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千秋1

 昔々に自分のブログ(閉鎖済)に書いたお話を発掘したので、転載します。

 あまりに古いのでちょこっと改稿しましたが、どうしても古臭さが抜けなかった。


 懐かしさを感じてもらえたら嬉しいです。

 いつまでも鬱陶しく続くかと思われた梅雨が明けると、とたんに夏になった。

 来週からはもう夏休みだから当たり前なんだけど。

 今までの分を取り戻すように鳴く蝉の声が通学路の並木道に響き渡っている。夕方になってもまだ日は高いし、まったくおとなしくなる気配がない。


 週に三回の図書委員。昼休みが一回と放課後が二回。もしくはその逆。今日は、放課後の当番の日。放課後に当番が入ると、いつもは帰宅部の私も部活や委員会をやっている人たちと同じ時間帯に帰ることになる。


 目の前を歩いている彼も、きっと生徒会か委員会の帰りだろう。


 夏祭り実行委員会の会長さんである中山先輩と歩いているから、その帰りかもしれない。中山先輩の長い髪がサラサラと風にそよいでいる。


 中山先輩はすこし派手だけど、実行委員長としてきちんと委員会をまとめていて、頼りがいがあるって、クラスの委員の子が話しているのが聞こえたことがある。確かに少し派手かもしれないけど、とても美人だ。


 二人は、楽しそうに話しながら、時々中山先輩が彼の肩をたたいたりしている。


 私は、声をかけることもできず、それどころか話しかけられるのが怖くて追い抜くこともできず、こうやって後ろをとぼとぼ歩いている。


 彼、崎山 高貴は、私の家の三軒隣に住む幼馴染だ。学年こそひとつ違うけど、保育園から、ずっと一緒で一番仲がよかった。


 高貴は昔から面倒見がよくて、中学でも高校でも生徒会の役員をしている。がっしりしていて背が高いから、女の子からも人気がある。でも、誰が見ても二枚目って顔じゃないし、いろんなことを鼻にかけたりしないから男友達も多い。いつも人の中心にいるタイプだ。


 私はと言えば、普通も普通。勉強も特にできるわけでも落ちこぼれでもないし、友達もすごくたくさんいるわけではないけれど、孤立しているわけでもない。帰宅部だけど、図書委員をやったりしていて学校に馴染んでいないわけでもない。要するに先生たちから見たら優等生でも問題児でもなく、一番印象の薄い生徒ってこと。もちろん、生徒の間でも存在感はそんなにない。たぶん「生徒会副会長の崎山先輩」と幼馴染だってことを知っている人も、あんまりいないだろう。


 二人の後ろを一定の距離を空けて歩いていると、やっと商店街の入り口に着いた。私と高貴のうちは商店街の中にある。生徒の多くが電車通学だけど、駅はこのまま直進だ。商店街は右に曲がるので、電車組の中山先輩とはここでお別れ。


 二人は立ち止まって、何かを話している。楽しそう……。


 中山先輩が手を振って駅に向かっていった。高貴はその後姿をしばらく見つめていた。


 別れがたいのかな。そう思うと心が沈む。


 高貴は、結構もてるけど、さすが生徒会とかやっていて人を見る目があるというか、自分のことを好きな子にもとても敏感。


 軽い気持ちで寄ってくる子には軽いノリで返して、さりげなく線を引いてしまう。本気で来る子には、かなり露骨に、でも傷つけないように距離をとる。


 でも、中山先輩とは、そうじゃないみたい。


 この間クラスの子に聞かれた。


「篠野さんて、崎山先輩と幼馴染って本当?」

「う、うん」


 知ってる子もいるんだ。中学が同じ子から聞いたのかな。


「崎山先輩って、中山先輩と付き合ってるって本当?」


 あんまりショックは受けなかった。その前から二人の様子を見ていたし、やっぱりなって感じだった。本当? 本当? って確認好きな子だなあなんて、

のんきに思っていたくらい。


「うーん、そういう話はしないからわからないの。ごめんね」


 聞いてきた子はいい子で、私がそう答えると、そっかあと言ってあっさり引き下がってくれた。


 

