高貴2
一週間で終わる宣言をしてしまったのに、全八話になってしまったので、今日と明日で二話ずつ投稿します。週末には完結する予定です。
実行委員の仕事は多岐に渡っている。大体、みんな何かしらの担当に別れていて、そこを専門的にやることになっている。統括しているのが、中山と副委員長の寺田、それに俺だ。
今日は、出店の準備の担当に進捗状況を確認する。
おおむね問題ないけれど、やはり集客のいい場所は人気らしく、揉め事もあったらしい。
そんなときには笹山の出番だ。笹山は出店担当の実質的なリーダーでかなりうまくまとめてくれている。今年のこの担当が比較的うまくいっているのは、笹山の力によるところが大きいだろう。
「じゃあ、あとは、出店で出たごみの収集だな」
「そう。最初は、全時間帯各出店交代でやらせようと思ったんだけど、どこも込み合う時間は人手が足りないしな。その時間だけは、実行委員から何人か出すしかないってことで話がついた」
「了解。笹山がいてくれて助かるよ」
俺が言うと、笹山がふっと笑った。
「お前、人がいいな。この間のこと怒ってねーの?」
千秋のことか。
「・・・怒ってねーよ。はっきりしてない自分が悪いんだって自覚してる」
「俺もそう思う」
は?
思いがけない笹山の言葉に思わず顔を上げる。
「おまえさ、彼女のこと大事なら、中山何とかしろよ。取り返しがつかないことになるぞ」
笹山の顔は真剣だった。
「彼女がさ、お前のことどう思っているかは、見ていてわかるけど、お前はわかりづらいよ。もし、何も言わなくてもわかってくれてるって思ってるんなら、そのうち痛い目見ると思う」
笹山の言葉に、背中がすっと寒くなる。笹山は、たぶん、この間の朝に千秋を初めてみたわけじゃない。たぶん、ずっと前から知っているんだ。千秋を、どこからか見てるんだ。そう思った。
俺が、何も言えないでいると、軽く息をついて、笹山は、笑った。
「ま、泣かすなよ」
そういうと、屋台担当の輪の中に戻っていった。今の話が無かったかのように、てきぱきと皆に指示を出している。
俺は、今言われたことが消化できずに、その姿を呆然と眺めていた。
帰り道は、結局、中山に捕まって、一緒に帰ることになった。話の内容は、一応実行委員の仕事のことだけど、必要以上に、肩や腕に触れてくるのはやめてほしい。俺だって、男だから女の子に触れられてうれしいこともあるけど、こういうのはホント困る。
笹山の言葉も繰り返し頭の中を回っていて、中山の言葉はあまり頭に入ってこない。
だけど、その声ははっきり聞こえた。
「篠野さん」
男の声だった。
思わず振り返るけど、誰もいない。
声は、道の反対側だった。
千秋が道の反対側を歩いていた。何で?あっち側は歩道が細くて歩きづらいからやだってこの間言っていたのに。
その千秋の横に、見たこと無い男が並ぶ。
地味な服装、地味な髪にメガネ。図書委員か?
千秋と知り合いらしく、楽しそうに話している。
「田中君?」
その声は、自分のすぐ横から聞こえた。中山だった。
「中山先輩。お久しぶりです。今帰りですか」
千秋の隣の男は特に驚くでもなく中山に答える。
なんだ、こいつ。
中山に腕をつかまれると、道の反対に引っ張っていかれた。俺は置いていけよ。でも、千秋とこの男が気になるのも事実だ。
「久しぶりねー。元気?今日は?部活?」
「図書委員だったんです」
中山と田中って言われた奴が、たわいも無い話をしている。奴にはうれしくない話題だったみたいだけど、如才なく相手をしていて、見た目と違って意外と社交的なんだなと思う。頭も切れそうだ。
田中は中山の話を適当に切り上げると、隣でうつむいている千秋を見た。
「こちらは一緒に図書委員をやっている篠野さん。同じ一年なんです」
田中の紹介を受けて、千秋がぺこりと頭を下げる。なんで、田中に紹介されてるんだよ。
なんだか頭にきて、気がついたら口を開いてた。
「お前も図書委員?」
千秋が驚いたように顔を上げた。俺が話しかけてくるとは思ってなかったような顔だ。それ以上に大げさに驚いたのが中山だ。
「崎山君、彼女と知り合いなの?」
「篠野さんと崎山先輩は家が近所で幼馴染なんですよ」
だから何でお前が説明するんだよ、田中。
一瞬むっとしたけど、中山がとんでもないことを言い出して、それどころではなくなった。
「崎山君のおうちって喫茶店なのよね。あ、そうだ。これからみんなで崎山君のおうちでお茶して帰らない?」
は?何考えてるんだこいつ。
田中もさすがに驚いたらしく、「急に行ったらご迷惑じゃ・・・」とか言ってる。
「や、こいつらにも予定ってものがあるだろうし・・」
俺も援護してみる。でも、中山は全然ひるまない。
「そうなの?でも、おうちにお邪魔するわけじゃないし。二人ともこれから何か用事があるの?あ、これから、デートだった?」
なんてこと言うんだ、こいつ。
その時、
「そ、そんなことないです!」
今まで黙って話を聞いていた千秋だった。みんなの注目を集めて、バツが悪そうだ。
「あ、ごめんなさい。あの・・」
「じゃあ、いいわよね。みんな行きましょ」
一瞬みんな黙ってしまったが、最初に自分のペースを取り戻したのは中山だった。
結局、みんなで俺のうちに来ることになった。千秋の前だって言うのに、中山にひきずられるように歩かされて、イライラする。
後ろで、千秋と田中がなんだか楽しそうに話している。
千秋は、人見知りで、特に男子とは緊張してあんまりうまく話せない。なのに、あの田中ってやつは平気なんだな。まあ、デートはしない仲みたいだけど・・・。
『とりかえしがつかないことになるぞ』
急に笹山の言葉が頭に浮かんで、ドキッとする。
さりげなく後ろを振り向いて、二人を見る。
千秋は、微笑んで、隣の田中を見上げている。
なんだよ。
そんな顔するなよ。