかけは、目の前の彼女がそういう存在なのかも〜、なんて思って検索をかけたことだけど読んでいくうちにがっつりハマってしまった。

 こういうストーリーはよくあるけど、絵が綺麗だったことと、主人公が異世界では神様の助手だったという設定がなぜか私にヒットしてしまったのだ。

 主人公が日本で出会った人々に「私は生物として生きているわけではないから、何もできないけど願うことはできるから」なんて言いながらも、多くの人の手助けをしていくのが面白くもあり感動もありで、絵の綺麗さと相まって一気に読んでしまったのだ。

 この漫画は既に本として販売になっているのか、電子書籍の方は毎日14時に10ページほど追加更新されていく。おそらく本の方に追いついたら毎日更新されなくなってしまうんだろうけど、今のところ更新されていくので楽しみにしていた。


 今まで読んだ分を考えると、その漫画は単行本3〜4冊分になる。結構前から連載されていたのかなと思いつつ今日の配信分を読む。

 ……とうとう主人公が元の世界に戻るようだ。これは最終回が近いのかもしれない。主人公は人間ではない設定というのもあり、精霊というか物に宿るモノが見えてそのモノにお願いをして人々を救ったり、時に残酷な事実を伝えたりするのだが、その精霊?から「準備が整いました」という報告を受けて「これで元通りになる」と笑顔で答えたところで終わっていた。


 ………まさかね。同室者の意味不明な昨日までの発言や、さっき初めて会話として成り立ったときの内容を考えると、本当にこの漫画の主人公のような存在かもしれないなんて思ってしまった。

 いや、私だってこの漫画がファンタジーってわかってるんだけど、なんとなくゾワゾワするような変な感じになってきた。気の所為だと思うけど、若干病室内か張り詰めたような空気になってる。

 そっと彼女の方を伺うと、私の方を見ていた。目が合うとニコッと笑ったのだが何故かそれを怖いと感じる。



「あなたにプレゼントを差し上げたいわ」

「……いや、私と神無月さんはそんな仲がいいわけでもないし気を遣わなくていいですよ?」

「やっぱり波長が合うのかしら。または、誰よりも長く質問をし続けたことがきっかけかもしれないわね」

「いやいや、今日ようやく会話が成り立ったと思ってるんですが?質問なんてしましたっけ?」

「覚えていないだけで記憶の片隅にはあるはずよ。それに、以前のあなたでは選ばないような本を読んでいたのも私の影響ではないかしら?」

「へ?……いやいやいや、そんなことないよ!神無月さんの影響って何?今読んでる本は、何となくで検索かけた漫画を読んでただけだから全く関係ないですから!あなたの影響なんてありません!」



 いつの間にか思った以上に大声を出していたみたいで、看護師さんが入ってきた。私を見て「何かありましたか?」なんて言ってきたけど、神無月さんと話してただけですって言っても首を傾げられただけだった。

 ……そりゃそうか。今まで私達二人に会話なんてなかったから、信じてもらえないのはわかっている。でも、本当に会話が成り立っていたし、それで思わず大声を出してしまったのだと伝えても「そうなんですね」と一言言って出ていってしまった。

 今の感じは信じてもらえていない気がする。しかも、なんか変な緊張感は取れないままだ。神無月さんの方を見ると、いつものようにどこを見てるのかわからない感じで「あともう少しね」なんて話している。


 そんなやり取りをしたあと、夜ご飯まで看護師さんが戻ってくることはなかったのだが、食べ終わったあとにお医者さんと共に入ってきた。



「水無月さん、今日の午後に大声を出したそうですが何があったんですか?」

「後ろにいる看護師さんにも話したんですが、同室の神無月さんと話をしていたときに思わず声が大きくなってしまったんです」

「そうだったんですね。水無月さんから見て神無月さんはどんな方ですか?」

「え?…いや、どんな方も何もちょっと不思議な方というか。今までは会話にならないことが多かったんですが、今日は会話が続いていたので珍しいなぁというか。……あ、見た目はとても綺麗な人だなぁって思ってますけど」