 うわさになってるよ、高貴。高貴うわさ嫌いじゃなかった? それとも中山先輩とならいいのかな。


 そんなことを思いながら、歩いていると、振り返った高貴と目が合ってしまった。


「とろとろ歩いてるなよ。帰るぞ、千秋」


 まるで、私がいることがわかっていたみたいにそう言う高貴。

 びっくりしたけど、声をかけてくれたのがうれしくて、小走りで高貴に追いつく。


 そう、私はこの幼馴染が好きなのだ。高貴から見たら妹みたいだってわかってる。はっきり言われたこともある。女の子と楽しそうに歩いているのも何度も見た。でも、物心ついたときからのこの想いは、そう簡単に消せない。


「今日も図書委員?」


 私が横に並ぶと高貴はそう聞いてきた。


「うん」

「なんか毎日図書室通ってない? ご苦労様だなあ。」

「そうかな。図書室好きだし、落ち着くし。高貴みたいに生徒会も委員会もやっているほうがご苦労様だよ。まあ、みんなの真ん中でいろいろ働いているのが高貴は似合ってるけどね」


 高貴はちょっと驚いた顔をしたけど、すぐにははっと笑う。


「似合ってるかあ。そうかもな。千秋も図書室でいろいろ働いてるのが似合ってるよ」

「そうかな」

「そうだよ」


 似合ってるかな、図書室。そうかも。目立つの嫌いだし。ひっそり決まった人たちと一緒にのんびり働くのって心地いい。高貴みたいに、大勢の人の中心になるなんて無理だし。ああ、いつからこんなに遠くなっちゃったのかなあ。


 私が黙ってしまうと、高貴もなんとなく黙ってしまい、そのまま家についてしまった。


 商店街の中にあるとはいっても、私の家は普通の一戸建てだ。もともとはおばあちゃんが小さい雑貨屋をやっていたんだけど、年もとったし、うちは両親共サラリーマンで継ぐ人がいなかったから、店は閉めて10年ほど前に建て直した。高貴の家は今でもお母さんが喫茶店を営んでる。でもお父さんはやっぱりサラリーマンだし、この商店街も少しずつお店が減っていっている。


「じゃあね」


 私は、高貴にそう言って手を振った。中学まではしょっちゅう一緒に学校に行ったり帰ったりしていたけど、高校に入ってからはなかなか時間が合わなかったから、ちょっとうれしかったな。


 そう思いながらドアに手をかけたとき、


「千秋」


 高貴に呼び止められた。

 振り返ると、なんだか少し硬い表情の高貴がこちらを見ていた。


「なに?」

「あのさ。夏休み、暇ある?」

「暇? うん。去年は受験勉強でつぶれたからちょっとゆっくりしたいなと思ってるけど。はじめのほうに図書委員の仕事があって、クラスの子や中学の友達と遊ぶのと、あと、お母さんのほうのおばあちゃんの家にちょっと行くの。でもバイトはしないし、講習も行かないから、結構暇はあると思う」

「じゃあさ、海いかね?」

「海? 海ってあの海?」


 高貴は毎年、友達と海水浴に行くのが恒例だ。中学の始めのころまではたまに私のことも連れて行ってくれてた。ここ二年くらいはお互いの受験が続いたから行ってなかったけど。


「ほかに、どんな海があるんだよ。行けるんだな」


 なんだかほっとした顔になって高貴が言った。


「うん、行ってもいいの?」

「いいから誘ってるんだろ」

「わかった。日程が決まったら連絡して」

「いや、お前の予定がわからないと決まらないだろ」

「そっか。じゃあ、あとで予定送るね」

「ああ、早めにな」


 高貴と別れて玄関を入ると、今日はもうお母さんが帰ってきていた。


「おかえり。遅かったわね」

「ただいま。お母さんが早かったんだよ」


 早口でそう言うと、いそいで二階の自分の部屋に上がった。赤くなった顔をお母さんに見られたくなかった。もう、こういうときに限っているんだから。

 八つ当たりを心の中だけでして、ベッドに横になる。


 みんなと一緒でもうれしかった。高校に入ってから、なんだか高貴が遠くなった気がして寂しかったのだ。

 でも、誰が来るんだろう。中学の高貴の友達は、地元の友達が多かったから、私が高貴の幼馴染なこともみんな知っていて私が行っても歓迎してくれた。でも、高校の友達と行くんだったら? 私が行ったら変に思われないかな。

 明日、高貴に会えたら、誰が来るのか聞いてみよう。


 私はそう決めると起き上がった。

 着替えて鏡を見る。もう顔は赤くなかった。


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