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ダンタリオンと勇者   作者: 小栗とま
魔界の章
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4 封じられた剣(パブロの視点)


「ちょっと待て!待て!なんだよ、これ!!」


 突然、手枷で拘束された俺は、動揺で声が裏返った。


「……手枷?」

「それは見ればわかるって!」


 俺とは対照的に、ダンタリオンは落ち着き払っている。


「おい、ダンタリオンの旦那!乱暴なことするなよなあ」


 渦巻きの剣が、呑気な声を上げる。


「………っ、初めから俺を捕まえるつもりで!!」


 俺がダンタリオンを睨むと、ダンタリオンは「ふう」と溜息をつく。


「仕方ないんだ。マモン様の命令で」


 ダンタリオンは、がくりと肩を落として暗い声を出した。


 なんだコイツ…。

 もしかして「マモン様」とやらの命令に、うんざりでもしているのか。


「マモンがどういう奴か知らないけど、

 俺をどうするつもりだ」


「さあ。マモン様は気まぐれな方でな」


「な、なにをされるかわからない…って」


(それが一番怖いぞ!!)


 何とか脱出しないと。

 という言葉が俺の脳内で×30回くらい再生された。


「あいつ変態だからな~やばいぜ、兄ちゃん」


 渦巻きの剣が煽ってきやがる。


「……」


 俺はたぶん、分かりやすく青ざめたと思う。


「本当は手荒な真似はしたくないんだ。

 クロムを取り返してくれた恩人だからな」


 ダンタリオンは申し訳なさそうに、

 そのでかい図体を縮こまらせた。


「ダンタリオンの旦那ァ…」


 ダンタリオンの言葉に、渦巻きの剣が飛び跳ねる。

 どうやら渦巻きの剣には「クロム」という名前があるようだ。


 だけど今の俺は、彼らの友情に構っている場合じゃない。


「なら助けてくれよっっ!」

「それは無理だ」

「おいっ!!」


(まったく、こいつらは何なんだ…)


 悪魔というには、俺を助けたり、恩人だと言ったり、どうも人情がある気がする。

 けどそれも、俺を油断させるための罠かもしれない。


「俺は勇者だぞ、のこのこと悪魔に捕まってたまるか!」


 ダンタリオンの無表情な骨の顔に、俺は威勢よく宣戦布告する。 


「大きい声を出すな。徹夜明けなんだ、耳に響く…」


 返ってきた答えはあまりも拍子抜けだ。


「徹夜明けとかいうな!

 悪魔なんだから寝なくてもいいんじゃねーの!?」


「……俺は半端な悪魔なんだ。だから、眠る」


 ダンタリオンはでかい両腕を丸めて、うずくまった。

 本当に眠たそうにぼーっとしている。


 動物の冬眠のような姿は、少しだけキュートだ。

 こんなの、俺が本で読んだ邪悪な悪魔像と違う。


「なあ……俺を捕まえといて寝たらマジで怒るぞ?」


 もはや何に怒っているのかわからなくなってきた。

 悪魔らしからぬこのダンタリオンという悪魔のことがわからなくて、俺はモヤモヤとしていたのだ。


「ちなみに俺は剣だから、眠くないぜ!」


 クロムの元気な声がする。


「……お前らさ、俺のこと捕まえる気、あんまりないだろ?」

「そんなことはない。大人しくしていろ、勇者」


 今更、低い声でそう言われても、もはやあまり怖くない。 


(にしても、俺の剣は…どこにやったんだ?)


 俺は自分が身に着けていた剣や鎧を探してあたりを見渡す。

 すると部屋の隅に置いてあるのを見付けた。


 しかし厳重なことに、鍵付きの柵の中に封じられている。


「……俺の剣」

「ああ、取り上げた。だってあれ、危険だし」


 ダンタリオンは、長い指と黒い爪で俺の剣を指した。


「ちっ、そういうところは抜かりないな」


 このままじゃまずい。

 俺が身にまとっているのは、戦いでよれた騎士服だけで、戦闘にはとても心もとない状態だ。


(まあいいさ。俺には、魔法があるからな)


 魔方陣でできた手枷に力を籠めるが、当然のようにビクともしない。


「ふん……ぬっ!!」


 驚くほど、まったく、微塵も。

 魔力が沸いてこない。


「くそっ…はあ…なんで魔法も使えない?」


 もどかしさに眉をひそめた俺を見て、

 ダンタリオンが何か言おうとした。


 その一瞬の隙をみて、俺は物理攻撃に出る。


「……っ!!」


 俺は、拘束された手を地べたに落とし、高速で足を振り上げた。


 図体のでかいダンタリオンは、重心もぶれやすい。

 無抵抗で俺の蹴りを受け止めた奴は、そのまま床にどさりと倒れた。


「…っ!」


 よかった。身体はまだ動く。


「あー痛てて…」

「な、なにしてんだよぉ旦那ぁ」


 ダンタリオンがのっそりと起き上がっている間に、

 俺は、この地下の部屋の、出口らしき梯子を昇る。 


「ふん、油断したな!」


 と、捨て台詞もばっちり決めた俺は、

 天井のドアを押し開けて、そのまま地上へ出た。



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