「そうなんですね」



 そういったあとに、お医者さんは看護師さんに目配せをした。それに対して看護師さんは頷くだけで何も話さなかったが、二人の中ではそれで納得したように見えた。



「水無月さん。ここは確かに二人部屋ですが、集中治療室を出てからずっとお一人で使っているんです」

「僕は、水無月さんが誰かに話しかけているようなのは知っていました。ただ、はじめのうちだけだったので『独り言の可能性もあり』と報告していたんです。でも、今日は間違えようもなかったので先生に報告したんです」

「………いやいや、ありえないでしょ?だって今も目の前にいるんですよ?二人揃って何の冗談を言ってるんですか?」

「う〜ん。やはりまだ意識の混濁があるのかもしれないね。今日はゆっくり休めるように薬を出しますね」

「意識なんて混濁してません!」



 私がなんと言おうとも二人は「明日検査しましょうか」とか「とりあえず落ち着きましょうね」と宥めようとしてくる。

 暴れたいわけではないけど、私の話を聞いてくれない二人に対して抵抗していたが、男性二人に女の私では抑え込まれてしまう。入口付近には他の看護師さんもいたが、その人が拘束具を持っているように見えたので私は抵抗するのをやめた。

 拘束をつける条件があるというのは、この入院中に調べてわかっていたからだ。確か「条件を満たしていない場合は拘束してはいけない」というふうに書かれていたはずだから、抵抗もせず言うことを聞けば拘束はされないと思う。

 案の定、落ち着いたと思われたのかお医者さんに「もし興奮して眠れなさそうなら薬を処方しますがどうしますか?」と聞かれたので「寝れると思うので大丈夫です」と答えた。


 そんな私を神無月さんは笑顔で見ていた。そして「ほら、やっぱりこちら側に近くなっているのよ」と話しかけてきた。でも、今返事はできない。お医者さんも看護師さんもいなくなってからだ。





 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 





「…で、あなたは私の頭の中にしか存在しない人なの?それとも幽霊とかそういう類?」

「どちらなのかは、あなたの捉え方次第かしら」

「質問を変えていい?そっち側って一体何?」

「あら、あなたは答えを知っているはずよ?だってこの部屋に来てからずっと読みふけっていたじゃない」

「やっぱりあの漫画ってそういうこと?…というか、初対面で私を男とか言ったのはあなたと会話して周りから『水無月さんはまだおかしい』って思わせるためだったの?」

「あれはあなたの勘違いよ。あなたと一緒に入ってきた看護師に対してかけた言葉だったのに、あなたが反応するから私も驚いたのよ。用意ができるまではできるだけ会話にならないように心がけようと思ってたのに、って」



 ……普通に会話できんじゃん!なんで今日まで不思議ちゃんだったんだ!って声を大にして言ってやりたかったけど、時間も時間だし次こそ拘束されかねないから大人しくね。

 とにかく、私がこの部屋に入ったときには彼女の策略?に良いように使われることが決まっていたのだと良〜くわかった。

 何よりショックなのは、私が更新を楽しみにしてまで読んでいた電子書籍が彼女の周りにいる妖精が作ったものだと知らされたことだ。そんなことできるの、なんてことは聞かない。だって彼女は人ではないのだから。



「あなたへのプレゼント。今度こそ受け取っていただけるかしら?」

「それ。プレゼントとか言うけどなに?あの漫画がこういう状況を受け入れやすくするために作った漫画だっていうなら、なにか私を助けるものってこと?」

「あなたの記憶の片隅に残ってないかしら?私はもうあなたにいくつか問いかけて、すでに選択していった結果が今なのよ」

「………………ん?」



 彼女に質問をされた記憶はない。でも、何となく記憶の片隅に、何かを選んだような場面が思い出される。一体いつ何を選んでいたんだっけ?

 考えても思い出せな……いや、よく考えれば入院してすぐの時に何かをひたすら選んでいったような覚えがある。その時私は何を選んだんだっけ?

