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千秋2

 図書委員の当番には、二人ずつ入ることになっている。


 うちの高校は進学校と言われる種類の学校で、図書室のほかに自習室として解放されている教室があるので、図書室自体の利用者はそんなに多いわけではない。だから、専任司書の結城先生を入れて三人いれば十分。それでも、一通りの仕事が終わってしまって、手が空いたりもする。そういう時は、交代で裏の事務室でお茶をする。


「篠野さん、今週三回目じゃない? 放課後当番」


 返却本の整理が終わって、結城先生が用意してくれたお茶を飲んで田中君と休憩する。

 田中君は同じ一年で、ちょっとおとなしめで地味な外見は、図書委員にぴったり。でも、本当はすごく頭の回転も速いし、決断力や行動力もある。どちらかと言うと高貴みたいなタイプの人だ。でもとても気さくで、人見知りしがちな私も話しやすい。


「そうなの。夏休みの図書当番。私、田舎に行く日と重なるところがあって、前川さんと放課後当番代わってもらったの。前川さんは部活の関係で、夏休みの当番のほうが都合が良いんだって」


 そう、おばあちゃんの家に行く日が意外と早くて、夏休みの図書室開放日の最後のほうと重なってしまったのだ。


「そっか。田舎に行くんだ。おじいさんおばあさんがいるの?」

「おばあちゃんだけ。おじさん家族が近所に住んでるけど」

「へえ、いいな。俺、田舎ないんだよ。本当に小さいころひいばあちゃんの家に行ったことはあるらしいけど、覚えてないんだよね」


 たわいも無い会話をしながらお茶をすする。

 田中君って、なんで話しやすいのかな。クラスの女の子たちからは、確実に地味な男子というカテゴリーに入れられていると思うけど、髪を切って、コンタクトにすればかなりかっこいいと私は踏んでいる。もっと行動力があるところを表に出せば、かなり人気が出ると思うんだけど。

 

「どうかした?」


 私が、ボーっと田中君について考察していると、本人に急に話しかけられてびっくりした。


「ううん、ちょっと考え事」

「なんか悩み事?」

「うーん」

「言いづらいならいいけど、相談には乗るよ」


 本当は田中君について考察していたのであって悩んでたんじゃないんだけど、どうせだから相談しちゃおうかな。


「あのね、みんなで遊びに行くじゃない?」

「うん」

「そのときに、全然違う学年の、全然知らない子が来たらどう思う?」

「ほかのやつはみんな仲間なのに?」

「そう」


 田中君は少し考えるそぶりを見せた。高貴に誘われた海。実はまだ返事をしていない。誰が行くのか聞いてみればいいんだけど、あれからニ日、高貴には会っていない。早めにって言われているから、そろそろ何か返事をしなくちゃいけない。


「うーん、女の子だったら、連れてきたやつの彼女かなと思う」

「はあ!?」


 田中君がさらっと言うので思わず大きな声が出てしまった。


「どうしたの?」


 私があまりに素っ頓狂な声を出したから、結城先生がのぞきに来た。


「あ、なんでもありません」


 田中君……。さすが田中君……。本当にそうならいいけど。でも、実際はそうじゃないけど。周りの人がそう思っちゃうってことだよね。


「そっかあ」

「そう考えるのが普通じゃない? なんとも思っていない子連れてこないよね」

「そうだね」


 確かにそうだ。でも、なんとも思われていないわけじゃないことが、イコール恋愛感情を持っているということにはならないんじゃないかと思う。私も、高貴になんとも思われていないとは思っていない。


 妹みたいと思われてるんだ……。


 高貴も私も中学生だったころ。

 中学には小学校から一緒だった子達も結構いたから、高貴と私が幼馴染なことは、有名だった。毎日一緒に登校して、高貴の部活が休みのときは、たいてい一緒に下校していたし。

 ほとんどの人は、温かく見守ってくれていたんだけど、中には冷やかしてくる人もいた。

 そんな時、高貴は必ず、

「千秋は『妹』だからいいんだよ」

と言って、取り合わなかった。


 そのとおりだ。物心ついたころから一緒で。とろい私がみんなの輪に入れるようにいつも守ってくれて。勉強も教えてくれたし、中学も高校も入る前からいろんな情報をくれた。

 私が落ち込んでいたら励ましてくれる。

 でも、高貴は知らないんだ。


 妹と言われるたびに、どんなに私が落ち込んだかを。


「聞いてみればいいんじゃない? 気になるなら」

「え?」


 田中君の声で我に返った。いけない。考えすぎて黙り込んじゃってた。


「思ってもみない答えが返ってくるかもしれないし」


 ね、と笑って、マグカップをもって田中君は立ち上がった。こういうところ、すごく大人だなあと思う。鋭いのに余計な事は聞かない。


「あとは大型本の整理が少し残ってるだけだから、篠野さんはもういいんじゃない? 俺もすぐに帰るよ」


 そう言う田中君はずいぶん大人びて見えた。


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