54 悪魔と勇者
「陛下――!」
パブロは跪き、国王陛下に礼を示した。
カイザーは困惑にその青瞳を揺らしながら、
並び立つ勇者と悪魔を順に見つめた。
「パブロ・フルーム――よくぞ、生きていた。……そちらは?」
国王の視線が、悪魔の方――ダンタリオンに移ると、パブロは弾ける笑顔で答えた。
「ダンタリオンです。魔界を彷徨っていた俺を救い出し、ここまで連れてきてくれました」
「……悪魔を手懐けたのか?」
「俺と魂の契約を結んでいます」
パブロの言葉に対して、騎士や聖職者からどよめきが起こる。
「悪魔と…契約だと!?」
「ユリウスと同じで、だますつもりか?」
そんな疑念の声も上がり、一気にパブロに対する警戒心が湧き上がる。
パブロを庇う様に、彼の前に立ったのはエレナである。
彼女は何かを抗議しようと口を開いたが、カイザーがそれをなだめるように話し始める。
「ダンタリオンとやら。私はオズワルド王国の国王カイザーだ。
まずは、骸骨どもを倒したことについて礼を申し上げる。
勇者パブロをここまで連れてきたことも――」
カイザーがダンタリオンに信頼と感謝を表意したことにより、この場のパブロに向けられた敵意はひとまず収まり始めた。
「……」
「人間の王様に感謝されちまったな!ダンタリオンの旦那ァ!」
沈黙するダンタリオンの傍で愉快にしゃべりだしたクロムの様子に、その場にいた人間たちは驚愕した。
「あなた、お話ができるの?」
エレナが目を丸くすれば、クロムは得意げに飛び跳ねた。
「おいらはクロム。よろしくね、かわいいお嬢さん」
そんな平和なやり取りに、周囲の緊張感は少し解け始める。
(ダンタリオンとクロムが、お兄ちゃんを助けてくれた)
そう思えば、エレナはこの羊骨の悪魔と魔剣のことを清い存在のように感じた。
「ダンタリオンさん、クロムさん。
お兄ちゃんを……、私たちを救ってくれて、ありがとう」
それはエレナの心から出た本音だった。
「い、いやあ。照れちゃうなあ」
クロムは身をよじらせ、ぴょこぴょこと飛び跳ねた。
「……あ、ああ」
もじもじと身を縮めるダンタリオンも照れているらしい。
それに気付いたパブロは、内心くすりと笑う。
(それにしても……俺がいない間に、王国に何が?)
パブロは、倒れた巨大な骸骨の戦士たちを眺めながら、久々に帰還したオズワルド王国の惨状に危機感を募らせていた。
「陛下。この骸骨たちは一体――?」
パブロが尋ねると、カイザーはその隈の深い目を曇らせた。
「この一連の騒ぎは、宰相殿と勇者ユリウスが引き起こしたことだ」
「……!?」
パブロは信じられない気持ちで、拳を握りしめた。
(まさかネロ様と……ユリウスが?)
パブロは無意識に、リアの方をみた。
彼女の悲しみを湛えた瞳と視線を交わせば、それが事実であることを悟るに充分だった。
「……そうですか」
パブロは目を伏せ、心の整理をつけていた。
脳裏に蘇ったのは、アスモデウスの言葉だ。
かの悪魔は、王宮の中に闇使いが――ヨルムンガンドが扮する剣をパブロに持たせた犯人がいる、そんな予測を立てていた。
しかしまさか、それが宰相と勇者とは誰も思わないだろう。
「魔界に逃げた奴らは、必ず再び襲ってくる。
――立ち向かうために、我々には君の助けが必要だ、パブロ君」
カイザーの重たい言葉を噛みしめ、パブロはゆっくりと瞼を開いた。
「もちろんです。陛下」
勇者パブロは、決意を新たに国王を見つめた。




