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ダンタリオンと勇者   作者: 小栗とま
オズワルド王国の章
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58 クロムの真実(ダンタリオンの視点)


「――ダ、ダンタリオン?」


 目の前に見えたのは、パブロの驚いた顔だ。


「……パブロ?」


 俺も驚く。


「どうしてここに?」


 そう言われて、俺はあたりを見渡す。

 どうやら俺は王宮らしい豪華な城を見上げる丘にいた。


 パブロ以外に、ちびサタンやクロム、国王とパブロの妹もいる。

 それから、白髪の女勇者と、パブロの弟も傍に来ていた。

 他にも騎士や聖職者たちが集い、精霊の丘の警備を固めている。


 全員に不思議そうな顔で見られ、俺は少し居心地が悪くてもじもじした。

 ――ネロの屋敷で治療していたはずの俺がいきなり現れたら、驚かれて当然だ。


 俺の手には、ケインから預かった医術書がある。

 先程、記憶が戻ったと思ったこと自体が夢か錯覚だったのかと一瞬思ったが、そうではないらしい。


 自分の過去を全て思い出したことを、パブロに話したかった。

 しかし、今の彼らはそれどころではないことは理解している。


(……シジルが)


 パブロの首元のシジルが光っているのを確認して、俺は口を開く。


「パブロが俺を召喚したのか?」

「えっと……その覚えはないけど。ダンタリオンの名前読んでないぜ」


 パブロはそう言うが、俺が瞬間移動したこの状況は、召喚されたと考えるほうが自然だった。


「パブロ。口に出して呼ばなくても、心で思えば召喚されるんだ」


 俺がそう言えば、パブロは思い当たる節があったようだ。


「便利なようで……不便だな……」


 と、気恥ずかしそうにしている。


「治療は終わった。気にするな。それで、俺に何をしてほしいんだ」


 何か用があって俺を心の中で呼んだのだろう。

 そう察して尋ねれば、パブロはその手に握っていたクロムを俺に渡した。


「ああ。やっぱり、クロムを振るうのはダンタリオンがふさわしいと思ったんだ」

「クロムを?」


 俺は、クロムを手に取る。

 嬉しそうにくねくねと動いているクロムは、その渦巻きを伸ばせばパブロの身長より長い剣だし、確かに扱いは難しい。

 しかしパブロが言いたいことは、そういう意味だけではないようだ。


「ダンタリオン。クロムの本当の力は――」


 それからパブロが言ったことは、俺にとって衝撃だった。


「切りつけた人間の、魂の契約を解除することだったんだ」

「……何?」


 まさか。


 「マルコム・ナイ」だったころの俺が必死に研究しても、魂の契約を解除する方法は見つからなかった。

 それが、クロムには可能だというのか。


「……そうか、クロムが」


 しかし、俺は次第に腑に落ちる。


 人間界に残した「執着」と、悪魔がもつ魔具や魔物の能力はリンクしている。

 占い師のアスタロトが言っていた通りだったというわけだ。


(悪魔契約の解除――、俺の願いが、クロムの力になったのか)


 俺は静かな感動を感じる。

 次に口を開いたのはちびサタンだ。


「クロムが動きを封じた骸骨の戦士は、かつて悪魔と契約した者の死後の肉体。そいつらが、魔王の――悪魔の操作から離れる……つまり、クロムの力の神髄は、魂の契約の解除だと吾輩は予想したのダ」


 ちびサタンがそう言えば、クロムは緊張しカクカクと震える。


「お、おいらに本当にそんな力あるのかなァ」

「……ああ、クロム。ある可能性が高い」


 俺はクロムにそう語り掛ける。


「吾輩も考えたのだ。ヨルムンガンドが召喚されてしまえば、戦う術はやはり無に等しい」

 

 ちびサタンが、小さい腕で腕組みしながらそう言う。


「一撃でもいい。オルオンとやらをクロムで切りつけろ。そして、ヨルムンガンドを召喚するその前に、奴の魂の契約を全て解除するのだ」

「――なるほど」


 この警備体制を見るに、ちびサタンの案に王国は乗ったらしい。

 クロムによる一撃に賭けて、そのために魔法による総攻撃を仕掛けオルオンの隙を産む計画だろう。


「一緒に戦おう。ダンタリオン」


 パブロは腰に付帯した剣を鞘から引き抜いて、頼もしい笑顔を見せた。


「ああ」


 俺は、パブロにどこか似ている人の面影を思う。

 先程、記憶が戻るまでは思い出せなかった親友のことを。


「――!」


 頭上に、異常に禍々しい気配を感じた。

 それがヨルムンガンドを召喚しようとしている「奴」であることは、理解に容易かった。


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