 そう考えたことがきっかけだったのか、朧気ながらその記憶が思い出されてきた。


 意識が曖昧だったあの時、夢なのかどうかさえ確かではない中で色々な選択肢が出ていた。それは2択だったり3択だったり、とにかく答えは決まったものから答えるものだった。

 でも、どの選択肢のときも「死」につながる答えを選んだときは体のどこかに痛みが出て、苦しかった記憶がある。

 内容もバラバラで「苦しみが一生続くならどうしますか?」とか「知識とお金、どちらが大事ですか?」とか本当に色々。質問によって選択肢の種類もまちまちだけど、最後に選んだものだけははっきりと思い出せた。

 質問は確か「死が迫ったときどうしますか?」というものだったはず。それに対しての選択肢は3つあった。内容は『どうにかならないか抗う』と『やり残したことを消化する』と、私が選んだ……



「……『別れを告げて死ぬ』?でも、それでプレゼントってどういうこと?」

「あら、それは最後の選択肢ではないわ。だって死の選択を選んだ場合は、近いようで違う選択肢を出していたはずだもの」

「えぇ?そうだったかな。……ん?あ、そうだ!その後に『居場所がなくなったときどうしますか?』ってのが出てきたんだ!」

「そうね。その時の選択肢が『どうにかならないか抗う』と『自分のいた痕跡を残す』ともう1つ。思い出したかしら?」

「私は『新たな居場所をつくる』って答えたんだ。じゃあプレゼントって私の新たな居場所?」



 神無月さんは頷いた。そして「選択するものによって変化していくから、この結果にたどり着く人は今までいなかったわ」と教えてくれた。

 確かに何十個もの選択肢の中で「死」を選んだ時だけその質問に近いけど違う選択肢になっていくなんて考えたら、何億通りあるのか考えたくもない。確率がかなり低いってのはわかるけど。

 彼女の今日の発言や私へのプレゼント。さらにあの漫画の内容を考えると、何となくこれから私がどうなってしまうのかわかりたくないけどわかった気がする。



「私はあと数時間で、あなたのいた世界に行くことになるのかぁ〜」

「そうね。受け取っていただけるかしら?」

「受け取らなかった場合、私は死んじゃうんでしょ?死を選ばないように選択させていってくれたってことはそういうことでしょ?」

「……やっぱりあなたとは波長が合うのだと思うわ。きっかけさえ掴めれば説明がなくても理解できる。そんな関係は素敵よね」

「以心伝心ってやつ?そこまでの関係、私は別に求めてないけど」


 

 ニコニコしながら、彼女はまた変なところを見て「あら、準備ができたのね」と話し出す。時計を見るとあと5分もしないで日付が変わるところだ。話していて気づかなかったけど、数時間どころじゃなかった。

 家族や友達に別れの連絡をすべきか悩んだ時に、私は体ごと転移するのか、体は残って精神だけが移るのかによってはおかしなことになるかと思って確認をする。

 彼女曰く、私は精神だけが移るとのこと。体の方はこちらに残るので、この世界では死亡扱いになるようだ。

 家族や友達は悲しむだろうが、おそらく本当はこの病院に運ばれてきた数日後に亡くなっていたのかもしれない。それが、神無月さんのおかげで1週間ほど長く生きられたのだと思うと、あの朦朧とした状態が最期ではなくみんなと連絡を取れたこの期間があってよかった。

 最期になにか送ろうかと思ったのだが「サヨナラ」も「お世話になりました」もおかしいかなと思って送らないことにした。ごめんねみんな。私はまだ死にたくないから違う世界に行くことにしたよ。



「あなたの方も準備は良さそうね?」

「準備自体がないんで。それとも何か用意するものとかありますか?」

「特にないわ。それじゃあ、私の世界に行きましょうか」



 そういったと同時に光りに包まれる。彼女の世界ということは、あの漫画での助手の立場に私はなるのだろう。

 私が神様の助手という設定に引っかかるようにわざわざ作ったとしたら、あの漫画を書いた妖精はかなり優秀だ。これから行くのは未知の世界だというのに仕事内容まで予習させるとは恐ろしい。



 それじゃあ、次の世界では彼女から選択肢を出させるようなことなく息を合わせていけるようにしないとね。



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