61 その出生(パブロの視点)
「あ…あ…。なぜだっ……なぜだああああ!!」
やつれたオルオンは、拘束されたままで、ジタバタと暴れはじめた。
クロムの能力は奴にとっても、予想外だったのだろう。
自分の身に何が起こっているのかを理解できないという混乱が感じ取れた。
「ルシファー!!レヴィアタン!!ベルゼブブ!!何をしている!?私を助けろ!!お前らには極上の魂をくれてやるのだぞ!?」
喚き叫ぶオルオンは、駄々っ子の様に幼く見える。
まぶたに切り傷が残る両目は失明していて、魔力で補った視力を無くした今は何も見えていないようだ。
「もう契約は解除されたんだ、オルオン」
そう言った俺に、奴の白瞳が少なからず動揺を露わにした。
「…………その声はパブロ・フルーム。魔界でなぶり殺してやったはずだが……」
悔しそうに唇をかんだオルオンを、俺は見下ろした。
「それが、こうして生き伸びたぜ?」
清々と言いのけた俺に、オルオンは心底うんざりした顔をした。
「ふん。英雄気取りか。だがまたすぐに絶望することになるぞ」
「どういう意味だ?」
俺はオルオンを睨みつける。
そして次に奴が吐いた言葉は、俺を動揺させるには充分だった。
「お前の本当の両親を知っている」
「……!」
(なんだって――!?)
つい戸惑う俺に、オルオンは容赦ない告白を浴びせる。
「お前の実の父親は――グレゴリー・オーサー」
「……?」
グレゴリーという名前にこの場の皆が、緊張感を露わにした。
オーサー辺境伯領を占拠し、オズワルド王国に対して奴隷と金品を要求し続けた。
悪人でサタンの契約者――そのグレゴリーが、俺の……?
(何言ってるんだ……こいつ…?)
「もうよい。連れていけ!」
陛下の怒号で、王国騎士団に拘束されたオルオンが王宮へと連れられていった。
幸いにも、ここに居る人員はオルオンが起こした騒動の事後処理に追われ、俺に大きな注目が集まり続けることはなかった。
リアとカルロスも、後ろ髪を引かれるような顔をしながらも、オルオンについて王宮へと去っていった。
(……)
俺はただ、その場に立ち尽くしていた。
「お兄ちゃん…。オルオンの言ったことは……その、信じなくていいと思う」
エレナが駆け寄って来て、そう言った。
「ああ……」
俺はなんとか、ゆっくりと頷いた。
(グレゴリーが、俺の父親……?)
そんなわけがない。
だけど、俺は実の両親のことを知らない。
物心ついたときには孤児院にいて、それから間もなくフルーム伯爵家の養子になった。だから否定しようとしても、そうできるだけの情報はなかった。
「に、兄ちゃん!」
クロムの悲鳴が聞こえて、俺は顔をあげる。
「お、お前ら!?」
すると、ダンタリオンとクロム、そしてちびサタンが第1騎士団の兵士たちにより檻の中に拘束され、オルオンと同じような扱いを受けているのが見えた。




